東京吉本の若手芸人が所属する「神保町よしもと漫才劇場」から、今押さえておくべき芸人を紹介する連載「レコメンド神保町」。前途有望な若手芸人が日々、切磋琢磨しているこの劇場の中でも注目の芸人とは。
第10回は2024年の『M-1グランプリ』で敗者復活戦に出場し、おじさんを前面にアピールしたネタで爪あとを残したドンデコルテ。神保町よしもと漫才劇場所属芸人の中で年長者ならではの悩みと、よかったことを聞いた。
ドンデコルテ
小橋共作(こばし・きょうさく/1989年6月17日生まれ、沖縄県出身)と渡辺銀次(わたなべ・ぎんじ、1985年8月2日生まれ、山口県出身)。2019年11月にコンビ結成、『M-1グランプリ2024』では準決勝進出
おじさんという自覚が強みになった
──まずはおふたりのコンビとしてのアピールポイントを教えてください。
小橋共作(以下、小橋) コンビとして……。僕たちは完全にナベさん特化型だもんね。
渡辺銀次(以下、渡辺) そうかな? 『M-1グランプリ2024』の敗者復活戦でやった漫才『恋煩い』は、小橋じゃないとできないツッコミですから。鋭いツッコミをする人だと、すぐ会話が終わっちゃうんです。だから、小橋みたいに抜けたタイプの人間だからできたネタだと思います。
──それぞれの長所を活かしたドンデコルテならではの漫才ができた。
渡辺 本当にあれが僕らに合っていたのかはわかりませんけどね。決勝に行って優勝したわけじゃないので、これからもずっと探り探りやっていくんだろうと思います。
小橋 僕の中ではコンビの方向性がなんとなく見つかったなとは思ったんですけど、決勝には行けなかったので、まだまだ進化させないといけないですね。
渡辺 あと、我々のアピールポイントでいうと、おじさんということですかね。神保町にいると年下ばかりですから。
──現在、芸歴11年目にあたる東京NSC19期出身の方以降が所属している神保町よしもと漫才劇場では、14期生の渡辺さんは一番の先輩になりますね。(※小橋が19期生のためドンデコルテは神保町所属)
渡辺 そうですね、自分がおじさんだって自覚ができたのも、神保町にいるからなんです。ムゲンダイに行くと全員同世代なので、自分がおじさんだと気がつかない。だから、おじさんネタはやってなかったと思います。『恋煩い』ができたのも2年前ぐらいなんですけど、そのときはおじさんだと思っていなかったので、ネタ中に年齢は言わず、固い性格のキャラクターの人のみでやってましたね。
小橋 ナベさんもまだ36、7歳とかだったからね。
──神保町劇場では後輩の方ばかりですが、小橋さんから見て渡辺さんはどんな存在ですか。
小橋 16年目の39歳を2、3年目の20代前半の子がベッドに寝ながらイジってるときとかあるんですよ。でも、後輩からイジられるってことは、慕われてる証拠だと思います。
渡辺 変わりましたよね。もう昔のような縦社会じゃないんだぞっていうのは日々、自分に言い聞かせてます。
小橋 ちょっと嫌な思いしてる感じが出てるじゃん。
渡辺 けっしてムカついてるとかじゃないんですよ。ただ、自分が芸人になったばかりのころ、なりたかったプライド高くて、後輩からのちょっとのイジリも許さねえ、ナイフみたいな芸人に自分はなれなかったんだなって。まだ憧れはあるんで……。
小橋 ナベさんにしかわからない葛藤です。
5年後輩から誘われた焦り
──もともと先輩・後輩という関係だったおふたりは、どのような経緯でコンビを結成したんですか。
小橋 2、3カ月に1回やっていた時事ネタライブで一緒だったんですけど、そのライブでナベさんがボケをやっていて。そのボケの感じがほかにいなくていいなと思い、「僕と組んで、ボケをやってください!」ってお願いしました。
──小橋さんから誘ったんですね。渡辺さんの心境は?
渡辺 ……やばい、と。
小橋 そりゃそうですよね。11年目でピン芸人になって焦ってるときに6年目の後輩から誘われたら、なめられてるのかって思いますよね(笑)。
渡辺 いや、なめられてるとかじゃないんだよなー。ほかのやつはなんで俺をほっといたの?って。しかも前のコンビではツッコミだったのに、ボケをやれって言われて。小橋も別にツッコミ気質ってわけでもないのにですよ。
小橋 僕の前のコンビは、相方のキャラに頼ったネタをやるコンビだったので、ツッコミだったんです。でも、フタを開けてみたら抜けているところも多いし、ナベさんもあれってなりますよね。
──そんなおふたりも結成5年目で『M-1グランプリ』で準決勝に進出。反響も大きかったんじゃないでしょうか。
渡辺 まあ、「はいふく」をきっかけにたくさんの人に知ってもらえていたらいいですけど……。
小橋 「はいふつ」じゃなくて、「はいふく」って言うんですよ。素敵じゃないかの柏木(成彦)とナベさんだけは。
渡辺 「復活」は「ふくかつ」だと言いにくいから、「ふっかつ」と読んでいるので、単体になったら「復=ふく」に戻るじゃないですか。だから、「はいふつ」って言葉が気持ち悪くて、すごく嫌なんです。別にまわりが「はいふつ」って言うのは、責めないですけどね。
小橋 まわりまで攻め出したら、もう老害だからね。
渡辺 これもね、私は納得してなくて。老害って、“老いて害になった人”のことであって、若いときは害じゃない人しか当てはまらないんですよ。若いときに実績があるから、老害になれるんです。
小橋 なるほど。
渡辺 だから私は本来、老害ではないんですけど「老害」って言ってもらえるおかげで、若いときは実績があった人として紛れられてるんです。
小橋 普通みんな嫌がるのに。
──(笑)。
「似ている」と言われてハマったベイスターズ
──続いておふたりから読者におすすめしたいことを伺います。ハマっていることや特技などはありますか。
渡辺 けん玉ですね。長年やっています。ゲームとかと違って準備や起動時間もかからないし、使うのも膝ぐらいなので、ケガの心配もないです。なにより、お笑いと違ってやればやるほど、うまくなる。これがいいんです。
小橋 お笑いはやればやるほど、ヘタになるときもあるからね。
渡辺 やってもうまくなんねえし、やらなくてよくなるときもあるし。お笑いと違ってけん玉は嘘をつかない。
──けん玉は深いんですね。小橋さんはいかがでしょうか。
小橋 横浜DeNAベイスターズですね。ここ1年半ぐらいで、急激にハマりました。
──何がきっかけだったんですか。
小橋 平良拳太郎さんっていう投手がいるんですけど、その方に似てるって言われて、見てみたらたしかに似てたんです。だけど、あんま似てないっていう人もいるんで、じゃあ実際に球場に見に行ってみようと思って行ったらその試合が死ぬほどおもしろくて。
──今では球場にもよく行くんですか。
小橋 野球ってテレビで観ていれば、今どこに投げたかとか全部わかるので、そのほうが楽しめると思ってたんです。だけど、球場に行ったほうが楽しいんですよね。投げた、打った、取った、くらいしかわかんないのに。お笑いもですけどね。
8年住んだ第2の実家を出るために…
──おふたりは1月19日(日)に『ドンデコルテ第七回単独ライブ「なりかわる」』を開催されます。こちらもぜひ、観てほしいですよね。
渡辺 そうですね、漫才だけでなくコントもやりますので。
小橋 あと幕間VTRもちょっと変わっているので、注目してほしいです。
渡辺 初めて僕らの単独を観られる方はあんまり小橋がどんな人間かわからないと思うんですけど、 そのVTRを観れば、小橋がどんな人間なのかもなんとなくわかってもらえると思います。
小橋 そうですね。これまでの単独でも、VTRの前後でネタのウケ方が変わっちゃってるんですよね。何まともぶってるんだこいつって。
渡辺 やべぇやつなのになんか真っ当なこと言ってんな、みたいな。
小橋 でも、どっちの小橋も見せていかないとなので。まともぶるところもあるし、変なところもあるし、どっちも小橋ですって。
──ちなみにタイトルにはどんな意味が?
渡辺 単独ライブのタイトルの頭文字を取ると、「ひ・ふ・み・よ・いつ・む・な~」って昔の数字の数え方になってるんです。今回は七回目なので。『なりかわる』は、新年だし縁起もいいかなと。
小橋 本当は決勝行って、なりかわりたかったですけどね。
──では、最後に『なりかわる』を控えるおふたりに2025年の目標をお聞きしていいですか。
小橋 僕は始球式をしたいですね。エバースは2023年の敗者復活戦で爪あとを残して、決勝に行く前にやったんですよ。だから、あるんじゃないかなって。
渡辺 私は「益々荘」(カゲヤマ益田康平の実家)を出ることですかね。もちろん、生活も、益田と一緒にいるのも楽しいんですけど、さすがに申し訳なくて。そろそろ結果を残して出ないとなと……。
小橋 人の実家に8年も住んじゃダメよね。
──もともと一緒に住んでいた相席スタートの山添寛さんもメディアへの出演が増えたことで、益々荘を出たそうですね。
渡辺 まあ、テレビに出たいかはわからないですけどね。そもそもテレビに出たことが全然ないので、自分が向いてるかどうかもわからないし。
小橋 たしかにね。
渡辺 あのころ観ていたような出たかった番組もほとんど終わってるし。憧れの番組は一応ありますよ、『IPPONグランプリ』(フジテレビ)とか。やっぱりかっこいいし、芸人としては出たいですよ。でも、賞レースに出たいのと一緒で、ただ憧れてるだけというか……。
小橋 子供のとき観てた番組ではないよね。
渡辺 チョコプラ(チョコレートプラネット)さんとかニューヨークとか、売れてどんどん存在がでかくなったと思ったら、売れきると今度はワイプの中の人になるんで、どんどん小さくなるんです。それが楽しいのかもわかりませんし、ワイプに映る顔はもう仕事の顔になってるから……。
小橋 もう、渡辺が「難しいことを言っていた」とだけ書いてもらえればいいです!
『ドンデコルテ第七回単独ライブ「なりかわる」』
2025年1月19日(日)開場20:15/開演20:30/終演21:30
オンラインチケット:1,200円(税込)
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