さや香、『M-1』不出場の理由。「かけ算にするには、ほかのフィールドに行かないとあかん」

2024.9.13
さや香

文=堀越 愛 撮影=菅原麻里 編集=梅山織愛


『M-1グランプリ』2022・2023年で決勝に進出し、いずれも最終決戦に残ったさや香。優勝まであと一歩のところまで勝ち進み、どの芸人よりも「優勝に近い」と思われていたコンビである。そんなさや香は、2024年春に大阪から上京。今年こそ『M-1』優勝へ……と思いきや、突然「今年は『M-1』に出ない」と宣言し、ネットニュースにまで取り上げられた。

東京進出という節目の年に「『M-1』に出ない」と宣言した彼らは、今、何を考えているのだろうか。さや香の未来について触れながら、その心中に迫った。

さや香
新山(にいやま/1991年10月17日生まれ、大阪府出身)と石井(いしい/1988年5月28日生まれ、大阪府出身)によるコンビ。『M-1グランプリ』では3度決勝に進出。2024年4月より活動の拠点を東京に移し、ヨシモト∞ホールに所属

「売れなかったら自分らの実力」というところまで賞レースを使えた

新山 シンプルに、やる気が湧かないんです。今まで『M-1』のためにめっちゃがんばってネタを仕上げてきて、今年から東京に来たのに「またネタを仕上げるの?」と。「前と同じことやってるやん」みたいなのが、個人的にちょっと……。僕らが『M-1』優勝したいコンビやったらやる気も出ると思うんですけど、別にそこまで思ってなかったから。

新山 「優勝狙ってないのに出るな」ってよく言われますよ。でも「いやいや、アホやろ」と思います。だって、誰がほんまに優勝狙ってるん? 去年も決勝に10組おって、ほんまに「優勝できる」と思ってた人ってあんまいないと思いますよ。それより「スベりたくない」とか「爪あとを残したい」とかのほうが大きい。みんな決勝に残ることを目標にしてるわけで、そこからさらに優勝を狙ってるのはほんの一部だけちゃうかな。僕は優勝より「売れたい」が大きい。僕らが今から優勝したとして、あと何がもらえんねやろ?と考えると、もらえるのは約9000組分の1の確率を勝ち抜いたという実績とお金だけ。僕らは3回決勝に出て「これで売れへんかったら自分らの実力や」ってところまで賞レースを使えたって気持ちが大きいんです。だから今年『M-1』に出ても、労力ともらえるもんのリスクが見合ってないっていう判断ですね。

さや香
ネタ作りを担当している新山

新山 今「優勝したい」って言ってるヤツって、ボーイズリーグの子が「将来プロ野球選手になりたい」って言ってるのと同じような感覚じゃないですかね。甲子園行ったとか大学までやったヤツほど「プロ野球選手になりたい」って言わんと思うんすよ。それに近いと思います。

石井 僕はまったく同じ考えというわけではなくて、単純に「優勝できたらいいな」と思いますよ。でも2022年、ウエストランドさんが優勝して僕らが負けたとき、「優勝しようとしてできるもんじゃない」ってめっちゃ思ったんです。それまではただ「優勝したい」だけでしたけど、それを機に僕も「優勝だけじゃないな」という感覚になりました。

さや香
『M-1』に対しての考えが変わったという石井
さや香新山の夢の泉【公式】

「一生舞台に立ち続けたい」わけではない

新山 いや、決勝行った一発目(2017年)はほんまになかったですよ。関西の賞レースでは優勝したこともありますけど、「寿命が1年延びたかな」くらいの感覚。安心感はなかったです。

石井 決勝に行ってからお笑いだけで食えるようにはなりましたけど、どこまでいっても安心している人はいないんじゃないですかね。

新山 逆にいうと「安心」はもうあるんですよ。奥さんと子供がおるんで。最悪、芸人を辞めてほかの仕事をすることになっても最低限の幸せが担保されている状態やから、そういう意味ではもう安心してます。まぁ「一生漫才やりたい、舞台で食べていきたい」と思っている人だったら、決勝に出ることで感じられる安心があるかもしれないですね。

新山 今のとこイメージ湧かないですね。石井もそうやと思うんですけど、テレビを観てこの世界に入ってるんで……。いや、「死ぬまで舞台に立ちたい」って人もおるんですよ。でも僕からしたら、それってどっから湧いてくる想いなんやろう?って。

石井 みんな師匠とか見て「カッコいい」って思うようになるんじゃないですかね。僕は、舞台に立ち続けている人はカッコいいと思いますよ。でも、そこになりたいかというと……わからへんなぁ。時代も変わっていくし、そのときにならないと自分の感情もわかんないですね。

さや香

新山 ずっと「テレビで売れたい」と言ってるけど、そこに特化したいというより、いろんなことをやった上でテレビに呼ばれる人でありたいとは思ってます。「こいつを呼んで話を聞きたい」とか「こいつがどう思うか知りたい」とか、そう思われる存在になりたいって感じです。人として厚みが欲しいですね。

石井 僕は、テレビにずっと出続けるのは絶対大変やろうなと思うんで……理想は、“楽”がしたい。いずれ楽できるように、テレビに出られるチャンスがあるならなるべく出たいって感じなんですよね。そのうち自分にとって「これだ」と思えるものを見つけて、あんまりストレスなくやりたいことができるようになったら最強じゃないですか(笑)。今はテレビに出るのも楽しいけど、ずっと第一線でい続けるのは性格上しんどいと思うんです。だから楽しい状態で続けていきたいですね。

『M-1』以外のフィールドで結果を出し、かけ算したい

さや香
4月からは毎月『さや香のコント大好きライブ』を開催しているさや香

新山 シンプルにワクワクするかなと。コントに変えることで、ネタに対するモチベーションがまた出てくるかなと思ってたんです。ただ、途中で「ちょっと違うな」と思いました。コントは楽しいんですけど、「賞レース用にがんばる」ことにエンジンかからへんことを実感しましたね。

石井 楽しかったですね。『キングオブコント』は負けちゃいましたけど、取り組んでることが今までと違うし、刺激にはなりました。

石井 賞レースに出る・出えへんとか、ネタとか、新山に完全任せてるんで……そこはもう、それでしかないです。そもそも東京に出てきた理由が「テレビへのシフトチェンジ」なんですよ。大阪時代は舞台優先でテレビを断ることもあったけど、東京ではそういう断り方をしない。明確に今年はやるべきことがありますし、『M-1』もラストイヤーまでまだあるんで、どこかで出るかもしれへん。出続けるだけがいいってわけじゃないし、いったん出場をやめることのメリットもあると思います。

新山 そうなんですよ。今の僕らは、結局「『M-1』がんばっただけのヤツ」であってそれ以上でも以下でもないんです。『M-1』のフィールドで結果を出しただけ。同じ場所でこれ以上突き詰めても、ただそれだけのヤツ。出続けるって、ずっと足し算をやってる感覚なんですよ。かけ算にするには、ほかのフィールドに行かないとあかん。「おじいちゃんになっても一生漫才やる」やったら足し算でいいと思うけど、その画が僕には見えてないので。

新山 個人的には「『M-1』出ません」と言ったことによって、逆に「ほかをがんばらなやばい」とモチベーションになってます。ほかで結果出ぇへんかったら、また焦らなあかん。それをなんとか阻止したいというか。あとシンプルに、お金が欲しい(笑)。『さや香の違和館ヤバない?』(テレビ大阪)って番組でいろんな住宅を回ってたら、普通に家が欲しくなったんです。カツカツではなく余裕で家を買えるくらいお金が欲しいというのは、今のモチベーションですね。

石井 自分は「仕事を楽しんでやる」こと自体がモチベーションかもしれないです。今までは舞台中心で「テレビはおまけ」という感覚が強かったけど、今は「がんばったらこんな人にも会えるんや」とか思えるようになって。単純に、楽しんで仕事をした先に何かがあったらいいなと。

新山 みんな漠然と「『M-1』がんばる」とか言いますけど、ちゃんと考えてないだけ(笑)。僕は考える癖があるんで、「なんで『M-1』がんばるん? なんでそうしたいの?」と自分の気持ちを整理しないと気持ち悪い。みんなそこまで「なんで?」ってやってないから、漠然としてるんじゃないですか(笑)。

さや香

NGなしの石井と、『紅白』に出たい新山

新山 個人的には『キングオブコント』決勝ですね。コントライブも4月から始めたばかりですし、もともと2~3年の長期スパンの計画やったんで。優勝しなくても、決勝行くだけででかいメリットがあると思います。でも今の時点では、「おもろいな」と思うことがあったらやって、それで決勝行けたらええな~くらいの感じです。

石井 新山がそう言うんなら、『キングオブコント』なんやと思います。

石井 自分が主催してる身体を使うライブ(『動~UGOKI~』)とか、石井ダンサーズとか、そんなんがちょっとでも大きくなったらおもしろいやろうなと思いながら生活してます。あと演技とかもやってみたいですし、お笑いに限らずタレントっぽいこともやりたい。やりたくないことはないので、全部やりたいですね。

石井 NGの逆。むしろやりたいですね。

さや香

新山 僕は、『紅白(NHK紅白歌合戦)』出場。

新山 いや、歌好きなのでちゃんとアーティストとして(笑)。芸能界に入ったからには、一回『紅白』出てみたいなって。それが一番手前にある目標です。

石井 手前……?

新山 書きものしてみようとか、そっち系も考えてます。これは目標というより「挑戦したい」って感じですね。YouTube始めたのもなんですけど、いっぱい挑戦してみて、何かが当たればいいなと。今まで『M-1』しかやってけぇへんかった弊害で、ほかにどんな才能があるかまったくわからないんで。

石井 自分の何がどこまで通用するかわからへんから、楽しみですね。

さや香

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堀越 愛

(ほりこし・あい)フリーランスのライター。企画制作、編集、広告。お笑いとラジオと劇場と演劇が好きです。元広告代理店営業。宮城出身、東京在住。HP:https://aihrks-log.theblog.me/

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