JO1の川西拓実と桜田ひよりのダブル主演で実写映画化された『バジーノイズ』(5月3日公開)。4月12日より発売中の『クイック・ジャパン』vol.171では、川西拓実のロングインタビューと『バジーノイズ』に関わるスタッフ陣の言葉から紐解いた特集「川西拓実“解体新書”」を掲載している。
ここではマンガ『バジーノイズ』の作者・むつき潤の、誌面には収まりきらなかったエピソードも盛り込んだインタビューをお届けする。
「これは『バジーノイズ』だ」と感じた
──映画化が発表されたころ、むつき先生はXで「監督が風間太樹さんに決まった段階で脚本もキャストも音楽も全部おまかせした」と書かれていました。もともと風間監督の作品へ信頼感を持っていたのでしょうか?
むつき はい。監督が決まったのはドラマ『silent』(フジテレビ)が話題になるよりも前だったんですが、映像系の知り合いや友人からよくお名前を聞いていたし、『チェリまほ(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)』(テレビ東京)のことも知っていたので、風間監督ならばすべてお任せしようという気持ちでした。
──完成した映画を観て、まずどういう思いを抱きましたか?
むつき 率直に、「『バジーノイズ』だ」と感じました。作り手が違えば異なる作品になることもあると考えていたんです。僕ではない誰かが作るのであれば、その人らしく『バジーノイズ』という箱の中で遊んでもらっていいと思っていたし、監督にもそうお伝えしていました。でも、脚本を確認したら原作のプロットをなぞってくださっている部分が多くて、とても原作を尊重していただいていたんです。スクリーンで観てみると、ビジュアルも込みでしっかり『バジーノイズ』になっていた。
さらに同時に、風間監督のキャリアの中の一本という文脈も間違いなくあって。その2軸が両立されていることが素晴らしいと思いました。それはなにより川西さんが、原作の清澄(きよすみ)の存在を佇まいからしっかり再現していたことが大きかったと思います。中心に清澄がいることで、「これは『バジーノイズ』だ」と感じられました。
──川西さんやJO1のことは、もともとご存じでしたか?
むつき あまり存じ上げなかったです。僕は家にテレビがないので、JO1さんに限らず有名人に疎いんですよね。初めて川西さんの宣材写真を見たときは、あまりにもお顔がきれいな方でびっくりしました(笑)。でも中性的なお顔立ちが清澄っぽいと感じたし、川西さんのルーツや、DTMで作曲をしている映像を見てキャスティングしたと聞いて、そういう経緯ならばきっと原作を尊重して臨んでくれるだろうと。不安はまったくありませんでしたね。
──撮影現場へ見学にも行かれたそうですが、そのときに対面された際の印象は?
むつき とにかく“ええ子や~”という印象でしたね。現場で初めてお会いしたら、すぐに駆け寄ってあいさつしてくれて……。「自分が清澄に重なる部分がある」ということを話してくれました。初主演作で、さらに演奏の練習などこの作品のために努力を積み重ねたことも多かったと思うので、きっと大変だっただろうなと想像しています。
──撮影を見学されていかがでしたか? どのシーンの撮影をご覧になったのでしょうか。
むつき おじゃました2日間とも、ライブシーンの撮影日だったんです。監督のうしろから見守らせていただいたんですが、美術の作り込みなども含めて、執筆時の僕の脳内がそのまま三次元に顕現した感覚がありました。「白昼夢を見ているみたい」と感じたし、動きの一瞬をキャプチャしたらマンガの絵になるのではないかとも思いました。川西さんはもちろん、アジュールのメンバーみなさんがそうでしたね。
原作を執筆しているときは、曲の音像をそこまで明確にイメージしていなかったんですが、Yaffleさん(映画『バジーノイズ』でミュージックコンセプトデザインを担当)のデモを聴いたらとても納得感があって。実は執筆時に、友人が簡単に作ってくれたデモ音源に合わせて、清澄の曲のリリックを作っていたんです。最初にいただいたYaffleさんのデモ音源に当時作ったリリックが案外ハマって、驚きましたね。
──その歌詞は作中では公開されていないですよね?
むつき 実は清澄がスマホを持って歌っているシーンで、少しスマホの画面に歌詞を載せていたんですよ。でも恥ずかしくなって、最終的には読み取れないよう加工しました(笑)。
──残念です(笑)。では、映画の中で特に印象的だったシーンを挙げるとすると?
むつき 海沿いで清澄が潮(うしお)にリズムパッドを少し触らせて、一緒に演奏するシーンです。ふたりの距離が縮まることを示すシークエンスとして、とてもよかったですね。「なぜマンガで描かなかったんだろう」とうらやましく思ってしまうくらい、いいシーンでした。
──ありがとうございます。今回の特集ではご登場いただいた方に共通で、「川西拓実をひと言で表現するなら?」という質問を投げかけているんです。むつき先生は、川西さんにどんな言葉を当てはめますか?
むつき 難しいですね……お会いした回数は限られているので、本当に勝手な印象ですけど、「ピュア」ですかね。お話ししたときの印象も、初の主演作であそこまで役に染まれるということも。清澄にも何色にでも染まれる器のようなイメージがあったので、川西さんもそれに近い、すごくきれいなキャンバスみたいな印象がありますね。
『バジーノイズ』に込めた「他者と関わるということ」
──前回『クイック・ジャパン』(2019年4月発売のvol.143)にご登場いただいた際、「このマンガに出てくるキャラクターはみんな僕のデフォルメなんです」とお話しされていました。清澄には、むつき先生のどんな部分が反映されているのでしょうか。
むつき 清澄のキャラクターにはそもそも、「バンドマンガを描くなら、バンドを組むようなマインドから一番遠いやつを主人公にしよう」というような発想があったんですね。個人主義というか、他人との関わりに消極的というか。そして当時僕も『バジーノイズ』が初連載で、漫画家を始めた際に感じた葛藤や戸惑い、第三者の声が入ってくることによる革命に向き合っていたんです。そういうなかで感じた僕の新鮮な気持ちが、清澄に投影されている気がしますね。あとは逆に、清澄のミニマリズム的な生活スタイルには、僕のほうがあとから影響を受けたんですよ。
──ミニマリズムということは、家の中がシンプルになっていったり?
むつき そうそう。家具がどんどん消えていきました(笑)。断捨離ぐせがついたり、着る服がモノトーンになったり。作品にダイブしすぎて、境界がわからなくなったんでしょうね(笑)。不思議なことに、同じことが風間監督にも撮影中に起こっていたらしいんです。先日取材でお会いしたときも、僕と風間監督がふたりとも無地のスウェットを着ていて、なんだか似ていて(笑)。おもしろかったですね。
──ものすごく没頭されていたことが伝わってきます。現在むつき先生は『ホロウフィッシュ』を連載中ですが、今でも清澄が自分の中に残っている感覚はありますか?
むつき 『ホロウフィッシュ』の主人公は真逆で、すごくごちゃごちゃした部屋で暮らしているんですよね。なのでやっぱり連載当初は、少しだけ部屋が散らかったりしました。でも自分の芯はもう清澄に近いスタイルで定着しているのか、すぐにもとに戻ったんです。それは、『バジーノイズ』が初連載だったことが大きいような気がしますね。
──『バジーノイズ』は、SNS時代に音楽を発信するということをさまざまな角度で描いて話題を呼びました。漫画家というお仕事も、エンタテインメントを生業にしていくという部分ではミュージシャンに近い部分もあるのではと感じるのですが、執筆当時はどのような思いを込めて描いていましたか?
むつき 音楽に関しては外様という意識がすごくありましたし、音楽業界の方々が言われたくないことを描いてしまっていないだろうか、という引け目をすごく感じていました。なので、クリエイトすることやそれを商業にすることの葛藤など、むしろマンガを描いていて思ったことをそのまま音楽を題材に描くことで自分を納得させるような感覚でしたね。
──とてもリアリティを感じたので、最初はむつき先生もバンド活動の経験があるんだろうなと思っていたんです。そうではないと知って驚きました。
むつき いえいえ、全然ないんですよ。取材でバンドマンの打ち上げに潜り込んで飛び交う会話に耳を澄ませたり、レコーディングや遠征に密着したりするなかで、僕自身が「わかるな」と感じたことだけを描いたので、音楽にもいえることだし、マンガにもいえるという内容になったのかもしれないですね。
──その上で、音楽にもマンガにも明るくない人でも、あらゆる方にきっと共感する部分がある作品だと思います。
むつき そうだといいですね。この作品において音楽というのは箱でしかなくて、中に込めたものは普遍的で誰にでもわかるものにしようという意識はしていました。清澄と潮も、清澄と航太郎も……どの関係性においても、結局は他者と関わるということが中心にある物語です。
──ありがとうございます。では最後に、映画『バジーノイズ』をどんな方に観てほしいですか?
むつき 映画化にあたって、原作読者の方が「この作品をどう映像化するんだろう?」と言ってくださる声をよく見かけたんです。でも読者がしっかり納得できる作品であり、原作と違うものも提示できている映画にもなっていて、そのバランスが素晴らしいものになっていると思うので、そこをしっかり伝えたいですね。原作読者の方にこそ、観てほしいです!
発売中の『Quick Japan』vol.171では、12ページにわたる特集「川西拓実“解体新書”」を掲載。川西拓実インタビューのほか、風間太樹監督、山田実プロデューサー、主題歌作詞を担当したいしわたり淳治、原作者・むつき潤といった『バジーノイズ』関係者に取材を行い、5つのキーワードから表現者・川西拓実の魅力に迫る。
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