なぜLDHからプロレスへ?武知海青(THE RAMPAGE)の反骨心とファンへの本音「美しいあの光景を見せたくて」

2024.2.17

協力=DDTプロレスリング

文・編集=竹田磨央 撮影=いわなびとん


2024年2月25日、格闘技の聖地・後楽園ホールでLDH JAPAN所属の武知海青(THE RAMPAGE)がプロレスラーデビューを果たす。プロレスの何に魅せられ、なぜグループ活動の傍ら道場に通い詰めるのか? 練習に打ち込む武知の姿を追った。

先輩レスラーも唸る、武知の才能と肉体

「グループでの活動のあと、ジムに行ってからここに来ました」

軽い柔軟体操をしながら、はつらつとそう答えた。昨年末のプロレスラーデビューの発表には、ファンもさることながら、プロレス業界からも驚きの声が上がった。現役アーティストがプロレス業界に足を踏み入れるなんて、そうそうある話ではないからだ。

きっかけは、昨年出演したドラマ『覆面D』(ABEMA)。劇中でブロレスラー役を演じきった武知に熱視線を送ったのが、撮影に協力していたプロレス団体「DDTプロレスリング(以下、DDT)」だ。高い身体能力とリング上で放つ華やかな存在感を見込んだ高木三四郎社長がLDH JAPANにオファーをかけ、前代未聞のプロジェクトが動きだした。

「もう少し腰の調子を上げたいんですよね」という武知に、実践的なアドバイスを送る上野勇希選手。武知の体に触れ、呼吸方法などを指南していた
「もう少し腰の調子を上げたいんですよね」という武知に、実践的なアドバイスを送る上野勇希選手。武知の体に触れ、呼吸方法などを指南していた

この日は、指導を担当する大石真翔(まこと)選手に加え、試合でタッグを組む上野勇希選手、現役高校生レスラーの夢虹(ゆに)選手、現役大学生レスラーのイルシオン選手が練習に参加。パフォーマーとレスラー、体の作り方はまったく異なるのだろうが、肉体への強い探究心を持つ者同士の会話が弾み、キャリアも年齢も超えた一体感のようなものが生まれていた。

「『覆面D』のときに基本的な練習はしましたが、今は応用というか、もっと実践的な内容になっています。ドラマの撮影だったら撮り直しができますが、実際のリングに立つとなるとそうはいかない。ライブで反応できるようにならないといけないので、ドラマのとき以上の緊張感と危機感があります」(武知)

イルシオン選手(左)、夢虹選手(中央)、大石真翔選手(右)
イルシオン選手(左)、夢虹選手(中央)、大石真翔選手(右)

プロレスはほかの格闘技とは違い、まず相手の技を受けることが大前提となる。どんな技でも受けられるようになるためには、受け身の訓練が特に重要だ。先輩レスラーたちの手本どおりにキレイな受け身を取る武知の姿に「やっぱりすごいな」と唸ったのは、道場の隅で見学していた高木三四郎社長。

「パフォーマーとしての才能があるからこそなのかもしれませんが、人の動きを見ただけでそれを体で忠実に再現できるのがすごい。見たものを体で表現できる能力はレスラーにとっても大事な要素なのですが、ここで苦戦する子も多い。武知さんは見せ方や見え方も理解できているし、肉体も素晴らしいしので、期待感しかないですね」(高木)

受け身の練習を終えると、次はロープワークの練習へ。四方に張られたロープに背中から当たり、バウンドを利用して逆サイドのロープにまた背中から当たりにいく。ロープの内部は鋼鉄製で固いため、体が当たれば痛いはずだ。しかし、武知はひるむようなそぶりも見せず、ハイスピードでリングを駆け抜け、思いきりぶつかっていく。ロープが派手にしなるたびに、再び高木が感嘆の声を上げた。

後楽園ホールで初めて観たプロレスに心が震えた

「HIROさんもプロレスが大好きだし、事務所のジムでトレーニングをしていると先輩方がみんな話しかけてくれて、プロレスの話題が尽きません。AKIRAさんは『リングコールやらせてくれ!』なんて言ってくれたんですよ(笑)」と語る武知。先輩や仲間の期待を一心に背負っている
「HIROさんもプロレスが大好きだし、事務所のジムでトレーニングをしていると先輩方がみんな話しかけてくれて、プロレスの話題が尽きません。AKIRAさんは『リングコールやらせてくれ!』なんて言ってくれたんですよ(笑)」と語る武知。先輩や仲間の期待を一心に背負っている

『覆面D』の撮影を通じてプロレスの一端に触れた武知が、初めて試合を観たのは2022年6月19日、DDTの後楽園ホール大会『KING OF DDT 2022 1st ROUND』。それまでも父親の影響で格闘技をテレビで観る機会はあったが、生のプロレスを観るのは初めてだったという。

「とにかく痺れました。生で観たときの迫力と客席の歓声、後楽園ホールの雰囲気、その全部に心が震えて言葉にできないものが自分の中に流れ込んでくるような感覚でした。肉体的な強さや、プロレスの技にも感動したのですが、なによりリング上の選手たちの感情の動きや、それに呼応する客席の様子を美しく感じたんです。もし選手たちのストーリーの中に自分も加わったら…自分がここにいたらどんな役回りになるんだろうとか、どんどん自分の中でストーリーが浮かんでしまった。一回試合を観ただけで、とても感化されたんです」(武知)

DDTに所属するスーパー・ササダンゴ・マシン選手は、過去のインタビューでプロレスについてこう表現していた。

僕は、プロレスというのはスポーツや格闘技のドラマティックでエモーショナルな部分を極端に肥大化させたもので、ものすごくサイコロジカルだと思っているんです

受け身やロープワークといった独特のアクションに加え、サイコロジカル=心理的な要素で観客を魅了するのもプロレス特有のものだ。ファンが見ているのは勝敗だけじゃない。プロレスラーが何を思い、何を表現したいのか。その生き様を見に会場へ足を運ぶのだ。

「自分がリングに立つストーリーが浮かんでしまった」と語る武知が惹かれたのもまさに、プロレスが持つエモーショナルな部分だったに違いない。ただ、今の武知はまだ、リングに立ったその瞬間にあふれ出る感情の行方を知らない。

「今はもう『やるしかない』という思いだけ。緊張はしているけど、心配なことはなくて。何を心配したらいいのかもまだわからない状態というか。ただ、自分が初めて後楽園ホールでプロレスを観たときのあの感動を生めるんだろうかとか、ファンの方の期待に答えられるのか…というのは考えますね」(武知)

デビュー戦でタッグを組む上野選手は、団体最高峰のベルトを持つトップレスラーだ(左)
デビュー戦でタッグを組む上野選手は、団体最高峰のベルトを持つトップレスラーだ(左)

武知はこう語るが、それを聞いた上野と高木は「問題ない」と口をそろえた。

「僕たちプロレスラーが見せたいのは、けっして痛めつけられている姿でも、痛めつけている姿でもない。リングに立って何を感じているか。悔しいとか、うれしいとか、そういう感情を表現したいと思いながら闘っています。パワーをつけて体を強くして、受け身や技を身につければ、リング上で表現できる幅が広がる。武知さんは今そのための下準備をしている段階です。できることを増やしている途中だから『できない』ことに悩む必要もないし、もともと体の使い方の精度が高いからどんどん成長していくと思いますよ。あとはもう思い残すことないくらい練習すれば、その練習が自分の自信になるはず」(上野)

「普通の人がプロレスデビューするよりも、武知さんは人前に出ることには慣れている。これまでだって、大きな会場で何万人というファンを前にライブをされてきたと思います。そこで培った平常心でプロレスにも挑んでほしい。ライブだと思えばいいんですよ。プロレスは“闘うことを見せるライブ”ですから。チョップを受けたら痛いし、コノ野郎!と思うでしょ。そのとき湧き上がった気持ちを、そのまま表現したらいいと思います。感情は意図して作れない部分だから、素直に表現することでお客さんも武知さんに共感してくれるんじゃないかな」(高木)

高木三四郎社長(左)
高木三四郎社長(左)

「たったひとりのためにがんばりたい」プロレスに挑戦する理由

2014年、15歳のときに「EXILE PERFORMER BATTLE AUDITION」に挑戦し、16歳でTHE RAMPAGEのメンバーに選出されて上京した。ここまで来るのにけっして楽な道ではなかったが、今ではアリーナ規模の会場に何万人ものファンが集まる人気アーティストに成長した。

パフォーマーとしてステージに立ち続けるだけでも多大な努力がいるはずなのに、なぜ今ここでまったく違う世界に飛び込み、またゼロからスタートしようと思い立ったのか。そんな疑問をぶつけると、武知は「過去に得た栄光は過去のものだから。僕は常に前を見ていたい」ときっぱり言いきった。

「誰かの背中を押せたらいいなと思うんです。たとえば、何か新しいことを始めるときに、年齢を気にして今からやっても遅いんじゃないかとあきらめる方もいる。でも僕は“思ったときに始めるのがベスト”だと思うし、いつからだって遅くないってことを伝えたい。口に出して言うだけでは説得力がないので、僕が実際に体現して見せようと思っています。たとえば100人が僕のプロレスを見に来てくれたとして、その中のたったひとりの背中を押せるだけでもいい。僕はそのひとりのためにがんばりたい」

たしかに、26歳のプロレスデビューを遅いと見る向きもあるかもしれない。しかし、そうした固定概念を覆せるだけの気概がある。なぜなら、それは武知自身がその体を使って向き合ってきたテーマでもあるからだ。

「マッチョは踊れないと言われたことがありました。僕が筋トレを始めたときに、筋肉をつけたらダンスのパフォーマンスの質が落ちるだろうと揶揄されたんです。だったら、この体でできることを証明してやろうと思った。鍛えた体でダンスを魅せたかった。そしたら今度は『どうせ見せかけの筋肉でしょ』と言われて。そうじゃないことを証明するために、ボディコンテストで結果を残して、柔道の大会にも出て黒帯も取りました。何か言われるたびにちゃんとムカついて、それが原動力になってきたんです」

2歳からダンスを始め、小学5年生のときには水泳でジュニアオリンピックに出場した。フィジカル的な経験が武知の生き様やポリシーを形成したのだとすれば、言葉より行動のほうが雄弁なのもうなずける。

武知の話を横で聞いていた高木は「その反骨心、やっぱりプロレスラー向きだな」と笑った。

「ファンに僕が見た美しい景色を見せたいんです」

THE RAMPAGE・武知海青プロレスデビュー戦『Into The Fight 2024』2024年2月25日(日)開場10:30/開始11:30/東京・後楽園ホール(座席完売。プロレス動画配信サービス『WRESTLE UNIVERSE』で完全独占生中継が決定)

リング上での練習が終わり、最後は全員でバトルロープに勤しむ。2本の重たいロープを両手に持ち、交互に振り下ろす。全身の筋肉を鍛えるのに有効なぶん、キツさも並大抵のものではない。30秒続けるだけでみるみる息が上がっていく。見ているだけでも全身が痛くなるような光景に、立ち合ったスタッフ数名は若干怖気づいていたが、本人たちは「まだいける!」「もっと!」「あと少し!」と声をかけ合い、どこか楽しそうだ。

「きつい」「腕がやばい」「上腕にもきてる」肉体言語で語り合うレスラーたちの一体感の中に、武知も違和感なく溶け込んでいた。

武知をここまで突き動かすのは前述どおり、ある種の反骨心もある。しかし、もっと大きいのはファンの存在だ。インタビュー中にも「僕の活動がファンの活力になればうれしい」「ファンの方々もたくさん見に来てくれるからがんばりたい」と、その視線が常にファンの方向を向いていたのが印象的だった。

「プロレスを見て美しいと思った僕の感情を、僕がプロレスラーとして立つことでファンの方々にも感じてもらえるかもしれない。僕が美しいと思ったあの光景を見せたくて、今回の挑戦を決めました。心配してくださっている方もいると思うのですが、どうか見ていてほしいです。僕がいろいろなところに立てば、それだけファンの方々の視野も広がっていくはずなので。THE RAMPAGEだけじゃなくて、プロレスとか、DDTさんの魅力を知ってもらえたら、喜びや幸せを感じる時間がもっと増えるんじゃないかと思います。もちろんDDTのファンの方々にも、初めてプロレスのリングに立つ僕ができる精いっぱいをお見せできるようにがんばりたいです」

この日の練習メニューをすべてこなし、座礼にて終了
この日の練習メニューをすべてこなし、座礼にて終了
2月4日に26歳の誕生日を迎えた武知。選手たちからサプライズプレゼントを贈られるひと幕も。DDTの仲間の証となるトラックジャケットだ。うれしそうに袖を通す姿に、今日一番の笑顔が見えた
2月4日に26歳の誕生日を迎えた武知。選手たちからサプライズプレゼントを贈られるひと幕も。DDTの仲間の証となるトラックジャケットだ。うれしそうに袖を通す姿に、今日一番の笑顔が見えた

こだわり抜いてオーダーしたオリジナルのコスチュームも完成したという。入場曲もとっておきのものを準備している。時間の許す限り道場に通い、体と心の準備を重ねる。2月25日、後楽園ホールでの初陣がいよいよそこまで迫っている。初めて立つプロレスのリングで、武知は観客に何を届けることができるだろうか。

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竹田磨央

(たけだ・まお)編集者・ライター。株式会社ハガツサ所属。編集担当書籍に『HiGH&LOW THE FAN BOOK』(サイゾー)など。『日刊サイゾー』『TVfan』『Forbes JAPAN』等で編集・執筆を担当。https://takedama.edire.co/

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