日常にひそむエンタテインメント「おつとめ狩り」とは何か(パリッコ)
パリッコのマイバスケット・イズ・スーパーマーケット 第1回
地方に行っては中古レコード屋でレア盤を掘り、週末は古本屋で探し求めていた本を探す。僕たちはそうやって知らない音楽や見知らぬ作家と出会い、楽しみ、自らの身体に蓄えていった。2020年代、そんなお店も身のまわりにずいぶん少なくなった。でももっと目を凝らせば、普段の生活の中にも、駅からの帰り道にだって楽しみはあるんじゃないか。『酒場っ子』『つつまし酒』などの著書を持つ、若手飲酒シーンの旗手・パリッコさんによる「スーパーマーケット」の楽しみ方。
都市でできる山菜摘み
僕にとっての「スーパーマーケット」の、あのワクワクに満ちた存在感をひと言で言い表すとするとなんだろう。「アミューズメントパーク」ではちょっとぬるいけど、「夢の国」というのは大げさすぎる気もする。う~ん……あ、「宝島」だ!
飲み食いが何よりの趣味であり、そしてまた、その日飲む酒やそこに合わせるつまみに対する細かな部分に、こだわったりこだわらなかったりすることが大好きな僕にとって、あの陳列棚はまさに宝の山だ。
仕事を終え、地元のなじみのスーパーを徘徊する。余裕があれば2、3軒とハシゴ。野菜、鮮魚、精肉、惣菜……今日の気分にぴったりのつまみはどのエリアにあるか。女々しく悩み、フロアを何周もする。「えい!」といったんカゴに入れた食材を、逡巡の末に棚に戻すことだってある。そうやってゲットしてきた今宵のつまみを前にし、「さて……」と飲み始める瞬間の、あの気分のよさ。なんやかやとうまくいかない日々の中に、この小さな幸せがあるからなんとか生きていけている。間違いなく、そう思う。
スーパーはまた、季節を感じる場所でもある。冬も終わりに近づき、ちらほらと春っぽい日差しも感じるようになってきたな~、なんて頃にスーパーを覗いてみると、惣菜コーナーにいち早く山菜の天ぷらが並んでいたりする。ついうれしくなってカゴにポイ。自然に囲まれた暮らしをしている人ならば、ちょっと近所を散策すると季節の山菜を摘めたりもするんだろうけど、都市部に住む僕にとってそれは憧れ。が、季節感ならスーパーが感じさせてくれる。あの「カゴにポイ」は、僕なりの山菜摘みというわけだ。
ところでさっきから、スーパースーパーといっているが、そもそもこの「スーパー」という略称が間抜けでかわいらしい。だって、正式名称は「スーパーマーケット」。誰が呼び出したのか知らないが、まさか本体の「マーケット」のほうを省略してしまうとは。これ、わかりやすくたとえるなら、「さかなクンさん」を略して「クンさん」と呼んでいるようなものだ。僕が、そしてあなたが、今までどれだけの無茶をしていたかがわかってもらえたでしょうか? それでも僕は、これからも敬意と親しみを持って、スーパーマーケットのことをスーパーと呼ばせてもらおうと思う。