あるのは、血のつながった者同士ゆえの避け難き因果――映画『ひとよ』

2020.1.25

一夜(ひとよ)にして運命が激変してしまった家族の物語、映画『ひとよ』。家族が自由に生きていくため自らの夫に手をかけた母親と、自由な人生を手にしたはずの3人の子どもたち。

“家族の絆”は、はたしてどんな形でも尊いと言えるのだろうか。映画評論家の轟夕起夫さんが、俳優陣の演技も含め丁寧に本作を解説する。

※本記事は、2019年10月25日に発売された『クイック・ジャパン』vol.146掲載のコラムを転載したものです。


スリリングな一夜からはじまる家族の愛憎劇

本作のフライヤーにはこう記してある。

「あの夜、母は父を、殺した。子どもたちの幸せと信じて――15年後、母が、帰って来た。」

これで今年、劇場公開作は『麻雀放浪記2020』『凪待ち』に続いて3本目を数える白石和彌監督の『ひとよ』。そのタイトルの意味するところは「One night」、一夜の出来事を指す。

小さなタクシー会社を営んでいる“稲村家”の母・こはるが、DV夫に手を掛けたのだ。土砂降りの雨の中、自ら運転するタクシーで事務所兼自宅まで乗せ、下車した直後、急バックをしてドスンと一挙に撥ねて!

彼女は自首する前、3人の子どもに向かって力強く言う。「もう誰もあんたたちを殴ったりしない。これからは好きなように暮らせる。自由に生きていける。なににだってなれる。だからお母さん、今、すごく誇らしいんだ!」

なんともガツンと来る電撃的展開だが、ここまではほんの序の口、イントロダクションに過ぎない。それでもどんな感触の映画か、少しは伝わったのではないか。

第一、この「こはる」という母親が明らかに、ぶっ飛んだ人だとわかったと思う。演じているのは田中裕子。日本屈指のアクトレスによって血肉を与えられた“グレートマザー”の存在が、映画の根幹をスリリングにする。

つまり、彼女は大きな愛の力で子どもたちを慈しむ一方、下手をすれば過剰な思いで押さえつけ、飲み込み、破滅させてしまうモンスター的な側面も有しているのだ。

そんな母が出所し、家へと戻ってきて、3兄妹の止まっていた時間が動き出す。ここに鈴木亮平、佐藤健、そして松岡茉優といった(これまた最高の)アクター陣がキャスティングされており、大先達の田中裕子を加えての“セッション”が素晴らしい!

そこから浮かび上がってくるのは、3兄妹の今。確かに虐待の日々からは逃れられた。だが、“母親の罪”によって好きなように暮らせなどしなかったし、自由にも生きられず、なににだってなれるわけでもなかった。一夜で、人生がすっかり狂っちまった三人三様の愛憎のドラマが開示され、痛々しくも胸を打つ。

家族の絆とやらを盲信するなかれ。あるのは、血のつながった者同士ゆえの避け難き因果。それが再び、忘れ得ぬ“ひとよ”を招来させてゆくさまをこの映画は描き上げてみせる。

ベースとなったのは、「劇団KAKUTA」の同名舞台。そのキャッチコピーを借りて本作を端的に表すならば、「ひとは、ひとよでかたちをかえる。」――これである。


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  • 映画『ひとよ』

    監督:白石和彌/出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子ほか/配給:日活
    全国公開中 ©2019「ひとよ」製作委員会


Written by

轟 夕起夫

(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...

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