お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、本日は晴天なり。
今回はコロナ禍でのキャバクラ営業を振り返り、マスク外せおじさんや暇つぶしにセクハラLINEを送ってくるお客さんなど時代の変化と共に現れた新たなセクハラ、パワハラを紹介する。
顔が半分見えないのは“損”なのか?
都の休業要請に伴い、2020年4月からしばらくの間、お店が休業。再開した際には、全員ガッツリマスク接客だった。
これまで「人柄やトークスキルが大切だ」と熱弁してきたが、もちろん容姿も商売道具の一部であり、お客様はキャバ嬢の顔はもちろん、チャイナドレスからすらりとのぞくおみ足を見に来ていると言っても過言ではない。
それほど、視覚が重要な仕事だ。
中には「金を払って飲みに来てるのに顔が見えね~だろ!」とマスクに手をかけるパワハラ豪速球のお客様もいた。
ほかのキャバ嬢がマスク取れ取れおじさんのパワハラに耐えられずにマスクを外して接客していると、ますます取らないほうの分が悪くなる。「あの子は顔を見せてくれたのに君はなんなんだ! 同じ金を払うなら顔が見えてるほうがいいに決まってるだろ!!?」と怒鳴られ、まじめにルールを守っているほうが損をした。
ってか、その思考、すごい……。
同じ金額を払っているから、相手の顔が半分隠れていると“損した”気持ちになるのか……。水着キャバクラでキャバ嬢が服を着ていたら損した気分になるかもだけど。(水着キャバクラって本当にあるらしいよ、スゴいね!)
そもそも、マスクは顔を隠したくてつけているわけではなく、感染対策として自分の身とお客様を守るためにつけているというのに、その行動に躊躇なく怒鳴り散らすことができるなんて。
マスクの恩恵
“マスクイケメン”や“マスク美女”という言葉が誕生した理由は、その人のマスクを外した顔が残念なわけではなく、マスクで隠れている部分を自分の理想どおりに想像するからだと個人的には考えている。
自分の好きなマンガがアニメ化した際に、自分の脳内で再生されていた声と声優さんの声がピッタリ一緒じゃなかったら少しだけ残念に思うのと似ている現象な気がする。なので、マスクを取ったときにガッカリされるのは、ほぼ必然であると思う。
以前、某客に「口腔外科で口元直してきなよ」と言われたことがあるほど、自他共に認める口元コンプレックスな私は、マスク接客にしてからめちゃくちゃチヤホヤされた。(某客の話はまたいつか)
接客態度や人柄ではなく、ビジュアルでチヤホヤされるのは今までなかった。さらにいうと、実の妹に「顔! なっが! 顔、長いよ! だんだん伸びてきてる?」と会うたびにイジられる私は、マスク接客にしてからは、顔の長さまでごまかすことに成功していた。
「かわいいから場内指名するね!」と、初めてビジュアルで場内もゲットした。※ちなみに場内指名とは来店したその日にその場で気に入った子を自分の席に置いておくことができたり、一番のお気に入りの指名嬢がいるけど、あの子も楽しいから席にいてほしいな!という、ヘルプが一歩上のステージへ上がった状態、ヘルプ以上指名嬢未満の状態をいう。
目元がむちゃくちゃかわいいわけではないが、口元よりかは化粧やカラコンや前髪の雰囲気でどうにでもできる。
しかし、そうなるとせっかくドリンクをいただいても飲むときにマスクを外しづらい。口元を見られてがっかりされたくない一心で、お客様から見えない角度でコソコソとカクテルをすすっていた。なんならもう露骨に手で隠しながらすすっていた。
私のことを気に入ったお客様たちは「一瞬だけ! 一瞬だけでいいからマスク外してみて!」とお願いしてくる。ここで嫌がって話を引っ張ってもさらにハードルが上がり、お客さんも意地になるだけなので、こういうときは潔く本当に一瞬だけマスクを取る。
顎にズラせば顔が長いのはバレないし、口元はキス顔みたいにくちびるを尖らせていればごまかせる。そして「も~! 恥ずかしい~!」とすぐに両手で顔を隠し、お客様の肩に頭をもたれさせる。お客様も一瞬だけでは正直よくわからず(あと酔ってる)、それより肩にもたれてきた行為のインパクトが即座に上書きされて、反射的に「か~わ~い~い~!!」と言う。
普段は肩にもたれかかるなんてことは絶対にしないのだが、私自身もチヤホヤされてるうちにマスクをしているときだけは“自分はかわいいのだ”と錯覚することができて、ちょっと大胆になっていた自覚がある。
そう思い込むようにしていたわけではなく、人にかわいいと言ってもらえることで確実に自己肯定感が上がっていた(ただしマスク着用時に限る)。かわいいと言われることは大事なんだなあ。
“ブス”と言ってきた人にかわいいと言わせるゲーム
そんなマスク美人フィーバーが訪れていたなか、席に座る前、目が合っただけで「あ、この子はマスク取ったらブスなパターンだわ」と、すぐに見抜かれたことがある。さらに「え~、俺の隣に座るの? 絶対ブスじゃん! ダル~!」とまで言われた。
うわ~速攻でブスなのバレたぁ~と思ったのと同時に、「マスク取ったら」ってことは今はまだかわいく見えてるってこと?という謎のポジティブ思考と、まだブスというワードを使う人間がいたのね……と化石を発掘したような気分が一度に押し寄せた。
マスクを取った姿を見られないようにお酒を飲んでいると無理やりのぞき込んできて「あ~。ほらね。やっぱりね」と失礼の剛速球。
時代の変化もあって、キャバ嬢を始めた当初よりブスと言われる頻度は格段に減っていたが(私がきれいになったのかブスという言葉を世間が使わなくなったからは置いといて)もちろんゼロではなかった。
いつものように「え~? ブス~? そんな意地悪言わないでよぉ~」と言い、とにかく明るく笑顔で振る舞うようにしていた。するとどうでしょう、初対面でブスと言ったお客様が「キミ、かわいいね。なんだかかわいく見えてきた」と言い出したのである。
これは本っっ当に気持ちのいい経験だった。
ブスと言ってきた人にかわいいと言わせるゲームで、朗らかに接した私の大勝利が確定した瞬間だからだ。ドリンクも飲ませてもらえたし、場内指名ももらえた。私の勝ちだ。自慢じゃないが(いや、自慢だ)この経験は多かった。
マスクがあろうがなかろうが最初はブスだのデカいだの言われ、最終的にかわいく見えてきたと言われる。時間の経過による慣れも多少あるかもしれないが、男性は自分に優しくニコニコしている女性ならものの15分程度でかわいく見えてくるチョロい生き物なのだ。(いや、それは口が悪い?)
かわいいに見た目は関係ない、のかもしれない。
もちろんこちらとしては、開口一番ブスと言い放つ無神経な人間性を忘れたわけではないので、そのあとどれだけ優しくされても、どれだけ口説かれても、そのお客様を好きになることはないし、素敵だと思うこともない。いつもこの瞬間、心の中でダブルピースからのダブルF××kをかましている。
キャバ嬢界のマスクの進化
マスク外せおじさんやマスクハードルがトラウマになった私。そこで今度は顔が見えるようフェイスシールドを着用した。今でこそ当たり前のようになったフェイスシールドも、当初はかなり奇抜だった。
街中でチラシ配りをしている人がつけているならまだしも、キャバ嬢では空前絶後、前代未聞の風貌だった。まるで近未来からやってきたサイバーキャバ嬢みたいになっていて、お客様はもれなく引いていた。
顔が見えるとか見えないうんぬんよりも奇抜さが勝ってしまい、すこぶる評判は悪かった。まず、フェイスシールドの話題になってしまうので、人間的に興味を持ってもらえることもなかった。
「その透明な部分、どうなってんの?」
「ここはモニターになっていて、スカウターみたいに戦闘力とか表示されます」
「は?」
「私は2050年からやってきたサイバーキャバ嬢です」
「は?」
渾身のボケも理解してもらえずにスベり散らし、悔しくてその日はそのフェイスシールドをつけたまま電車で帰った。
私はその日から二度とフェイスシールとを着用しないと心に誓ったのだが、そのうちフェイスシールドをつけるキャバ嬢もチラホラと現れ、私がつけ始めたころは「それ、やめたほうがイイんじゃない?」とやんわり否定していたお客様も、ほかのキャバ嬢には「カッコいいじゃん!」と言っていた。
これはもともと持ち合わせている容姿のポテンシャルのせいなのでは?とか、フェイスシールドを着用したのが時期尚早だったからか?と悩んだが、チヤホヤされるフェイスシールドキャバ嬢を待機席からジッと眺めているうちに、ある結論に辿り着いた。
私が着用していたフェイスシールドは、頭にぐるっと巻くタイプのもので、青いハチマキを巻いているような感じになっていた。そしてその圧により髪はモッコリと浮き上がっていた。そして、かっこいいじゃん!と言われていたキャバ嬢が着用していたのはメガネタイプのものだったのだ。
知的で普段とのギャップも見せられるメガネ女子と髪の毛モッコリのハチマキ女子なら、メガネ女子に軍配が上がるのは当然だろう。私が負けたんじゃない、ハチマキが負けたんだ。
その証拠に試しにメガネ型フェイスシールドで接客したら「やめたほうがいいんじゃない?」とは言われなかった。(かわいいともカッコいいとも言われなかったが……)しかし、ここでもやはりキャバ嬢は見た目が大切なんだということを思い知らされてしまった。
些細なことかもしれないが、見た目が影響しているのは事実。冒頭でも言ったように、キャバ嬢は人柄と会話のテクニックだ!というのをひたすら熱弁してきた私としては悔しい出来事であると同時に、やっぱり男性ってそれだけのことでどうにでもなるものなんだなとまたひとつ確信した。(私が出会ってきた男性に限る)
そこから、マスクキャバ嬢たちの進化は止まらず、いろんなデザインのマスクやマスクチャームなどで、マスクをも自身の魅力の一部にしていった。世間でも、それくらいのマスクおしゃれは一般的だ。
そんななか、ベリーダンスの衣装で見かける妖しげなベールを着用し、店のマスク事情に風穴を開けた新人キャバ嬢が登場! アラビアンナイトの世界から飛び出してきたかのようだった。
正直、マスクとしての機能は謎だったが、店の衣装であるチャイナドレスとの相性がよく妖艶さが増し、お客様のウケはよかった。透明なプラスチックより刺繡の施された薄手の透けてる布のほうがエロいもんね。
そのあとは結局、芸能人がロケなどでよく着用していた口元シールドで統一。唾が飛ぶのでしょっちゅうトイレで拭いてたが、クレームは来なくなった。
生まれつづける新たなセクハラ・パワハラ
私を指名してくれている数少ないお客様のひとりが無症状でのホテル療養になってしまい、心配したのと同時に厄介なことが起きた。体調はいつもどおりなのに隔離されていてやることがないので、鬼のように連絡だけ来るのだ。しかし、療養中なので、やりとりをしても店に来てくれるわけではない。相手の暇つぶしにただ付き合わされているだけなのだ。
「暇だよ~」
「暇だよね! YouTubeでも観たら?」
「観過ぎてギガ残ってないよ~」
「部屋にWi-Fiないの?」
「あるけど弱い~」
たとえ、大好きな彼氏でも無駄だと思ってしまうような内容だ。好きでもなんでもないおじさんから四六時中これくらいの内容の連絡が来るのはなかなかツラい。普段、仕事をしているときはたまにしか連絡をしてこないので、果てしなく暇だったことが窺える。
さらには、「このホテル、ラブホ街にあるから窓からラブホに入るカップル見てるよ~」とか、「普通のホテルだからエッチなチャンネルはないんだよね~」と、しっかりセクハラもしてくる。しかし、ここでないがしろにしたら、隔離が解除されても店には来てくれないと思い、できる限り返事をした。でも結局、「1度かかってるし、また隔離されたら嫌だから店には行けないよ」と、特大の大義名分をぶん回された。
これに関しては、この理屈に先回りできなかった私のミスだ。とにかく無事でよかった、それに尽きる。
そして、そこからは2度目3度目の緊急事態宣言。
当たり前だが、年配の常連客は来なくなった。会社帰りのルーティーンとして店に立ち寄っていた常連客たちもリモートワークになれば、わざわざ飲み行くためだけに家から出たりしない。
店の経営的にこの先ずっと休むわけにも行かなかったが、都の要請はしっかり守りたいという長年優良店としてやってきた店のプライドもあった。このときは休業要請ではなく時短要請で、飲食店の営業時間は20時まで。店のオープンは19時である。1時間だけ営業したところでむしろ赤字だ。
そこでお店は悩みに悩んだ挙句、キャバクラなのに15時から開店するというトリッキーな手法を試みた。朝キャバたるものは、朝まで飲んだ人がさらにそのままズブズブと飲みたくてやってくるので理屈としてはわかるが、15時から飲もうとするのは休み日しか無理だ。お客様の9割が仕事帰りのサラリーマンだったため、この作戦はすぐに終わった。
キャバクラのみならず、新しいことが起きるとそれに準ずる新しいセクハラやパワハラが誕生してしまうのは、なぜなんだろう。そして、その先頭に立つのはいつだっておじさんたちだ。
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