『シン・エヴァ』改8号機のハエたたき状装置の正体は?イーロン・マスクと葛城ミサトに共通する、経営努力の賜物かもしれない

2021.8.24

トップ画像=フィギュア「エヴァンゲリオン正規実用型 (ヴィレカスタム)8号機β」(リボルテックヤマグチ)筆者撮影
文=ツヤマ ユウスケ 編集=梅山織愛


興行収入102億円を突破して終映となった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。碇シンジらエヴァンゲリオンパイロットたちが、人類補完計画を阻止すべく最後の戦いに挑む本作は、早くも、8月13日よりAmazonプライム・ビデオで配信が開始された。

作中の細かい描写をじっくり観やすくなった今、アニメと宇宙大好きライターのツヤマユウスケが、エヴァ機体に取り付けられた謎の装置を考察する。

【この記事は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレを含みます】

【関連】『シン・エヴァ』を“父殺し”で考察する。星一徹から碇ゲンドウへ

実在するロケットにもある、ハエたたき状の翼

映画の後半、葛城ミサト大佐指揮のもと「ヤマト作戦」が始まる。セカンドインパクト爆心地へ向け、空中戦艦ヴンダーが発進。ネルフ戦艦群の攻撃をかろうじて切り抜けるも、今度はガイコツ顔のエヴァMark.07が群れとなって押し寄せてくる。

ミサト「ザコに構うな! エヴァ両機の射出を急げ」

マヤ「エヴァ両機、射出準備」

リツコ「射出!」

ミサト「頼むわ。マリ、アスカ……」

ここからのシーン、動きがあまりに速いため一時停止をしながらよく観てほしい。ヴンダーから切り離され、勢いよく降下する2体のエヴァ。改8号機の背中から、まるでロケットのような巨大メカが伸びており、そこには「HAKONE EXPRESS」と書かれている。

どうやらカプセルが3つ連なった構造になっていて、パカっと開くとガトリング砲や電動ノコギリが出てくる。改8号機がそこから次々と武器を取り出しては、新2号機に投げ渡していた。

HAKONE  EXPRESSの側面には、グレーの分厚い板がついている。翼のようだが、ジェット旅客機や戦闘機とはまったく見た目が違う。穴だらけで、まるでハエたたきみたいだ。なぜこんなデザインになったのだろうか?

実は、2021年4月、同じ形状の装置を搭載したロケットが打ち上げられた。米国のベンチャー企業「スペースX」が開発した「ファルコン9」だ。このロケットの翼もハエたたきみたいにスカスカで、見れば見るほど改8号機のものと似ている。いったい何の役に立つのだろうか?

野口聡一宇宙飛行士のYouTubeチャンネルより。ロケットの側面にハエたたきのような翼がついている

イーロン・マスクがハエたたき状の翼でロケットの再利用を可能に

ファルコン9に搭載された装置の名前は「グリッドフィン」(網目状の尾翼)。スペースXは、これでロケットの垂直着陸とロケットの再利用を実現した。

従来、ロケットというのは使い捨てだった。ロケットは1段目のエンジンを噴射して離陸し、吹き終えると切り離す。そして2段目以降を点火して、さらに高く飛ぶ。通常、切り離された部分は海へ落下して廃棄される。1段目がロケット総コストの大半を占めているのだから、非常にもったいない話だ。このやり方を変えたのが、大富豪イーロン・マスクが立ち上げたスペースXだ。

創業当初のマスクは、ロケットの打ち上げに3度失敗していて倒産寸前だった。「とにかく工夫が必要だった」と彼は当時を振り返る。「おかげで、無駄な出費を何が何でも避けようとする姿勢が身についた。ゴミをあさるか、死ぬか。二者択一だった」(『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』クリスチャン・ダベンポート/新潮社)。

だから、ゴミになるはずだった使用済みロケットも、スペースXにとっては大事な資源だ。ロケットを再利用するには、安全に着陸させる技術が必要になる。新開発したロケットの第1段は、切り離されたあとにエンジンを再度吹かして減速(つまり逆噴射)する。そして、折り畳んでいた可動式のグリッドフィンをパッと広げる。

ここで、ジェット旅客機の尾翼を思い浮かべてほしい。尾翼は梶として機能し、これの角度を変えることで機体の向きをコントロールする。ファルコン9も同じで、グリッドフィンの傾きを調整して空気の流れを制御し、エンジンがついている「オシリ」の部分が下に向くようにしている。

また分厚い網目状の板なので、通常の平面の尾翼に比べ、空気に触れる面積が大きい。コンパクトなわりに、風の中で効率よく舵を切れるわけだ。こうやって第1段ロケットは地面に向かって逆噴射し、ゆっくりと着陸する。まるで逆再生した発射映像を見ているかのようにピタッと止まるからすごい。

確かにエヴァ改8号機も高速で落下しており、グリッドフィンで機体の向きを制御するというのは理にかなっている。これがあれば、大事な機体を安全に着陸させられる。しかし、作中で改8号機はHAKONE  EXPRESSをブンブン振り回して敵をなぎ払ってしまう。「えぇ〜、そんな雑な扱いしちゃうの? 大丈夫!?」と、グリッドフィンの役割をよく知る身としては、ちょっと心配になる。

葛城ミサトとイーロン・マスク/エヴァとロケット制作の共通点とは?

この記事の画像(全5枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

サマーウォーズ

『サマーウォーズ』汗だくのラスト8分間を考察。なぜ健二は小惑星探査機の直撃を阻止できたのか?

藤津

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を“父殺し”で考察 星一徹から碇ゲンドウへ

エヴァは、ついに「乳化」した。──『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」