『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』の始まりは『アルピーANN』にあり? 8年前からのサーガを辿る

2021.3.31

「こんなボロ雑巾みたいな出方が俺の夢のANNじゃねえぞ」

この番組と佐久間の間に起きた大きな事件が3つある。ひとつ目は2013年8月22日(※編集部注:以下、ANNに関する日付けはすべて該当日の深夜を指します)の「ハワイあるある&ステーキないない」事件だ。

この日のメールテーマは、ハワイロケ直後のアルコ&ピースに合わせた「教えてハワイ情報」。ハワイアンミュージックがかかるなか、真偽不明のハワイ情報を紹介しつつ、自宅で常夏気分を味わうというユルい内容だった。しかし、翌週のスペシャルウィークの内容にたまたま反応した佐久間のつぶやきが、“速報”として番組に報告されると、内容が一変。「コネ入社」「アホの佐久間」「佐久間の野郎」など挑発的なメールが続々と届き、「コネ入社って言われるのが悔しいなら、ツイッターでハワイあるあるをツイートしろよ」という要求まで紹介されたのだ。

ほとんどの人間たちが寝静まった深夜4時に起きた出来事。本来なら冗談として処理されるはずが、引くに引けなかったのか、それともラジオリスナーの血が騒いだのか、佐久間は「ホテルのプールの外国人、思いのほかみんなタトゥーが入ってて、怖い」と“ハワイあるある”をツイッター上で絞り出した。

すると、リスナーの要求はさらにエスカレート。番組内で「ハワイのステーキがおいしかった」という話題が出た流れで、「今度は“ステーキないない”をツイートしろ」というメールが差し込まれる。本人は「思いつかないよ…」とツイッターでいったん白旗を挙げたものの、アルコ&ピースはそれを許さず。最終的に佐久間は番組終了7分前に「ステーキないない。どの店にも裏メニューでシェフのおしっこソースがある」とつぶやき、エンディングで紹介され、一応の決着を見た。

この日、“佐久間宣行”の名前は深夜ラジオリスナーにしっかりと刻まれ、共通用語となった。もちろん佐久間自身はほとんど反応していなかったが、この番組内では“準レギュラー”のような存在になったのだ。

『アルコ&ピースのANN』は人気を得て、翌年から1部に昇格した。定番になったことで、佐久間への激しいイジリは沈静化したが、執念深いラジオリスナーたちはその存在を忘れていなかった。そんな思いが一気に爆発したのが2014年10月17日の「佐久間乱入事件」である。

この日のメールテーマは「アイ・アム・ヘラクレス選手権」。“ヘラクレスリスナーから我こそはヘラクレスというエピソードを送ってもらう”という企画で、キング・オブ・ヘラクレスに選ばれたリスナーには、発売したばかりだった佐久間の著書『できないことはやりません ~テレ東的開き直り仕事術~』をサイン入りでプレゼントすると告知された。

かつてはリスナーを止めていたアルコ&ピースも、このころになると慣れたもの。気を遣わずに過剰なほど佐久間をイジり倒してリスナーを扇動する。本の帯からめざとく「企画書は“ラブレター”」という文言を見つけたのもこのふたりだ。久々の展開を受けて、リスナーからも「グラビアアイドルとやれる方法が書いてある」「圧力をかけて宣伝させているのは強要罪」「本の感想をリツイートしているのはダサい」「ツイッターアカウント名のノブロック(@nobrock)ってカッコいいの?」と喜々としたメールが集まった。ここから番組内での佐久間の愛称……いや、愛のある蔑称が「ノブロック」となる。

なんとか方向性を修正し、リスナーに電話出演させて「アイ・アム・ヘラクレス」と叫ばせたものの、爆発的には盛り上がらない。この番組においてリスナーと電話をつなぐのは鬼門。企画は失敗に終わるかと思われたそのときだった。深夜2時半過ぎ、突然佐久間が乱入してきたのだ。

テレビ東京に報告せず、自宅からタクシーを飛ばしてやってきたという佐久間は、第一声の「ツイッターの画像は自撮りだよ」で一気にリスナーの心を掴んだ。「本なんか出すんじゃなかった」「おめえらのリスナー超怖えな。震えてたよ、自宅で」と番組内ではぼやきっぱなし。それでもゲストというかたちであれ、夢のANNに関われて、どこかうれしそうだった。

平子に「夢叶ったな」と挑発されると、佐久間は「こんなボロ雑巾みたいな出方が俺の夢のANNじゃねえぞ」と反応しつつも、エンディングでは乗せられて、「佐久間宣行のオールナイトニッポンR!」とタイトルコールにまで挑戦。単発を想定して「R」をつけたところにも、佐久間のラジオ愛が垣間見えた。

ラジオ界の片隅に熱狂を生んだリスナーと佐久間の絡みもこれで一段落ついた。翌週の放送の冒頭で、平子も「長きにわたりつづいたリスナーとの戦いに終止符を打つことができた」と断言している。が、この日の放送で、早くもこの発言が覆される。それがこの番組の歴史を語る上でも欠くことができない「ハガキ職人vs読モ事件」だ。

2015年8月29日、単発特番『佐久間宣行のANNR』が実現

この記事の画像(全3枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

奥森皐月

地球でのつらい生活と孤独を、そっと救う『うしろシティ 星のギガボディ』終了が悲しい(奥森皐月)

チュートリアル

「20年つづけて、なんで1回も取材されないんだ!」チュートリアルのラジオは、リスナー20人?

佐久間宣行×松本壮史、青春高校MVに込めた男子校出身の妄想力と青春時代の「告白」を語る

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」