『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』:PR

食事は?仕事は?睡眠は?“世界最強”イギリス海軍の全貌に迫る『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』

2021.3.10

文=折田侑駿 編集=森田真規


マンガ『ONE PIECE』や映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどで、普段から帆船になじみがあり、そこでの生活を詳しく知りたい……と思っている方は少なくないはずだ。

3月10日に刊行された『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』(スティーブン・ビースティー 画/リチャード・プラット 文/宮坂宏美 訳/あすなろ書房)は、そんな方の夢を叶えるべく、1800年ころに「世界最強」と讃えられたイギリス海軍の帆船軍艦の内部を輪切りで紹介した驚異の百科図鑑なのである。

帆船や当時の海の男たちの日常がビジュアルで詳細に描かれた本書は、眺めているだけでワクワクしてくるので小さなお子さんの読書にうってつけな一冊。さらに乗組員たちに関する小ネタも満載で、大人でも十二分に楽しめるはずだ。

ここでは、そんな200年前の“海洋ロマン”が詰まった『帆船軍艦』の魅力を紐解いていく──。

フィクション作品からしかイメージできない「帆船軍艦」

あなたは「帆船軍艦」がどんなものか知っていますか?

──こう問われてスラスラ答えられる方は、そういないのではないだろうか。そもそも、帆船軍艦のイメージさえ浮かんでこないという方も多そうだ。しかし、読んで字の如し。それは、マストに張られた「帆」が受ける風を推進力とする軍艦のこと。映画でいえば『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、マンガやアニメでいうなら『ONE PIECE』などのフィクション作品の名を挙げれば、それとなくイメージできるだろう。

とはいえ、あくまでもそれは外見の話に限ったこと。その内部のイメージは、たいていの人がざっくりしたものに留まっているのではないかと思う。では、巨大な帆船軍艦の内部はどのようになっているのだろうか? そしてその内部の構造は、どんな役割を果たすのだろうか?

その実態を明らかにした一冊の図鑑がある。イギリスのDK社から出版されている『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』だ。

これはどんな対象でも“輪切り”にして、その構造を徹底図解する「輪切り図鑑シリーズ」の第2弾。重機のない14世紀において、人々がどのようにして巨大な城を築いたのか、城の構造や、城の攻め方・守り方、城内での日々の暮らしや、さらには恐ろしい拷問までをも徹底図解した『輪切り図鑑クロスセクション ヨーロッパの古城』につづくものである。画をスティーブン・ビースティーが手がけ、リチャード・プラットがその細部についての解説文を綴っている。

『輪切り図鑑クロスセクション ヨーロッパの古城』(スティーブン・ビースティー 画/リチャード・プラット 文/赤尾秀子 訳/あすなろ書房/2020年)

それでは、ひとまずページをめくってみよう。そこには、1800年ころに「世界最強」と讃えられたイギリス海軍の帆船軍艦の全貌が──想像を超える世界が、あなたを待っている。

“10の輪切り”にされた「帆船軍艦」

本書では、「帆船軍艦」が“10の輪切り”にされ紹介されている。つまり、“10の項目”、“10の観点”から帆船軍艦が図解されているのだ。内容は以下のようなものである。

「『帆をはれ!』」
「航海中の健康」
「料理と食事」
「休暇と補給」
「航海中の仕事」
「戦闘」
「睡眠」
「航海術と規律」
「士官」
「提督」

「健康」や「食事」、「仕事」に「睡眠」など、私たちの生活と地続きのものがあるのに対し、「戦闘」や「航海術と規律」、「士官」に「提督」なんてまるで縁がないものも登場。帆を張った経験はおそらくほとんどの人がないだろうし、そもそも本格的な航海の経験だってないだろう。

とはいえ、船上での食事や睡眠は、私たちの日常で得られるものとはまったく違う。思い返してみれば、これらがフィクション作品で描かれていようとも、どこか具体性を欠いているものばかりな気がする。では、具体的にピックアップしてその実態に触れてみよう。

表紙のような細密画で、輪切りになった帆船軍艦の内部が描かれている

料理と食事

ここでは、冷蔵庫もない時代に総勢800人もの乗組員たちがどのような食生活を送っていたかが図解されている。当時の英国海軍の食事は、見る限りかなりひどいものだったようだ。

腐った肉に、ウジ虫だらけのビスケット……飲み水もすぐに悪くなるため、ビールのほうがまだましだったらしい。航海は何年もつづくことがあるはずなのに、これでは数日ともたずに体調を崩してしまいそう。家畜を乗せてはいたものの、その肉やミルクや卵は士官用で、水兵には塩づけ肉が与えられていただけのようだ。

毎日の食事のメニューは、港ではパン、海ではビスケット、それに8パイント(4.5リットル)のビールが基本。これに、「乾燥エンドウ豆」「塩づけのブタ肉/牛肉」「オートミール」「バター」「チーズ」などを用いた料理が供されていたらしい。中でも「乾燥エンドウ豆のスープ」は文句が出ない料理のひとつで、船が陸に近づくとメニューに少し変化がつくのだそう。

ちなみに、船のコックは片足のことが多かったという。なぜならコックは、片足になっても船でつづけられる数少ない職業のひとつだったからだ。このエピソードから、『ONE PIECE』の“麦わらの一味”における料理人・サンジの恩師である「赫足(あかあし)のゼフ」を思い浮かべる人も多いはずだ。

航海中の仕事

軍艦とはいえ、航海中に乗組員たちは戦ってばかりいるわけではない。船が正しい針路を取っているかを常に確認することはもちろん、帆を“適切に”張りつづける必要がある。風を受ける帆が少な過ぎると船の速度は落ちるし、多過ぎると強風でマストが折れてしまうのだ。

これをちょうどよい状態にするために、乗組員たちはヤード(帆を吊るす水平の棒)に登って帆を広げたりたたんだりしていたらしい。もちろん掃除や船の手入れ、戦闘の準備も毎日の仕事としてあったようだ。

この「航海中の仕事」の項目では、帆船軍艦の核ともいえる「帆」の詳細が図解されている。

“帆を広げる”のは、船の速度を上げたいとき。檣楼員(しょうろういん:マストの上で作業をする水兵)たちが、まずはヤードアーム(ヤードの端)、次にバント(ヤードの中央)から帆を広げていく。順番を間違えると帆が一気に広がってヤード上方までふくらみ、ヤードアームにいる水兵を叩き落とすことがあったというのだから……恐ろしい。

ちなみに、安全ネットなんてもちろんない。落下すれば海に飛び込むか、甲板で骨を折ることになる。想像しただけでもゾッとする。それでもベテランになると、ヤードの上を走ることもあったようだ。高度な連携技術が必要だったことが、緻密なイラストで示されている。

また、船の補修も大変だったらしい。木造の船はいつもどこかしら傷んでいたようで、船大工が暇になることはなかったという。さらには、予備の帆やロープを天気のよい日に外に出して虫干ししたり、ネズミ退治も重要な仕事だったようだ。

睡眠

休む間もなくそれぞれの職務に励む水兵たちだが、夜の8時になるとその半数がハンモックに入ることに。残りの半数は当直についたという。その後、鐘が8回鳴って夜中の12時を告げると、このふたつの組は交代したようだ。

たった4時間しか眠れないなんて……と思ってしまうが、これには利点もあるらしい。そう、半数の者たちが当直についているのだから、眠る者は倍のスペースを確保できるのだ。軍艦の乗組員は800人。水兵たちが1カ所に集まれば、すし詰め状態になるのは避けられない。食事ならまだしも、睡眠となれば耐えられないだろう。

そんな彼らが睡眠に使用するのがハンモック。これに憧れを抱いたことがある方も多いのではないだろうか。実際にこの上で横になってみればわかるのだが、これがなかなかに難しい。この図鑑に、使用法やコツも丁寧に図解してあるので要チェックだ。

夜の当直で、水兵が望遠鏡をのぞく様子は映画などで観たことがあるが、やはり重要な役目らしい。暗い夜の海を進めるかどうかは、見張りの者の注意力にかかっている。それに半分の者たちが眠りについているとはいえ、残りの半分の者たちは慌ただしく働いている様子がイラストからよくわかる。砲弾を磨いたり、甲板のモップがけをしたり、船医が負傷者の手術をしたり。

ちなみに、海の上に長くいると、船のそばを泳ぐ美しい人魚の夢を見るようになったのだという……。現代の私たちの生活からすると、とても気が休まるとは思えない“軍艦の夜”の様子が細かに図解されている。

あまりに厳しい「帆船軍艦」の日常

帆船軍艦の実態にここまで触れてきて、それがいかに過酷なものかおわかりだろう。日常生活において当たり前の営みである「食事」「仕事」「睡眠」でさえ、大変な困難を伴うのだ。これに加えて戦闘もあるし、乗組員は各々の健康にも気を遣わなければならない。ケガよりも病気のほうが40倍もの死者を出したというのだから。

それにもちろん、「階級」による上下関係にも厳しいものがある。船を統率する「艦長」をトップとし、その下にはいくつもの階級が存在する。

そしてやはり、規律に反した者には厳しい罰が待っていたようだ。その主なものは、映画などでよく観る“むち打ち”。また、ささいな違反を犯した者は、鉄の足枷をつけられ、吹きさらしの甲板に置かれたらしい……。

「帆船軍艦」から海洋ロマンに思いを馳せる

ページをめくるたびに掴めてくる「帆船軍艦」の実態。小さなお子さんにとってはもちろん、大人でもビックリな事実だらけだ。

そこでの生活がいくら大変なものだとはいえ……ロマンあふれる軍艦での生活に、どうしても憧憬の念を禁じ得ない。ダイナミックで精緻な図版と輪切りでの詳細な解説によって、船内にいる自分を思わず想像してしまうことだろう。

帆船マニアや中世ヨーロッパの歴史マニアの方々には当然のこと、デザイナーやイラストレーター、海を舞台としたフィクション作品の制作を構想中の方にもオススメしたい本書。時代考証にこの一冊が、大きな力となること間違いなしだ。

ぜひともその手に取って、“海洋ロマン”に思いを馳せてみてほしい。


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  • 『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』

    スティーブン・ビースティー 画/リチャード・プラット 文/宮坂宏美 訳
    定価:2,000円(税別)
    出版年月日:2021年3月10日
    ページ数:32ページ
    サイズ:30.8×25.8cm

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折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。

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