映画『クレヨンしんちゃん』には裏テーマがある。原発や震災を扱ってきた硬派な姿勢を知っておきたい

2020.9.2

現代的なテーマを許容する国民的コンテンツのすごさ

さらに現代的なテーマを盛り込んだ作品もある。『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』(18年)は、しんのすけたちがカンフーで悪漢と戦うコメディアクション。意外なストーリーの鍵を握っているのは、ヒロインの玉蘭(「タマ・ラン」と読む。こういうところのセンスは一貫している)だった。

正義に燃えるカンフー娘のランだが、強力な力を得て悪を滅したあと、正義のためには手段を選ばない残酷な性格へと変貌してしまう。つまり、本作は「正義の暴走」について描いた作品だったのである。監督の高橋渉は「ヒロインの『正義』が途中でひっくり返ってしまうのが、昨今の世相や時代性を反映している」と語っている。

『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』DVD/バンダイビジュアル
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ファンタジックな設定の最新作『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』にも、終盤にかけて意外なほどシビアな展開が待ち受けている。これも間違いなく世相を反映したものだろう。

『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』予告2【9月11日(金)公開】

繰り返すが、これらの「裏テーマ」は必ずしも作品が持つメッセージとは限らない。脚本家の中島かずきが言うように、時代の空気は自ずと出てくるものなのだろう。一方で、これだけメジャーであり、子供向けのコンテンツである『クレヨンしんちゃん』でそれが許容されているのも特筆すべきことだと思う。

「裏テーマ」は映画『クレヨンしんちゃん』を楽しむためのスパイスのようなもの。劇場で子供たちに囲まれて、大人にしかわからない妙味を楽しむのも一興だろう。

※文中の引用はすべて『クレヨンしんちゃん大全 2020年増補版』(双葉社)

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大山くまお

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大山くまお

1972年生まれ。名古屋出身、中日ドラゴンズファン。『エキレビ!』などでドラマレビューを執筆する。

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