シソンヌじろう 妄想小説を書いて起こした“ある奇跡”
見たこともない人の写真から、人生を想像したことはあるだろうか。シソンヌのじろうさんは『雛形』というウェブサイトで、見知らぬ女性の写真を見て妄想小説を書く連載を全9回つづけていた。
このコラムは、その連載を続ける中で起こった“ある奇跡”について、じろうさん自身が振り返りながら書いてくれたものだ。
※本記事は、2018年8月21日に発売された『クイック・ジャパン』本誌vol.139掲載のコラムを転載したものです。
見ず知らずの女性の自伝を書いた日々
『雛形』というウェブサイトで連載、いや修行と言ったほうがいいかもしれない、修行コラム「あの子が故郷に帰るとき」の連載が終わった。去年の4月からスタートして今年の6月くらいまで約1年2ヵ月。その期間で書いたのが9話。ふむ。気づく人は気づく。不定期連載だったのかしら?と。
正解を言わせてもらうと、締め切りを破りまくっていた。お恥ずかしい。約束を破るという行為は大人として最低な行為だということは重々承知だ。ひどいときは10日近く過ぎたこともあった。もともとネタを書くのも遅筆なほうなのだが、あの連載はそれくらいヘヴィだった。
どういった内容の連載だったのかというと、「妄想で小説を書け~!!!(軽快なアタック音)さ、今からですね、出演者のみなさんに、ある女性の写真、名前、年齢、居住歴をお見せします。その女性の物語を考えてください。文字数は3000文字! ゲームスタート!(ゴング音)」せっかくなのでお笑いライブのゲームコーナーのMCの感じで説明させてもらった。
この企画のお話をいただいたときはなんか面白そうだなと思って軽い気持ちで引き受けたのだが、いざはじめてみるとおっとおっとこれはこれは、だった。写真を見ただけでなんとなくすっと思いつく人もいればそうでもない人もいる。そうでもないときは会ったこともない女性の写真を喫茶店でひたすら見つめるという作業が待っている。
どんな性格なんだろう、どんな声をしてるんだろう、どんな恋愛をしてきたんだろう。ひたすら思いを巡らせる。会ったこともない女性に。そんなこっちの苦悩などお構いなしに毎月編集部からは女性の写真と名前、年齢、居住歴だけが送られてくる。
「ほ~ら今月はこの子で書いてごらん? 難しいだろ~? 難しそうな子にしてやったよ!」
毎回こんなボイスが頭の中で流れる。もはや編集部と僕の間のプレイだった。それだけに今月で最後です、と言われたときの達成感とほんのりとした寂しさはこの上なかった。