カネコアヤノ「爛漫」から考える。一番辛いときに必要とされる音楽とは

2020.6.13

文=荻原 梓


コロナ禍の閉塞感のなか、音楽が人びとの心を支えていた。欧米では市民がお互いを励ますため、バルコニーで楽器を演奏し、歌を歌って連帯した。
ライターの荻原梓はカネコアヤノがインスタライブで披露した新曲「爛漫」を聴き、「彼女の凛々しい歌声」に力をもらったという――。

※本記事は、2020年4月25日に発売された『クイック・ジャパン』vol.149掲載のコラムを転載したものです。

せめて音楽のある時間だけは

ライブの中止や延期が相次ぐなか、金沢公演の延期が決定したカネコアヤノはその日のうちに「悔しいので明日19時からインスタライブします」とツイートし、翌日弾き語りの様子を生配信した。

こういうときだからなのか、いつも以上に歌に力がある。彼女の歌は気高い。新曲「爛漫」の“お前”呼びに背筋が伸びる。鮮やかな“椿”の赤が脳裏に焼きつくようだ。「星占いと朝」の伸びやかな歌声が瞬間的に裏声に変わる絶妙なメロディセンスに心が躍らされる。バンド編成とは違い、弾き語りなので歌がストレートに耳に届く。小柄ながらも咆えるような歌声から画面越しにも圧が伝わる。

ありふれた表現になってしまうが、歌に力をもらうとはこのことだろう。しかし配信の終盤、突然演奏を中断した。コードを間違えたらしい(こちらはほとんど気づかないレベルのミス)。すると髪をくしゃくしゃにして「高まるとわかんなくなるんだよね私……」と悔しそうに頭を抱えた。コメント欄に「かわいい」との声があふれる。張り詰めた空気が一気に和らいだような気がした。

世界に大きな不安が広がっている。
イタリアでは不要不急の外出が禁止されているなか、人びとがバルコニーで楽器を演奏しながら歌を歌い、お互いを励まし合っているという記事を見た。不思議なもので、いまは歌が余計に沁みる。

以前、漫画家の森川ジョージ氏が震災の際にサイン会やボランティアのために被災地に訪れた経験から「一番辛いときに必要とされるかどうかがプロの世界では重要」という話をしていたが、いま音楽は、歌は、確かに必要とされている。もちろん音楽で免疫力が飛躍的に上がるわけでも症状が回復するわけでもないが、いたずらに不安を煽られ萎縮してしまうよりは、いつかこの状況が落ち着くまでの活力になればよい。

歌は、世の中への問いかけであり、聞き手にとっては一対一の対話でもある。部屋に閉じこもることを余儀なくされた人びとの心に、歌はいまいっそう強く響くだろう。

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荻原 梓

(おぎわら・あずさ)日本の音楽を追いつづける88年生まれのライター。『クイック・ジャパン』、『リアルサウンド』、『ライブドアニュース』、『オトトイ』、『ケティック』などで記事を執筆。

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