前向きな「あきらめ」がクリエイティブを開放する。岡本太玖斗が持ついい予感

文=日比楽那 撮影=笑子 編集=藤井里音


まるで生命が宿っているかのように動き出すロゴは一度見ると忘れない。グラフィックデザイナー/映像ディレクター・岡本太玖斗が生み出すデザインは見る者をワクワクさせる。

飄々とした雰囲気を漂わせつつ、彼の言葉には芯を感じさせる軸やこだわりがある。流れに身を任せる軽やかさを持ち、しなやかに歩んでいく岡本が「今」、何を感じているのか。

「自分のデザインが正確に運用されることをあきらめている」と語る彼の感性に迫る。

底が抜けてしまった社会で感受性を失わないために、2000年代生まれの編集者とライターが同世代の感性に迫るルポルタージュ連載「イン・ザ・ライトブルー」。第6回はグラフィックデザイナー/映像ディレクターの岡本太玖斗が登場。過去記事はこちら。

岡本太玖斗(おかもと・たくと)
1998年生まれ。東京都出身。グラフィックデザインを軸に、映像/写真/音楽制作など領域を横断して活動。星野源「Star」のMV制作や『テレ東音楽祭2026夏』のロゴデザイン、HomecomingsやLAUSBUBのアートワーク、服部恭平『気持ちね』のブックデザインなどを手がける

あくまで頼まれ仕事。でも、デザインにはもっと自由になる希望がある

文字が散らばり、揺らぎ、伸び縮みし、踊る。写真や映像と関係し合う。そうして新しい感覚をもたらすグラフィックデザイナー・岡本太玖斗。その仕事は多岐にわたる。

CDや音楽配信のアートワークから映画ポスターのデザイン、テレビ番組のロゴデザイン、ブックデザインに、MVの撮影や監督、編集まで。デジタルとアナログを行き来し、さまざまな領域を横断しながら活躍する彼は、自身の仕事についてこう話す。

「グラフィックデザイナーはアーティストではないので、あくまで頼まれ仕事、クライアントワークをやるのが正しい姿だと思っています。

頼まれるのは商品や広告のデザインで、『アートワーク』と言っても、ミュージシャンの音源が聞かれるようにジャケットをデザインしたり、MVを監督して編集したり、チケットが売れるようにライブのフライヤーをデザインしたり、消費を促すためのものなんですよね」

世の中にある仕事の多くは頼まれ仕事である。そして、頼まれ仕事の中にももちろん、かけがえのない邂逅(かいこう)がある。

真夏の入口で岡本太玖斗に出会い、話を聞くなかで見えてきたのは、デザインが、もっと自由になるかもしれない、今、広がるかもしれない、100年後まで残るかもしれない、という希望だった。

デザインを自由にさせる前向きな「あきらめ」と信頼

彼の考えを掘り下げるなかで意外にも飛び出したのは「あきらめ」という言葉。

「自分のデザインが正確に運用されることをあきらめている」

一方で、話を聞くと、そこにも前向きさがあった。

「ライブの告知フライヤーを作る仕事で『印刷用のデータもください』とは言われていなかったとき、WEBサイトやSNSで使うRGB(ディスプレイ用の色の仕様)の画像データだけ納品したら、そのまま印刷されて会場に貼ってあったんです。

でも物理的なものになると思ってなかったものが急に立体として現れたことにおもしろくなっちゃって。 プリンターの都合で色が転んでたりするんですけど、それでも成立するデザインがいいなと思ったんですよ」

本来、デザイナー側が運用マニュアルを規定することも多いが、岡本は「言ったとおり使ってくださいというのも不自由だと思います。勝手に使ってもらったほうがおもしろくなる可能性もあるので」と話す。

デザインが、もっと自由になるかもしれないという希望。完成させたデザインから手を離すことができるのは、彼が自身の手で生み出したその強度を信じているからこそだろうと思う。

WEBと紙に満ちた可能性

最近は、ブックデザインに特に興味があると言う岡本。

「本に対して『メディアとして古いな』ぐらいに思ってた時期もあったんです。でも、紙の本は100年以上残る可能性があるじゃないですか。

今、自分の仕事は印刷されないもの、フィジカルを伴わないものも多くて、それらは残らないんじゃないかと思うと、ふと、『どうしよう』と考えたことがありました」

ライターである私も今、同じようなことを考えて仕事をしている。

10代のころ、どこからでもアクセスできるインターネットとWEBメディアで広い世界を知った。20代になってライターとして仕事をするなかで、WEBメディアの行く末を不安に思うことは増え、思いを持って作ってきたサイトがクローズする経験もした。そんななか始まったのが、『Quick Japan』での連載だ。

WEBと紙の仕事をするなかで感じるのは、WEBは今、広く届く可能性に満ちていて、紙は今後、長く残っていく可能性に満ちている。烏滸(おこ)がましいけれど、それは岡本の仕事にも共通していえるのではないか。

いい予感のするほうへ歩くように進化していく

取材前、岡本太玖斗のワークを見返して、なんていい予感のするデザインなのだろうと思った。彼が手がけるMVは、ミュージシャン本人が歩くシーンが多い。

どんな意図があるのか尋ねると「音楽に合わせる映像として、歩くリズムがマッチすると思います。風景が変わっていくので、展開を作りやすい側面もありますね。あとは、進んでいくさまが人生みたいに見えるかもしれないとも思っています」と答えてくれた。

「同じ時期に違うアーティストの仕事で同じ手法を用いる、愉快犯みたいなところもあります」とつけ加えて笑う。

そんな岡本の仕事は、きっとこれからもいい予感のするほうへ歩いてゆくように進化していくのだろう。

この記事の画像(全7枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

日比楽那

(ひび・らな)2000年生まれ。ライター、編集者。映画や音楽などアート・エンタテインメント、ユースカルチャー、ジェンダー、ウェルビーイングなどを中心に、広く企画、インタビュー、ライティング等に携わる。