みなみかわ「私は鈍感だった、それだけ」給料0から売れっ子になった芸人が、ニワトリ主演の映画に人生を重ねた夜<映画『雌鶏』レビュー>
今やその姿を見ない日はないほど、売れっ子芸人となったみなみかわ。しかし、その道のりは決して順風満帆ではなかった。給料0円の時代、コンビ解散、そして事務所からの独立──。本人いわく、ここまで歩んでこられたのは、先を見据えていたからでも、いつか売れると信じていたからでもないのだという。
そんなみなみかわが今回観たのは、養鶏場から逃げ出した一羽のニワトリの数奇な運命を描く映画『雌鶏』。危険から逃げ、なんとかその場を凌ぎながら生きていく雌鶏の姿を眺めるうち、いつしかそこに自身の人生を重ねていた。「シネマ馬鹿一代」第18回。
『雌鶏』あらすじ
養鶏場で生まれ育った一羽の雌鶏が、出荷用のトラックから脱走。初めて自由を手にした彼女は、危険に満ちた世界をさまよった末、ある事情を抱えた一家が暮らす家へとたどり着く。庭のニワトリ小屋で新たな暮らしを始め、初恋を経験し、初めて産んだ卵を大切に育てようとするが、その卵は毎日人間たちに回収されてしまう。いつか我が子がヒヨコになることを夢見る雌鶏と、ある事件に巻き込まれていく飼い主一家。やがて両者には、思いもよらない運命が待ち受けていた。
人生の計算なんて、私にはできない
子供のころ、私は当たり前のように将来は公務員になると思っていた。
それは私の父が公務員で、毎日夜の19時過ぎには帰ってきて、家族一緒に晩ご飯を食べる日常が当たり前であり、自分もその道に行くと思っていたからである。
いや思っていたとかもない。私は将来とか何も考えていなかった。ただただ父のようにマジメに働き、家族のために生きることが当たり前だと思っていた。
それが何故か大学で考えを拗らせたのか、お笑いの世界に飛び込んでしまった。
いきなりなんですけど、今からめちゃくちゃ簡単に自分の経歴を言いますね。
2003年の10月に松竹芸能の養成所に入る。
最初は構成作家になりたくて入ったが、社員に「ピン芸やってみたら勉強になる」と言われ、ピン芸人になる。そして前の相方に誘われるかたちでコンビを結成する。大阪で何も仕事がないから2009年東京に行く。たまにTVに出られるがいっこうに食えない。
給料0が何カ月も続く。結婚して子供ができる。仕事はない。ずっとバイトする。
限界がきてコンビを解散する。ピンになって、仕事が増え始めて、妻がいろんな人にDMを送って仕事をさらに増やす。
そして事務所を辞めて、個人事務所を設立する。
こんな感じです。脈絡も何もあったもんじゃない。公務員になる予定の私はどこに行ったんだ?
たとえば今までインタビューとかで、私の過去をかっこよく書いてくれてる記事ありますけど、あれはいいふうにライターさんが書いてくれてるだけ。
あんまり自分では言いたくないが、本当に行き当たりばったりな人生です。計算して人生を描く人とかいますけど、私はそんなこと本当にできない。
ただただその場、その場で凌いだだけの人生。
たまたま今ありがたいことに仕事がありますが、そう信じてたことなんて1秒もない。
いつか売れると思っていたときなんて本当にない。じゃあなんで芸人をやっていたのか?
鈍感だったんです。これだけなんです。びっくりします。
そもそも大阪で真剣に芸人になりたかったら吉本に行けばいい。でもそのあたり、鈍感だから松竹芸能に行く。ただ、今考えたら吉本だったら厳しくて辞めてたと思うんです。いい意味で緩い松竹芸能だから、続けてこれたと思っています。
給料0が続いたときも辞めようと真剣に悩んだ。ただ当時30歳後半。いいバイトで食いつないで暮らしていたため、今さら正社員になっても、特に変わらないなら芸人の方が楽しいかとか思っており、問題を先延ばしにしていた。
そもそも売れてないのに、そして売れるとも信じてないのに結婚してしまって子供まで作ってしまった。妻が起爆剤になり、仕事が増えるなんて予想もしてなかった。
場当たり的な人生。それは間違いない。これからも絶対場当たり的になる。仕事だってこのまま続くかわからない。どうせまた醜く凌ぐしかできないのだ。
醜く生きるニワトリ

映画『雌鶏』を観た。
不思議な映画だ。
海外の雌の鶏の数奇な人生を追っていく。ドキュメンタリーのような、ほんわかするような、おバカな鶏を追っていく。
しかしナメてはいけない。
この鶏はその小さな頭で何も考えちゃいない。何も考えちゃいないが、ただ凌ぐ。危険を凌ぎギリギリを生き抜いていく。場当たり的で逃げ腰でかっこ悪い鶏の生き様。

夜中、お菓子を食べながら、そこまで真剣ではなく眺めるように観ていた。
途中目の奥がツンとした。
この鶏はただの鶏じゃない。私の人生なのだ。醜く逃げ惑い、現実から目を逸らし、周りに軽んじられ、それでいて鈍感だからなんとか生きていける。
死ぬことなんていつでもできる。醜く生きるのだ。
凌いで凌いで凌いだ先に何かを掴み取るのだ。
鶏が教えてくれる。ナメてはいけない映画だ。是非とも観てほしい。
映画『雌鶏』

9月25日(金)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
監督:パールフィ・ジョルジ 脚本:パールフィ・ジョルジ、ルットカイ・ジョーフィア プロデューサー:タナシス・カラタノス
出演:雌鳥(エスティ、サンディ、フェリ、エンチ、エティ、エニクー、ノーラ、アネット)、ヤニス・コキアスメノス、マリア・ディアコパナヨトゥ、アルギリス・パンダザラス
2025年/ギリシャ・ドイツ・ハンガリー/96分/ギリシャ語、英語/5.1ch/カラー
日本語字幕:石田淳子 映倫:G区分 配給:ハーク 配給協力:フリック
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