FINLANDS『HAS』:PR

「奪われたものは取り返すつもりで生きていく」FINLANDSが4年ぶりのアルバムで伝える、新たな怒りと恥じらい

2025.2.21

文=奈都樹 撮影=小澤 菫 編集=脇 みゆう


約4年ぶりのオリジナルアルバム『HAS』をリリースしたFINLANDS。塩入冬湖(しおいりふゆこ)はこのインターバルで、結婚、出産、メジャーデビューと、目まぐるしい日々を送っていた。そうした中で生まれた今作には、これまでのFINLANDSにはない晴々とした空気感がある。彼女の心持ちが変わっているようにも感じられた。そこで話を聞いてみるとどうやら“あきらめるわけにはいかないもの”の存在に気づいたことによる影響が大きいようだ。

FINLANDS
(ふぃんらんず)Vo.&Gt.の塩入冬湖を中心に2012年結成。「RO69JACK 13/14」での入賞経験を持ち、精力的なライブ活動に加え、これまで様々なイベントや大型フェス、全国大型サーキットライブへ多数出演。現在、正式メンバーは塩入冬湖のみで、ギター、ベース、ドラムにサポートメンバーを迎え活動中。

『HAS』というタイトルの意味

4年ぶりのアルバムとなりましたが、ライフステージが変わるような出来事が立て続いていましたよね。

本当にいろいろあって。目の前のことに注力していたら今に至ったっていうのが正直な感想なんですけど……。この4年間は変わらなきゃいけない時間だったんだなと思いますね。

というと?

今まではあらゆる人間関係をあきらめることができると思っていたんです。恋人とか、友人とか、仕事で関わる人とか。自分の意にそぐわないことが続いて限界が来たら投げ出せるんだろうなと。

でもコロナ禍になってバンドのことも考えましたし、自分に家族もできた。あきらめるわけにはいかないものにまみれていたんですよね。それらを手放さないようにするには自分が変わらなければならなかった。

どう変わっていったんですか?

自分の恥もすべて見せるしかないんですよね。そこがすごく変わったと思います。なので、このアルバムを作るにあたって“恥じらい”は大事にしていたかもしれません。

それもあってか、これまでのFINLANDSに感じられた張り詰めた空気が和らいでいる印象を受けました。

『HAS』というアルバムタイトルは、私がこの4年間で持ってきたものすべての総称なんです。持っていきたくなくても持ってきてしまったものとか、気づいたら持っていたものとか、恥ずかしくて人に見せられないけどどうしても持っておきたいものとか。私にはこんな変なところもあるんですってことを提示できたらなと思っていて。

そういう面を見せるときって、自分はこういう人間だからと振り切ったそぶりを見せるのではなくて、恥じらいを持ちながら相手に見せられたときに自分が成長できると思うんですよね。なので今作ではすごく意識しました。

女性として感じられることは感じておきたい

かつては「怒りが原動力だった」ともおっしゃっていましたよね。怒りの表現も変わったのでしょうか。

そうですね。今までは、嫌いなものを口に出したり嫌いなものを選んでいくことで、自分のアイデンティティができあがると思っていたんです。

でも本当はそうじゃなくて、自分が好きなものを厳選してひとつひとつ丁寧に選んだ方がいいのかもしれないと気づいて。その作業ってめちゃくちゃめんどくさくて労力を使うんですけど、それをしていくことでこれは違うと思えるものがはっきり見えてくる。そういうものに出会ったときに湧き出る怒りを表現にした方が、爆発力も新鮮さもあるんですよね。

今作でいうと「VS」では怒りが明確に表現されていますよね。

あの曲は怒ってますね(笑)。世の中には「そういうものだから仕方ないよね」で済まされてしまう理不尽なことって本当に多いですけど、仕方ないわけがなくて。

特に自分が女性であることについて、子供が生まれてからなおさら考えるようになったんです。女性の中にも賢くて、強くて、仕事ができる人はたくさんいる。それでも子供を産むとどうしてもキャリアから遠ざかってしまうじゃないですか。どうしても男性が社会を構築していくことになってしまう。そりゃあ女性が生きにくい世の中になっていくし、男女平等なんて絶対に訪れないって日々感じるんですよね。

いろんな言葉が先行して世の中が変わっているように見えますけど、実際は全然変わってない。だからすごく怒っていて、奪われたものは取り返すつもりで生きていかなきゃなって。自分に気合を入れるつもりでも書いていますね。

その怒りというのは「わたしたちのエチュード」にも表れているように感じます。“2009年を未だ生きている人だから嫌味も古臭いのか”というフレーズはTHE VITRIOL(※FINLANDSの前身となるバンド)時代のことですか?

そうですね。当時19歳だったんですけど、本当に生きづらいなと思っていたんです。男女平等なんて意識されていない時代で、地元のライブハウスではそこに根付いたルールがすべてで……。うーん……。そういう状況が好きじゃなかったんですよね。それが嫌だったからこそ東京に出てきて、ホームグラウンドを持たないバンドをやりたいと思っていたんです。

なるほど。

今でもたまにいるんですよ。2000年代から来ました?みたいなデリカシーやモラルがない人。ただ今はそういう人を見て「こっちはこんなバカにした気持ちで見てるのに恥ずかしくないのかな?」と思える。恥ずかしいのは失礼な言葉を投げかけられてうまく笑えない自分ではなくて相手の方なんだって。そう思えたことがすごくうれしいというか。そんなときに思いついたフレーズですね。

塩入さんは女性であるからこそ芽生える感情を丁寧に掬い上げて言葉にされていますよね。今作にもそれを感じました。

女性として感じられることは感じておきたいなと思いますし、そこを諦めないでいたい。女性であるからこそ作れるものを軸にしていきたいんですよね。

特に“思い通りにいかない複雑な愛情”という側面をあらゆる角度から描いているなと思います。

悲しい気持ちに苛まれているときの方が、自分自身を感じることができるんですよね。だからそういう気持ちになった時のことはよく思い出すようにしています。

「私の生きたいと思える理由があなたであればいいな」

なるほど。FINLANDSの曲に関しては言葉選びも独特ですよね。“−3℃のにおい纏って”(「ララバイ」)や“暖かい魚のようだ”(「like like」)とか、一見合わさることがなさそうな単語を合わせていたり。

違和感にすごくときめくんです。それはバンドを始めた時から意識していることで。曲作りでもこの言葉に合うかどうかで音を決めていますし、歌詞に関してのボーダーラインはかなりシビアに設定していますね。

ただその中でも「シルエット」は、塩入さんが考える“愛”について非常にシンプルな言葉で綴られていて。FINLANDSでは珍しい歌詞だと思いました。

これはすごく迷いましたね。元々友人の結婚式に向けて作る予定のものだったんですけど、私は結婚について何も考えたことがなかったんです。そんな人間が結婚式の歌なんて作れるわけがない。どうしても嘘っぽい歌詞になってしまって。

それで何年かしてもう一回この曲に着手してみようかなっていう時に、家族に対する歌だったら書けるなと思えたんです。あきらめるわけにはいかないっていうものに対する歌として。だから「シルエット」は今の自分にとっての答えであり、自分自身を投影させた曲だなと思います。

それがこんなに洗練された美しい曲になっているというのがまた素敵ですね。ラストに収録されているタイトル曲は、一見別れの曲のようにも捉えられそうですが、これもまた今の塩入さんを表した曲なのでしょうか。

これは前作の直後にすぐ作り始めた曲で。“わたし対誰か”をイメージして書いていたんですけど、歌詞を何度も書き直していく中で「あなたは私のために生きているわけではないし、私もあなたのために生きているわけではないけど、私の生きたいと思える理由があなたであればいいな」という答えに行き着いたんですよね。

バンドメンバーだったり家族だったり。この4年間で自分のためだけには生きられないと思えるものをたくさん背負ってきたんですけど、逆にいろんなものを得ることができた時間でもあって。得たものすべてに対する歌になりましたね。今の私が言いたかったことってこれなんだなと思って、アルバムタイトルにもしました。

今作はFINLANDSらしさはありつつも、これまで以上に風通しの良さを感じる作品で。この4年間の経験があってこそのものなのだろうなと、お話を聞いていてあらためて思いました。

自分自身ではここが変わったと言えることはないですけど……。こうやって話すと物事の捉え方は変わってきてるのかもしれません。今回のアルバムは4年間の総決算のような作品になったなと思います。

4th full album『HAS』

生産限定盤[CD] /配信
仕様:10インチ正方形スリーブ+ブックレット+CD
品番:TKCA-75262
価格:¥3,600(税込)

『HAS』CDの購入はこちら 『HAS』配信リンクはこちら

LIVE TOUR「I HAS TOUR」

3/20(木)福岡:DRUM SON
3/22(土)広島:CAVE-BE
4/5(土)名古屋:CLUB UPSET
4/11(金)札幌:SPiCE
4/13(日)仙台:LIVE HOUSE enn2nd
4/19(土)松本:LIVEHOUSE ALECX
4/26(土)静岡:UMBER
4/27(日)大阪:Live House ANIMA
5/10(土)東京:SHIBUYA CLUB QUATTRO
※すべてワンマン公演

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Written by

奈都樹

(なつき)1994年生まれ。リアルサウンド編集部に所属後、現在はフリーライターとして活動しながら、クオーターライフクライシスの渦中にいる若者の心情を様々な角度から切り取ったインタビューサイト『小さな生活の声』を運営中。会社員時代の経験や同世代としての視点から、若者たちのリアルな声を取材している。

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