R-1優勝より前に野田クリスタルが活躍したもうひとつの賞レース

『勇者ああああ』芸人キャスティング会議

文=板川侑右 編集=鈴木 梢


3月8日(日)、日本一のピン芸コンテスト「R-1ぐらんぷり2020」の決勝が開催された。今年は新型コロナウイルスの影響でスタジオ無観客。審査員とスタッフたちの笑い声がスタジオに響いていた。優勝したのは、マヂカルラブリーの野田クリスタル。「野田ゲー」と呼ばれる自作のゲームをプレイしながら話す“ゲーム実況”スタイルで優勝を勝ち取った。

『勇者ああああ』演出・プロデューサーである板川侑右氏による連載「『勇者ああああ』芸人キャスティング会議」では毎回、同番組で過去に呼んだ芸人・いま呼びたい芸人とその理由などをお話している。 今回は「R-1ぐらんぷり2020」野田クリスタル優勝記念に、番組と縁深い彼の初登場とこれまでの活躍を振り返る。


「エロゲープレゼンター」としての野田クリスタル

番組に縁のある芸人さんについて僕が好き勝手書いているこのコラム。紹介する芸人さんを誰にするかも毎回自由に選ばせてもらっているのだが、さすがに今回はこの人について触れないわけにはいかないだろう。そう、「R-1ぐらんぷり2020」優勝者、マヂカルラブリーの野田クリスタルである。ちなみに野田が優勝しなかったら今回は「ですよ。」をテーマに書く予定だった。全国の「ですよ。」ファンの皆様すいません、いや、とぅいまてん。

野田クリスタル(筆者撮影)

『勇者ああああ』ではこれまで天才ゲームクリエイターとして数々の自作ゲーム「野田ゲー」を紹介してきた野田クリスタルだが、初めてピンで登場したのは「勇者ああああゲームオブザイヤー2018」という企画である。ソフトの売り上げや知名度は一切無視、年間を通してとにかく自分がおもしろかったと思うゲーム作品をプレゼンし、全員の投票でその年の大賞を決めるというコーナーで野田の立ち位置はまだクリエイターではなく、プレゼンターだった。野田がゲームプログラミングを特技としていることは僕も知っていたので「ゲームが作れるんだから、好きなゲームだって何個かはあるでしょ」くらいのゆるい考えでアンケートを送付した。

しかし数日後、野田から届いたアンケートを読んで僕らは驚愕した。A4用紙2枚にわたるアンケートには地上波番組だとわかっているのに、なんと『ボクと彼女(ナース)の研修日誌』という、PCで発売された18禁ギャルゲー作品への愛がびっしりと書かれていたのである。「ナース赤木澪ちゃんの魅力」や「このシーンで抜ける」などの知ったこっちゃないけど少し気になるトピックで盛り上げながらも、地上波でちゃんと放送できるように「オリジナル版からエロの要素を抜いたPS4版もあります」という情報でディレクターへの配慮も欠かさない。笑いの要素は押さえつつ編集も意識するというバラエティのアンケートの理想形がそこにはあった。

実を言うと18禁のギャルゲー作品をまじめに紹介するという企画自体は番組立ち上げ当時から構想としてあった。AVや風俗について男性芸能人がおもしろおかしく語るテレビはよく見るが「エロゲー」について言及しているバラエティはほとんどない。これはバラエティ番組の新たな下ネタトークテーマとして成立するのではないか、とずっと考えていたのである。 ただ実際にリサーチをしてみるとやはりAVや風俗に比べてユーザーが少ないのかプレゼンできるほど詳しいタレントがいない。さらにエロがテーマだけにしゃべる人によっては視聴者に嫌悪感を抱かせることにもつながりかねないのでキャスティングは慎重に行う必要がある。一度、自他共に認めるオタク芸人やさしい雨・松崎(克俊)と別企画の打ち合わせついでに「松崎さんってオススメのエロゲーって何かあります?」と聞いたら

「BISHOPさんっていうメーカーの牝教師シリーズってのがありましてぇ……女の子に潮を吹かせるか、失禁させるかをプレイヤーが選べるファイナルアクメセレクトっていうシステムがありましてぇ……このシステムがすごく興奮するんですよぉ!」

と、長い髪を振り乱しながら熱弁してくれたのだが横を見たら多少の下ネタじゃビクともしないテレビ番組制作会社シオプロの女性APが松崎に嫌悪感バリバリの視線を向けていたので「あ、これは企画にならないわ」と早々に諦めていた。

そんな経緯もあり企画として成立するかどうか不安もあったエロゲーゲープレゼンだったが、結果として野田がプレゼンした『ボクと彼女(ナース)の研修日誌』は「勇者ああああゲームオブザイヤー2018」で大賞を受賞した。まあ大賞といってもアルコ&ピースをはじめとする番組出演者がなんとなくのノリで投票するだけの実にいい加減なものなのだが、その場にいた全員が野田の話術に魅了されたのは間違いない。先述した松崎をにらんでいた女性APも野田のプレゼンにはしっかりと耳を傾けていたので「吉本男前ランキング69位」のビジュアルも功を奏したと言っていいだろう。

特に野田が主張した「あえてエロの要素がないPS4版をプレイし自らを欲求不満にさせた後に、PCのどエロ版をプレイすることで興奮が倍増する」という“はしごエロゲー理論”は一部の視聴者から「その手があったか!」と大きな反響を呼んだ。また、作品のメーカーからはなかなかメディアでスポットライトを浴びる機会がない18禁ギャルゲーを紹介した野田に感謝の品として「抜き切れないほどの大量のエロゲー」が送られた。「M-1グランプリとキングオブコントのファイナリストで、マッチョで、ゲームプログラマー」というただでさえキャラ渋滞な野田に唯一無二の「エロゲープレゼンター」という新たな肩書きが加わったのである。

「野田さんはマジで天才かもしれない」


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板川侑右

(いたがわ・ゆうすけ)2008年テレビ東京入社。制作局で『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ』などのADを経て『ピラメキーノ』でディレクターデビュー。その後『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』などのディレクター業務を経て特番『ぽい図ん』で初演出を担当。過去に『モヤモヤさまぁ〜ず2』のディ..

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