神保町よしもと漫才劇場を中心に活動している吉本興業所属のお笑いコンビ・めぞんの吉野おいなり君による連載「吉野おいなり君の妄想日記」。子供のころから「妹が欲しい」と願うおいなり君が、「脳内に生み出した架空の妹たち」との日常を綴る。今回、ついに最終回。
四兄妹で旅行に行くことが決まった吉野家。しかし、タイプが違う4人が集まると、全員がただただ楽しみ!というわけではなかったようです。
おいなり君の妹たちについてはこちら(#1「人生の半分以上、僕の頭の中には現実にはいない妹がいる」)
※あくまですべて“妄想”です!
ありがとう、すべての妹へ
どうも、吉野おいなり君です。
QJWebさんでコラムを連載させていただいて今回で#10です。そして最終回でございます。
打ち切りではなく、だいたいQJWebさんでの連載は10回がメドなのだと伺いました。
「打ち切りではないです」。
そう言ってくださいました。
けっして僕が何を言われても妹との妄想を綴ることに対して、ずっと上層部と戦ってくれていた担当の方が僻地の部署に飛ばされたわけではありません。
信じてください。
毎月の恒例になっていたので、なんか宿題がなくなった解放感とともに寂しさが込み上げてきています。
いや、めちゃくちゃ寂しいな、なんか。何かを継続していると終わるときこんなに寂しいんだ。
QJWebさんには本当にありがとうの気持ちが込み上げてきます。
そして、最後にどんなコラムにするかの提案で送られてきたのは「思う存分、妹のことについて綴ってください!」でした。
本当に、誰か飛ばされる人とかいないですよね!?!? 大丈夫ですか!?
「こ、こんなキモいコラムいつまで続けるんだ!! これは君のためでもあるんだぞ!! 君には才能もある!! このまま着実にキャリアを積んでいけば、重役の席だって……」
「いいんです!!! 僕にもね……見えるんすよ、もう……あの人の……妹が……」
タッタッタッタッ!……ふぅ……
あ、吉野さん! え? なんでもないですよ笑
そんなことより、最終回……思う存分、妹のことについて綴ってください!!
ニカッ
じゃないですよね!?!? 本当に違う? ただ打ち切り? え? 打ち切り?
打ち切りではないんだよね?
よかったよかった。じゃあ妹たちとのことを書いていこうと思います!!!
ニカッ
四兄妹で旅行!飛行機が苦手なふたりは…
僕は飛行機がとても苦手なのですが(現実世界線)、正直、耐えられない2時間のフライトの間、妹がいたらこのフライトも耐えられるのだろうか、怖がっている様を見せたくないと気丈に振る舞えるのだろうか、と考えていて、この前ゆうかとゆめとうたと飛行機に乗って旅行に行ったときのことを思い出しました(幸せ世界線へ)。
家族旅行といいますか、父親と母親は今回行けなかったのですが、兄妹4人で旅行に行くことになりまして、うたの希望で北海道に行くことになりました。
そうなると、どうしても移動手段は飛行機になってしまうわけで、うたは一切、飛行機が怖くないみたいで、どうしようなんて考えもよぎらないほどに、もうその目は北海道しか見えてない状態で。
ゆうかは「いいね〜」と言いながらも、少し手が震えているご様子。でも優しいゆうかのことなので、自分が多少我慢すればうたの行きたいところにいける、と考えてくれている。もうその目は優しさしか帯びていない状態で、ゆめは完全に俺と同じ目でうたのことをにらんでいた。そして視線を外して俺と目を合わせたゆめはゆっくりとうなずいた。
わかったよ、相棒。俺とお前で今回のフライトを中止させて、陸路による「新潟旅行(仮)」に変更させるんだな。
多数決の上では五分五分。
だがしかし、一度こうと決めた末っ子の恐ろしさを俺たちは知っている。
「飛行機が嫌だから」、なんて理由じゃ到底聞いてくれないだろうし、最悪旅行自体を亡き者にしかねない。
ここは「新潟旅行(仮)」のプレゼンをして奴の気を変えさせるのだ。北海道に行きたいと目を輝かせている人間の気持ちを180度変えて、新潟に行かせる。
どう考えても無謀だが、俺たちはやるしかない。なぜなら飛行機が空を飛ぶ原理は未だに解明されていないという「NAVERまとめ」を見ているのは俺たちふたりだけだから。
これはエゴではない。哀れな末っ子を救済するための完全なる善なのだ。
楽しみが走り出して安全装置が壊れてブレーキを捨てたと言わんばかりに、すでにどこからか調達してきている『楽しい北海道のすゝめ』というキモいパンフレットを開いているうたにバレないように、ゆめが俺のうしろに来て小声で「コードネーム馬の尻尾」と作戦名をささやいた。
なるほど、たしかにそれは名案だ。直ちに実行しろ。これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない。
慎重に言葉を選びながら、ゆめがしゃべり出した。
「お、お姉ちゃんはいつもがんばってくれてるから、こういうせっかくの旅行のときは、お姉ちゃんが一番行きたいところがいいとも思うんだよねー。本当に北海道でもいいの?」
これだ。長女のゆうかを仲間に引き入れる。これが最善策なのだ。※「コードネーム馬の尻尾」とは、緊急時に俺とゆめが使う……ゆうかを仲間に引き入れるときの作戦名である……
わかる。わかっているぞ。ゆうか。
お前は人一倍優しいがゆえに、うたの意見を尊重しようとしているが……俺たちほどではないにしろ……お前も、飛行機が、怖いんだろう?
でかした、ゆめ二等兵よ。このお人好しの心を揺らしてやれば、熟したリンゴの木よりも簡単にその実を落としてくれるだろう。3対1にさえなればこっちのもんだ。
「私は……その……うたちゃんがこれだけ行きたがってる北海道に行きたいな」
人百倍のお人好しであった。
こうなったら慎重に選んだ言葉がもはや悪手。ここから体勢を立て直すことは不可能。
ゆめを見ると、もう終わったといった顔で「だよね〜! 楽しみ!」とほざいている。百倍の善人を前に、自身のわがままで目的地を変更することに罪悪感が生まれ、完全に乗り換えていた。
いや、切り離していた。俺のことを。
そして覚悟を決めた人間の目をしている。旧日本兵を彷彿とさせる誇り高き眼をしている。ひと足先に戦闘機に乗り込んで離陸してしまった。離陸直前、開いた天蓋の隙間からこちらも見ずに手を振っている映像まで鮮明に脳裏に映るほどに鮮やかな別れ。
彼女は、鳥だ。きれいな翼を携えた。鳥だ。もう空が怖くないのだろう。
妹が巣立ったというのに、兄である俺がこのわくわく旅行を台なしにすることなんて、できるはずがない。
まったく意味は違うが俺は小さく「バードストライク……」と、つぶやいた。
そんなことを考えていたら2時間のフライトもなんのそのだ。いや本当はなんのそのではないのですが、少し紛れたような気がしました。(現実世界線への帰還)
10カ月の旅はいかがでしたか?
このコラムも小旅行のようなもので、少し旅をしようと初めてみましたが、思ったより長旅になっていたみたいで、ホームシックになるどころか故郷に帰ることのほうが寂しく思えますね。
妹のことを誰かにしゃべるとか、思っていることをあけすけに書くなんてことは怖いことのように感じていたけど、飛んでみたらそんなに空は怖いものではなかったです。
そもそも空なんて、どこからが空だなんて誰にも決められないもので、この地面についている足をほんの1ミリでも上に上げたら、そこから上は全部、空でしょ?
みんなもどうでしたか、この何カ月かの空の旅は?
好奇心? 興味? はたまた怖いもの見たさ?
吉野おいなり君が日頃、何をしているんだろう?ぐらいの気持ちでのぞいたら、つらつらと妹との思い出を聞かされて怖かったですよね。でも、少しでも楽しんでくれたならよかったです。
いつまでも続くと思っていましたが、ここで終わりです。
#10でトリです。大トリです。
怖興味楽し空の旅もここでトリにぶつかりました。
これが本当の
バードストライク。
おあとが
よろしい
ようで
超重大なお知らせ(現実世界線)
連載は今回で終了となりますが、延長戦としてライブの開催が決定! 改めてゆうか、ゆめ、うたとの日常をたっぷり語ったり、相方・原一刻さんを巻き込んだ企画も実施します。
さらに! 今回のライブに使用する吉野家三姉妹のイラストも大募集。おいなり君と三姉妹の日常を“妄想”して、「#吉野おいなり君の妄想日記」をつけてどんどんポストしてください。
チケット販売は4月5日(金)開始予定。一夜限りの特別なライブ! ぜひ会場にお越しください!
【公演情報】
『吉野おいなり君の「妄想日記」』Produced by QJWeb
2024年4月11日(木)19:30開場/20:00開演/21:00終演
会場:座・高円寺2(全席指定)
チケット料金:前売2,500円(税込)/当日3,000円(税込)
配信:1,500円(税込)※見逃し配信は4月11日20時~4月24日20時まで
出演:めぞん、鈴木バイダン(MC)
販売:FANYチケット(https://yoshimoto.funity.jp/)で4月5日10時より開始
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