「ちょっとよかったあの日」の記憶を唯一無二の筆致で描くAマッソ村上によるファンタスチックな回顧エッセイ。『芸人雑誌』の連載を飛び出して、今回でサイバー連載第4回目。“今月のオキニのスープ”「酸辣湯スープ」よろしく、Aマッソ結成当時のちょっぴり酸っぱい記憶をたどる。
今月のスープは「酸辣湯スープ」
【材料】
・えのき…キリンのツノ1つ分くらい
・きくらげ…5ブヨブヨ
・ニラ…4本
・溶き卵…1パッカーン
・(A)水…500ml
・(A)鶏ガラスープの素…小さじ1.5
・(A)醤油…小さじ1.5
・(A)塩…さりげなく
・水溶き片栗粉…大さじ1
・お酢…ドゥボボボっと
・ごま油…タラ〜ン
・ラー油…ピューウ
・小ねぎ…お好みちゃん
【作り方】
①えのき、ニラを包丁でカッティング!
②鍋に(A)を入れ中火にかけて、沸騰したらえのき、ニラ、きくらげを入れ弱火。
③火が通ったら、中火にして水溶き片栗粉を垂らしトロませる。一煮立ちしたら溶き卵も垂らす。
④卵がふんわりしたら仕上げにお酢、ごま油を入れて火を止める。
⑤器に盛りぃ、ラー油と青ネギをちらす。
酸っぱ辛いのが絶妙に絡みあう、あと引く美味しさ!昔からお酢は体にいいと聞いてきました。お酢に期待できる健康効果は食後血糖値の上昇抑制、体脂肪・内臓脂肪の減少、血圧低下作用、疲労回復などであると言われており、積極的に取り入れたい食品の一つです。お酢プラス辛味で体と心もピシッとなります。酸辣湯スープを飲んで元気100倍!
どちらかというと、酸いも甘いもだったら甘が多めの人生やと自分で思う。
ただ、ネタ作りに関しては酸いぃ〜思い出しかない。
ある日の夜、うちん家の前にある万代池を加納さんと散歩していた。加納さんは大学を休学するらしく
「暇になるから何かせーへん?」
と誘ってくれた。THEイキリ大学生のうちは即答で
「やるぅ〜」
と鼻にかけた声で答える。お笑いライブ出てみよやみたいな話が加納さんからあって、それを受けうちは
[一緒ならなんでもOK!]
と書かれたパネルを右手に持ち、
[ガッツリ同意!]
のパネルも左手に持って賛成デモ行進をするのであった。初回は各々ネタを書いてきて発表しようとなり、家からチャリで15分の清水丘のマクドに行く。夜ご飯を食べた後に集まったので加納さんはコーヒー、うちはバニラシェイクと飲み物だけを購入してレジから離れた席に座る。
「どんな感じ〜?」
と言いながら加納さんはA4の大学ノートを取り出す。
{ネタってノートに書くんや!}
とうちは驚いた勢いでズズっとシェイクを吸い飲む。うちは要らないA4用紙を8分割に手ちぎりした紙をクリップで留めたオリジナルメモパッドに、自分がネタだと思うことを書いていっていた。
まずは加納さんのターン!
「全然固まってないねんけど〜」
と話し始めてる。加納さんはポップコーンマシーンのように、ポンポンポンとボケを弾けさせていた。だんだん伝える熱量が上昇してポポポポポン!とボケ大噴火でマシーンはいっぱいになった。うちは
「めっちゃおもろいやーん!」
とキャラメルソースをかけてあげた。キャラメルポップコーンの出来上がり!出来たてのキャラメルポップコーンは温かくて美味しいね。これが幸せの味だね。いつまでも二人で食べたいね。なんて言いながら二人で頬張る。
キャラメルポップコーンをご馳走さましたところで、うちのターン!オリジナルメモパッドを取り出し
「“ヴ”のいろんな言い方のネタやねんけど〜」
話し始めると加納さんのありとあらゆるところから、ねちゃねちゃの“?”が漏れ出る。うちは続ける。
「様々な“ヴ”を言い合うネタでぇ〜例えば『ヴ』(ベロを下に押し付けながら)とか『ゔ』(唇を突き出しながら)みたいな感じで〜」
と懸命に伝えた。大量のねちゃねちゃの“?”はナメクジのようにうごうごと動き、うちの足元から顔の方へと上がってきていた。さらにうちは続ける。
「どの“ヴ”が最も優れた“ヴ”なのか勝負するねん!めっちゃおもろない?」
と言った瞬間ねちゃねちゃの“?”がうちの口元まで上がってきて口を塞いだ。そして加納さんは
「よう分からん」
と塩を撒いた。ねちゃねちゃの“?”は縮こまった。小さくなったねちゃねちゃの“?”を食べてみるとちくわぶだった。確かによう分からんなと自覚した。
うちの中ではふわふわのシフォンケーキを一生懸命に膨らませて、仕上げは加納さんに「おもろいやーん!」と粉砂糖をかけていただけるものやと思っていた。
{ベイキングパウダー入れ忘れたかな?}
と考えていると、すぐさま加納さんは
「あとは?」
と聞いてきてうちは
「これだけですぅ〜ゔ」
と唇を突き出す“ゔ”で答えた。加納さんは
「そっか」
とあっけらかんに言った。
2回目のネタ作り。清水丘のマクドがうちらのテリトリーになった。加納さんはホットコーヒー、うちはシェイクを頼みレジから離れた席に座る。うちは考えようとはするものの、とにかく何にも浮かばない。
「あ!」
と閃いたそぶりをとり、
「いやちゃうか〜」
とぼやいてみたり
「あれ何やったけ?」「えーと、全然思い出されへん」
とか前向きに考えてる姿勢を露骨に出していた。一方、加納さんは静かに真剣に考えるタイプだった。加納さんは大学ノートを広げペンを持ち、顔をいろんな角度に向けて考え、オモロイを産みだしていた。
オモロイがでたときは加納さんはニヤリと笑って、それをノートに書き留める。最高の面白いがでたときは、ウプとかアヘとか声を出して笑って、ニンマリしながらノートに漏れなくオモロイを書き留めてまた考える。オモシロイの供給を早くしてよと
「何?何?」
とうちが聞くと加納さんは
「ちょっと待ってや」
といってまたオモロイ探究する。うちはシェイクの紙コップにできた水滴を眺めながら待った。まとまったら、
「なんか〜あいぴーが待ち合わせスポットで〜」
とキー局の新人アナウンサーのような爽やかな笑顔で希望漲りながらプレゼンを始める。うちはそれを地方局のお局アナウンサーの顔つきで聞く。うちは聞いていて、わからないところがあっても“うん、うん”とわかってますよとすまし顔で話を受け流す。新人さんのプレゼンが終わったら、お局は決まって脳のフィルターを通さず
「いいやん!やってみよ!」
とゴーサイン!あくまで決定権はこちらにあり、あなたより劣っていないですよと言わんばかりに上司面をかましていた。
「で、お局さんはなんか案ありますか?」
と聞かれて
「まだまだ私の出る幕ではないわ」
といなす。カバンの中には“キリンの鳴き方「クスクス」ゾウの鳴き方「チャイクレ」”と書かれたオリジナルメモパッドを忍ばせていたが御呼びでないことはわかりきっていた。
何度目かのマクドでのネタ作り。加納さんはコーヒーうちはシェイクとポテトSを頼みレジから離れた席に着く。回数を重ねても、ネタがひらめくことは無かった。オリジナルメモパッドもカバンに入れることさえしなくなった。考えるそぶりもワザとらしくなってきたからポテトを食べることで時間稼ぎをするのであった。加納さんは大学ノートを広げて考えている。うちは加納さんの考えている顔をポテトを食べながらジーっと眺める。ふと気づく。
{あれネタ作り中、加納さんと一回も目が合ってないかも}
うちはネタ作りという行為に嫉妬した。友達が目の前にいるのに堂々とネタ作りしやがってこのクソアマと怒りが込み上げてきた。どうしてもうちに目を向けて欲しくて指についたポテトの塩を音を立ててねぶることにした。
{ほ〜ら、気になるでしょ〜こっち向いてごらん子猫ちゃん〜}
とチュパチュパしたが音沙汰なし。塩がついていない指も全てねぶって小さい声で
「指美味しいなぁ〜」
って呟いても加納さんは大学ノートとにらめっこ。全然こちらを見てくれない。最終手段やと思いケータイのストラップにアラジンのアブーの人形をつけていたので「フレンド・ライク・ミー」を鼻歌で歌いながらアブーをテーブルの上でぴょんぴょんとさせて踊らせてみた。
すると加納さんはウフフと笑った。
{アラジン好きにはたまらない演出だろ〜}
とニヤニヤしながら加納さんの「何してんねん!」を待ち構えたが、加納さんはそのままノートにペンを走らせた。
{明らかにクリティカルヒットしたはずやのに!?もしや時間差のツッコミですかい?もう少し待ちますか}
アブーをぴょんぴょんさせながらしばし待つ。しかし待てど暮らせど加納さんのツッコミは無い。ずっとノートに書き込みながら一人でニハハやらイシシやらと笑っている。
{おーい、もうアブーも踊り疲れて倒れちゃったよ〜}
と、その時加納さんがぱっと顔を上げてうちとやっと目があった。トクントクンとうちの胸は高鳴る。期待に満ちた眼差しで加納さんを見つめる。
加納さん 「フラフープ持ってる?」
うち 「ふ?」
加納さん 「フラフープ!私が土星で、村上になつくねん」
うち 「むら・・かみ?」
加納さん 「フラフープ、コーナンに売ってるかな?」
{あの〜あいぴーどこ行きました?あなたの友達ですけど〜?あれ?目の前にいるのは小5から友達の加納さんかえ?予期せぬ呼ばれ方でパニックなんですが〜?そりよりアブーが倒れてるよ〜ツッコミという名の応急処置してやったらどうや〜?う〜ん?え〜と?とりあえず処理できることから返事するね〜?}
うち 「コーナンに、フラフープ見に行ってみ、よか……」
加納さん 「そやな、あとベージュの服と村上は普通の服でいいから〜ベラベラベラベラ」
もくもくもくとガスがうちを包み込む。
視野が狭くなり意識がなくなる。
目を覚ますと目の前に土星がいる。
土星はクルリンとしたり、飛び跳ねたりしてとても嬉しそうだった。
輪っかの中にうちを入れて離さない。
土星は「ムラカミィ〜」と鳴きながらうちのほっぺに球体部分を擦りよせてくる。
凄くなついているが、ちょっとでもあいぴー的言動を起こせば殺そうとしてくる。
殺されるのは真っ平ごめんなんで村上を突き通している。
土星は「モウ,ネタカンガエナイデイイヨ」と優しく言ってくれた。
うちはすごく肩の荷が下りた。
そこからは土星は、うちができないこと全部やってくれて、うちの言うことならなんでも叶えてくれた。
今は「M-1決勝に連れてってね」とお願いしてるからそろそろ叶えてくれるはずだ。
それまでうちは土星の輪っかにぶら下がって浮遊を楽しむのさ。
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