『クイック・ジャパン』では過去に「テレビ・オブ・ザ・イヤー」「YouTube on the border」などジャンルごとにその年のコンテンツを総括する座談会を開催してきた。昨年末にも「お笑いの配信オブ・ザ・イヤー2022」と題して、TVer、映像系サブスクリプションなどWEB上で視聴できた映像コンテンツを総括・分析したが、今回はライブ、Podcast、地上波放送などタッチできる限りすべての「お笑い」コンテンツが対象だ。現役でお笑いシーンを作る芸人やテレビディレクターなど最強のお笑い通6名によって2023年上半期のお笑いコンテンツを振り返る。
奥森皐月
(おくもり・さつき)2004年生まれ、東京都出身。女優、タレント。3歳で芸能界入り。『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタを鑑賞、毎週30時間程度のラジオ番組を愛聴している。
澤部 渡
(さわべ・わたる)1987年生まれ、東京都出身。シンガーソングライター。自身のソロプロジェクト・スカートでは作詞、作曲を担当する。2017年からお笑いライブに足しげく通い、25歳以下限定のお笑い賞レース『UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP』の主題歌を担当する。
白武ときお
(しらたけ・ときお)1990年生まれ、京都府出身。放送作家・YouTube作家。『みんなのかが屋』『しもふりチューブ』『ざっくりYouTube』(YouTube)、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)、『かが屋の鶴の間』(RCCラジオ)などを担当。【ツイッター】@TOKIOCOM 【メール】[email protected]
高比良くるま
(たかひら・くるま)1994年生まれ、東京都出身。吉本興業所属、令和ロマンのボケ担当。東京NSC23期を首席で卒業する。2022年『M-1グランプリ』では準決勝に進む。
蓮見 翔
(はすみ・しょう)1997年生まれ、東京都出身。ダウ90000主宰。演劇やコント、ドラマの作・演出を手がける。ドラマの脚本も手がけている。今年8月には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」を受賞した。
原田和実
(はらだ・かずとみ)1996年生まれ、静岡県出身。フジテレビのディレクター、演出家。担当番組に『ここにタイトルを入力』『ケーキのかわり』などがあり、その挑戦的な番組内容が注目を集める。
感動的におもしろい単独ライブが連発している
白武ときお(以下、白武) 高須光聖さんをはじめ一流の放送作家の方たちが集まっていた「テレビ・オブ・ザ・イヤー」に比べると、大幅な戦力ダウンのメンバーなんですが、お笑いへの熱量は半端じゃない最高の面々に集まっていただきました。とはいえ我々は権威的な存在ではないので、このメンバーで話したらこのあたりがおもしろかったよねというひとつの記録としてやっていければと思います。最初に言っておくと、ダウ90000の『また点滅に戻るだけ』は本当にすごかったです。自分より下の世代の人が本多劇場で、しかもあんな立派なセットを組んでやっていたのが衝撃で。階段から上にハケられる構造があったりして、お笑いのアプローチともまた違うじゃないですか。めっちゃ感激しました。
高比良くるま(以下、高比良) こんなにハードルが上がってる中でダウ90000はそれを超えてきてましたよね。蓮見の「今回はみんなこれくらい期待してるから、こう裏切る」っていう当て勘みたいなものが毎回すごくて、そこが僕は好きです。
澤部渡(以下、澤部) わかります。
蓮見翔(以下、蓮見) すみません、ありがとうございます。これでダメだったらもう無理だって書き方だったんで、澤部さんが観に来てくれて「よくこれを作ったね」って言ってくれたとき、うれしくてちょっとだけ泣いちゃいました。僕は上半期だと、東京03さんとCreepy Nutsさんの武道館ライブ(『FROLIC A HOLIC feat. Creepy Nuts in 日本武道館 なんと括っていいか、まだ分からない』)が圧倒的でしたね。
蓮見 大きいイベントってどうしてもお祭りにかまけて粗いコントになりがちじゃないですか。でもめちゃくちゃおもしろくて音楽もピッタリハマってて、全部が完璧でとんでもなかったです。モニターに映像が出てるんですけど、そのスイッチングもすごいんですよ。セリフを言った側だけじゃなくて言われた側の表情を抜くタイミングとか間(ま)もぴったりで。お笑いは届く限界があるから音楽にキャパで勝ちづらいけど、全然やり方はあるんだなって思いました。
高比良 確かに、お笑いライブを次に掘るとしたらもうその段階に来てる。大きい舞台でお笑いをやるノウハウってまだないから、それを切り拓いてくれる人がいると可能性が広がるよね。
白武 以前の『FROLIC A HOLIC』もそうだったけど生バンドの方がいて、バンドの人たちにも笑いの感覚があるから盛り上がるところでアドリブ入れたりしてうねり出す。同じような規模やクオリティに辿り着くのは難し過ぎますが、今後挑戦してみたいですね。
奥森皐月(以下、奥森) ライブでいうと私はAマッソさんの『滑稽』ですね。観たことがないものでした。
蓮見 「なんでそんなことすんの?」って最悪な気分になって、それがよかったです。
白武 これまでにない体験でしたね。しかもAマッソのネタの精度がめっちゃよかった。ネタやって嫌な映像が流れてまたネタをやる構成なんですけど、そのネタが毎回おもしろいんですよ。あれが映像の嫌さに負けていたらリアクションが全然違ったと思う。
奥森 途中途中で本当に嫌な気持ちになるんだけど、ネタのパートで「……おもしろい!」ってなるんですよね。そのネタが後半になると崩れていくのが美しいし、終わり方もどんでん返しのようで衝撃という意味では100点でした。たぶん、どちらかというとお笑いじゃない人にもっと広がるべきなのかも。
白武 大森(時生)くんへのホラー界からの期待もあると思うし、いろんなものが混ざって、新しい体験や読後感のものが見たいですね。
澤部 僕は単独だとかが屋さんの『瀬戸内海のカロカロ貝屋』がすごかったです。「背徳寿司」ってネタを観て震えました。もう感動しちゃって。
蓮見 とてつもなかったですね。
白武 ダサいところが一個もなくて美しかった。これまでのかが屋のコントよりさらに一段二段上がってました。
澤部 伸ばさなくてもいい方向に伸びてる感じもするし、でも正当に伸びてほしいところも伸びてるというか。特に「背徳寿司」は伸ばさなくていい方向に伸びていて、よかったなぁ。
高比良 ただ、すご過ぎて測る物差しがないというか、かが屋さんに適した賞レース的な競い合う場がないっちゃないなとも思います。
白武 去年の『キングオブコント』準決勝を2日間観て、かが屋はかが屋だけの違う競技をやってると思った。演技力とか憑依とか、表現のパラメータがめちゃくちゃ突出してるんだけど、あまりにも自然にその能力を発揮してて。やってるコントの手触りが1組だけ違った。
高比良 僕は去年の『KOC(キングオブコント)』はかが屋さんかビスブラ(ビスケットブラザーズ)さんが優勝すると勝手に思ってたんですよ。だから決勝でかが屋さんの一発目のボケがハマらなかった瞬間に「今年はダメか……!」ってなっちゃいました。それでいうと、今年のビスブラさんの単独『ポカンと1号&チクアナお兄ちゃん研究者』が本当に意味がわからなくてよかった。
高比良 ビスブラさんのネタは、めちゃくちゃニュアンスで作ってるのにシステマチックでロジカルというか、ほかに似たような人がいないんですよね。しかも何がいいって、チケットが当たり前のように完売しないんですよ。なんでも祭り上げられてしまう時代に、そんなチャンピオンいないじゃないですか。それがかっこいい。
白武 その単独情報、全然キャッチできてなかった! ふたりともに怪物性を感じるので、どんどんねじ伏せていく姿が見たいですね。
澤部 売れたライブでいったら地下的には『ダイヤモンドno寄席』がありましたよ。
高比良 1万枚以上売れて、今年も正月からお笑いが流行り過ぎててヤバいと思いました。やってる側からしたらあんなに手応えのないライブないですからね。みんなで『おもしろ荘』の話してヘラヘラしてるだけだから。だからあれが売れたのはなんにもよくない、そこはちゃんと言っておきますよ。じゃないとウエストランド井口さんにまたくさされるんで……。
賞レースが激増、それぞれが加熱する
澤部 上半期でいうと賞レースが乱立していたのはひとつのトピックですよね。
──3月に「ytv漫才新人賞」『R-1グランプリ』、5月に『THE SECOND』『UNDER5 AWARD』、7月に『ツギクル芸人グランプリ』『ABCお笑いグランプリ』がありました。
蓮見 あのタイミングで『THE SECOND』があると、年間通してずっと賞レースがある印象になりました。
白武 『THE SECOND』は、大会初回からお笑いファンが納得できるようなかたちで開催できてましたね。漫才の賞レースとして『M-1』以外にこういうやり方もあると提示しているようでした。
高比良 予選の時点で「観客投票で大丈夫なのか」ってさんざん言われていたのを、本番で決め切ってましたね。『THE SECOND』は今年上半期の象徴だった気がします。お笑い界全体に、明るくて元気をくれるものがウケてる感じがするんですよね。コロナ禍が落ち着いて日常が戻ってきたのが大きくて、「忙しくなっちゃったけど仕事に遊びにがんばっていこう」みたいなモードに世間がなってるなかで、お笑いを見ている人たちも活力を与えてくれるものを求めてるというか。その中でマシンガンズさんがちゃんと売れたじゃないですか。
澤部 ちゃんと夢がありました。
白武 『ABCお笑いグランプリ』はくるまくんも蓮見くんも決勝に出てましたね。
原田和実(以下、原田) 今年めちゃくちゃよかったですよね。
高比良 マジで楽しかったです。正直、このままいくと『M-1』より『KOC』よりちょっとおもしろかった可能性すらあるよな。
蓮見 全然あり得ると思います。めちゃくちゃ楽しかった。
高比良 10年目以下のコント・漫才・ピン全部いるっていう大会のフォーマットの魅力をちゃんと証明できてよかったと思ってます。本来のライブの楽しさに近いじゃないですか。それをテレビでできたから。
澤部 オープニングで過去の出場者たちがネタをやるじゃないですか。あれもいいです。
奥森 全体に、審査員の方たちがいつもよりも審査らしい審査をしてませんでした? ネタに対してけっこう具体的に「あそこはもうちょっとこうすれば」みたいにコメントしていて、これまでと違いを感じました。
高比良 かもめんたるの(岩崎)う大さんがいたからじゃないですかね。う大さんがひとりいるだけで「ちゃんと審査しなきゃ」って空気になっていた気がします。
白武 『M-1』だと審査に対して視聴者も怒ったりするけど、『ABC』はそこまでドラマを作ってないからちょうどよいテンションで楽しんで観られました。今年は特に「浴衣着てる抜け感がいいな」って思ったんですよ。ピリッとしたコメントがあったとしても浴衣のゆるみがあり、それくらい気軽に観るもんだよなって。
高比良 ああいうお祭りっぽい演出が今年は逆にちょうどよかったですよね。賞レースブームで全体に熱量が上がり過ぎてるから、あれくらいのお祭り感がないとそれを相殺できなかったんだと思います。今年の『M-1』とか『KOC』はかっこよ過ぎてヤバいんだろうな〜。絶対信じられないくらいかっこいいでしょう。ちゃんと笑えるのかな? 心配になってきた。
おすすめYouTubeを紹介し合う時間
──近年はニュースターや新しいトレンドが生まれる場として、賞レースのほかにYouTubeも大きく機能しています。
高比良 『粗品のロケ』チャンネルは感動的におもしろかった。リニューアル後一発目が吉本の本社から始まるんですけど、外出たらコンビニの前で謎の葉っぱを燃やしてる人がいて、その人に話しかけるんですよね。モザイクもなしに絡んでて「これは粗品さんにしかできない」と思いました。まだ俺たちを驚かしてくれるのか……!って。
白武 トー横に行って自分から街の香ばしい人に絡んでみたり、一流のタレントがやる、やれることじゃないんですよね。人間としての強さ・すごみを感じます。
奥森 『お笑い自慢』(『お笑い自慢のなめた奴らが怪奇!YesどんぐりRPGとギャグで対決して、勝ったら10万円貰えるライブ』)も粗品さんのYouTubeからですよね。『チンチロ』もそうだし。
原田 「粗品ガチ恋チヤン」の件もありましたしね。YouTubeのああいう使い方は粗品さんしかできないだろうな。
蓮見 『しもふりチューブ』のマリオテニス回もおもしろかったな〜。こうして振り返るとやっぱり粗品さん強いですね。
原田 『(霜降り明星の)オールナイトニッポン』(ニッポン放送)の「提言」回は、久々に「ラジオだな〜!」って感じがして、リアルタイムで聴いてて興奮しました。
高比良 提言で炎上したあとの『中田敦彦のYouTube大学』の一連の動画も全部死ぬほどおもしろかったんですよ。めっちゃ爽やかに「しんご、元気〜?」とかリモートでやってて。これは観てみてほしい。
白武 僕はYouTubeだとチョコプラ(チョコレートブラネット)さんの「マネーのクズ」パンプキンポテトフライ谷(拓哉)さん編ですね。谷さんはしゃべったこともあったんですけど、これまで知らなかった魅力が出てた。なんともいえないニュアンス、違和感があそこで見つけられてなかったら広く届いてなかったかもしれない。そう思ったらあんなに最高のかたちでおもしろさが出てて、奇跡的だなと。
蓮見 谷さんに会ったときに「観ました」って言ったら「あんなん観るな」って言われましたよ(笑)。僕は『くずパチ』の北斗の拳回をぜひ観てほしいです。(空気階段・鈴木)もぐらさんと岡野(陽一)さんがクズ芸人として売れるべく運をすべて使い果たしてる感じがして、すごいよかった。
奥森 あとはやっぱり鈴木ジェロニモさんじゃないですか?
蓮見 ずっとタイムラインに上がってくる!
白武 今さらあんなシンプルなことでこんなにおもしろくできるんだって思う。
奥森 究極ですよね。フリップネタのフリップなしみたいな。
原田 結局何者なんですか? 芸人さんなんですよね?
高比良 芸人です。確かに、今年これから一番ブレイクしそうな人は鈴木ジェロニモかも。
白武 YouTubeでおもしろい人って、お笑い芸人なのかどうか判別がつかないですよね。ぐんぴぃさんも、芸人さんだけどネットから出てきた人みたいにも見える。
澤部 ネットのお笑いの人とちょうど中間にいますね。
奥森 ただ、ジェロニモさんは実は再生回数はまだそんなにいってないんですよ。
原田 登録者もそこまでいない。なのに案件も来てて、早過ぎじゃないですか!?
高比良 そんなことって今までなかったですよね。話題と数字が釣り合ってないというか、俺たちだけがこんなに好きな状態でちょっと変なんだよな。
白武 これはもう、タイムラインがハックされて僕らにしか見せられてないんじゃないですか?
蓮見 もしくは俺らがここにだけしか友達いない可能性ありますね。
原田 TikTokからもいいですか。ぴよひこさんという方の、お散歩ルーティンから「牙狼」になるマッシュアップがめちゃくちゃバズってておもしろかったです。あれを観てると、もうTikTokの短い尺の中でも構造的に振ってオトせるようになってるんだなって。
高比良 そのあたりを上げ出したらヤバいですね! サンコロってYouTuberがいて、普段はヒップホップをずらしたネタがメインなんですけど、YouTubeでちょっと有名な絵のうまいおじいちゃん(『Watercolor by Shibasaki』)をネタにした動画とか上げてるんですよ。もうそんなところまでずらすんだ!?って。お笑いとしてもちゃんとおもしろくて、そういう人がどんどん出てきてレベルが上がってる。
蓮見 現実実況の天竜川ナコンもおもしろいですよ。
高比良 上げ出すとキリがないな。あっ、これも言っておきたい、『水谷千重子50周年記念公演』発表会見の御崎進と倉たけし!
蓮見 めっっちゃおもしろかった!! 水谷千重子まわりはマジですごいですよね。
高比良 ロバート秋山(竜次)さんがやってる倉たけしと、藤井隆さんがやってる御崎進が会見で大揉めして、間にいる的場浩司さんが気まずそうな顔してるっていう。『oricon』チャンネルに動画が上がってて全部観たけど、一個も意味がわからなかったです。
澤部 見逃してた! あとで観よう。藤井隆さんは『ラヴィット!』(TBS)で大暴れしてた回も最高でした。膝から崩れ落ちましたもん。
蓮見 なんで立って観てたんですか(笑)。
──ネットではPodcastをはじめとした音声コンテンツも増えつづけています。
蓮見 『(マユリカの)うなげろりん!!』がずっとおもしろいです。
白武 阪本さんの中谷さんへの刺し方、ディスり方がちょっと聞いたことがない言い回しだったり精度が高過ぎますよね。角度が変幻自在で、どこからでも刺せるというか。
高比良 残尿回とか、あまりに突き抜けて下品で笑ったな。あとSpotifyの『真夜中のテレフォン』も相当よかったです。芸人がプライベートの知り合いに電話する番組で、Spotifyのアワードも受賞してるんですよ(「第4回 JAPAN PODCAST AWARDS」ベストコメディ賞)。とろサーモン久保田(かずのぶ)さんが結婚を考えていた元カノに電話する回とか、天竺鼠の川原(克己)さんがウミガメを守ってる人に電話する回とか、聴き応えがある。
奥森 囲碁将棋の根建(太一)さんが文田(大介)さんのお母さんに電話する回もおもしろかった。Spotifyだと『又吉直樹の芸人と出囃子』もいいですよ。
高比良 Spotifyのお笑いコンテンツ、気合い入ったものが多いですよね。
ライブの延長線としてのテレビ
奥森 原田さんがいらっしゃるし、『27時間テレビ』(フジテレビ)の話を聞きたいです。「鬼レンチャン歌謡祭」が本当にすごくて。
原田 ありがとうございます。『(千鳥の)鬼レンチャン』(フジテレビ)をベースに全体構成していたのは本当に素晴らしかったですよね。コンテンツの強さと演出の妙を感じました。
白武 そりゃそうなんですけど、生放送でも千鳥さん・かまいたちさんが普段の編集されたオンエアのような質と量のワイプをされていたじゃないですか。超人技ですよね。
原田 VTR中のコメントいかつかったですよね……番組としてワイプの使い方がとにかく上手で、サブ出しのひとつの到達地点だと思いました。
高比良 芸人がおもしろツッコミに回るというこの10年ぐらいの流れの最高傑作みたいな時間でしたよね。やり過ぎるくらいじゃないとちょうどよくならないんだなって思いました。テレビの人って「つまらなそう」をやるのが一番下手じゃないですか。「あえてつまらなそうで、おもしろい」はたぶんめっちゃ難しいんだけど、今年のポスターができ上がった時点でそれが成功していたと思う。
蓮見 確かに、「こうやるんだ」って思いました。
原田 映像コンテンツだと、僕は今年の上半期は『大脱出』(DMM TV)が圧倒的でしたね。ちょっと言葉が出ないくらいおもしろかった。
白武 そうですね。藤井(健太郎)さんがテレビじゃないところでも番組されるんだ!って喜びがありました。今後は、テレビのすごい制作者さんの本気のパンチがいろんなところで見られそうな気がしますね。
澤部 藤井さんでいうと『水曜日のダウンタウン』(TBS)のダイアン津田(篤宏)さん探偵回(「ミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」)はおもしろかったなぁ。見たことがない、変なコンテンツでした。
蓮見 「昭和はむちゃくちゃだった系の映像、全部ウソでもZ世代は気付かない説」もめちゃくちゃおもしろかったです。
原田 すごかった! やっぱりああいう伊集院(光)さんを観たい。
奥森 ああまでしないと伊集院さんのすごさを普通の人に知らせることはできないんだなと思いました。
澤部 ラジオでずっとやってきたような部分が陽に転化されている感じがありましたね。
奥森 そうそう、ラジオでやってることをテレビでやっていてかつおもしろいし悪いこともしてなくて、全部兼ね備えていて。
蓮見 絶対言い方間違ってますけど、「やっと売れた」みたいなことですよね(笑)。
高比良 たぶん『水ダウ』にしかそれができないんですよ。伊集院さんは超高性能な矢で、今まではそれを引ける弓がなかったけど『水ダウ』は圧倒的な強度があったから飛ばせた。そういうハードの強さを感じました。
奥森 芸人結婚ババ抜き(「『ホントに結婚する』1人を見抜け!ご祝儀を賭けた浜田vs松本の本気予想対決!」)もありましたけど、ザ・マミィ酒井(貴士)さんの『ガキ使』(ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!/日本テレビ)七変化が本当に素晴らしかったです。歴代1位の賞金額でしたね。
澤部 あの楽器はトークボックスっていうんですけど、あれはミュージシャンにとってもちょっとおもしろアイテムなんですよ。でもオーバーグラウンドで使ったのはL’Arc~en~Cielのkenさんくらいで、酒井さんはなんていいところに目をつけたんだと思いましたね。
白武 新しい道具を見つけてきて、それの最適解を一発目でやるっていう二段階のすごさがありました。あの日は浜田(雅功)さんがお休みだったんですよ。松本(人志)さんもオンエアでおっしゃってたんですが、浜田さんがいないせいか全体的に笑いが起きやすかったと(笑)。そういうところも込みで、酒井さんはすごい持ってるし、びっくりするぐらいおもしろかったですね。
澤部 そうか、浜田さんがいないメリットがあったんですね。確かに全員ドッと笑ってた。個人的には、お笑いとはちょっと違うかもしれませんが上半期だと『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)最終回も挙げておきたいです。本当に最高の最終回でした。
白武 歴代の名場面とか振り返ってほしいところだけどそれはやらない、かっこいい終わり方でした。ネットに出てるタモリさんのレシピを訂正するっていう。
蓮見 コントの設定としていいですよね(笑)。
澤部 振り返ったりしないのがタモリ的だなと思いながら観てました。逆に新しく始まったものでいえば、『ランジャタイのがんばれ地上波!』(テレビ朝日)や『週刊ダウ通信』(テレビ朝日)は必ず観てます。『がんばれ地上波!』の「ブチギレ王決定戦」はあらゆる意味で凄まじかった。
蓮見 小峠(英二/バイきんぐ)さんとヤマゲン(ネコニスズ)さんがずっとおもしろい。
奥森 ヤマゲンさん、「2代目MOROHA選手権」でもおもしろかったです。
澤部 『ダウ通信』も『がんばれ地上波!』もそうなんですけど、正統な意味でザワッとするテレビがちょっとずつ増えてきてるような気がして、それがいいなと思ってるんですよね。「ザワッとさせたい」というここ最近の潮流も楽しんで観てるんですけど、そうではないタイプの、本音の部分からザワッとするものも増えてるのかなって。
蓮見 自分らもそうなんですけど、たぶん“テレビの人”じゃない人に任せてもらった企画のほうがザワザワするのかなとは思ってます。そっちのほうが生モノ感があるし、テレビでそれを観られるうれしさみたいなものが増えてきてるというか。しかもそれがTVerのおかげでちゃんと届くじゃないですか。
高比良 『ラヴィット!』的な流れはつづきそう。マンゲキ(よしもと漫才劇場)のコーナーライブをほぼそのままやっているようなものなのに、あれを関東の人がテレビとして観てる状況は不思議な気持ちになります。
澤部 『耳心地いい-1グランプリ』初代優勝がシオマリアッチって時点でどうかしてますからね(笑)。
白武 『ラヴィット!』はどんどん最高のかたちになっていってますよね。一方でTVerとかSNSの熱量は高くても終わってしまうおもしろい番組は多い。結局まだ視聴率のほうが重視されていて、でもTVerの数字も大事で……というのが難しい。
原田 そうなんですよね。深夜番組ではTVerが回ればひとつの評価になりますが、やっぱりいわゆる「GP帯」は視聴率が大事だとされているので、なかなか難しいところです。
澤部 テレビマン的にはそうなんですね。
高比良 そういわれてみると実はお笑いブームは今、最後の輝きだったりするのかな。実際、このままの熱量でいくと観る人も疲れちゃうのかもしれない。そういう気配は感じます。
蓮見 でも、配信が定着したことで会場の規模も大きくできるし日数も増やせるようになってきてるんで、テレビに出ないでも食ってはいけるんですよ。俺らの場合、テレビは俺が好きだからやらせてもらってる状態です。そういう人が増えていく気はします。ずっとお笑いが流行ってる結果としてお客さんの母数も増えてるだろうし、各々が各々のやり方をしていけばいいのかなって。
高比良 ブームと文化のターンがあるとしたら、これからは文化のターンになるってことなのかな。
澤部 音楽は冬の時代というか、ロックやポップは聴く人が本当に少ないんで、輝いて見えますよ。お笑い好きとしてうれしい……!
白武 下半期は『M-1』と『KOC』もあるし『トークサバイバー!(~トークが面白いと生き残れるドラマ~)』(Netflix)のような大型プラットフォームの新作もあるし、コロナが緩和されたあとのテレビの改編もどうなるのか楽しみですね。
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