評価真っぷたつが続出した『R-1』で無名のダークホース・田津原理音が優勝「どんな人生!?」(てれびのスキマ)

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テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。

『R-1グランプリ』『ENGEIグランドスラム』

ウエストランドの漫才での「夢がない」発言を意識したようなオープニングVTRから始まった今年の『R-1』。審査員は去年と同じ5人。陣内は「去年、もうひと展開欲しいって言ってプチ炎上したんで今年は『もうひと展開』と言わないように」と笑わせるが、まさか最後にまったく違うところで矢面に立たされるとは。

今回とても印象的だったのは、カベポスター永見に野田、小籔のふたりが最高得点をつけたのに対して、バカリズム、陣内が最低得点をつけたことが象徴するように評価が真っぷたつに割れる場面が少なくなかったこと。これは複数の審査員を起用しているのだから、悪くないことだと思う。特に永見のネタはバカリズムが「フレーズ以外のすべてを排除」と表現したように、潔いほどの羅列ネタ。バカリズムが「すべてに破壊力がないといけない。そう考えると若干の強弱があった」と減点したのに対し、小籔は羅列ではあるが「言われたあとにパッと自分で絵が浮かんでもうて」「こっちに預けてくれて絵をふくらませてくれた」と評価。このあたりの賞レースにおけるお笑い観の違いが如実に出ていてとても興味深かった。あと、「テンション」にこだわるザコシショウもとてもらしくていい。

また今回は、そんな羅列ネタになりがちなギャガーが構成を練ってコントのようにパッケージ化していたり、フリップネタをフリップからスライド形式に見せ方を変えたりといった工夫が随所にされていたのもおもしろかった。

そんななかで、もともとはフリップに書いていたのを本当にカードにして、「開封動画」のように見せた田津原理音は出色だった。しかも途中、どんどんめくっていきちゃんと見せないというのも新しい。見られないと見たくなってしまうもの。あとからどんなカードがあったか見直してしまう欲が抑え切れず、「魔界のシルクハット」のあとを確認すると「野球経験無いのに素振りしだす男」「先にライスだけ出してくる男」「スタート地点分からないテープ」「自分のコップが分からなくなった男」「説明不足がすぎる遊具」「インナーの数自慢してくる男」「凹んでる原因が分からないペットボトル」「粗大ゴミにやたら敏感な男」「なにがなんでも降りない男」「雪では濡れないと思い込んでる男」「紛らわしいフォームで携帯触る男」「乾かしながら喋ってくる男」と、ちゃんとおもしろい。「ステージ上でやるのがベストなのかっていうところが気になっちゃいました」とバカリズムこそ低評価だったが、ザコシ、野田、小籔が最高得点をつけ、文句なしでファイナルステージへ。

もうひとりは最後の最後で寺田寛明をかわして、コットンきょんが進出。個人的には、1本目は田津原と寺田が好きだった(「雷」だけ人気の「付和雷同」、最高!)ので、寺田の2本目が見たかった。

あと1本目で印象的だったのは、野田がサツマカワを「身ひとつでやってきたのがカッコよ過ぎて」「芸人としてカッコいい。惚れちゃいます」と評したシーン。それに対し「ラッキー」と照れ隠しのように軽く返したサツマカワに野田も「イケメン」「優しい」と冗談っぽくなるようにつづける。そのサツマカワの得点で、同じ「怪奇!YesどんぐりRPG」の盟友・アキトの敗退が決まってしまう。「野田さん、去年、身ひとつでやってたじゃないですか」とアキトが抗議して自分のギャグをし始めると野田「ダサいなあ(笑)」。

そんな一連のやりとりに芸人らしい含羞を感じたし、そのあと「10年間ありがとうございました」と頭を下げるアキトにグッときた。

ファイナルステージの審査では、やはり2-2に割れ、最後に発表される陣内の票で決することになり「待て待て待て!」と慌てる陣内がやたらおもしろかった。評価真っぷたつ続出の大会で優勝したのが出場者の中で最も無名ともいえるダークホース・田津原理音というのは夢がある。しかも、濱田祐太郎、ゆりやんレトリィバァにつづきNSC大阪校35期から3人目という快挙に驚く。

あとプレゼンターとしてスポンサーであるシブサワ・コウ本人の登場に思わず声が出た。ゲーム好きの野田やザコシもテンションが上がったのではないか。

「どんな人生!?」とひと言しか優勝コメントを言えない慌ただしさから、『ENGEIグランドスラム』生放送へスムーズに移行。岡村が田津原に話を聞く時間もあってよかった。

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(C)カンテレ

ウエストランドの漫才から始まった『ENGEIグランドスラム』では、バカリズムが「まぁまぁ地獄」と『R-1』の冒頭に言っていたように、審査をしたバカリズムやザコシショウ、さらに司会だった霜降り明星もネタを披露する過酷さ。広瀬アリスも体調不良の松岡茉優に代わってMCを務める強行軍。『R-1』が前座のようになってしまう構成は正直どうかなと思ったけれど、戦いを終えたあとの楽屋中継があったり、大トリが新王者・田津原だったのは、とてもよかった。ザコシショウはそのあとの『お笑い向上委員会』にも3番組つづけて出演。八面六臂の大活躍だった。

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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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