片乳キャバ嬢、シャンパン童貞。キャバクラで武勇伝にならない失敗をしないために(本日は晴天なり)

本日は晴天なり

文・イラスト=本日は晴天なり 編集=梅山織愛


お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、本日は晴天なり。

今回はキャバクラになくてはならない“お酒”にまつわるあれこれを紹介。お金の話から失敗談まで、お酒を楽しむために心得ておくべきこととは。

キャバクラでのお酒事情

キャバクラではキャバ嬢たちもお酒を飲む。お客様に「私も一緒にいただいていいですか?」と尋ねることもあれば、お客様から「何か飲みなよ」と言ってもらえることもある。

私が働いていたお店は、さすがの優良店。頼まずとも、「何か飲みなよ! 頼んでいいよ! 一緒に飲もうよ!」と言ってくれるお客様が本当に多かった。

お客様が入れたボトルのお酒をいただくこともあるが、ヘルプはだいたいボトルとは別に1杯オーダーする。ボトルのお酒はどれだけ減っても1円も入らないが、1杯頼んで飲めば自分の売り上げにつながるからだ。もちろんボトルを飲んでと言われたらそれまでだが、お酒の種類によっては苦手なものがあると、お酒が好きな人はわかっているので、あまり無理強いしない。

私がいた店ではキャバ嬢が飲むドリンクは1杯700円だった。ほかの店に比べると拍子抜けするほど安い。初めてのお客様で「え? ドリンクって1杯いくらなの?」とビビりながら聞いてくる人もいるが「700円です」と言うと、「え、安いね! どんどん飲んでいいよ!」となる。

私がいたほかのお店では、だいたい1杯1000円~1500円が相場だったため「安いね!」と思うのは納得である。そこらへんにあるBarと同じ価格だ。ぼったくりBarだと1杯3000円くらいするところもあるらしい。

1杯199円の底辺価格の居酒屋にしか行かない芸人モードのときにこの価格を聞くと、初対面の異性に絶対にご馳走したくない価格ではあるが、キャバ嬢モードのときは“700円をケチるならキャバクラに来るなよ”と思っていた。

お酒が本当に好きなキャバ嬢もいるが、お客様の席でお酒を飲む理由はほかにある。それはもちろん売り上げのためだ。お店の売り上げにもなるが、キャバ嬢個人にドリンクバックたるシステムがあるため、 1杯飲むごとに100円が給料にプラスされる。飲めば飲むほどチリツモで稼げるため、飲めるなら飲むに越したことはない。

店によってバック率はさまざまだが、私の店ではある時期から突然、10杯飲んだら1杯のバックが200円になる夢のシステムが導入された。9杯飲めば900円だが、10杯飲めば2000円になる。7杯くらいまで飲むとボーイさんがお客様にバレないように隙を見て指で今何杯飲んだか合図してくれた。

キャバ嬢側のドリンクはメガジョッキで出てくるわけではなく、小さめのグラスなので意外と何杯でも飲めるが、もともとお酒が弱い私は途中、どさくさに紛れてソフトドリンクを頼んだりしていた。

たまに“こんなに飲んでるのに、この子なんであんまり酔っ払ってないのだろう? もしかしてこれジュース飲んでる?”などと疑って「これお酒入ってる? ひと口もらってもいい?」と確認してくるお客様もいた。「友達とご飯を食べに行って自分がご飯を食べてるときに目の前でその友達が何も食べてなかったら気まずいのと同じで、自分がお酒を飲んでいるときは一緒に飲んでほしいものなのだ」と酒豪キャバ嬢だった妹に言われてハッとしたことがあった。

だからといってチェックまでしてくるのはどうかと思うが、コロナ前はよく見かけた光景だった。

お酒に700円は出せるけど、ソフトドリンクなら話は別だ!といった考えの人もいたのかもしれない。はたまた、女性は酔うとエロくなる、という神話を信じている人もいたかもしれない。とにかく、お酒を飲んでる人はなんとしてでも一緒に飲みたいものらしい。

確かめられたときにウーロン茶や緑茶だと、お酒が入ってないのがすぐバレてしまう。バレてがっかりされているヘルプの子をよく見かけた。

そんなときはアセロラジュースや甘いストレートティー(紅茶)にしておくと、味になじみのない人は「カクテルってこんな感じの味だっけ?」となり、意外と誤魔化せるのである。お茶類でいうとジャスミン茶も、やはり味になじみがないので一口くらいであればごまかせる。

まあ、お客様がベロンベロンだったら、どれだけ疑われても「酔っ払い過ぎてわからないだけでしょ」と言い切っても問題はない。

700円をめぐる駆け引き

さて、先ほども話したように、だいたいの人が何も言わなくてもごちそうしてくれる魅惑の700円ドリンク。このドリンクをめぐってキャバクラではさまざまな駆け引きが繰り広げられるのである。

一度でも来店したことのあるお客様なら、気前よく飲ませてくれる人なのか、なかなか飲ませてくれない人なのかは把握済みだが、初めて来店するお客様はどんなタイプなのか探りを入れるようボーイさんから合図されることもある。普段、自分からはめったに聞かない私でも、合図が来たらしぶしぶ「一緒に乾杯していいですか~?」なんて白々しく言ってみる。

「え~! お金かかるでしょ~?」
「700円ですよ」と即座にボーイさんが助け船を出す。
「え~、ドリンク入れたら何かしてくれるの?」
「そんなぁ~! 一緒にお酒飲みたいんですよ~」
「お酒好きなの? じゃあ、今度、居酒屋でたくさん飲もうよ」

な、ぜ、そ、う、な、る?

時給が発生しているから隣に座って飲んでいるのである。本気で居酒屋で飲もうと思っているわけではなく、いじわるを承知でこう返してくる人もいるが、信じられないことに大半は本気で居酒屋に行こうとしている。

本気でも冗談でもめんどくさいのは確かだが、何もせずにドリンクを飲ませてもらえると思ったら大間違いだ。と、思っているお客様は少なくない。“すんなり飲ませてもらえるほど甘くないんだよ”と、こんなところで社会の厳しさを突きつけるお客様もたまにいる。そんな話を聞くキャバ嬢なんてひとりもいないということに早く気づいてほしい。

どんなに真っ当な理由を説こうが、ケチな人のレッテルを貼られて終わり。その一択なのだ。この牙城は崩せない。むしろ崩せる理由があるなら聞いてみたい。

お客様側の飲ませてくれない理由は千差万別だ。「本気で好きだから金ヅルだと思われたくないから飲ませない!」という人もいた。そもそもお金払って隣に座ってる時点でその理由は破綻しているが、会いたい気持ちは優先するという自分の中でのルールがあるのだろう。それなら「好きだから何杯でも飲ませちゃう!」であってほしい。

単純に「給料前でテヘへ」な人もよく見かける。「お金がない」と言われたらもう手の打ちようもないのだが、「給料前だからごめん」と言ってきた人に「さっき砂利を食べたので喉が乾いていて1杯飲みたい」と懇願したときは、すぐに飲ませてもらえた。給料前で本当にお金がない人はそもそも店にすら来られないはずなので、来てる時点できっと700円はある。しかし、もうすっからかんで家までは定期があるから帰れるレベルのギリッギリのパターンも、もしかしたらあるのかもしれない。

意外と厄介なシャンパン

700円ドリンクのほかに、自分の指名客の席ではボトルが入ればボトルバックがあり、シャンパンが入ればシャンパンバックがある。とにかく稼ぎたいキャバ嬢は1円でも高いお酒を1本でも多く入れてもらい、自分の給料に反映させたい。

しかし、お客様のお酒を飲むペースにも限度があるし、5~10人前後の大勢で来ていればあっという間になくなるお酒も、ひとりで来ているお客様の席では、絶望的に減らない。シャンパンが入ったときには、飲み要員的な酒豪ヘルプ嬢が必要不可欠になってくる。

お酒がまったく飲めないキャバ嬢の席でシャンパンが入ったら、ボーイを務める男性従業員も加勢する。シャンパンは一度開封したら飲み切らなくてはならないため、お店総出でお酒を減らしに行くのだ。

シャンパンを飲んだことがある人はわかると思うが、普通のお酒よりとにかく酔う。あとからくる! その瞬間は平気でもあと追いのダメージがハンパない。初めてシャンパンを飲む“シャンパン童貞”が、ジュースみたいだとガバガバ飲んで、トイレで撃沈するというダサい姿を何度も目撃している。シャンパンで失敗するダサい男。

本日は晴天なり

若い男性にありがちな罠なので、年長者が常連の渋谷の店ではほとんど見かけなかったが、シャンパン童貞のやらかしはほぼほぼフォーマット化されている。

初めて飲んだときはただの炭酸ジュースのように感じるようで、シャンパン童貞はガバガバと飲んでしまう。「余裕! 余裕!」と言いながら数十分後には卓ゲロ(席で吐くこと)してるお客様を何人も見てきている。シャンパンを飲むことが大人の仲間入りだと感じたのだろうか。

「え、飲みやすい! 全然飲めちゃう!」とか言ってる。必ず言っている。偏見だが、シャンパンをおいしいと言う人は全員強がりだと思っている。率直に「マズイ!」と言いながらも、お祝いの場だからしゃーなしにシャンパンを開けるというお客様も少なくないからだ。

卓ゲロした脱シャンパン童貞が、涙目で床にうずくまり無様に吐き散らす姿はなんともみっともない。苦しいだろう、つらいだろう、気持ち悪いだろう。少しかわいそうな気もするが、誰に煽られたわけでもなく、カッコつけて自らグビグビと飲んだせいなのだ。ただ、遅かれ早かれシャンパンとはグビグビ飲むものじゃないと知れたのだから、私はシャンパン童貞を捨てたお客様を見るたびに、“ひとつ成長できたね、よかったね”と優しく祝福している。

ちなみに私は、そもそも炭酸が飲めないし、お酒も弱いので、飲み要員としてはまったく役に立たない部類だった。
ガタイのデカさから、一升瓶を片手で抱えて山賊のように飲んでいるイメージを持たれがちだが、甘いカクテル2杯で気持ちよくなれる実にコスパのいい体質なので、うまくごまかしつつも何度かピンチに陥っている。

キャバ嬢には酒の強さも大事

お客様が酔っぱらいの悪ふざけで芋焼酎のロックを私に差し出したことがあった。正直、ぺろりと舐めるので限界だった。お客様がトイレに立った隙に私はもう、こぼすしかない!と究極の裏技を思いつき、おしぼりを集めようとした(おしぼりの塊に吸わせるため)。

すると、酒豪キャバ嬢が私のお酒を手に取り、ぐいっと飲み干してウインクした。惚れてまうやろ~と思った。いやもう惚れていた。そしてトイレから戻ったお客様にはもうその話題には触れさせませんと言わんばかりに別の話題を持ちかける。

その酒豪キャバ嬢はナンバー1だった。彼女は持ち前の肝臓と魅力的な容姿と立ち居振る舞いで、一度は憧れる酒豪ライフ(ナンバー1キャバ嬢)を謳歌していた。

本当に余談だが、歌舞伎町でナンバー1だった私の妹も酒好きの超大酒豪だった。その肝臓の強さを活かしてなるべくしてナンバー1に君臨していたのだ。

酒癖の悪いキャバ嬢は物を壊したりお客様に失礼を働くこともしばしば見受けられるので、ボーイさんが飲むのを制御することもある。それでもがんばり過ぎて撃沈するキャバ嬢はよく見かけた。裏の非常階段で寝ていたり、トイレのカギを占めたまま中で爆睡したり、時には店から脱走してしまうキャバ嬢もいた。

公の場で話せる範囲のエピソードだと、非常階段の曲がり角の少し広くなっているところに、明らかに人間のう〇ちが落ちていたことがある。落ちていたというか、そこに“した”感じだった。酔っぱらって我慢できなかったのか、そもそもうちの店のお客様なのかもわからないが。

私も20代のころ、勤め先の店のトイレで吐きながらう〇ちを漏らしたことはあったが、トイレで漏らすのはほぼセーフだと思っている。非常階段は非常識だ。

六本木で働いていたころ、知り合いのキャバ嬢がべろんべろんで交差点を渡ってくるのが見えた。彼女は私に気がつくと「おーい! 今からコンビニでアイス買うのー!」と手を振ってきた。そんな彼女は裸足で、片方のおっぱいが出ていた。

大人ならお酒のエピソードのひとつやふたつあって当然だとは思うが、避けて通れるに越したことはない。「武勇伝」と言えば聞こえはいいが、ただやらかしているだけである。

キャバクラだけでなく、飲み会や合コンの場でも、お酒にはじゅうぶんに気をつけてほしい。

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