「すべての行動は赤ちゃんからの声」YeYeが妊娠中に救われた言葉

2020.1.18

文=YeYe


「昔から感情がおかしい」と自称するほど涙を流しやすい、シンガーソングライターのYeYe。2017年の妊娠中には、さらにいろんなことで泣いてしまっていた。それだけでなく、重いつわりに悩まされ、体調だけでなく気持ちも重く落ち込んでしまう。

そんな日々を救った、先輩おかあさんからの助言。それはどんな言葉で、彼女の考え方をどのように変えたのか。

※本記事は、2017年12月26日に発売された『クイック・ジャパン』vol.135掲載のコラムを転載したものです。

お腹の中の司令塔

今日も泣いた。高校生のころ、喋ったこともない教育実習の先生が帰るときにクラスの中でひとりだけなぜか涙を流してしまうくらい昔から感情がおかしいのは変わらないのだが、お腹にあかんぼうが誕生してからもっとえげつないくらいどうでもいいことでも泣けてくる。 オットのこんなことで泣いてたっけな、ドラマのこんなシーンで泣いてたっけな、お気に入りの上着が見つからないだけで泣いてたっけな、という具合に。

なんならもともとおかしいうえに初めての妊娠が海外だったのもあって、おかあさんのホルモンバランスは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でドク博士がつくった大きなスピーカーでマーティが吹っ飛ぶシーンくらい、ぶっとんでいるのだ。おそろしや。

涙腺崩壊だけじゃない。オカンになるにはいろんな試練が待っている。もっともしんどかったつわりの時期、オーストラリア・メルボルンでの生活では、「じゃがりこ食べたいねんけど。ゼリー食べたいねんけど」という気持ちに応えてくれる気の利いたコンビニがあるわけもなく、ひたすらベッドとトイレ(トイレめちゃ近い)の往復。

ほんでひたすら気持ち悪い。吐いたらすっきりするのに、吐けない状態が起きている間ずっと続く。1週間で終わる風邪のほうがよっぽどマシだった。この永遠のようにも思える絶妙な気持ち悪さは、からだが気持ち悪いことよりも、メンタルのほうがやられてくるのだ。なんだこれは!

想像していた妊婦生活と、なんかちゃう。世の中にはおかあさんがいっぱいいるけれど、こんなにしんどかったなんて聞いてない。みんなしれっと我が子の手を握ってなにごともなかったかのように街を歩いているが、全員が全員じゃないにせよ、だいたいのオカンたちはこの“ダークサイドゾーン”を経験していたのだ。すごいやん。なんだこれ……。

「すべての行動は赤ちゃんからの声」

そんな絶望の淵に立たされていたときに、わしがこの世でもっとも尊敬する女性(男の子3人の肝っ玉おかあさん) からもらった助言がある。

「すべての行動は赤ちゃんからの声」

救われた。号泣しても、イライラしても、落ち込んでも、すべてあかんぼうからの声。「おかあさん、泣いてもいいで、イライラしてもいいで、いま落ち込んでもいいんやで」なのだ。と、調子に乗りすぎると若干勝手な大人の都合的解釈にもなるが、すっごく救われたのであった。

調子に乗りすぎると、と書いたのはもちろん逆もあるということである。例えば、ショッピングへ出かけた際にお腹にあかんぼうがいないころと同じペースであの店も行ってこの店も行って、「ふふふ、こんなにショッピングしたいってことやんね、あかんぼうよ」なんて呑気にいつもどおり過ごすと、グーパンチを食らう。「おいおかん、動きすぎや、やめとき令」がくだされるのだ。否応なしに妊娠前とは違う現象が起こりまくるお腹のあかんぼうとの生活、彼らは完全に司令塔である。

こんな言い方していると、あかんぼうに仕えるただの召使いのようにも聞こえるが、そんなことはない。実は感謝だらけ。自分は今までなんて浅い呼吸で生活していたのだろうだとか、なんでもできると思っちゃって、どんなペースで動き回ってたねんと。

お腹のあかんぼうとの生活は、つまるところ“罪悪感を感じるくらいのペース”がちょうどよい。人類のリレーを担っているのだから、歩くのが遅くたっていい、家事が遅くたっていい、眠いなら眠ればいいのだ。

最初こそガタガタだったまだ見ぬ我が子との足並みも、最近ようやく揃ってきたような気がする。こうやって産まれるころには完全にグルーヴィーして、また生まれてから今度はこの世で家族3人やっていくのだ。おかあさん喋り方変みたいやけど、なかよくしてね。とにかく無事で健康に生まれてくる日を待ってるからね。

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