年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、21歳・タレントの奥森皐月。今回は、12月21日に放送された『M-1グランプリ2025』敗者復活戦と決勝戦の見どころを振り返る。
目次
準決勝の時点で異例続き!波乱の敗者復活戦
『M-1』が終わった。凄まじい大会であった。
12月21日に敗者復活戦と決勝戦がテレビ朝日から生放送され、漫才日本一を決める熱き闘いが繰り広げられた。今年の『M-1』は「新時代」の兆しを感じる、いつにも増して“読めない”展開だったと思う。

2025年大会は、準決勝の時点で異例続きであった。エントリー総数11,521組から準決勝まで進出した31組のうち、“他事務所”と呼ばれる吉本興業所属ではないコンビは13組もいた。これは現状の予選システムになって以来、最多の組数である。
ちなみに事務所数は吉本を含めて11社と、幅広いお笑いシーンから選出されている印象だった。
また、決勝進出経験のある組が7組しかおらず、最高戦績が「3回戦以下」という組は6組もいた。フレッシュな顔ぶれに移り変わっているのがよくわかる。
その結果、敗者復活戦のメンバーの多くは、『M-1』をテレビで観ている視聴者にとっては新鮮なラインナップだったのではないだろうか。ミキとカベポスター以外の19組は勝ち上がれば初決勝という、波乱の敗者復活戦。
【敗者復活戦 Aブロック】「大阪吉本勢」の存在感が示される

Aブロックトップバッターのミカボは、勝ち残りシステムで不利な状況のなか、インパクトを与える『○×クイズ』のネタを披露した。
会場に熱気の渦を生み、ネタ中のキーワード「徳永英明」がXでトレンド入り。今年の全体を通して素晴らしかった『M-1グランプリ』影の立役者はミカボだと個人的に思っている。

Aブロックトリの20世紀は、予選の勢いそのままにダイナミックでエネルギッシュな『ハンカチ』のネタで会場の空気を持っていった。
直前のネコニスズもかなり盛り上がっていたが、44%対56%という僅差で会場票を獲得し、見事トリからのブロック勝ち上がりを果たした。この時点でうっすらと、今大会での「大阪吉本勢」の存在感が示されていたように思う。
【敗者復活戦 Bブロック】ラストイヤーの意地を見せたカナメストーン

Bブロックは、昨年の敗者復活戦で頭角を現したひつじねいり・例えば炎が活躍したものの、カナメストーンがラストイヤーの意地を見せた。
零士さんの「くそう……ピアノと一緒に宙に浮いてどっか行かせたくない……!」というセリフが妙に印象に残っている。

一方で、Bブロック最後に登場したカベポスターは、決勝経験者の余裕を感じるような貫禄で、カベポスターらしさを感じる「あだ名」を題材としたネタを披露。
私はこのネタが敗者復活戦の中では一番好きだったのでどうなることかと思ったが、41%対59%でカナメストーンが勝利を収めた。
カナメストーンはこれまでずっとライブシーンで観てきたコンビなので、本当にこのまま決勝に行くかも……と思うとなぜかこちらが緊張してしまう。ただ、『M-1』の舞台でもいつもどおり、山口(誠)さんが零士さんの機嫌を取っていたので安心した。
【敗者復活戦 Cブロック】タイプの違うネタが集うワクワク感
Cブロックは最年少の生姜猫に始まり、結成1年未満の大王や、ユニットの今夜も星が綺麗が登場。タイプの違うネタが集ったワクワク感があった。

そして登場したもうひと組のラストイヤー、黒帯。2018年から2024年まで7年連続準々決勝敗退という、実力者でありながらなかなか日の目を見ることがなかったコンビ。本当におもしろいので、ようやく敗者復活の舞台で観られたのはうれしかった。
見事、ここまで連勝していた大王に49%対51%という接戦で勝利。この勢いで「カナメストーンvs黒帯」というラストイヤー対決が観られると思った矢先に登場した、ミキ。

こちらも決勝経験者の貫禄と、圧倒的な舞台経験数を感じる威厳。それまでも当然素晴らしい「漫才」だったが、ミキのネタからは脈々と受け継がれてきた文化としての「漫才」を感じた。
以前の『M-1』の審査員であれば、ミキの今回のネタは優勝さえあり得たと思う。それくらい完成度が高く、上沼恵美子さんが「フアンになりました」「達者」とコメントするのが見えるようなネタだった。
しかしながら、審査員や『M-1』におけるおもしろさは刻一刻と変容していっている。Cブロックは勝ち上がったものの、5人の審査員による最終投票ではカナメストーンが選ばれた。

ミキの漫才を『M-1』で観たのは2022年の敗者復活戦以来だったが、また来年以降、決勝の舞台でミキの漫才を観たいという気持ちにさせられた。
これまでとは違う『M-1』を作る審査員の並び
2023年・2024年と令和ロマンがチャンピオンに輝き、2連覇という偉業を達成。今年の大会キャッチコピーには「はじめましょう。」という言葉が使われ、2025年はこれまでとはまた違う『M-1グランプリ』が始まる予感があった。
今回の決勝戦の審査員は昨年同様の9名。7名は昨年から引き続き同じメンバーだったが、NON STYLE石田明さん・オードリー若林正恭さんの2名が変わり、フットボールアワー後藤輝基さん・ミルクボーイ駒場孝さんが初の『M-1』審査員となった。
ナイツ塙宣之さんとアンタッチャブル柴田英嗣さんを除く7名は、関西出身の吉本の芸人さん。この審査員の並びが、これまでとは違う展開の『M-1』を作るひとつの要因だったようにも感じる。
1番手がヤーレンズ!新しさも感じる圧巻の漫才
例年どおり、出番順は“笑神籤”(えみくじ)で決定する。数多くのドラマがこのくじで作られていたと思うが、今年も出番がかなりカギとなっていた。SNS上でも「あのコンビが後半に出ていれば」「前半に出ていれば」といった声が見かけられた。

やはり驚いたのは、1番手にヤーレンズが選ばれたこと。3年連続決勝進出の準優勝経験者という強力な優勝候補がいきなり登場することとなった。
しかし「トップバッターが不利」というジンクスは年々薄れてゆき、2年連続トップだった令和ロマンが2年連続で優勝を果たしてしまった。そのため、むしろ期待ができる出順ともいえる。
いざ始まると、3年連続ファイナリストというハードルの高さを華麗に飛び越えるかのような、ヤーレンズらしさと新しさをどちらも感じる漫才。MCや審査員に触れる落ち着きも見せ、圧巻の4分間であった。
気になる審査員の評価は、91〜97点とかなりの高得点。コメントも賞賛の言葉が続いていた。漫才コントではないスタイルにもヤーレンズのラジオについても触れた駒場さんのコメントは、出場者とお笑いへの愛がある素晴らしい審査員であることを感じるひと幕であった。
「漫才は言葉で絵を描きなさい」圧倒的な実力のエバース
1stラウンド1位の点数を獲得したのは、4番目に登場したエバースだ。惜しくも決勝4位だったところから1年、メディアで活躍しながらも『M-1』予選では圧倒的な実力を見せつけていた。

準決勝の時点でもエバースは頭ひとつ抜けて会場のウケをかっさらっており、よほどのことが起きない限り優勝は確実といっていいほどの仕上がり方だった。
1本目に披露した『車』のネタは、合計870点という『M-1』史に残る超高得点。今回の審査員は全体的に基準点が高かったようにも見受けられたが、中でも柴田さんが98点、塙さんは99点と、近年稀に見る高得点をつけていた。
内海桂子師匠の「漫才は言葉で絵を描きなさい」という言葉を用いた塙さんの審査コメントは、わかりやすく胸に刺さった。漫才の良し悪しが具体的にはわからない視聴者としても、納得できる価値観のひとつだと感じた。
注目の2組「西のたくろう、東のドンデコルテ」
今大会で注目していたファイナリストの2組が、ドンデコルテとたくろうであった。
どちらも実力者でこれまでもずっとおもしろかったが、今年はさらにパワーアップしていた印象。芸人さんの間でも「西のたくろう、東のドンデコルテ」と言われていたらしい。
その期待を裏切ることなく、7番手で登場したたくろうは861点、続いて笑神籤を引かれたドンデコルテは 、5年連続決勝に進出した真空ジェシカに1点勝ち、845点を叩き出した。
究極のネタを披露したエバース、安定の真空ジェシカ、独自のワールドを繰り広げるヨネダ2000というテンポのいい展開から突如現れたたくろうは、大会の空気を一変させた。

『リングアナ』のネタは、きむら(バンド)さんと赤木(裕)さんが交互にリングアナとして選手の紹介プロフィールを言っていくシンプルな構成。
このシステムをお客さんが徐々に理解し、どんどん笑いが増幅していったさまは、2019年のミルクボーイの初決勝を想起させられた。
初見でも伝わる「挙動不審」キャラの赤木さんは、たった4分で虜になる魅力がある。その点では昨年大会におけるバッテリィズのエースさんにも通ずるものがあるように思う。
たくろうのネタに、駒場さんが10組の中で最高得点の97点をつけていたのも、運命めいたものを感じた。

そのいい流れにさらに食らいついたのが、ドンデコルテ。40歳でおじさんキャラの渡辺(銀次)さんは、『M-1』とは思えない、どちらかといえば『THE SECOND』のような風格と堂々とした姿勢で、観る者を一気に引き込んだ。
現代社会の問題を取り入れ論理的に話しているにもかかわらず、バカバカしさもあって笑ってしまう。これまた新しい、近年の『M-1』にはなかったスタイルは非常にインパクトがあった。
流行りのワードが入っているわけではないのに、価値観や物事の捉え方が見事に現代にマッチしている。「言語化」という言葉が多用されるようになった2025年にふさわしい漫才だと感じた。
『M-1』の最終決戦は、ひと筋縄ではいかない
最終決戦は、圧倒的な実力を見せつけたエバースに、初の決勝でインパクトを残したたくろうとドンデコルテが挑むような三つ巴の構図になった。
ただ、点数的にもエバースがダントツであり、1本目と同じくらいの盛り上がりがあれば優勝だと思っていた。
しかし、ひと筋縄ではいかないのが『M-1グランプリ』の決勝である。
【1組目:ドンデコルテ】ヘビーなセリフなのに、なぜか笑える
1組目はドンデコルテが「街の名物おじさん」を題材としてネタを披露。1本目で演説じみた渡辺さん口調からある程度キャラはインプットされていたが、より濃く深く渡辺さんを知ることができるような展開で、心を奪われた。

1本目のネタに比べ、2本目のほうが小橋(共作)さんとのやりとりのおもしろさも多かったと思う。「社会という意味の連続から逸脱する」というヘビーなセリフでなぜか笑えるすごさ。
この瞬間にドンデコルテのファンになった人も多いだろう。ドンデコルテに対して「鳥肌実」を並べて賞賛するSNS投稿も多く、来年以降新たなスターとして輝く予感。
【2組目:エバース】『M-1』のおもしろさと、難しさ
そして2組目に登場したエバースは『腹話術』のネタを披露した。このネタは今年の準決勝で最もウケていたネタだと思う。

しかし、順番や会場の空気やそのほか数えきれないほどの条件が重なり、予選ほどは盛り上がっていないように見えた。のちに佐々木(隆史)さんも「今まであのネタをやってきた中で、一番ウケなかった」と話していた。
完成度も高く、劇場でも手応えがあったネタでも『M-1』で勝てるとは限らないというもどかしさ。これが『M-1』のおもしろさであり、難しさだと感じた。
【3組目:たくろう】彼らにしかできない完璧なネタ
最後にネタを披露したのはたくろう。「ビバリーヒルズに住みたい」という話から始まるこのネタは、1本目のキャラクターそのままではあるが、1本目とは異なるシステム。
ただ、赤木さんの挙動や独特なしゃべり方を知った上で観ているので、自然とネタの世界に入り込むことができる。

近年の『M-1』は1本目と2本目が同じようなネタでより爆発するパターンと、2本目は少し落ち着いてしまうパターンがどちらも存在した。たくろうの場合はどうかと思いきや、ネタが2本とも近いようで別物だったので、相乗効果でウケていた。すごい。
繰り広げられる会話、ボソッとしたひと言、絞り出して答えるようなセリフ、すべてがハマり、爆発に近いウケ方をしていた。
これもミルクボーイが優勝したときと似ている。何度観てもおもしろい、たくろうにしかできない完璧なネタであった。
7年のブランクがあっても「あきらめない」こと
毎年、最終決戦の3組を観たあとには、なんとなく優勝を予想できていた。しかし今年は本当にどのコンビが勝ってもおかしくないと思うほどの、白熱した戦いであった。
9人の審査員なので、3票ずつになる可能性すらあると思った。もしそうなった場合はどのように優勝を決めたのであろうか。
結果的には、最後に登場したたくろうが審査員の心をつかんだようで、9人中8人がたくろうを選び、見事な優勝を果たした。

彗星のごとく現れたコンビが、そのまま爆笑を取って王者に輝く。そんな夢のような展開が久しぶりに『M-1』で巻き起こった。しかし、これこそが『M-1グランプリ』なのかもしれない。
結成10年のたくろうは、芸歴3年目の2018年に準決勝に進出したのが最高戦績であった。そこから今回の決勝進出までは7年のブランクがあり、これは新『M-1』で最長らしい。
一度いい成績を収めてから、なかなか結果が出ない期間を過ごした上での優勝。胸が熱くなる。
のちのインタビューや配信で、今回の決勝に上がるまでの苦悩の期間についても話していた。結果が出ないことで解散していく芸人さんも多いなか、ひたすら劇場に立ち続け、王者までのぼり詰めたのは本当にかっこいい。
ありきたりな表現にはなるが、「あきらめない」ことの素晴らしさを痛感した。
2本目のネタも直前まで悩み、決勝で披露した『ビバリーヒルズ』は11月にできたものだそうだ。粘り強く、くじけない、その力強さが優勝を勝ち取ったのではないかと思う。
出番前のコンビのキャッチフレーズが「軟弱の星」だったのも、下剋上感があって、あとになってよけいカッコよく思える。

一夜にして人生が変わる、そして新しい人生が始まる。こんなにも残酷で、素晴らしくて、絶望も希望もある。
新しい時代に突入しても、『M-1グランプリ』が権威のある大会であることは揺るがないことがわかった、2025年大会であった。
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