【イン・ザ・ライトブルー #2】藤﨑ゆみあ“強く柔らかく、世界を信じる”彼女が紡ぐこの世界への信頼

【イン・ザ・ライトブルー #2】藤﨑ゆみあ“強く柔らかく、世界を信じる”彼女が紡ぐこの世界への信頼

文=日比楽那 撮影=沈 小月 編集=藤井里音


底が抜けてしまった社会で感受性を失わないために、2000年代生まれの編集者とライターが同世代の感性に迫るルポルタージュ連載「イン・ザ・ライトブルー」

第2回は藤﨑ゆみあが登場。年齢を感じさせない芯の強さと、17歳の少女として等身大の爽やかさを持ち合わせる姿は見ている者を惹きつける。

2025年11月からNetflixにて配信がスタートした『イクサガミ』ではヒロインを演じるなど、活躍の場を広げ続けている彼女が「今」何を感じているのか、そしてその魅力に隠された感性に迫る。

藤﨑ゆみあ(ふじさき・ゆみあ)
2008年生まれ、広島県出身。『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(2023年、日本テレビ)にてドラマデビュー。『イクサガミ』(Netflix)では、映画デビュー作『パレード』(Netflix)の監督だった藤井道人のもとヒロインの香月双葉を演じる。

単身で上京しキャリアを歩むなかで得た気づき

自分が感じていることや考えていることは、言葉にして伝えようとしないと伝わらないんですよね。もともとそこまで自分のことを話す性格ではなかったんですけど、このお仕事とひとり暮らしを始めて、ちょっとしたことでも言葉にすると『そうなんだ』と受け止めてもらえるんだと知りました」

約2年半前、高校進学と同時に地元・広島から単身で上京した藤﨑ゆみあ。

慣れない土地で暮らし、俳優として本格的にキャリアを歩み始めたなかで、彼女はそう気づいたという。

その気づきは、彼女が出会う人々や風景、一つひとつの仕事に丁寧に向き合い、思いを言葉にすることにつながっている。

そして言葉にすることは藤﨑にとって、自身の感覚を確かめるためにも重要なのかもしれない。

「上京したばかりのころは、東京の人の多さ、物の多さ、あらゆることのスピードの速さに圧倒されました。学校に行きながら仕事をしていると、あっという間に時間が過ぎていきます。大切にしたい価値観や心地よいペースを考えながら暮らしたいと思っているけれど、まだ模索中です」

藤井監督のもとで多くの支えと学びを感じた『イクサガミ』

遡ると、2024年からNetflixで配信されている藤井道人監督作『パレード』で映画初出演。

中学生だった撮影当時を振り返って藤﨑は、「俳優とはどんなもので、どんな仕事なのか、何も知らなかった」と話す。

その後、ドラマやCMにも出演し、順調に活躍の幅を広げ、藤井道人監督によるNetflixシリーズ『イクサガミ』では、ヒロイン・双葉役に抜擢された。

2025年11月から配信がスタートした『イクサガミ』は今村翔吾による同名小説シリーズのドラマ化で、明治時代の京都・天龍寺を舞台に、さまざまな思いを背負った292名が命懸けの遊戯ゲーム「蠱毒(こどく)」に挑むさまが描かれる。

藤﨑はそんな本作で、「蠱毒」に巻き込まれ、岡田准一演じる主人公・嵯峨愁二郎と行動をともにする少女という大きな役を担う。

「自分のデビュー作の監督でもある藤井さんが信頼して任せてくれたことに対する感謝と、がんばろう、期待に応えたい、という思いがありました。主演でありプロデューサー、アクションプランナーでもある岡田准一さんに最初から『僕が教えるので』と言っていただいたのと、スタッフのみなさんがいい環境を作ってくださったおかげで、プレッシャーを感じることなく取り組めました」

初めて挑戦したアクションについてはこう話す。

動き、姿勢、呼吸、視線、一つひとつが合わさって、心と体を表現できるのがアクションのよさだと知りました。でも、カメラに映った自分の姿を見ると、表現しきれていないと感じることもあって。生死を描く作品だからこそ役を生きるうちに内側に入り込みすぎてしまうところがあったので、見せ方や技術面のレベルアップをより意識しました。岡田さんはもちろん、岡田さん演じる愁二郎の義妹・彩八を演じた清原果耶さんからも多くを学びました」

年齢に関わらずずっと、強く柔らかい心でいたい

そんな藤﨑の話しぶりからは、芯のある性格が窺える。趣味は、読書、料理、編み物、カメラ、散歩、キックボクシングと好奇心旺盛。一方で、あっけらかんとして「飽き性なので続かないこともあります」と笑う姿には素が滲む。

17歳らしからぬ大人びた表情を見せたかと思えば、あどけない、いわば17歳らしい表情を見せることも。子供と大人の狭間のような17歳という年齢について、彼女はこう話す。

「早く大人になりたい気持ちとまだまだ甘えていたい気持ちの両方があります。でもこのお仕事を始めて、若くてもプロフェッショナルな方や、ご年配でもアクティブな方に出会って、年齢に関わらずずっと、強く柔らかい心でいたいと思うようになりました」

「強さと柔らかさ」は自分が持っているものを知ることから始まる

「強さと柔らかさ」、それはたしかにこの時代を生き抜くのに重要な要素かもしれない。藤﨑の「強さと柔らかさ」を支えるのは何か。

「常に準備をしていれば『できる?』と聞かれたときに『はい』って即答できるようになると思っています。それに、準備をしていると、いろいろな方向から私のリュックにものを詰めてくれる、助けてくれる人がいるんですよね。いただいたものをなくさずに準備を続けて、出番が来たらいつでも飛び込めるのが、強さと柔らかさなのかな。自分を信じているというより、自分のことを信頼して、仕事を任せてくれる人たち、活動を応援してくれる人たちを信じています。そういう人たちの期待に応えられる自分になりたいです」

伝えようとしなければ伝わらないが、伝えたい思いがあれば、伝えようと努めれば、見ていてくれる人や力を貸してくれる人がいる。

では、準備とは。

「自分を作ってきた好きなことに触れる時間も、まったく新しいものに触れる時間も、準備になると思います。あとは、俳優は体力も心のエネルギーも使う仕事だと思うので、そういう意味でも準備が必要ですね。ほかにも、読書して自分とは違う価値観を知ること、料理や編み物で手先に集中して無心で作ること、お散歩しているときにふと『ああ、こういうときにこういう感情になるんだ』と気づくこと、すべてがお仕事につながる可能性があるので、いろいろなことをやってみて、自分が持っているものを知るのが準備になると思っています」

底が抜けてしまった社会で感受性を失わないために、この世界を信じて自分を表現する

最後に、他者に学びながら、比較して落ち込まないためにどんなことを意識しているか聞いた。

「私も自分が持っていないものを持っている人を見ると、いいなあと思います。特に仕事を始めたころは『あの人みたいになりたい』と思うことが多かったんですけど、なれないんですよね。私の場合、自分がコンプレックスだと思っていることに対して、『いいじゃん』と言ってくれた人がいたことで少しずつ自分の弱みを見せられるようになったかもしれません。とはいえ、まだまだ自分を否定してしまう自分もいるんですけど……。ただ、得意なことだけで戦おうとすると苦手なことがより苦手に感じてしまうので、なるべく隠さず見せていけたらと思います」

言葉にして自身の感覚を確かめる。伝えたい思いがあれば、伝えようと努めれば、見ていてくれる人や、力を貸してくれる人がいる。

自分を「強く」持ちながら、他者から学び、外からの刺激も「柔らかく」受け止めて吸収する。準備を欠かさなければ、きっと「強く柔らかく」在ることができる。

この連載は、「底が抜けてしまった社会で」と銘打っているが、藤﨑の言葉と在り方からは、この世界への信頼のようなものも感じられた。底が抜けてしまった社会で感受性を失わないために、この世界を信じて自分を表すことも大切なのだ。

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日比楽那

(ひび・らな)2000年生まれ。ライター、編集者。映画や音楽などアート・エンタテインメント、ユースカルチャー、ジェンダー、ウェルビーイングなどを中心に、広く企画、インタビュー、ライティング等に携わる。

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