1994年生まれ、大谷翔平世代のライター・奈都樹が駆け抜けた平成の時代のすべてをLOVE一本槍で語り尽くす新連載。恋に恋したあのころを、もう一度みんなで見つめ直そう!
初めてしゃべった言葉は「キムタク」
私の欲深さは胎児のころからだった。母体からボンッ!と堂々の3,780gで登場。どんだけ子宮で飯食った? 私が栄養を吸いすぎたせいで母の寿命はおそらく5年ぐらい縮まってると思う。それで親の話によれば、どうやら生まれてからもそんな調子だったらしい。くっつきっぱなしだわ、おっぱい吸いまくるわ、それでいて男も好きだわで忙しなかったらしい。
初めて覚えた言葉は「キムタク」である。メガネの取手くん(1)とあすなろ抱き(2)を誰も忘れられなかったあのころ。赤ん坊の私も例に漏れず、あの爽やかエロティックな美貌の虜となった。そして家族みんなが見つめるなか、私は好きな男の名前を呼んだ!「キ、キ、キ……キムタク」。
ちなみに2番目に覚えた言葉はたしか「パン」で、3番目は「お母さん」だったはず。「お父さん」はもっと先。たぶん父は私の欲望の対象ではなかったのだと思う。世知辛い。まあでもこの世の“お父さん”の多くは、家庭の外ではオトコだったりするみたいだし、いっか。
こうして私のLOVEはキムタクから始まった。『ロンバケ』(3)や『ラブジェネ』(4)あたりの記憶はないけれど、『SMAP×SMAP』(フジテレビ)のペットのPちゃん(5)や『眠れる森』(6)にはやたらドキドキさせられたことは覚えてる(私は他人の女を奪おうとする男が好き)。でもそんな私の初恋もむなしく、キムタクは工藤静香と結婚してしまうのだけど。
反町・竹野内時代の終焉
私が小さいころっていうのは、色気ムンムンワイルド男子がテレビを賑わせていて、家族の間では「『ビーチボーイズ』(フジテレビ)なら反町派?竹野内派?(7)」というわりとどうでもいい議論が毎夜繰り広げられていた。私は反町派だったので、竹野内派の母と6個上の姉からは「なっちゃんはチャラチャラしてる男が好きなんだね〜将来が心配だわ〜」と批判を喰らうはめになる。未就学児にそんなこと言うふたりもどうかとは思うけど、とはいえ学校で教えてもらわなくても竹野内派より反町派のほうが悪男好きであることは明白で、私も自分の未来が少し心配にはなっていた。実際その20年後にはヤング反町を引きずったような中年男に振り回されることになる。
にしても、気づいたらテレビの中の男性たちはだいぶマイルドになっていた。殴り合いなんてしなそうなかわいい系爽やかイケメンがあふれて、私も女の子に怒鳴るタイプをかっこいいとは思わなくなっていた。あれっていつから始まったんだろ……なんて三十路過ぎて考えることでもないけど、そうでもしないと気が狂いそうな世の中なので、息抜きがてら真剣に考えていた。で、岡田准一(8)と妻夫木聡(9)がその走りなのではという仮説が立った。
試しに『anan』の好きな男ランキングトップ10を見てみる。キムタクが1位を独占し始める95年あたりは、高橋克典、反町、竹野内、福山雅治とかやっぱりアダルト&ワイルドが主流なんだけど、98年以降は堂本剛(10)(もしくはなぜかKinKi Kids名義)もランクイン。まあでもあのころの剛はティーンエイジャーではあったにせよ、不良の香りはほんのり残ってて野生的だったよなあ……とか思ってたら、2001年にタッキー(11)を発見(10位)。
ギリギリのオトナたち(12)がなにかと女優やアイドルに癒やし系と肩書をつけてた時代があったけれど、あれは男のためだけではなかったようで、2000年7月6日号『女性セブン』には「滝沢秀明 この顔に大人の女は癒されたい シリアスな表情からおちゃめな笑顔までギリギリ大接近!」なんていう記事があったらしい。たしかにあのころのタッキーに攻撃性なんてものは皆無だった。へえ、妻夫木くんがトップ10入りしたのが2003年、岡田くんは2004年か。このふたりも癒やし系ブームで生まれたスターだったのかも。
思えばこのあたりから姉は『学校へ行こう!』(TBS)を見るたび「岡田くん本当にかっこいい……」なんて目がハートだったし、私は私でキムタクから妻夫木くんに乗り換えてちゃんと恋してた。別に私はヘトヘトOLではなかったけど希死念慮は保育園児のころからあって「ねえお母さん、よく思うんだ。ここから飛び降りたら私は楽になれるのかなって」とか相談して母をよく絶望させていた。人間付き合いに疲れていたのだと思う。大人しくて、か弱くて、子豚ちゃん体型な少女だったあのころ、そんな私にも平等に優しい笑顔を向けてくれたのはテレビの中のメンズだったんだよ。
注釈
(1)ドラマ『あすなろ白書』(フジテレビ)のキャラクター。冴えない三枚目男子を木村拓哉が演じるという今では考えられない配役。にしても三枚目にはとても見えなかった
(2)木村拓哉が石田ひかりをうしろから抱きしめる名シーンからの名称。その後わりとすぐ筒井道隆もバックハグするもこちらに名前はつかず
(3)『ロングバケーション』(フジテレビ)。1996年に放送された山口智子×木村拓哉主演ドラマ。当時の山口智子と同い歳になった今観ると、うちも廃れてる場合じゃないと謎のやる気が出る
(4)『ラブジェネレーション』(フジテレビ)。1997年に放送された松たか子×木村拓哉主演ドラマ。このころの松たか子にまだ狂気はなかった
(5)ピンク色でモフモフで人妻好きなエロい犬
(6)1998年に放送(フジテレビ)。婚約者がいる中山美穂にしつこくつきまとう木村拓哉という設定にときめきが止まらなかった。ただこれは木村拓哉だから許される行動ではある
(7)反町隆史演じるスケベなチャラ男と竹野内豊演じるクールな秀才男の友情物語。当時の私はエロい男が好きだったので、反町派に
(8)あのころの岡田准一は存在そのものが“青春”だった。ウルフカットの似合う男子と付き合ってみたいと思ってしまうのは、おそらく岡田くんの影響
(9)若かりしころの妻夫木聡は、なにかといい加減な若者を演じさせたらピカイチだった。ちなみに妻夫木くんが高校時代に組んでたバンドの名前は「レッドポイント」
(10)初代金田一少年のイメージが強いせいか、いまだに堂本剛を見るたびツンッと固めた黒いもみあげを思い出してしまう
(11)滝沢秀明。ドラマ『魔女の条件』(TBS)で松嶋菜々子演じる女性教師と禁断の恋に落ちる男子高校生を演じた。あんなキリリとした実業家になるなんて誰が予想できただろうか
(12)KinKi Kids「愛されるより 愛したい」からの一節。10代から冷静なトーンで“ギリギリのオトナたち”と歌われる大人たちのことを考えて複雑な気持ちになる名曲
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