【限定写真あり】VTuberの強みを“あえて使わない”…ChroNoiRが武道館で見せた「トークの胆力」【叶&葛葉『くろのわーるが武道館でなんかやる』レポート】

2025.5.28

文=生湯葉シホ 編集=高橋千里


VTuberユニット・ChroNoiRの公式YouTube番組『くろのわーるがなんかやる』(通称『くろなん』)初のリアルイベントが、2025年5月19日(月)に日本武道館で開催された。ライター・エッセイストの生湯葉シホが、本公演を観て驚いたことを綴る。

「広いよ、今日」普段どおりのかけ合いからスタート

いまだかつて、これほど肩肘張らずに武道館でのリアルイベントをやり遂げたユニットがいただろうか。およそ2時間にわたる『くろなん』を現地で見届けたあと、最初に思ったのはそんなことだった。

2018年の結成以降、音楽活動やゲーム配信を中心にユニットとしての活動の幅を広げてきたChroNoiR。

2022年にYouTubeでスタートした『くろなん』は、“張り切らない・無理しない・頑張らない”を3箇条として掲げる、ゆるっとした空気が魅力の公式冠番組だ。

『くろのわーるが武道館でなんかやる』の舞台はそのタイトルどおり日本武道館だが、武道館でのイベント開催はにじさんじ史上初だという。

開演と同時に会場の照明が点くと、舞台上にはすでに横並びに座る叶と葛葉が。広い部屋の中にはふたりの座る椅子と長机以外、なんの小道具も置かれていない。

叶が第一声で「広いよ、今日」とぼそりとつぶやくと、葛葉が「武道館なのにこの空間なんだ」と小声で返す。あまりに普段どおりの『くろなん』の光景を前に、客席からはどよめきが起こった。

ゆるやかな空気のまま、今回のイベントの目玉である企画コーナーに入っていく。ボイスチェンジャーを使ってしゃべっているライバーの正体を当てる生通話企画では、声やしゃべり方に特徴のあるゲストが続き、その“バレバレさ”ゆえにかえって大盛り上がりとなる事態に。

中でもふたり目のゲストのルンルンが正体を明かした際には、会場のあちこちからため息のように「かわいい……!」という声が上がっていた。

ゲスト出演が決まったときの感想を聞かれたルンルンが「感極まれりといったところでございました」と答えると、客席からはどっと笑いが漏れた。

ゲスト出演者のSHAKAとk4senのポストを叶と葛葉が“代行”し、1時間でポストをよりバズらせたほうが勝者となる「生ポスト代行」企画では、葛葉が考えた「10万いいねでりりむちゃんのコスプレします」というk4senのポストがモニターに映し出された瞬間、会場から割れんばかりの歓声が上がった(呆然と頭を抱えていたk4senだったが、イベント終了時点で13万いいねという驚異的な数字を叩き出し、幸か不幸か勝者となってしまう)。

月ノ美兎、剣持刀也、宇佐美リト、CEOも!? 豪華ゲストが続々登場

「逆再生マシーン」を使って叶と葛葉が遊ぶVTRを挟んだあとは、ゲスト出演者の月ノ美兎剣持刀也が舞台上に合流。

にじさんじの運営元であるANYCOLOR株式会社のCEO・田角陸へのインタビュー映像の回答を予想し、どれほど田角のことを知っているかを競う「田角陸王」が開催された。

田角の回答の想像以上の読めなさに解答者の4人は1問も正解できず、じゃんけんで勝者を決めるというゆるすぎる結末を迎えた。

そして、コメディアニメで人気を集める動画配信チャンネル『マリマリマリー』とのコラボ映像を挟んだあとは、VTR出演で宇佐美リトが登場。

ジムトレーナーをしている宇佐美が、運動不足の叶と葛葉のために筋トレを教えるという「USAMI’sブートキャンプ」企画へと突入した。

筋トレの各種目を宇佐美から葛葉に伝授する練習パートののち、本番として5分間続けて筋トレをやるという段になると会場が暗転。軽快な音楽に合わせてミラーボールが回り始め、カラフルな光線が会場中を照らした。

文句を言いながらも必死に筋トレをする葛葉を応援するように、客席はChroNoiRのユニットカラーである赤と青のペンライトを力強く振る。

武道館ならではの大がかりな演出をよりにもよってここで使うのか、と思わず笑ってしまったが、ここまで体を張った企画がなかったぶん、会場の盛り上がりもひとしおだった。

HIKAKIN「さんまさんくらいトークのテンポが速い」

実際の猫と犬に変身した叶と葛葉が番組を進行する、癒やしたっぷりの映像「くろのわんるがにゃんかやる」、そしてポスト生代行企画の結果発表が終わると、叶から「これで全企画終了しちゃいました」と宣言が。

イベント中は緊張したかと投げかけられた葛葉は、「最初は緊張してた、正直」と答える。

普段の『くろなん』は生配信ではなく動画コンテンツであるぶん、ダラダラとしゃべっていても編集で間合いを詰めてもらえると語るふたりだったが、イベント全体を通して、普段の動画と遜色がないほど小気味よいテンポで続く会話のラリーには舌を巻くばかりだった。

最後にスペシャルゲストからのVTRがある、と聞かされたChroNoiRと会場がモニターを見つめると、始まったのはなんとHIKAKINからのサプライズメッセージ

ChroNoiRのオリジナル曲である「ブラッディ・グルービー」をビートボックスでアレンジした粋な演出も交えつつ、ChroNoiRのことを「コミュ力の塊」「バラエティ番組でさんまさんと話したときくらいトークのテンポが速い」と評し、武道館でのイベント開催を改めて祝った。

叶と葛葉はHIKAKINからのメッセージに驚いた様子で感謝を伝えつつ、「これからもゆるくやっていくので、過度な期待はせずに応援してください」と会場に宣言し、普段どおりのゆるやかさでイベントを締めくくった。

ゆるいトークだけで武道館を盛り上げた、ChroNoiRの成熟と余裕

イベントを振り返ってやはり驚かされたのは、叶・葛葉両者のトークにおける胆力だ。

舞台上に一瞬の間が生まれそうになると、すかさず葛葉か叶のどちらかが口火を切り、会場に話題を振って何気ない雑談を繰り広げ始める。その様子があまりにも自然なので一見スキルの高さを感じさせないほどなのだが、改めて注目すると凄まじいことをやっている。

生通話企画で登場した卯月コウがぼそりと「オードリーかくろのわだけだから、これで武道館やってんの」とつぶやいて会場の笑いを誘っていたが、実際に歌唱やダンスといったパフォーマンス抜きでここまでのゆるい企画をやり遂げられるのは、業界全体を見渡しても間違いなくひと握りだろう。

外見を一瞬で自在に変えられることはVTuberのライブパフォーマンスにおける強みのひとつだが、そういった“ならではの強み”を一切使わず、通常衣装とミニマムな舞台装置だけでファンの笑顔や歓声を引き出せるところに、ベテランライバーとしてのChroNoiRの成熟と余裕を見た。

生でイベントを見届け、会場の熱気と臨場感も存分に味わったはずなのに、いつもどおり部屋で寝転がりながら『くろなん』の動画を観ていたのではないか──とも錯覚してしまうような、稀有なライブ体験だった。

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生湯葉シホ

1992年生まれ、東京都在住。WEBメディアを中心に、エッセイやインタビュー記事の執筆を行う。『大手小町』にて隔週でエッセイを連載中。 ブログ『湯葉日記』

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