2011年6月、不慮の事故で亡くなったポエトリーラッパー、不可思議/wonderboy。
自分のふがいなさ、漠然とした不安、社会への違和感。胸に居座る曖昧な感情を切実な言葉に変え、語りかけるように歌う彼の楽曲は、亡くなってからもYouTubeや配信サイトから多くの人に届き、新たなリスナーを生み、日々の営みに火を灯し続けている。
2025年2月、北村匠海が初の監督作として、不可思議/wonderboyの楽曲「世界征服やめた」をモチーフ にした短編映画を制作。そこで『Quick Japan』vol.176では、「北村匠海と不可思議/wonderboy」と題した特集を掲載した。
ここでは、特集内で掲載しきれなかった、不可思議/wonderboyの関係者(筧美和子、Paranel、GOMESS、奥森皐月、つやちゃん)へのアンケート全文を公開。彼はどんなアーティストだったのか、リスナーの中でどのように残っているのか。その一端を感じてほしい。

筧 美和子(女優)

Q:あなたにとって不可思議/wonderboyはどんな存在ですか?
番組で共同生活をしていたころ、共有のPCに不可思議/wonderboyさんの楽曲が入っていました。初めて聴いたとき「なんだこの音楽は!」ととても驚いたのを鮮明に覚えています。これまで触れたことのなかったポエトリーリーディングという音楽も新鮮でしたし、彼のまっすぐな、歌なのか、訴えなのか……得体の知れない音楽の虜になりました。
ですが、もう彼は亡くなっていました。生き生きとした声に出会ったばかりの私には信じられないことでした。生きていたときを知らないけれど、昔から知っているような、音楽まるごとそばにいてくれるような、不思議な力を感じています。
Q:不可思議/wonderboyの楽曲で、心に残っている歌詞やフレーズはなんですか?
あの頃って何にでもなれる気がしてたよなあ
「Pellicule」
いや実際頑張ればなんにでもなれたか
いつ聴いても、力をもらえたり、心にグサっときたり、自分を省みたり……その時々で印象が変わるのも不思議ですが、このフレーズからはいつもカラッとした重みを感じています。
筧 美和子
(かけい・みわこ)2013年に『テラスハウス』(フジテレビ)出演で注目を浴び、翌年より5年間、ファッション誌『JJ』(光文社)の専属モデルを務める。現在は女優としてドラマ・映画を中心に幅広く活躍。ドキュメンタリー映画『Living Behavior 不可思議/wonderboy 人生の記録』(2015年)公開時には、SNSで「素敵な歌を残してくれた不可思議/wonderboyさん。そんな彼を愛する人たちが作った映画はまた心に響きました」とコメントした
Paranel(LOW HIGH WHO? 主宰)

Q:あなたにとって不可思議/wonderboyはどんな存在ですか?
彼が生きているかのように、いまだに自分の人生において気づきを与えてくれています。ずっと守られているような気がします。
Q:不可思議/wonderboyの楽曲で、心に残っている歌詞やフレーズはなんですか?
あの日投げた小石の波紋はいつの間にか
「いつか来るその日のために」
ゆっくりと広がり対岸へ届いた
驚いたことに揺れる水面に映るのは
他でもない未来の自分だった
Q:今の自分から十年前の自分に声をかけるなら、どんな言葉を伝えますか。
直感を信じて人のためにしっかりと動けよと伝えたいです。もっともっと努力できたんじゃないかという後悔があります。
Paranel
(ぱらねる)1981年生まれの音楽家。2005年にNEL HATE名義でアルバム『動物達の演奏会』を発表後、2006年にLOW HIGH WHO?プロダクションを設立。同社のレーベルとして第1弾リリースとなったのが不可思議/wonderboy『ラブリー・ラビリンス』(2011年)だった
GOMESS(ミュージシャン)

Q:あなたにとって不可思議/wonderboyはどんな存在ですか?
生前に出会っていたとしたらきっと、ものすごく仲が悪い。ケンカばかりしていただろうと思う。お互い全然似てないクセして、何かひとつ、あまりにも同じような気がするから。
Q:不可思議/wonderboyの楽曲で、心に残っている歌詞やフレーズはなんですか?
たくさんの言いたいことがあるはずだったけど
「銀河鉄道の夜」
今はありがとうとかまた会おうとかありふれたことが言いたい
Q:今の自分から十年前の自分に声をかけるなら、どんな言葉を伝えますか。
10年前の君を信じている。がんばっていること、守っているもの、全部が正しいとは限らない。でも、未来の君を助けてくれるのは、そんな君が紡いだ日々の欠片だったよ。ありがとう。愚直がいいよ。
GOMESS
(ごめす)1994年生まれ。第2回『高校生ラップ選手権』準優勝で“自閉症と共に生きるラッパー”として注目を集める。2014年、不可思議/wonderboyと同じLOW HIGH WHO?からデビュー
奥森皐月(タレント)

Q:あなたにとって不可思議/wonderboyはどんな存在ですか?
未来のことを考えたり、自分の弱さに悩んだり、どうするべきかわからず迷子になっていたときに初めて不可思議/wonderboyに出会いました。それからは何かにつまずいたときに楽曲を聴いています。
Q:不可思議/wonderboyの楽曲で、心に残っている歌詞やフレーズはなんですか?
自分にしか出来ないことなんてないけど
「いつか来るその日のために」
自分に出来ることは精一杯やったんだろうか
どれだけ迷っても、これだけは忘れないでいたいと思っています。
Q:今の自分から十年前の自分に声をかけるなら、どんな言葉を伝えますか。
自分がやりたいと思うことに間違いはないので、気にせず突き進んでください。つらいことがあっても意外となんとかなるし、こちらの私は毎日笑顔です。さらに10年後の自分も笑っていることを願います。
奥森皐月
(おくもり・さつき)2004年生まれ、東京都出身の女優・タレント。3歳で芸能界入りし、多数の番組で活躍。毎月150本のネタを鑑賞、毎週30時間程度のラジオ番組を愛聴するなどお笑いとラジオを偏愛しているが、同じくらい音楽にも愛情を注いでいる
つやちゃん(文筆家)

Q:あなたにとって不可思議/wonderboyはどんな存在ですか?
私は、「自分の信じることを継続してやりきる」ことを大切にしています。けれども、生きているとたくさんの迷いがあります。信じることを忘れそうになったとき、彼の音楽を聴くと必ずそれを思い出させてくれます。
Q:不可思議/wonderboyの楽曲で、心に残っている歌詞やフレーズはなんですか?
たいしたことは出来ないくせに
「暗闇が欲しい」
格好だけはつけたがる
そんな腑抜けた自分の前に
疑問符の行列
偉そうにする前にまずはちゃんと意義あることをやれ、と自分に言い聞かせています。
Q:今の自分から十年前の自分に声をかけるなら、どんな言葉を伝えますか。
「風よ吹け」に「リリックは書けどもトラックは無し」という歌詞がありますね。でも、トラックがなかったとしても、そのぐちゃぐちゃした想いを言葉にしてみてください。きっと、きっと誰かに伝わります。
つやちゃん
文筆家。執筆やインタビューに加え、メディアでの企画プロデュース、アーティストやブランドのコンセプトメイキングも多数。著書に、『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)、『スピード・バイブス・パンチライン ラップと漫才、勝つためのしゃべり論』(アルテスパブリッシング)、監修に『オルタナティヴR&Bディスクガイド』(DU BOOKS)など。インディペンデント・アーティストの活動をサポートするコミュニティ「一般社団法人B-Side Incubator」理事
春ねむり(ミュージシャン)

Q:あなたにとって不可思議/wonderboyはどんな存在ですか?
自分とポエトリーラップというものを出会わせてくれた入口の人。
Q:不可思議/wonderboyの楽曲で、心に残っている歌詞やフレーズはなんですか?
進むべき道がわからずとも必ず
「風よ吹け」
生きぬく自分を自分で導く
Q:今の自分から十年前の自分に声をかけるなら、どんな言葉を伝えますか。
私が今作っている曲はあなたが今作っているものよりずっとかっこいいので、死なないでください
春ねむり
横浜出身のポエトリーラッパー、プロデューサー。自身で全楽曲の作詞、作曲、編曲を担当する。これまでに複数回のワールドツアーを開催し、約100公演にも及ぶ海外公演を開催。『春火燎原』(2022年)収録の「生きる」では、不可思議/wonderboyもかつてカバーした谷川俊太郎の文学作品「生きる」の一部を谷川本人より直接の許諾を得て楽曲内で引用。2016年にLOW HIGH WHO?からデビュー。「不可思議/wonderboyさんの系譜を継承するポエトリーラッパーは俺だろ!って気持ちが勝手にある」と過去にインタビューで語っている
短編映画『世界征服やめた』

この世界に居場所を見つけられずに無力さが日に日に募る彼方。会社の同僚で、飄々として明るい性格の星野。ふたりの日常は、星野が選んだ決断によって大きく揺れ動いていく──。
幼少期から芸能の道を生きる北村匠海が高校時代に出会い、「人生を変えてくれた」と感謝を捧げる不可思議/wonderboyの楽曲を原案に、自ら企画・脚本を兼任した短編映画初監督作。
原案・主題歌:「世界征服やめた」不可思議/wonderboy(LOW HIGH WHO? STUDIO)
企画・脚本・監督:北村匠海
出演:萩原利久、藤堂日向、井浦新(友情出演)
製作・制作プロダクション:EAST FILM
2025年2月、ヒューマントラストシネマ渋⾕ほか全国順次公開