途中でシャワーを浴びに行くし、キャッシュカードが割れてるし…予期せぬ展開満載のラッパー取材

2024.9.29
どの耳が聞き取りをしているかも肝心

文=菊池謙太郎 編集=森田真規


『Quick Japan』のコンセプト「DIVE to PASSION」にちなんで、「私だけが知っているアツいもの」について綴るコラム企画「DtP」。

2024年6月、今を生きるラッパーたちに子供のころの話を聞いた生活史集『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』(まわる書房)を自主制作で刊行した映像ディレクターの菊池謙太郎。

『ラップスタア』(ABEMA)でディレクターを務める彼が、「予期せぬ要素が山盛り」だったというラッパー・EASTAへのインタビュー体験を振り返る。

体験として抜群におもしろかったラッパー取材

一時期、取り憑かれたように仕事の隙間を見つけてはラッパーとお茶をしていた。

ラッパーたちにどんな子供時代を過ごしていたかを語ってもらい、生活史集として書籍にするためだ。それが実を結び『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』というタイトルで2024年6月にその書籍は発売された。

ひとり目の取材は2022年2月、奈良のラッパー・EASTAにお願いした。その数カ月前に僕がディレクターとして関わっているABEMAの番組『ラップスタア』のFINALで惜しくも優勝を逃したラッパーだ。東京に来るタイミングを狙って打診してみたところ、ふたつ返事でOKをくれた。

いざ取材をしてみると、まず待ち合わせ場所に現れないし、やっと落ち合った場所は怪しげなマンションだし、取材の途中でシャワーを浴びに行くし、キャッシュカードが割れていてお金を下ろすために通帳を持ち歩いているし、予期せぬ要素が山盛りだった。

もちろん忙しいところに図々しく押しかけたこちらが悪いのだが。メインである子供時代のエピソードもさることながら、そこで起こる副産物を含め聞き取り取材自体が体験として抜群におもしろかった。

『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』(まわる書房)
『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』(まわる書房)

きっかけとなった『東京の生活史』への参加

その後、書き起こしたプロトタイプの原稿を知人に読んでもらうと、「これは菊池版『マルコヴィッチの穴』ですね」と言われた。映画『マルコヴィッチの穴』の説明は省きつつ要約すると、テキストを読むことで僕が行った聞き取りを僕になって追体験している気分になったというのだ。

これはうれしかった。テキストでもそのときの空気が伝わるのだと思えた。そこから取り憑かれたように、仕事の隙間を見つけてはラッパーとお茶をし始めたのだった。語られる話はどれも自分しか知らない映画を観たようで癖になってしまい、2023年は延べ22人に聞き取り取材をした。

完成したのち、僕のことを知らない人がこの本をどう読むのか気になっていたところに、面識のなかった人物から興味深い感想をもらった。「読み進めていくうちに菊池さんがどういう人か見えてきた」というのだ。意図していないおもしろい発見だった。

この本を作ろうと決めたきっかけのひとつ『東京の生活史』(筑摩書房)への参加時、その監修を務めた社会学者・岸政彦氏は一般参加者向けの事前講習会で「社会学の聞き取りでは聞き手の意図や演出はなるべく排除するほうがいい」と教えてくれたが、拙著では僕という人間が滲み出てしまったようだ。

しかし日本語HIP HOPの名ライン「どの口が何言うかが肝心」になぞらえて言えば、「どの耳が聞き取りをしているかも肝心」なはずである。ぜひ「菊池謙太郎の穴」から僕がハマったラッパーたちの語りを味わっていただきたい。

『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』(まわる書房)
valkneeインタビュー/『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』より

この記事の画像(全14枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

菊池謙太郎 (きくち・けんたろう)映像ディレクター。書籍『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』を2024年6月6月に自主制作で刊行

Written by

菊池謙太郎

(きくち・けんたろう)映像ディレクター。書籍『LIFE HISTORY MIXTAPE 01』(まわる書房)を2024年6月に自主制作で刊行。https://mawarushobo.base.shop/items/87275913

関連記事

人に言ったらいけないことも歌詞には綴らせてほしい(宅録家・perfect young lady)

「好き」はなくても愛着は作れる(『OUT OF SIGHT!!!』編集長・堤大樹)

清水尋也

俳優・清水尋也が語る若手芸人・エバースの魅力「彼らの漫才が日々のモチベーション」

ケビンス×そいつどいつ

ケビンス×そいつどいつが考える「チョキピース」の最適ツッコミ? 東京はお笑いの全部の要素が混ざる

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターとして廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターの廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

パンプキンポテトフライが初の冠ロケ番組で警察からの逃避行!?谷「AVみたいな設定やん」【『容疑者☆パンプキンポテトフライ』収録密着レポート】

フースーヤ×天才ピアニスト【よしもと漫才劇場10周年企画】

フースーヤ×天才ピアニスト、それぞれのライブの作り方「もうお笑いはええ」「権力誇示」【よしもと漫才劇場10周年企画】

『FNS歌謡祭』で示した“ライブアイドル”としての証明。実力の限界へ挑み続けた先にある、Devil ANTHEM.の現在地

『Quick Japan』vol.180

粗品が「今おもろいことのすべて」を語る『Quick Japan』vol.180表紙ビジュアル解禁!50Pの徹底特集

『Quick Japan』vol.181(2025年12月10日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ

STARGLOW、65ページ総力特集!バックカバー特集はフースーヤ×天才ピアニスト&SPカバーはニジガク【Quick Japan vol.181コンテンツ紹介】