ASIAN KUNG-FU GENERATION、デビュー20周年でたどり着いた境地「一番大きい財産は、このバンドにいられること」
2023年4月にメジャーデビュー20周年を迎え、その記念盤となる『Single Collection』が7月31日にリリースされるASIAN KUNG-FU GENERATION。日本語ロックのシーンを長年にわたって牽引してきた彼らが、バンドとして、今たどり着いた境地とは。
バンドのフロントマンでソロアーティストとしても活動する後藤正文は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの歴史を振り返った今回のインタビューで、「現在進行形でこのバンドにいられることが、自分にとって一番大きい財産だと思うんですよ。もう一回組めと言われても無理だし、どんなに演奏がうまい人たちとやっても、こうはならないと思う」と語った。
目次
日本語ロックに挑戦した「遥か彼方」
メジャーデビュー20周年を迎え、初のシングルコレクションが完成しました。まずは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの音楽を初めて聴くリスナーに向けて、おすすめの一曲を教えてください。
それこそ1曲目の「遥か彼方 (2024 ver.)」から聴いてもらうのがいいよね。
うん、入口としては一番いいと思う。
2002年にリリースされたミニアルバム『崩壊アンプリファー』(※2003年にキューンレコードから同タイトルのリイシュー盤をリリース)の収録曲「遥か彼方」を再録されたのは、どういう思いがあったのでしょう?
この曲はシングルではないので『Single Collection』という枠からは外れてしまうんですけど、どこの国で演奏しても喜ばれるし、毎ライブでみんなが待ち望んでる感がすごくあるので「収録しないわけにはいかないよね」ということになって。せっかくなら、今のライブで演奏している感覚で録音するのがいいんじゃないかって話になり、再録しました。
振り返るとインディーズ時代のアジカンは、英語詞の曲を中心に歌われていて。「遥か彼方」から日本語詞にシフトされましたよね。
そうですね。僕らが横浜でライブをしていたときはメロディックパンクが流行っていたし、とにかく英語で歌うバンドが多かったんです。だけど、東京に出ていって下北沢界隈のライブハウスに出たら、みんなが当たり前のように日本語で歌っていた。そこにある種の焦りを感じたというかね。「このままじゃ埋もれるな」とか「音はかっこいいけど、何を歌っているのかわかんない」と言われかねないと。それに90年代中盤から後半はeastern youth、NUMBER GIRL、bloodthirsty butchers、ゆらゆら帝国、サニーデイ・サービス、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTなど、日本語で歌う素晴らしいバンドがたくさん出てきましたから。「日本語でロックをやっても、こんなにかっこいいんだ」と先人たちが示してくれていたのもあったので、僕らも挑戦してみたいなと思って。その一発目が「遥か彼方」でしたね。
当時からすごくかっこいいのができた、とは思っていたんです。とはいえ、そこからTVアニメ『NARUTO -ナルト-』のオープニングテーマになり、ここまで広く聴かれたり愛されたりする曲になるとは、さすがに想像つかなかった。先日もライブでチリとメキシコに行ってきましたけど、世界へ連れていってくれる曲になるとは、昔は夢にも思わなかったですね。
何度聴いても、出だしのベースから気持ちが上がるんですよ。
ベースのイントロは最初に耳に入ってくる音でもあるし、この曲のインパクトのひとつになったとは思います。ただ、個人的にはBメロの“チャッチャッチャ”って刻むギターの音がすごく独特だなと感じていて。「あ、ものすごい曲ができたな」と手応えを感じた瞬間でしたね。
そこから20年の間に、ライブで何回やったのかわからないぐらい演奏してきて。テンポ感を含め、ライブで曲が育っていったところもあるんですよね。でも、変わらなくていいところもたくさんあって。僕はドラマーなので、「大事なフィルは変えてほしくない」っていうファンの気持ちもわかる。原曲よりもBPMは少し上げようとか、このフィルのフレーズは今までのライブでちょっと簡略化していたけどもとに戻そうとか、再録する上でそのバランスは緻密に考えました。
メンバーそれぞれの思い入れのある一曲
みなさんが個人的に思い入れのある曲はなんでしょう?
僕は3rdシングル「サイレン」(2004年)です。ポップな曲もけっこうあるんですけど、こういう曲がちゃんとかっこよく仕上がったのがうれしかったし、レコード会社の方から「これをシングルで出そう」と言ってもらえたのもうれしくて。今でも大切な曲ですね。
どれも好きなので1曲に絞るのは難しいですが、今の気持ちで選ぶなら26thシングル「解放区」(2019年)はすごくいい曲だなと思います。ポエトリーリーディングを取り入れたことで「お、いきなり語りが始まった」と驚いた人もいますけど、自分にとってはなんの恥じらいもなくて。奇をてらったというよりも自然にこういうパートを作れたのは、とてもいいことだなと思ったし、達成感があった曲ですね。
シングル曲はどれも好きなんですけど……8thシングル『ワールドアパート』(2006年)の3曲目「嘘とワンダーランド」から、カップリングで僕が作った曲を自ら歌うシリーズが始まりまして。それがすごくうれしかったのを覚えています。
最初はシンガー志望だったもんね。
かなり昔だけどね(笑)。大学の音楽サークルで最初に希望パートを書くんですけど、僕は奥田民生さんみたいになりたかったので、ボーカルギターと書いて。なので、本当は自分のバンドを組みたいと思っていたんですよ。でもサークルの初日にゴッチ(後藤)と意気投合しまして。すでにクオリティの高いオリジナル曲を持っていたんです。それで、だんだんと俺の夢をゴッチに託すようになりました。
喜多さんは歌うとスピッツの草野(マサムネ)さんみたいな爽やかで高い声なんですけど、彼の作ってくる曲がね……。「不協和音だけで作りました」みたいな曲しか作ってこなくて。アバンギャルドすぎてわからなかった。
それでゴッチの曲作りをそばで見てきて、僕も曲が書けるようになってきたのが「嘘とワンダーランド」から。そういう一面もあるんだよ、というのを読者のみなさんにも伝えたいです。喜多も曲を作れるんだよって。
ただ「ワールドアパート」のカップリングだから、『Single Collection』を買っても聴けはしないけどね(笑)。
そっちもよろしくお願いします!
僕は22thシングル「Re:Re:」(2016年)ですね。2ndアルバム『ソルファ』(2004年)にもとのオリジナルバージョンがあって、ライブを重ねるうちに、どんどんアレンジが変わっていったんです。長いイントロをつけたりとか、そういうことをやっていたらオリジナルバージョンとは全然違う「Re:Re:」がライブの中で形成された。時を経てライブバージョンがシングル化されるっていう、おもしろい経緯を踏んだ曲なんです。しかも、最近は海外でも「この曲をやってほしい」というリクエストが多くて、国内外問わず人気の高い曲ですね。
山中湖の合宿中に作られたんでしたっけ?
あ、そうです。僕が考えたベースラインのアイデアをバンドに投げて、ゴッチがそこに展開をつけてくれて、セッションをしながらかたちになりましたね。
伊地知潔がアジカン“メンバー”になったとき
余談ですけど、喜多さんと山田さんがミック・ジャガーのものまねをして盛り上がったのも山中湖ですよね?
そうですそうです(笑)。
めちゃくちゃ懐かしい! 「どっちがミック・ジャガーに似ているか勝負だ」と言って、ふたりで夜中にものまねを始めてね。延々とやってるから「早く寝ろ!」と言って怒ったもん。
ハハハ、山ちゃんと東京ドームでローリング・ストーンズのライブを観たあとだったんだろうね。
モノマネしてるとき、(伊地知)潔はその場にいたっけ?
俺は自分の部屋で寝てた気がする。
まだ、潔が俺らに心を開いていないときだもんね。
心を開いていても、アレに付き合うのはキツいでしょ。
ハハハ!
心を開いていなかった、というのは?
僕が潔のことを信用していなかったのもありますね。あまり要求しなかったというか。おもしろいアイデアも出してくれていたけど、そうじゃないときも基本的にすんなり採用していて。そこから長い時間をかけて、だんだん距離を詰めていった感じがします。『ソルファ』ぐらいからは、むしろすごく頼るようになって。「もっとこうしてほしい」とお願いしたりね。
伊地知さんと距離を取っていた理由はなんだったんですか?
1回アジカンを辞めている歴史もあるし、友達との関係性もあったりして。それと潔はかけ持ちでバンドをやっていたので、どこか潔を借りている気持ちでいたんですよね。潔とバンドをやることに、罪悪感もずっとあったんです。そもそも、僕が3人に心を閉じ気味だったのもあって。バンドとしては一番状況のよかった『Tour 2005 Re:Re:』のときに日記を書いていたんですけど、そこにはメンバーに対する不満を綴っていました。それは誰にも読ませられない地獄の日記。自分のうまくいかなさや悔しさも書いていましたね。
バンドに加入したてのころは、僕も3人にうまく入り込めていなくて。今考えると仲間というよりも、サポートミュージシャンの感覚があった気がします。でも、ゴッチの言ったとおり『ソルファ』以降に、一緒に話す時間が増えて。次に出した3rdアルバム『ファンクラブ』(2006年)では、さらに求められるようになって、うれしかった反面、「曲を作るのって大変だな」ってそこで初めてわかったんです。それまでは、ただただ「曲のアレンジをするのって楽しいな」と思っていたけど、もっと楽曲に入り込まないとダメだったなとそこで気づくんですよね。同時に「やっとメンバーの一員になれた」と思えて、そのへんで僕の気持ちも変わりましたね。
今、アジカンの進むべき道
2021年に『THE FIRST TAKE』に出演されたとき、14thシングル「ソラニン」(2010年)を演奏する前に言った、後藤さんの言葉がすごく印象に残っているんですよ。「俺たちにとって何がこの先の成功で、これまでの成功だったのかを考えたの。ときどきムカついたりケンカしたりもするけど、25年も一緒に音楽を続けられる仲間が見つかった。それだけで半分以上は成功だよねって気持ちになったね」って。
本当にね、現在進行形でこのバンドにいられることが、自分にとって一番大きい財産だと思うんですよ。もう一回組めと言われても無理だし、どんなに演奏がうまい人たちとやっても、こうはならないと思うんです。その特別感は僕たちだけじゃなくてね。世界中のバンドの不思議ですよね。人が関わってやることの不思議っていうか、うん。
これからのアジカンについては、どう考えていますか?
『NANO-MUGEN FES.』(※2003年から2014年にわたって開催したアジカン主催の音楽フェス)みたいなことをやりたいとは思わないけど、ああいう新しい交流のかたちを考えたいですね。昨年『グラストンベリー・フェスティバル』に行ってきたんですけど、祭りっていうのはたぶん“あそこに出る”ことを目標にしちゃいけないんだなと思って。
音楽だけで完結させない何か、ということですね。
そうです。隅々まで意志が貫かれているような祭りを、自分たちでオーガナイズすることに意味があると思う。『グラストンベリー』に出たとか『コーチェラ』に出たとか、そういう商業的な成功や権威主義的なことじゃなくて。自分たちの活動の中に、ローカルなつながりを作りたい。モノとごはんと音楽をつなげる『森、道、市場』もおもしろいと思うし、TOSHI-LOWさんたちがやっている『New Acoustic Camp』も彼ららしい哲学が貫かれている。僕が地元の静岡にスタジオを作ろうとしている計画にもつながってくるんですけど、要はコミュニティ作りですよね。僕らはバンドなので、そこに音楽が鳴るような関係性をどうやって作っていけるか。それが今、アジカンの進むべき道のひとつだと思うんです。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアン・カンフー・ジェネレーション)1996年結成、2003年にメジャーデビュー。全国23都市を回るライブハウスツアーが9月にスタート
衣装協力(71 MICHAEL/FREAK’S STORE渋谷/Lui’s/EX/store TOKYO/CIAOPANIC TYPY カメイドクロック店)
ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』
発売日:2024年7月31日(水)
【初回生産限定盤(2CD+付属品)】
価格:6,300円(税込)
【通常盤(2CD)】
価格:3,850円(税込)
【CD収録曲 ※初回・通常ともに共通】
■Disc1
01. 遥か彼方 (2024 ver.)
02. 宿縁
03. 出町柳パラレルユニバース
04. エンパシー
05. 触れたい 確かめたい(feat. 塩塚モエカ)
06. ダイアローグ
07. 解放区
08. Dororo
09. ボーイズ&ガールズ
10. 荒野を歩け
11. ブラッドサーキュレーター
12. Re:Re:
13. Right Now
14. Easter / 復活祭
15. 今を生きて
16. それでは、また明日
17. 踵で愛を打ち鳴らせ
■Disc2
01. マーチングバンド
02. 迷子犬と雨のビート
03. ソラニン
04. 新世紀のラブソング
05. 藤沢ルーザー
06. 転がる岩、君に朝が降る
07. アフターダーク
08. 或る街の群青
09. ワールドアパート
10. ブルートレイン
11. 君の街まで
12. リライト
13. ループ&ループ
14. サイレン
15. 君という花
16. 未来の破片
【初回生産限定盤】
・豪華スペシャルパッケージ仕様
・全シングルジャケットカード(31枚)付属
・ASIAN KUNG-FU GENERATION×中村佑介 スペシャル対談ブックレット付属
2024年8月6日(火)発売の『Quick Japan』vol.173では、本記事とは一部内容の異なるASIAN KUNG-FU GENERATIONのインタビューを収録。後藤正文が“売れる”ことで感じたプレッシャーや、そこから開放されるきっかけになった「このバンドのすごさ」について語っています。
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