「エスカレーターで右側に立ってみる」デモはハードルが高い人のための“アナキズム柔軟体操”のすすめ【夕方5時の会議室 #10】

編集=高橋千里


少女写真家・飯田エリカと、QJ編集部・高橋の音声番組『夕方5時の会議室』。メディア業界で働く同世代ふたりが、日常で感じているモヤモヤを、ゆる〜くカジュアルにお話しします。

第9回は、前回に引き続き文筆家・小沼理(おさむ)さんがゲストで登場。著書『共感と距離感の練習』(柏書房)に収録されている「空気と柔軟体操」の章から、日常生活ですぐ実践できる「アナキズム柔軟体操」を紹介します。

※音声収録は2025年5月16日に行いました

この記事では、音声の前半部分だけをテキストで公開。後半はYouTubeまたはPodcastよりお聴きください。

日本人特有の「空気を壊さない」感覚を変えるために

高橋 続いてのトークテーマも、小沼さんの著書『共感と距離感の練習』に関連した話ですよね。

飯田 「空気と柔軟体操」という章ですね。小沼さんがデモに参加したり、韓国のクィアパレードに行って……ということが書いてあるんですけど、そういうデモって「ものすごいエネルギーで怒る」みたいな印象があるなかで、アナキズム的なことをするためのちょっとしたストレッチが「アナキズム柔軟体操」として紹介されてるんです。

たとえば、夜の信号機。交通量が少ない時間帯だと横断歩道を渡る人も少なくて、合理的じゃないのにみんな信号ルールを守るから(横断歩道の前に)人が溜まっちゃう。だから、そのルールを無視してみる、というエピソードがありましたよね。

小沼 政治学者のジェームズ・C・スコットが『実践 日々のアナキズム』という本の中で提案していた「アナキズム柔軟体操」の一例ですね。

飯田 そう、それを小沼さんが著書の中で紹介してて。ただ、自分の身近に適した場所がないから、小沼さんがやってみたのが「エスカレーターの反対側に立つ」。それがすごくおもしろいなと思って。エスカレーターって東日本だと左に立たなきゃいけないルールみたいなものがあるけど、本当は(左右)両方乗っていいんですよね?

小沼 そうそう、むしろエスカレーターで歩いてはいけないといわれたりもしてる。

飯田 両方にふたり乗ってたほうが効率よく進めたりしますよね。こういうふうに、すでにでき上がった空気の中でそれにならってるけど、実は合理的ではないことってけっこうある。それにちょっと抗う練習方法として身近でいいなって思ったんですよね。

やっぱりデモに参加するとかって、ものすごいエネルギーを持ってアクティビズムをやらなきゃいけない、やりすぎるとエネルギーが枯渇しそうだしハードルが高い。だけど「アナキズム柔軟体操」はそこまでメラメラしすぎてないというか。

小沼 ジェームズ・C・スコットは、信号無視とかカジュアルな部分で「法を破れ」みたいなことを言ってると思うんだけど、日本って法よりも「みんなで作っている空気を壊さない、乱さない」というのがすごく重視されているなという感覚があって。

その意味でエスカレーターは、別に左右どっちに立つとか法で決められているわけではないけど、でも空気によって決まっていること、その「法」の部分を「空気」に変えて、まず空気を変えることからやってみようと思ったんです。

飯田 たしかに「調和を乱すこと」をタブー視しがちなのは日本独特な気はしますね。「空気を読め」みたいなワードって私たちが物心ついたときには……小学生・中学生のころにはもうあったんじゃないかな。

高橋 不思議ですよね。エスカレーターだって、西日本に行けば(立つ位置が)左右逆になるじゃないですか。西日本ではそれが当たり前、それが調和というふうにされていて。たしかにそこに抗うっていうのは、デモに行くよりもすぐにできそうだし、やってみたいなと思いました。

小沼 それ自体が実践でもあるし、練習にもなっていく。いざ声を上げないといけないときに、そういうことを日常の中で経験しているか、全然やったことないかによって、最初の一歩を踏み出す速度や反射神経も変わってくるかなって思いますね。

【続きはこちらから】パレスチナ問題のために今できること

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次回は飯田&高橋のふたりトークをお届けします!

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  • 『共感と距離感の練習』(柏書房)

    「わかる」なんて簡単に言えない、「わからない」とも言いたくない。ゲイ男性の著者が、自他のあわいで揺れながら考えるエッセイ。

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