概念としての旧国立競技場『傷物語<III冷血篇>』
以上、現在の国立競技場を取り上げたアニメを4つ紹介したが、実は2017年にはもうひとつ「国立競技場アニメ」があったのだ。重なるときには重なるものである。それは1月公開の『傷物語<III冷血篇>』だ。
ただしこちらは現在の国立競技場ではなく、取り壊された旧国立競技場である。そこがクライマックスのバトルの場所として選ばれている。『傷物語』三部作は、山梨文化会館、パレスサイドビルディングも物語の舞台として作中に登場させており、近代建築を代表する建築物をパッチワークのように作中のあちこちにあしらうことで作品のカラーを作り上げていた。旧国立競技場もそのひとつというわけだ。つまり旧国立競技場は「時代」のアイコンでも、「土地」のアイコンでもない。途中、1964年の東京オリンピック入場行進の中継音声がパロディ的に入るが、ストーリーの真ん中に絡むわけではない。そのほかの作品の国立競技場の扱いとは正反対で、本作に描かれたのは「概念としての旧国立競技場」といってもいいだろう。
国立競技場は今後、どのようにアニメに登場するのか、しないのか。“旬”が本番前の2017年で終わってしまうのはちょっと寂しくもある。とはいえオリンピック後にわざわざ描く理由がある場所でもない。半世紀を経た2070年代(!)に、『傷物語』が旧国立競技場を使ったように「かっこいい場所」として引用される場所に育っていくかどうか。実はそれは河瀬直美監督が作る公式記録映画の出来栄えにかかっているんじゃないだろうか。当時批判された(『いじわるばあさん』でもネタにされた)市川崑の『東京オリンピック』が美的緊張度の高さゆえに現在ではリスペクトされているように。
そういうリスペクトは、ゴタゴタを排除することで「整然」とまとめた記録映画からは生まれないだろう。生まれた競技場や映画が、作った人間たちのそんなゴタゴタを飲み込み、乗り越えて「超然とある」存在になれたときにこそ、時代を越えたリスペクトが生まれるはずだ。
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