Non Stop Rabbit『無自覚とは言いつつ多少は自覚がある天才ツアー2022』Blu-ray&DVD:PR

資本金は“アタッシュケースの500万円”、コロナ損失は1000万円。「YouTubeは生業」と語るロックバンド・ノンラビの生存哲学

2023.3.8

文=安里和哲 編集=菅原史稀


コロナ禍に翻弄されたライブエンターテインメント業界も、徐々に本来の姿を取り戻しつつある。しかし我々は、音楽が“不要不急”とされ、ミュージシャンたちが苦境に立たされた当時のことを、忘れてはならない。

スリーピースロックバンド・Non Stop Rabbitは、2020年3月に開催予定だった豊洲PIT公演を中止するにあたり、声明を発表した。3人の個人事務所で活動している彼らは、この公演のキャンセルに伴い1000万円超の損失を被ることを明らかにし、政府に業界全体への支援を訴えた。

そんな彼らは今年、3年ぶりに豊洲PITでのライブを行った。彼らがコロナを乗り切れたのは、YouTuberとして収益を上げたからだという。ロックバンドとYouTuberの二足のわらじを履き、コロナ禍をサバイブしたNon Stop Rabbitに話を聞いた。

Non Stop Rabbit
(ノンストップラビット)2016年11月1日、田口達也(Gt.&Cho.)、矢野晴人(Vo.&Ba.)、太我(Dr.)が埼玉にて結成した3ピースロックバンド。2017年、個人事務所「UNorder music entertainment」を設立する。音楽活動と並行して、YouTubeでバラエティチャンネルを開設し、登録者数は65万人を誇る(2023年2月末現在)。2020年12月、ポニーキャニオンからアルバム『爆誕 -BAKUTAN-』をリリースし、メジャーデビュー。3月8日、昨年開催した『無自覚とは言いつつ多少は自覚がある天才ツアー2022』東京ファイナル・EX THEATER ROPPONGI公演のBlu-ray&DVDがリリースされる。

YouTubeきっかけで、年上世代もライブに動員

YouTubeでは都市伝説や怪談などの企画動画を上げていますが、もともと興味があったんですか?

いや、全然興味ないですね。そもそもYouTubeでは、自分たちが実際に好きなことは一個もやってないです。

「好きなことで、生きていく」の正反対。

まさにそうですね。YouTubeは音楽をつづけるための生業です。その瞬間に流行ってることに乗っかるし、当たらないってなったらすぐやめます。ここ1年くらいは心霊が中心ですけど、その前は都市伝説、コロナ前は『荒野行動』の動画もよく上げてました。

“怪談”語りながら、大人の“階段”ものぼるっていう……。

別にうまくねぇよ(笑)。

僕はこれくらいのことしか言えないですよ、本当に(苦笑)。

ファンはYouTubeも音楽もどっちも楽しんでますか?

両方楽しんでる人もいれば、どっちかだけって人も多いですね。

でも、YouTubeきっかけでライブに足を運んでくれる人は増えました。最近は僕らより年上世代の観客の方が来てくれてて、これは「怪談の動画から来たな」と思ってます。『荒野行動』をやってるころは、やっぱり若い子がついてきてくれましたから。

怪談って、年上の方に需要があるんですか?

そう思いますね。若い女性とかは怖がって観ないんですよ。

上の世代の方が来てくれるようになったのはうれしいですね。入口はYouTubeでも、実際に音源を聴いて、ライブに行ってみたいと思ってくれたわけで。僕らの音楽は全世代に届くんだなと手応えがあります。

生々しい話をすると、若い子だけに届いても、お金にはならないんですよ。食ってくためには、お金に余裕のある上の世代のハートを掴まないといけない。そこで怪談動画でアプローチするっていうのは狙ってましたね。

狙いどおりに行ってるのがすごいです。動画は企画から撮影、編集まで自分たちでやってるんですか。

そうですね。最初は作家さんにも手伝ってもらってたんですけど、そうするとやっぱりテレビ的な仕上がりになるんですよね。当時のYouTubeは今以上に素人っぽいものがウケてたので、自分たちでやったほうがいいかなと。

YouTubeを始めたときと、現在とでは、やっぱりアプローチも違いますか。

芸能人がたくさん入ってきて、YouTubeも変わりましたね。それ以前は、素人が出前頼んで、それを食べてるだけでも観てもらえてたけど、今はそれだと芸能人に勝てない。あと最近は、テレビでテレビ番組を観るんじゃなくて、YouTubeを観る人も増えてきたので、長尺のコンテンツのほうがいいんです。怪談を選んだのは、有名人のプレイヤーが少なくて、長尺の動画に向いてるから。

なるほど。

あと怪談のいいところは、有名人のプレイヤーがゼロじゃない点です。ここには島田秀平さんがいるので、怪談をやれば一緒に仕事ができる可能性があるというのは計算してました。そしたら本当に一緒に仕事できたのでよかったですね(笑)。

治験バイトしようとしたら、父が500万円くれた

Non Stop Rabbitは、コロナ禍で初めてライブが中止になった際、声明を発表しました。1000万円の損失だと書かれていましたね。

そうですね。あの損害を乗り越えられたのは完全にYouTubeのおかげです。

個人事務所でやっているNon Stop Rabbitの切実な声はインパクトが大きかったです。そもそも個人事務所でやろうと思ったのはなぜですか?

いろんな事務所からオファーもあったんですが、どこも上からものを言うなぁと思って。極めつきが「この曲いいけどB面だね」って言葉でした。僕らの若い世代が「これがド真ん中でいい」と思う曲を、B面だって言うなら、それは決定的に感覚がズレてる。なので、新しいことをやって売れてくなら、上の世代に言うことを聞くのは違うかもしれないと。とはいえ、自分たちでやってくのにもお金もなくて、3人で治験バイトをやろうとしたんですよ。

バンド全員で治験は斬新ですね。

その話を聞きつけた太我のお父さんが、「リーダーと会わせろ」って言い出して。「治験やるほどの覚悟があるなら、俺が出す」って、アタッシュケースから500万円をドンって。

『¥マネーの虎』みたいな話ですね。

もともと僕らは路上ライブをやってたんですけど、資本金から30万円くらいのスピーカー2台買って、ライブハウス並みの音量で鳴らしましたね。より遠くのお客さんに届けるのがテーマだったので。でも、そのために何回も誓約書を書くハメになって、YouTubeに移行しました。それが5年前ですね。

実際に個人事務所をやってみて、大変なことも多かったと思いますが、会社に属さず自分たちでやるメリットはなんですか。

思い立ったらすぐ行動しやすいってことですね。会社に属してると何するにも許可がいると思いますが、僕らは自分たちがいいと思ったことをすぐできる。

決定権は僕らにあるんで、自由にやってますね。つい最近出したリリックビデオも、レーベルには「リリックビデオ作ったんで、明日出します」って言えましたし。

SNS時代に、そのスピード感は大事でしょうね。

YouTubeで、スピードの重要性は学びましたね。

“神対応”じゃなくて“鏡対応”

YouTubeで培ったトレンド把握力は、音楽制作でも活きそうですね。

というより、逆かもしれません。音楽トレンドを必死に勉強してきたから、YouTubeでも当たり前に流行を捉えるようになった。でも、バズらせようとして音楽作ってるって発言すると、バンドファンからは冷たく見られる。

大衆受けはロックじゃないと。

まさにそうです。ツイッターとかでもよく「売れ線に走った」「前のほうがよかった」って書かれる。

でも僕らはもともと広く聞かれたかったんですよ。さっき田口が言ってたように、路上ライブ時代も「より遠くの人に届ける」のがテーマでしたし。

ポップな音楽をやって多くの人に聞いてもらわないと、バンドは食っていけない。僕らにとって音楽活動はキレイごとじゃなくて生業なんで、そういう意見には構っていられない、と。

いろんな意見がある中で、ときには心ない言葉も見かけると思います。そういうネガティブな言葉とは、どう向き合っていますか。

昔はいちいちムカついたりしてましたけど、最近はなんとも思わないです。あるとき、太我が「大切な人に嫌われてなければ、どんな意見が来てもどうでもいい」ってボソッと言ったのが響いて。「会ったこともないヤツらの言うことに、ヘコむ必要なくない?」って。

そうですね。大切な人に批判とか注意されたら別ですけど。僕は「神対応」じゃなくて「鏡対応」って考え方をしてて。

鏡、ですか?

はい。相手を映す鏡になるんです。相手がクソみたいな対応してきたら、僕は相手の鏡になって、同じようにクソな対応をする。親切にしてくれたら、こっちもいい対応をする。

太我のこの考え方を知って、僕もだいぶ気持ちがラクになりました。

まぁクソ対応にクソ対応で返すのも面倒なので、遮断することのほうが多いです。

お客さんの声が聴きたくて、ライブをやってたのを思い出した

3月にリリースしたライブ映像作品には、昨年行われた『無自覚とは言いつつ多少は自覚がある天才ツアー2022』のファイナルの模様が収められています。久々のツアーはいかがでしたか。

東名阪ツアーで、3年ぶりに東京以外の場所でライブをしたんですが、ファンの姿を見て「生きてたんだ」と思いました(笑)。もう僕らにファンなんかいないんじゃないかと思ってたのでうれしかった。

有観客ライブ自体は、昨年3月の渋谷CLUB QUATTROのワンマンで解禁してて。お客さんが声を出せないライブって不安だったんですよ。でも実際始まったら楽しかった。それは名古屋と大阪でも同じでした。

渋谷のときはリアクションがなくて正直やりにくさもあったんです。でも、お客さんたちが目でメッセージを送れるようになってきて。

ほんとそうだよね。

マスクで口を覆われた代わりに、目のキラキラが増してて感動しました。

リリースしたDVD&Blu-rayの見どころを教えてください。

照明に注目してほしいです。僕らはステージに立ってたので、改めて映像で観て感動しました。ライブに来た人たちも、俯瞰で観ると改めて発見があるはずです。

音にもこだわってて。ライブの臨場感を再現するためにミックスはかなりいろいろオーダーして調整してもらいましたね。

あと、僕が徐々にバテてく様を確認できると思います。1曲目からドラムが激しかったので、どんどん体力的にキツくなった思い出があって(苦笑)。表情にも出てるし、汗だくにもなっていく。

ドキュメンタリー的にも楽しめる、と。

そうですね。逆にライブ以上に人間味を感じられる映像かもしれないです。

現在では、コンサート中の声出しも解禁されました。久しぶりの歓声はいかがでしたか。

この声を聴きたくて、ライブやってたんだって思い出しました。お客さんは僕らの鳴らす音を聴きに来てくれてますけど、僕らもみんなの声を聴きに行ってるんです。

今後はどのような活動をしていきたいですか。

コロナで失ったものを一刻も早く取り戻したいですね。今やってる全国ツアーのファイナルは豊洲PITですが、本当だったら2020年の3月にやってるはずでした。豊洲のあとも、もっと大きな会場でやることが決まってた。でも結局有人ライブが再開するまで2年以上かかりました。あのまま活動できたら、とっくに武道館立ってたかもしれない。

作詞作曲担当としては、ヒット曲を出してミーハーを集めたいです。今年はライブはもちろんですが、しっかりいい音楽も作っていきます。

太我さんはいかがですか。

僕は歌うわけでもないし、曲作れるわけでもないんで、難しいですけど……。

YouTubeでの活動が動員につながる可能性もゼロじゃないと思うんで、そこでがんばるとかですかね。人が集まるなら、どんなやり方でもいいと思うんです。武道館の動員数1万人のうち、YouTubeファンが7千人、バンドのファンが3千人になっても全然いいと思う。

今日のインタビューで、Non Stop Rabbitの哲学を最も体現してるのは、太我さんなのかもと思いました。

どうなんですかね。僕は本当にふざけることと、ドラム叩くことしかできないですよ。

『無自覚とは言いつつ多少は自覚がある天才ツアー2022』Blu-ray&DVD

発売日:2023年3月8日(水)
<収録曲>
1.ALSO
2.乱気流
3.明るい歌
4.私面想歌
5.TABOO
6.Pant Voice
7.BIRD WITHOUT
8.夏の終わり
9.恋愛卒業証書
10.偏見じゃん
11.推しが尊いわ
12.豆知識
13.無自覚の天才
14.三大欲求
15.ハニートラップ
16.アンリズミックアンチ
17.Needle return
18.音の祭
19.Refutation
20.優等生
21.PLOW NOW
<初回盤特典CD収録曲>
1.吐壊
2 .(タイトル未定)

※購入はこちら


この記事の画像(全11枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

安里和哲

Written by

安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。