「尺八はもっと進化できる」和楽器バンドが、謎のグループ“WGB”を名乗った理由
フジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』で主題歌を担当した和楽器バンド。放送開始時、彼らはバンド名を明かさず、視聴者は「Starlight」を演奏する謎のアーティスト「WGB」の登場に驚いた。ドラマ主題歌という大舞台であえて名前を伏せるという選択を採ったメンバーの想いとは。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.156に掲載のインタビューを転載したものです。
楽器は自分を表現するためのツールでしかない
──「Starlight」はこれまでの和楽器バンドの楽曲のイメージとはまったく違うと思いますが、戸惑いなどはありませんでしたか。
神永大輔 今までやってきたことがこの曲には当てはまらないから、違うことを考えなきゃなあというのが最初の印象でした。自分の尺八パートではいったいなにができるのかと。
黒流 たしかに和楽器バンドとしては今までなかった曲だとは思いましたが、不思議と戸惑いはありませんでした。一見、和楽器の音が薄いように思えるかもしれませんが、インストゥルメンタルを聴いてもらえばわかるとおり、実はこれまでの楽曲と同様、結構演奏してるんですよね。楽曲が良くなるのであれば自分のパートのことは気にしないですし、むしろこの楽曲にそれぞれのパートがどう入るのか楽しみでした。
山葵 僕はこれまで自分でドラムアレンジをしていましたが、今回はフレーズの一個一個まで細かく指定してもらって叩いています。でもそれが嫌だってことではなくて、リスナーがどんなふうにこの楽曲を受け止めてくれるのかなという楽しみのほうが大きかったですね。
町屋 制作期間が10カ月ほどで、仕上がったのは放送のひと月前だったんですが、ギリギリまでドラマ制作陣と詰めて作り直して作品に華を添えるイメージで作りました。
山葵 「ドラマの世界観に最も近いもの」を目指して、もともとの原曲からブラッシュアップを重ねていったので、原曲とはまったく違う仕上がりになりました。レコーディングで初めて完成形を聴いて驚きましたね(笑)。
──和楽器バンドとして、「Starlight」はどのような位置付けの曲になったでしょうか。
町屋 今までで一番大きな作品に携わっているという自覚と責任を持った曲になりました。なおかつバンドとして自信を持って送り出すことができた曲ですね。制作チームも、聴いてくれる方も、自分たちも、すべてがあってこそひとつの音楽が成り立つということを再認識しましたね。
──ドラマでこの楽曲が初めて流れた際には、「和楽器バンド」ではなく「WGB」という表記で正体を隠していましたね。
町屋 いい作品ができたときこそ、純粋に楽曲を聴いてほしいんです。和楽器バンドって、バンド名の個性が強いから、食わず嫌いの人もいると思うんです。でも我々が作る一枚のアルバムの中には多様なジャンルの音楽が入っていて、食わず嫌いの人が思っている「和楽器バンド」とは違うはずなんですよ。だったら一度バンド名を伏せて、より多くの人に聴いてもらったほうがいいと考えたんです。一応、「WGB」という表記は「和楽器バンド」の略でファンの間では浸透していた言葉なので、もともとのお客さんも置いてきぼりにしないように、という仕掛けもしつつ。
山葵 今回の曲は和楽器がどうこうっていうのを差し引いても単純にすごくいい曲だと思うので、こういう打ち出し方でフラットにみんなに聴いてもらえるというのはいい試みだったと思います。「まだ発掘されてないいいアーティスト見つけちゃった」みたいな声も実際にあったので、今まで僕たちの音楽を届けられていなかった方にも届けられたかなと思っています。もちろん僕たちは和楽器バンドという名前を捨てたわけではなくて、「和楽器バンドってこういう振り幅もあるんだ」と思ってもらえることで、僕たちの世界が広がっていく気がします。
神永 「和楽器バンドってこういう世界観にも合うんだ」とか、「こういうこともできるんだ」というイメージが広がれば広がるほど、僕たちの活動の幅も広がって僕たちも楽しくなっていくし、やりがいも増えていきますね。
──和楽器バンドの楽曲って、世間の人が想像する“和楽器奏者のいるバンド”の楽曲とはまったく違うんですよね。和楽器らしい曲だけに落ち着かず、どんどん新しいものに挑戦していく和楽器バンドのスタイルの根幹には、どのような考えがあるのでしょうか。
町屋 僕らは和楽器だ、洋楽器だという前に、楽器を自分を表現するためのツールでしかないと思っていて。
──たまたま自分の持ってる楽器が尺八だった、ギターだった、というだけ?
町屋 そう。そんなメンバーが集まって、「ボカロ曲をこのメンバーの生演奏でやったら面白いんじゃない?」というところから和楽器バンドはスタートしているんですね。これをやったら面白そう、お客さんが喜んでくれるんじゃないか、ということを追求してきたんです。世の中が求めるものは常に進化しているわけで、だったらそこに柔軟に対応していったほうがより多くの人に楽しんでもらえますよね。だからサウンドは常に新しいものを追い求める。仮に日本のポップスのメインストリームがビバップになったら、きっと僕らは全員ジャズをやるでしょうね。
神永 あはは(笑)。それはそれで、その変化を楽しめる8人のメンバーが揃っていると思います。
天才たちを真似していても、決して超えられないから
──その反面、和楽器というものは伝統を守っていくべき、という側面もあると思うんです。
神永 尺八が伝統と呼んでいる虚無僧本曲だとか三曲合奏、民謡尺八にしても、それぞれやっていることはまったく違うんですよ。それってニーズに合わせて尺八ができることを進化させてきた結果だと思うんです。バンドの中に入れば尺八ができることは変わるし、音楽のジャンルが変わればその中での活かし方も変わる。そういうふうに、楽器というものは進化していくべきかなと考えますね。
黒流 伝統を引き継いでいくことは大切なことですが、僕はそれだけに収まっていてはいけないと思うんです。なぜなら伝統の祖となった天才たちを真似していても、決して超えられないし、聴いていただける方の分母も限界がくる。それに僕自身も楽しくない。だったら和楽器バンドのように新しくてかっこいいことを魅せていきたいんです。何十年か後でいいと思うんですけど、少年少女がギターやドラムをやるように、表現方法のひとつとしてクラスにひとりは和楽器をやっている人がいるようになれば、楽しいと思います。
町屋 下の世代に和楽器が入ってる編成のバンドがいくつか出てきて、「和楽器バンドとかもう古いよね」とか言われたいよね。
黒流 あー言われたいですね、ほんとそう。そしたらもっと音楽シーンが楽しくなっていくんじゃないかなと思います。そのためにも僕らはこれからも、より多くの方に聴いていただけるいい音楽を作っていきたいです。
和楽器バンド
和楽器と洋楽器を合わせた8人組のバンド。2014年4月にリリースしたアルバム「ボカロ三昧」でデビュー。本稿でも触れた「Starlight」でフジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』にて主題歌を担当した。
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