パンデミックで変化した日常の風景が反映された歌
アルバム冒頭を飾るのはタイトルトラックの「Funkvision」。林幸治(TRICERATOPS)の奏でるベースラインが存在感を放つ、ニュー・ジャック・スウィング直系の1曲だ。
「これは最後に作った曲なんです。『Funkvision』というタイトルも最後につけたもので、今の自分、これからの自分の音楽も含めたひとつのスローガンになるようなシンプルな言葉を探しているときにふと思いついた言葉ですね。
僕の作る音楽、目指してきたのはいわゆるイメージとしての『シティ・ポップ』よりは、グルーヴ重視のものなので。それで共同プロデューサーの宮川弾さんに、メロディと歌詞は自分が書くから『Funkvision』という曲名でトラックを作ってほしいとお願いした。そうしたら上がってきたのがほぼ完成形のトラックだった。それを聴いた瞬間に『これはいける』と思って、10分後くらいにメロディと歌を入れて送り返した記憶があります。
ただ、打ち込みだけで完成させたくなかったんで、弾さんにピアノを弾いてもらったり林幸治にベースを弾いてもらったりして、生演奏的な要素も織り交ぜて完成させました」
キラキラとしたゴージャスな光沢感というよりも、全般的にシンプルで親密な響きを持ったサウンドが貫かれているのも『Funkvision』のひとつの特徴と言っていいだろう。ブルー・アイド・ソウルをベースにした「BLUEJEAN」にも、シンプルな「Love Me Do」や「Heavy Day」も、けっしてノスタルジーではなく今の時代の質感が感じられる。
「『BLUEJEAN』は最後のほうに作った曲で、ハイハットのない、キックとスネアしかない音世界に、歌い上げないヴォーカルが伸びていく。限りなく打ち込みに近いドラムに、三連符のラップが入る。それもスペイン語と英語と日本語のミックスなんです。そういうマシンリズムありきの作り方はNONA REEVESではやはりできないんでやってみた感じですね。
『Love Me Do』は、コード進行もパーツも少なくして、それでもきっちりポップであるということを考えて作った曲。『Heavy Day』はサンダーキャットを意識した感じですね。彼の音楽の純粋なファンなんですけど、路線としてはこの曲が一番NONA REEVES的です。僕が好きだった70年代のソウルやAOR的なノリを、彼はハードコアやジャズも好きな上でやっている。
今回、ホーンもすべてフルート、フリューゲル、サックス各種、トランペットも共同プロデューサー宮川弾さんの生演奏で。1曲だけ谷口尚久くんがトランペットで、彼のスタジオでのリモートで手伝ってくれました。あの人たち、鍵盤やギターが本職なのになぜ管楽器が吹けるのか不思議なんですけど、全体的にメタリックでコンピューター的なイメージでありながら、ホーン隊は完全ヒューマニックな生というこのアルバムならではのサウンドで構築した曲です」
中でも耳が惹きつけられるのが「Decade」だ。リリックの中に「バンクシー」や「高輪ゲートウェイ」や「予防接種」という言葉も登場するこの曲は、パンデミックによってがらりと日常が変わった2020年のドキュメントのような1曲になっている。
「この曲は作曲が弾さんで、作詞が僕、演奏に関してはドラム、ベース、アコースティック・ギターが軸になるんですが、弾さんの緻密なプログラミングを彼に言われるままにほとんど僕が生で演奏し直した感じで。だから、宮川弾さんによってプロデュースされた西寺郷太感が一番強いですね。
弾さんは今回のこのレコーディングにものすごい情熱と時間をかけてくれて。僕は3月までめちゃくちゃ忙しくしていたんですけれど、その間に手ぐすね引いて待っていて、最初に渡してくれたのがこの『Decade』だったんです。
それまでに作っていた曲もいくつかありましたけれど、実質的にこの曲からアルバムの制作がスタートした感じですね。コロナの感染が広がって、ライブも中止になり、オリンピックも延期になったころに歌詞を書き始めたので、ある種ポリティカルなことも書いた。
バンクシーらしいけど実際はどうかわからないネズミの絵が見つかって小池百合子都知事がはしゃいでいるニュースだとか、高輪ゲートウェイ駅が完成してオリンピックに向けてイベント会場も作ったけれどいざ開業したら誰もいないとか、いろんなことが歌に使えるなって。結果的に強い曲になりましたね」