さらば青春の光、高みを目指さずスキマを埋めるようにしてたどり着いた現在地「憧れられる意味はあんまりわかってない」

2025.12.3
さらば青春の光

文=斎藤 岬 撮影=木村心保 編集=梅山織愛


2025年に開催した単独ライブツアー『八百長』では4万人を動員、YouTubeでは連日100万再生を超える動画を更新。リアルでも画面越しでも幅広い世代を惹きつけ、唯一無二の地位を築いているさらば青春の光は今、後輩芸人も憧れる存在となっている。

だが、ふたりは自分たちが作るコンテンツはすべて「下品だ」と自称する。では、なぜこれだけ多くの人に愛され続けているのか。さらば青春の光の笑いの作り方、そして芸人としての生存戦略を紐解く。

原点であるネタが今も一番の強み

森田哲矢(以下、森田) ちょっと増えすぎましたねぇ(笑)。去年ぐらいからブクロが「公演数多いねん」って言い出したんですけど、さすがに俺も今年は「ちょっと多いな」って思いました。でもそれだけ観てくれる人がいて、さらにチケットが取れない人もいるのはありがたい話なんで、でき得る限りやりたいと思ってます。

森田 そこは僕らはあんまりわかんないっすね。でも見てるとおじさんもおばさんもおるし若い子もおるから、けっこう幅広い世代の人が来てくれてるんじゃないですか。

東ブクロ 普段吉本の劇場に行ってるような、若手のお笑いファンと呼ばれる人は僕らのことどう思ってるんかな?っていうのはあるっちゃありますけどね。どっちかというと、お笑いライブにはあんまり行かないけど俺らのライブには来てくれてるような人が多い気がします。でも別にスベるときはしっかりスベるんで、ちゃんとシビアに見てくれてるんやと思います。

森田 やっぱり屋台骨的なイメージはありますよ。ネタが一番の強みだと思いますし、そこから始まってるんで、これさえやっておけばなんとかメシ食っていけるんじゃないかな、と。

東ブクロ 当時はそういう人はそんなにいなかったですね。

森田 そのころは単独も賞レースのための部分が大きかったですからね。俺らの場合、2017年に今の数字シリーズ【編注:2017年『会心の一撃』以降、単独タイトルに含まれる数字が毎年ひとつずつ大きくなっている】を始めて、2018年からは、(マンボウ)やしろさんに演出に入ってもらって、そのあたりから変わってきたと思います。

さらば青春の光
森田哲矢(もりた・てつや)大阪府出身

さらば流YouTube企画の考え方

森田 いや、僕らって結局、YouTubeもライブも下品なんすよ。そのベースの上で、やってることが違うだけな気がします。YouTubeは瞬発力だけど、それと同じ感覚の延長で「これをもっと煮込めば、ちゃんとお金を取って見せられるものになるぞ」っていうのがコントじゃないですかね。だから使う脳みそは表裏一体というか、近いところにあると思います。

東ブクロ 僕の場合、コントは同じこと何回もするんで覚えんとあかんけど、YouTubeは覚えることがないんで楽は楽ですね。

森田 あ、こいつは全然別の感覚でした(笑)。

東ブクロ だから違いもなんも、わかんないっす。

森田 なんやろう? ラインは絶対ゆるく設定されてるはずなんですよ。なぜならYouTubeであって、テレビじゃないんで。うまくいかなくてもおもろなるというか、それ自体をおもろがれるんですよね。一個あるとしたら、ハプニング性があるかどうかかもしれないっすね。予想もし難い方向に行くようなことが起きそうだと思ったら「やろうか」ってなってる気がします。

森田 「馬狼」(「人狼ゲーム」の要領で、誰が当たり馬券を持っているか当てていく企画)とか、予想つかないじゃないですか。誰が当たって誰が馬狼で誰がどういう立ち回りして、って。でもあそこまで手練れの芸人を集めれば、どう転がってもおもしろくなるのはわかってるんで。もっと最近でいうと、ブクロの「禁煙ドッキリ」もそうっすね。「なんかおもろなるんじゃない?」ぐらいの感じが見えればゴーサインが……あ、すみません、タバコのやつは継続中なんでした。

東ブクロ ええって。バレてへんと誰も思ってないって。

東ブクロ いや、「何がしたいんやろな?」とか、もしくは「やりたいことはわかったけど、速く気づくのがおもしろいのか、それともそこからを楽しみたいのか?」をなんとなく予想しながらやってるぐらいですね。こっちはなんも知らんし、何が正解かもわからないんで「もうええか」って思ってます。あかんかったらそっちのせいやで?って。だからほんまに手応えは一切ないです。

さらば青春の光
東ブクロ(ひがしぶくろ)大阪府出身

来てくれた芸人が損さえしなければいい

森田 リラックスできるっちゃできるかもしれないですね。「スタッフはウケてなくても、最悪この人は笑ってくれる」って思えるんで。

東ブクロ たぶんテレビのスタッフさんも僕らのYouTubeを観て「こことここは相性ええんや。じゃあ一緒に出そうか」ってなってるんじゃないですかね。「そのノリを持ってきてくれてもいいですよ」と思ってくれてるというか。今のテレビはそういうふうになってるんでしょうね。

東ブクロ 冷たい線引きがあるんですよ、こいつの中で。

森田 あのね、YouTubeといえど馴れ合いじゃないんですよ(笑)。いや、メインチャンネルはなんとなく企画があってそこに合う人をツモってるんで、「バイクさんよりこの人のほうが合うやろな」ってことです。呼べるなら呼びたいんですけどねぇ。ニューヨーク屋敷(裕政)とか見取り図・盛山(晋太郎)とかもそうですし。

森田 すごい時代ですよ、たかがYouTubeでそんなことが起こってるって。でも別に、なんも思ってないですね。来てくれた芸人が損しないようにしようとは思いますけど、「こいつを売り出そう」とかは一切ないです。俺らはそのときにその人でおもろいことやれたらいいだけなんで。

東ブクロ ちゃんぴおんずの(日本一おもしろい)大崎なんか、もともと僕がつながりがあって企画で電話したのをきっかけにちょこちょこ出てもらうようになりましたけど、そこでたぶん僕にハマるより森田にハマったほうがええと思ったんでしょうね。あいつはもう、僕とはメシ行かないです(笑)。そういう嗅覚が働いているやつもいるはいるんでしょうね。

森田 結果、それでかかってくれて動画がおもろくなるのはあるかもしれないですね。「ここは影響力があるから、かかっていかなあかん」って思ってくれてるならありがたいです。

まじめにネタを語るのはむず痒い

さらば青春の光

森田 そんなに積極的にではないっすね。「今ここが香ばしそうな匂いするなぁ」は観てますけど。最近(※取材は10月下旬に実施)だと東京NSC14期の揉め事は、山添(寛/相席スタート)に「どれから観たらいいの?」って聞きました(笑)。ああいうのは単純にワクワクするし、おもろいじゃないですか。

森田 SNSで切り抜きが流れてきたら観てますけど、わざわざ調べることはないっすね。

東ブクロ 僕はネタ観るのはテレビのネタ番組ぐらいです。

森田 こいつは『にちようチャップリン』(テレビ東京)めっちゃ観てるんで。

東ブクロ まぁまぁ、それは観てるけど、でもほんまにそれぐらいちゃう? SNSとかYouTubeでネタ観ることはないですね。だからしずるさんの「LOVE PHANTOM」のネタも『キングオブコント』観るまで知らなかったです。

森田 発信したほうがいいんですか?(笑) たまにラジオでやってますよ。まぁまじめにではないですけど。

森田 えー、なんなんやろ。一個あるとしたら、メディアで発するのは責任が伴うじゃないですか。ってことは、ちょっとウソも入れないとダメじゃないですか。そうなると本音の本音じゃないような気がして、じゃああんまり意味のないことなんじゃないかと思っちゃうんですよ。だから結局、居酒屋で話してるのが一番楽しいなって。あとはやっぱり、そういう話をするとどうしてもまじめになっちゃうから、むず痒いっすよね。

スケコマシの希望でいられたらそれでいい

さらば青春の光

森田 天下を獲るってことは関わる人が増えるわけじゃないですか。こっちがコケたら、その人たちも食いっぱぐれる可能性がある。その責任を負いたくないっすね(笑)。そういう位置には行かずに、できるだけミニマムでやっていたいです。

森田 いや、もちろんこの世界に入ったときはそういう気持ちもありましたけど、徐々に現実を知っていくじゃないですか。そしたら、どうやって高みに登るかじゃなくてどうやって生き残っていくかを考えるようになりますよね。あまりに天下からは遠いから、それならスキマを埋めるようなやり方のほうが生き残っていけるやん、って。それが自然と高みに登っていくことにつながってたらええな、ぐらいの感じです。

東ブクロ 学生時代にテレビ観てたときは、ダウンタウンさんやとんねるずさん、ナインティナインさんみたいにMCやってはる人が「売れてる=天下獲ってる」って認識やったんですよ。それ以外の、テレビでたまに見るぐらいの人は「売れてる」とは言わへんのちゃうか?と思ってました。それやったらやっぱり天下獲るところに行きたいな、って気持ちはありました。でも実際にこの世界に入ったら「こんなにいっぱい芸人おんねや」「その中でメシ食えてるってすごいことなんや」って気づくんですよね。そこから憧れはなくなっていった気がします。

森田 ありがたいっすね。ただ、俺らは別に「コントで飯食いたい!」って熱量で始めたわけじゃないんですよ。もし下の世代の人がその部分で俺らを成功例のように見てくれてるんだとしたら、そこはわかってほしいかもしれないですね。明確な戦略があったわけじゃなくて、たまたまいろんな巡り合わせでこうなってると思うんで。

東ブクロ 僕からすると、今養成所入って芸人目指す子が不思議なんですよ。YouTuberとかのほうが人気になりやすいし、昔よりお笑いに触れる機会は減ってるはずじゃないですか。そういう意味では、憧れられる意味はあんまりわかってないですね。ただ、個人的には「あれだけやらかしたやつが、まだテレビ出れてんねや」みたいに憧れてくれるのはうれしいです。

森田 うれしいってなんやねん(笑)。スキャンダルやっといて「俺に憧れろ」って!?

東ブクロ 「この厳しい時代に、まだテレビで『芸能人いきたい』とか下世話なこと言ってんねや」って思ってもらえたら。(お見送り芸人)しんいちと「今こういうやつがおらんかったら、おもろないやろ」ってよく話してるんですよ。

森田 あ、ダメっす、ダメっす。こいつ、自分のスケコマシを正当化してますよ。よくないっすね。

東ブクロ そこで飯食えてる部分には憧れてほしいところはありますよね。コントどうこうは別に、憧れんでいいと思います。

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12月10日(水)発売の『Quick Japan』vol.181には、本記事とは異なる写真、一部内容の異なるインタビューを掲載。ぜひ併せてご確認ください。

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斎藤 岬

(さいとう・みさき)編集者・ライター。1986年神奈川県生まれ。編集担当書籍に「別冊サイゾー『想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本』」(サイゾー)など。「芸人芸人芸人」「月刊芸..

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