『ニューヨーク Official Channel』の人気コンテンツである、東京NSC17期生の一部で結成された集団「ザ・エレクトリカルパレーズ」(通称「エレパレ」)の存在に迫った動画や、神保町よしもと漫才劇場の当時のランキングシステムによって発生したいざこざにスポット当てた『さようなら花鳥風月』などの芸人ドキュメンタリー。
現在は、東京NSC20期が抱える問題を扱った『アトムレイジ』シリーズを配信しており、7月6日(日)には初の試みとなる生配信で、この問題に終止符を打つ。
注目の配信を前に、この問題だけでなくこれまでも芸人間でのトラブルを引っ張ってきた作家・奥田泰にインタビュー。改めて『ニューヨーク Official Channel』でドキュメンタリーを扱うようになった理由やMCとしてニューヨークが持つパワーを聞いた。
ニューヨークは芸人の中で一番“自分”に興味がない
──『ニューヨーク Official Channel』の代名詞であるドキュメンタリーシリーズは、2020年6月公開の『ザ・エレクトリカルパレーズ』(通称「エレパレ」)から始まっています。だいぶ前の話になりますが、あのときなぜあれをやることになったんですか?
『(ニューヨークの)ニューラジオ』の中でふたりが「エレパレ」という存在の話をちょっとしたんです。それがおもしろいなと思ったんで「いろいろ追ってみようよ」って僕が言って、ふざけ半分で始まりました。だから“映画”の体(てい)にしているのもボケではあるんですよ。なんだったら最初は映画『凶悪』の面会のシーンのように、ドラマ仕立ての合間にインタビューが入るような構成にしようかと思っていて。ただ、侍スライスの話を聞いたときに彼らが「青春だった」って言ったことに驚いて、ニューヨークも僕もグッと気持ちが入って熱くなっちゃって、そこからちょっと方向性が変わっていきました。
──ではドキュメンタリー映画のような仕上がりになったのも、公開後にあれほど大きな反響を呼ぶことになるのも、当初は想定していなかったんですね。
完全に想定外です。とにかく、出てくれた芸人の話がおもしろかったんですよ。それは一緒にインタビューしていたニューヨークの力が大きくて。
コロナ禍に入って劇場が休みになったころ、後輩を呼んで話を聞く生配信を毎日やっていたんですね。その中でサンタモニカがゲストで来たときに、たまたま僕の座っている位置から机の下のポールの手が見えていたんですけど、それがちょっと震えてたんです。それを見て「あ、俺が思っている以上に後輩からしたらニューヨークは憧れでありカリスマなんだ」と感じました。それだけ慕われているから、みんなニューヨークと話したがる。『エレパレ』も、17期の子たちがニューヨークの前だからこそしゃべれたところは大きかったと思います。だからインタビューがおもしろくなって、結局ドラマパートをやめてインタビューだけで構成するかたちになりました。
──その後は『さようなら花鳥風月』『シン・りょう』と神保町よしもと漫才劇場(当時)の若手たちを中心としたシリーズが続き、動画を複数本出してからライブで決着する手法が定着していきます。どのシリーズも、動画を出す順番が演出として巧みですよね。誰を呼んでどういう順番で出すか、どうやって決めているんですか?
基本、僕が決めて呼んできてますね。多少入れ替えることもあるけど、基本的には撮った順に出してます。最終的なライブでもそうなんですけど、やっぱり後輩たちがみんなニューヨークにおもしろいと思われるためにがんばってくれるから、おもしろくならないことはないんですよ。そういう安心感がありますね。
──ニューヨークさんには、事前に今後の展開の相談や説明をされているんでしょうか。
「今度、◯◯を呼んでみようと思うわ」「次は△△呼んで、反撃の回にしようと思ってる」とか伝えるぐらいで、展開を相談したことはほぼないですね。こういうシリーズをやっているといつも感じるのが、「最初に◯◯とこういう話をして、次に△△からこういう話を聞いて」って流れを屋敷(裕政)が本当によく覚えてるんですよ。あれはすごいですね。だから毎回いちいち説明しなくてよくて。あ、嶋佐(和也)もシリーズを撮ってる間は覚えてますよ。終わったあとはなんにも覚えてないです、彼は。
──(笑)。カリスマであることに加えて、ニューヨークさんの聞き手としてのスキルがドキュメンタリーシリーズを成立させている大きな要因だと思います。
あのふたりは、後輩だとか先輩だとか関係なく、何かを起こす人たちにすごく興味があるんですよね。ニューヨークってたぶん、芸人の中で一番“自分”に興味がないふたりのような気がする。芸能人は、やっぱり自分の話を聞いてほしい人が多いけど、ニューヨークはそれがなくて、本当に話を聞きたがるんです。
過去に1回、僕がニューヨークにインタビューされる企画をやったんですよ。いつもは横で話を聞いているんですけど、初めて真正面に座って話したときにわかったのが、ふたりがめっちゃ聞きたそうな顔をするんですよね。「もっと知りたい」って顔をするから、ついしゃべっちゃう。意識してるのかわかりませんけど、あれは彼らの才能だと思います。
──加えて、当然ながら返しのコメントのキレも素晴らしいから、出てくれる人がどんどんしゃべりたくなるんでしょうね。
あのスピードでああいう返しのワードがどんどん出てくるって、あれはもう、屋敷の才能ですよね。あと、嶋佐ってすごくないですか? あいつが笑ってたら全部OKじゃないですか。「嶋佐が笑ってるんだから、これは楽しいんだ」って思わせてくれる。たぶんそれは持って生まれたもので、ほかの誰にもできることじゃないと思います。その相乗効果で成り立ってるんでしょうね。
ドキュメンタリーでの戦うべき相手はお客さん
──そもそものところとして、どのシリーズも狭い世界での揉め事ではあるじゃないですか。それがあれだけおもしろくなっているのがすごいと思うんですが、奥田さん自身、もともとそういうおもしろさに惹かれるところがあるんでしょうか? 個人的には、バチバチになっている人たちとその周囲でストーリーを積み重ねていって、最後は直接対決して決着をつけるって、すごくプロレスっぽいなと感じていて。
僕もプロレス好きなんで、その感覚はけっこうあると思いますね。昔のプロレスって、雑誌『週刊プロレス』みたいなメディアだったり実際のリング上だったりで、そういう積み上げをしてたじゃないですか。誠心会館と新日の小林邦昭の物語とか(編注:1991〜1992年に勃発した抗争。控室でのトラブルに端を発して、新日本プロレスと誠心会館の抗争に発展した)、中学生のころにリアルタイムで観ていてドキドキしましたから。そう考えると、やってることは本当にほぼプロレスのアングルですね。最後が東京ドームなのか、神保町の劇場なのかって違いで(笑)。
──すごく納得がいきます。
出てもらう子たちに僕は「UWF(日本のプロレス団体)やるぞ」って言うんですよ。「プロレス」って言うとお笑い的な意味でのプロレスだと思われちゃうから、そのほうが伝わるかなって。揉めているけど、お互い芸人人生をつぶそうとまでは思ってない。あくまで見世物だから。UWFは本当に当てたように見えるし、当時は格闘技のように思えたけど、やっぱりプロレスではある。戦うべきは目の前の相手じゃなくて、実はお客さんなんだ、ってことをりょう(小虎)たちには言ってました。
過去一予測不能な『アトムレイジ』
──現在は最新シリーズ『アトムレイジ』が進行中です。改めて、このシリーズについて教えてください。
「あとむとおミュータンツの(川嶋)おもちが仲が悪いらしい」って話を僕が聞いて「おもしろそうだから、やろうと思う」って話をしてたんですよね。そうしたらたまたまちょうどそのときに『あとむ・バイダンのラフレ』(stand.fm)でそういう回が上がったんで、「これはいける」と思って大ちゃん(ブラゴーリ)とあとむを引っ張ってきて。ただ、フタ開けてみたら思っていた以上のクソゲンカなんですよ(笑)。
──これまでのシリーズに比べて、ニューヨークのふたりが「しょうもねぇ」を連発している印象です。それもまたおもしろくて。
俺がたぶん、大ちゃんに騙されてる気もするんだよな……。大ちゃんから「こことここが大揉めしてます」って聞いて撮ってみたら「聞いてたのとちょっと違うな」ってことがあるんですよ。
──奥田さんすら翻弄する大ちゃん、怖いです。7月6日にはYouTubeで『アトムレイジ 東京20期問題完結編』の生配信が予定されています。これはどんなものになりそうですか?
正直、どうなるのか全然わからないですね。仲直りを目指してるわけでもなくて、「とにかく言いたいことを言い合って終わろう」って感じなので。『シン・りょう』や『サンクチュアリ』では、最終的にいい方向に向かうような仕掛けを用意していたんですよ。今回はそれもないから、本当にどうなるのかわからない。たとえて言うなら、これまでが「RIZIN」だったとすると、今回は「BreakingDown」というか。
──ハイレベルな戦いになる保証はないけれど、そのぶん、何が起こるかわからない、という感じでしょうか。
そうそう。ただただケンカするだけ。だから観ても感動は全然しないかもしれません(笑)。
ダメなやつほどおもしろい
──『Quick Japan』では、2026年2月発売号巻頭でニューヨークさんの特集を予定しており、1年間の密着を実施中です。奥田さんはおふたりと10年にわたる付き合いがありますが、すっかりブレイクされた今、昔と比べて変わったと思う部分はありますか?
それはないですね。中身は変わってなくて、ただ「カネ持ったな」って感じです。話してる内容も、昔っから全然変わらない。それがいいところで、視聴者の方もそこに魅力を感じてるんだと思います。
──『アトムレイジ』のコメント欄で、「ニューヨークがメジャーな場で活躍すればするほど知らない芸人の話をするチャンネル」という旨を書いている人がいて、たしかにそうだなと思いました。
本当、そうかもしれないですね。結局そこにばっかり興味があるというか。基本的に、しっかりしている人から売れていく世界ではあるんですよ。だけどやっぱり芸人って、「なんでそんなことしちゃうの?」って思っちゃうようなダメなやつほど人間としておもしろい。ニューヨークもそこをおもしろがってるんだと思います。だから売れてない人たちばっかり扱っちゃうんでしょうね。
──最後に、今後ドキュメンタリーシリーズでやってみたいことはありますか?
芸人以外でやってみてもおもしろくなるのかな、というのは気になってますね。僕、ゴルフが好きでいろんなゴルフチャンネルを観るんですけど、そっちの世界でもちょっとした揉め事がけっこうあるって聞くんですよ(笑)。これまではニューヨークにおもしろいと思われたい人たちが出て、ニューヨークも「おもしろくしてあげたい」と思いながらやってきたわけじゃないですか。そうじゃない人たちを取り上げたらどうなるんだろうな、って。なかなか難しいでしょうけど、いつかやってみたいですね。
『アトムレイジ』
2025年7月6日(日)19時配信開始
ニューヨーク Official Channelで配信
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