神保町よしもと漫才劇場を中心に活動している吉本興業所属のお笑いコンビ・めぞんの吉野おいなり君による連載「吉野おいなり君の妄想日記」。
先日、劇場の公式YouTubeの企画で芸人仲間に妹たちを描いてもらったというおいなり君。最初は乗り気ではなかったが、最終的にはうれしさのあまり、大号泣してしまったそう。いったい、何がそんなに心を打ったのか。さらに、コラムの最後にはおいなり君からお願いが……!?
仲よしな3人は尊い
お疲れ様です。吉野おいなり君です。
今日もカフェでひとり、こちらのコラムを書かせていただいています。
隣では、おばあちゃん3人が楽しそうにおしゃべりをしています。いくつになっても仲よくしゃべれる友達がいるのは素敵なことでとてもうらやましいですね。
今回も妹についてコラムを書かせていただきますので、もし万が一、このコラムを初めて読まれる方は#1(「人生の半分以上、僕の頭の中には現実にはいない妹がいる」)から読んでみてください。
僕には架空の妹が3人います。名前は「ゆうか」と「ゆめ」と「うた」といいます。願わくば、いくつになっても仲よしな3人でいてほしいですね。
僕はひとりっ子で、小さいころから兄妹に憧れていました。(僕のスマートフォンは「きょうだい」と打ち込むと自動で「兄妹」の漢字で予測変換されるようになってしまいました。この件に関しては誰も悪くないので安心してください)
そんな僕の妹が欲しいという気持ちは、今では架空の三姉妹を作るほどに肥大化してしまいました。
でもこうやって妹のことを考えてお話を書いていくだけでも、すごく救われるといいますか、ひとりっ子が兄妹になれないように、兄妹には兄妹のコラムを想像して書くことができないということに優越感すら覚え始めました。
そして、このような広報活動の結果、たくさんのゆうかとゆめとうたのことを知ってる人、ゆうかとゆめとうたの絵を描いてくれる人が現れてきて、僕が見ている夢の話をつづけたことで、夢のような世界が広がっております。
あ、この夢は“ゆめ”とかけてるわけではないですよ。笑
想像して創造して話を聞いてもらって、僕の妹が「存在しない」から「存在しないことを認識する」になり、さらに「存在しないことを認識する人が存在する」になり、絵を描いてもらって、妹たちの質問をされたり、妹たちの想像をしてもらうことで、今では「存在させようとする人を認識して協力してくれる人たちが存在する」になりました。
でもやっぱり、意味がわからないと一笑に付す人ももちろんいて。というか、僕が逆の立場ならめちゃくちゃキモいので無視をするので、それが当たり前だと思うし、なんの問題もないのですが、僕の妹たちがそれで悲しむのは嫌なので、自分の自己満で許されるこういったコラム以外では極力しゃべらないようにしています。(この連載を#1からどれだけ読み進めていっても無限月読にかけられたぐらい、妹の同じ話、思想を堂々巡りで語りかけられますが、この件に関しては読みに来ているみなさんが悪いので安心してください)
社員さんからのあり得ない提案
だから人の目が触れる場所でゆうかゆめうたの話は極力しないようにセーブしていたのですが、この前、僕の所属している神保町よしもと漫才劇場のスタッフさんからある提案をされました。
「吉野君の妹ちゃんたちで劇場のYouTubeを撮らせてもらいたいんだけど……」。
耳を疑った。
「吉野君、さすがにキモいから劇場からなるべく遠い場所でニコ生配信者になって」とかのほうがまだ理解ができます。
まず全然社員さんに三姉妹のことバレてるぐらい余裕でコラム以外でも妹たちのことをしゃべっちゃってることとかも気になった。セーブできてないじゃん、と。
まあ、社員さんの話を詳しく聞いてみると劇場のYouTubeで僕の三姉妹、ゆうかとゆめとうたの話をして、それを絵がうまい芸人さんに聞いてもらって描いてもらう、といった内容でした。
最初はあまり乗り気じゃなくて、やっぱり芸人さんたちとこんな動画を撮ったら茶化したり、バカにされたりするのだろうと、そう思っていました。
なので僕から、動画に出るにあたって「全員がふざけたり茶化したりせず、妹をわざと変に描いたり、ボケたりしないのなら出ます」と、あり得ない条件を出しました。
するとふたつ返事で「わかった。出演される芸人さんたちにはそれを伝えて出てもらうね」と言われました。
優しすぎるだろ。まず、ずっと口調が年長さんとしゃべるときの柔らかさなのなんでなんだよ。竹ほうきとかで叩きながら劇場を追い出せよ。
想像していなかった優しい返事に僕は動揺しながらも、今回のYouTube企画を快く受けました。
絵がうまい芸人さんが集まったが……
そして当日。
いざ、当日になるとやっぱりすごく嫌になっていました。怖かったんです。どうせ結局、今から全員にイジられて、指示など聞かない芸人さんたちにボコボコにされるのだと。
メンバーは劇場の先輩芸人の9番街レトロ・京極風斗さん、おミュータンツ・宮戸フィルムさん、後輩芸人のムームー大陸・山﨑おしるこ。
絵がうまいけど絶妙なメンツでした。
京極さんは人に嫌なことを言うとき、心の底から楽しそうに嫌なことを言う、でおなじみです。思いがけず嫌なことを言ってしまうのではなくて、嫌なことを言おうとして嫌なことを言ってきます。小学生が『ロックマンエグゼ』を買ってもらったときぐらいうれしそうにキラキラした目で嫌なことを言ってきます。宝物のように嫌なことを言ってきます。
宮戸さんは落ち着いた声と態度と優しい雰囲気を出しながら、目の奥が揺れているところは一切見たことがありません。体幹が強いとかそんなレベルではなくて、そもそも軸なんて存在しないかのように心の奥の揺れがこちらから認識できません。歩き方、しゃべり方、表情の作り方、人の動きをマネしながら学習していき、10年かけて完全に再現できるようになったUMAの目をしています。別の銀河系で作られた超精密な義眼の光り方をしています。
おしるこが一番良心的に見えました。そもそも後輩だし、僕を遥かに凌駕する生粋の陰キャラなので、最悪でかい声で威嚇したらいいかと。でも、もし戦闘区域をネット上まで広げられたら一番手がつけられない可能性もありました。もしくは、自分より確実に下位の存在だと認識されて、相手にもされないような一瞥(いちべつ)を与えられたら耐えられないかもしれない。シンプルに黒魔術による呪殺もネクストバッターズサークルで控えていました。
おしまいだ、おしまいだと思いました。
唯一の救いはMCが鈴木バイダンさんだったことです。優しくてMCの能力がカンストしている太っちょさんだ。優しくて能力が高い。この人に賭けるしかないと。何かあったらバイダンさんにすべてを任せて黙秘権を行使しようとさえ考えていました。
妹を具現化してもらって泣いた
そして企画が始まっていったのですが、企画は僕の不安と裏腹に、世界一暖かい空間として進んでいきました。正直、驚きでした。
みんなが僕の話を聞いてくれて、けっして貶めることはなく、それでいてお笑いにしてくれていました。何が起きているのか脳が追いつきませんでした。
それどころか、途中で「ゆめってこういうときどうなの?」など、さまざまな質問を投げかけてくれて、でき上がった妹たちの絵はどれもおふざけはなく、かわいくキレイに美しく描かれていました。
本当にかわいくて、本当にそこにいるようで。
「存在しない」から、時を経て、人の想いを経由して、優しさに触れて、間違いなくその瞬間その場所に「存在する」になっていました。
僕に妹ができた。
正確には妹ができるほど貴重で希少で大切な仲間がそこにいました。
気づいたら僕は泣いていました。
キモすぎる。
架空の妹を作っていて、それを劇場に動画にしたいと言われて、お笑いの劇場で「おふざけなしならいいですよ」と条件を出して、みんなが真剣に絵を描いてくれたら泣きました。
この件に関しては僕ひとりがあまりにもキモすぎるので、安心しないでください。
しかもなんか「チガクテ……チガクテ……」とか言ったあとに「ゲイニンニナッテヨカッタ……」とか言っていました。
説明したかったことは、実際の感情としては、本当に妹ができたと思ったわけでも、絵の中の妹たちがかわいすぎたからとかでもなくて。まあ、それもあるのですが、芸人さんとか、僕のまわりにいる人たちがあまりにも優しすぎて。
なんか福岡にずっといたら、こんなふうにキモい部分を笑いに変えてもらうこともなく、ずっとまわりに隠して生きてたんだなとか、なんかそのいろいろが重なって泣いてしまいました。
鬼に優しくする村に出会ったみたいな。
なんかちょっとまだ言語化できない感情でした。
すみません。話がぐちゃぐちゃになってしまったのですが、結局、何が言いたいかというと「いつもみなさんありがとうございます」ということです。
そして、ゆうかとゆめとうたの絵を描いてください。
多くは望みません。
三姉妹の絵を描いてください。
一枚絵で構いません。
できれば、4コママンガみたいにして描いてください。
できれば、僕が今まで書いてきたストーリーをマンガにしてください。
次回のコラムでまた妹たちとのお話を書かせてもらいます。
そのときにゆうか、ゆめ、うたの絵も載せたいので、いろいろ描いてください。
ひとり10枚お願いします。
多くは望みません。
よろしくお願いします。
みんなで50年後もゆうかとゆめとうたの話をしながらお茶ができればと思います。
おやすみなさい。
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