スピルバーグが『E.T.』の顔をしわくちゃにした理由が熱い
5月14日の「土曜プレミアム」(フジテレビ)は、映画『E.T.』。なぜ、しわくちゃでかわいくないE.Tが、最後には愛しく感じられてしまうのか。そこにはスピルバーグ監督の思いがあった。宇宙大好きライター・ツヤマユウスケが解説する。
最後に愛していると気づかせたい
「E.T.を誰が見ても『可愛い!』となるような生き物にはしたくなかった」
「E.T.が見た人々の尊敬や好意を得るような存在ではないことが、とても大事だった」
スティーヴン・スピルバーグ監督のことばである(『SF映画術』より)。
『E.T.』は1982年に公開されたSFファンタジーだ。主人公は10歳の少年・エリオット(ヘンリー・トーマス)。ある日彼は、地球に置き去りにされた宇宙人・E.T.を偶然発見。自分の部屋へ連れて行き、クローゼットの中で秘密の共同生活をはじめる。そして何とかE.T.を故郷の惑星に帰してやろうと手助けする。
E.T.はずんぐり太っていて、しわくちゃの顔。腕がだらりと長く伸びているのに超短足。リドリー・スコット監督の『エイリアン』のような邪悪さはないものの、一目見て「可愛い!」とは思えない。
E.T.が不格好な姿になった理由は、評伝『スティーブン・スピルバーグ 人生の果実』にも書かれている。観客に最初からではなく一番最後にE.T.を愛していると気がつかせるためだと。
確かに物語が進むにつれて、E.T.が心優しい宇宙人であることがわかってくる。鉢植えのしおれた花を復活させる力があり、エリオットがケガをすれば「イタイ?」と心配して傷を癒すこともあった。はじめは不気味に見えたE.T.が、だんだん愛嬌のあるキャラに思えてくる。
『もののけ姫』に抜かれるまで歴代興行収入第1位
『E.T.』プロデューサーのキャスリーン・ケネディによると、映画グッズメーカーはなかなかE.T.のキャラクターデザインを理解してくれなかったという。
「“E.T.”の顔を見た重役たちはウンザリした表情をみせたけど、まさかこんなにブームになるとは思わなかったでしょうね」(『キネマ旬報』1982年8月下旬号)
ところが『E.T.』は当時の世界歴代最高興行収入を更新する大ヒット作となる。1983年の第55回アカデミー賞では作曲賞、音響賞、音響効果編集賞、視覚効果賞の4部門を受賞。
日本での人気も非常に高く、『もののけ姫』(1997年)に抜かれるまで歴代興行収入第1位の座をキープした。
宇宙人と出会う夢を叶えようと必死だった男
『E.T.』の設定資料集(『E.T.メイキング&ストーリー・ブック』)によると、哺乳類でもなければ鳥でも魚でもなく、植物に近い生物らしい。E.T.がはるばる宇宙を旅して地球の植物を採取していたのは、同族の生物を調査するためだった。
映画の冒頭、森の中に着陸した宇宙船から宇宙人たちが降りてきて、木や草花のサンプル集めをはじめる。E.T.は目の前にあるセコイア杉に夢中になり、仲間とはぐれてしまう。彼は、宇宙船を追跡していた地球人が迫っているのに気がつかない。そして緊急発進する宇宙船に乗り遅れ、政府当局に狙われるはめになる。
一方、悪役として描かれる当局の男も好奇心に従って行動していた。E.T.捜索チームの責任者・キーズ(腰に鍵をぶら下げていた男)は、森の中で確かに宇宙船を目撃したのだが、肝心の宇宙人の姿はわからなかった。彼はどうしても諦めきれず、毎日探知機を持って現場に向かう。挙句の果てには、街中の家の会話を盗聴して手がかりを探すから本気度MAXだ。
キーズがエリオットに心の内を明かすシーンがある。
「E.T.は私の友達でもある。私も10歳のときから彼を待っていた」
ノベライズ版『E.T.』によると、長年キーズは世界中で宇宙人の痕跡を探しつづけていた。そのあいだずっと周囲から変人扱いされてきたらしい。彼は大人になっても、宇宙人と出会う夢を叶えようと必死に行動していたのだ。
また、ノベライズ版の作者W.コツウィンクルはスピンオフ小説『E.T.2 緑の惑星ストーリーブック』も発表していて、故郷の惑星に戻ったE.T.を描いている。E.T.は上司から「地球で何て無茶なマネをするんだ!」と叱られるが、それにも懲りずに新たな冒険に出かける。
E.T.は推定900歳。E.T.とキーズ、このふたりは夢を追いかけつづける超アツい大人だったのだ。
スピルバーグは言っている。
「E.T.を身の危険にさらすのは好奇心だ」(『スピルバーグ その世界と人生』より)。
『E.T.』の約4分間のエピローグを観て!
『E.T.』大ヒットから37年後の2019年。
アメリカのケーブルテレビ企業「Comcast」と、同社が運営する動画サービス「Xfinity」がショートムービー『A Holiday Reunion(休日の再会)』を制作し、公開した。これは『E.T.』のエピローグとなる約4分間の映像作品。大人になったエリオットのもとにE.T.がまたやってきて、クリスマスを一緒に過ごすというストーリー。再びヘンリー・トーマスがエリオット役だ。E.T.の再来に興奮しまくる47歳を熱演。エリオットも童心を忘れていなかった。
『A Holiday Reunion』は「Xfinity」のCMとして、アメリカの祝日・感謝祭を記念して制作された。監督はランス・アコード。スピルバーグは監修というかたちで関わる。これぞファンが待ちわびていた続編で、『E.T.』の名シーンのオマージュがあちこちに盛り込まれている。Youtubeで公開されていて、音声は英語のみで日本語字幕は無いがそれでも十分楽しめる。『E.T.』を観た人はこちらも要チェックだ。
。
関連記事
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR -
7ORDER安井謙太郎、芸能人に会いたいで始まった活動が「自分の仕事」になるまで
求人ボックス:PR