劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』:PR

劇場版『DEEMO サクラノオト』が切り拓いた音楽映画の新たな可能性。気鋭の映画音楽評論家がその魅力を徹底分析

2022.3.3
劇場版『DEEMO サクラノオト』が切り拓いた音楽映画の新たな可能性

文=小室敬幸 編集=森田真規


全世界で2800万ダウンロードを突破した台湾発の大人気音楽リズムゲーム『DEEMO(ディーモ)』。そのゲームをアニメ化した劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』が、2月25日より全国の映画館で公開されている。

日本を代表するクリエイターがアニメーション制作を担当し、竹達彩奈、鬼頭明里、佐倉綾音、山寺宏一ら人気声優陣のほか、丹生明里(日向坂46)、濱田岳、渡辺直美、イッセー尾形、松下洸平らが声優キャストで参加していることでも話題になっている本作。

また、劇場版『DEEMO サクラノオト』で注目したいのが音楽映画としての側面だ。「ANiMA」「Nine Point Eight」「Leviathan」などゲームで人気を得ていた楽曲が映画館の環境に適したアレンジが施されて流れ、物語の鍵を握る楽曲と主題歌は『鬼滅の刃』や『ソードアート・オンライン』など昨今の話題作をいくつも手がけているマルチ音楽コンポーザーの梶浦由記が書き下ろした。

そんな本作の音楽映画としての魅力を、気鋭の映画音楽評論家・小室敬幸が徹底分析。7.1chという最高の音響環境で、ぜひ劇場版『DEEMO サクラノオト』を体験してほしい。

原作は全世界で累計2800万DLされた音楽リズムゲーム

2月25日に公開された劇場版『DEEMO サクラノオト』は、いわゆる「音ゲー(音楽ゲーム)」の映画化という前代未聞のようにも思える試みを成功させた作品だ。その最大の立役者は、マルチ音楽コンポーザーの梶浦由記。近作でいえば『鬼滅の刃』や『ソードアート・オンライン』などの音楽で、世界中に多くのファンを持つ大人気作曲家である。

そもそもアニメであれ実写であれ、「音楽を題材にした映画」には独自の困難さがある。通常であれば「ソースミュージック」と呼ばれる劇中の登場人物にも聴こえる設定の音楽は一部だけ。日本では劇伴と呼ばれることの多い、観客だけに聴こえている設定の「アンダースコア」をメインに考えていけばよいのだが、音楽が劇中で重要な要素を担っている場合はそうはいかない。脚本を執筆する段階から、場面場面で演奏される音楽がどのような感情の起伏を巻き起こし、物語の展開に影響を与えるのかを考えておく必要があるからだ。

音楽が重要な役割を担っている『DEEMO サクラノオト』
音楽が重要な役割を担っている『DEEMO サクラノオト』

今回の映画にとって原作に当たるのが、2013年にリリースされた音楽リズムゲーム『DEEMO』。音ゲーでありながらハイスコアを出すことだけが目的ではなく、謎解き・考察要素もある感動的な物語を伴うことで、エンディングでは多くのプレイヤーを感動させた「大人向けのメルヘン作品」として大評判に。全世界で累計2800万ダウンロードされ、発売から10年近く経つ現在も売れつづけているゲームだ。

【予告編PV】劇場版 「DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-」

全編にわたってこだわり尽くされた音楽映画

映画では、ゲーム内と同様に謎の人物Deemoが今も愛されつづける人気楽曲をピアノで演奏するシーンが、まず見どころとなるだろう。しかもオリジナルの音源をそのまま使用するのではなく、ファンの気持ちを尊重して原曲のテイストをしっかり残したまま、今回の劇伴(アンダースコア)を担当した4名の作曲家陣──栗山善親、寺田志保、鈴木歌穂、園田優──が中心になって新しく編曲され直している。たとえば『DEEMO』を代表する難曲「ANiMA」はシンフォニックなサウンドにアレンジされることで、映画館の大音響で聴くのが楽しみな楽曲へとブラッシュアップされた。

「ANiMA」が使用された予告映像

音と映像の同期もこだわっており、監督を務めた松下周平は「実際にピアノを弾いてもらって動きをモーションキャプチャーするのですが、Deemoの指がかなり長いことから、そのまま使うことはできませんでした(笑)。音楽がテーマの映画ということもあり、ピアノ演奏になるべく嘘はつきたくなかったので、時間ギリギリまで修正しました」と述べているほどだ。

劇中でピアノを演奏するDeemo。指の長さにも注目だ
劇中でピアノを演奏するDeemo。指の長さにも注目だ

ちなみに劇中序盤に登場する「ラ・カンパネラ」(正式タイトルは、《パガニーニによる大練習曲集》より第3番 嬰ト短調)を作曲したフランツ・リスト(1811-1866年)は、若いころに超絶技巧を凝らしたピアノ曲でアイドル的な人気を博したピアニストなのだが、Deemoのように常人よりも指が長かったことで知られている。デフォルメされているようで実はリアルさも感じられる描写なのだ。

重責を見事に果たした梶浦由記の手腕

『DEEMO』に限らないことだがゲーム音楽は、映画やドラマの音楽よりもひとつの曲を能動的に繰り返し聴くため、プレイヤーは楽曲に思い入れを持ちやすい。だからこそ、ここまで紹介してきたように劇伴以外は人気楽曲だけで物語を構築するという判断もできたはずなのだ。しかし今回の映画化では実にチャレンジングなことをしている。それは“物語の鍵”となる楽曲を、映画オリジナルの書き下ろしにしたことだ。

なるべくネタバレにならないように(あえて回りくどく)説明すると、主人公が抱えている問題を解決するために、とある音楽を必要としていることが映画の序盤で描かれている。この音楽を映画オリジナルの曲にするということは、映画で初めて耳にするにもかかわらず『DEEMO』の人気楽曲に引けを取らない……いや、それを超える魅力を持った楽曲でないと、ファンは興ざめしてしまうだろう。この難題を任せられる作曲家は誰か? 白羽の矢が立ったのが梶浦由記だったのだ。そして「nocturne」という素晴らしい新曲で、見事に期待に応えた。

主人公のアリスは、Deemoの不思議な城の高窓から落ちてきた謎の女の子
主人公のアリスは、Deemoの不思議な城の高窓から落ちてきた謎の女の子

キャリアの長い梶浦だが、彼女の代表作として『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズを挙げる人は多いはずだ。劇伴に通常求められているのは感情や情景の描写だが、『まどマギ』を筆頭に梶浦の音楽は、世界観を描くのがとにかく巧い。たびたびインタビューで答えているように彼女の音楽の原点には、親が好んで聴いていたクラシック音楽──特にオペラがあるのだという。オペラというのは不思議なもので、舞台上で起こることは荒唐無稽かつリアリティが欠如している(10代という設定の役を、中年以上の恰幅のいいオペラ歌手が歌ったりすることは日常茶飯事)ことが多いのに、音楽の力によって物語が成立してしまう。

語弊を恐れずにいえば虚構性の高い舞台設定や物語ほど、梶浦の音楽も真価を発揮する。今回の映画で、彼女が作曲したもうひとつの楽曲「inside a dream」は非常に梶浦らしさがストレートに打ち出された歌だ。常套手段として彼女が用いる自作の造語歌詞でありながら、聴けばこれが「別れの音楽」であることが誰にでも直感的に伝わるはずだ。そして歌の最後だけ、意味のある言葉が歌われる。派手さはないが、この映画における音楽と映像のマリアージュが頂点に達する瞬間である。見事としか言いようがない。

【特報映像】50秒あたりから使用されている楽曲が梶浦由記が書き下ろした「inside a dream」

涙なしには聴くことができない主題歌「nocturne」

映画を観終わればわかるように、「inside a dream」という題に含まれているdreamという言葉は、『DEEMO』という物語にとって重要な意味を持つ。ゲーム『DEEMO』をやればわかるように、最初にプレイヤーが演奏する楽曲のタイトルも「Dream」(作曲:Rabpit)であるし、映画でもDEEMOが最初に演奏するのはこの「Dream」という曲だ。さらに深読みすれば、英語のdreamは「喜び」と「音楽」というふたつの意味が語源になっている単語なのだという。それを知っていれば、なぜ映画の序盤と終盤の2回に分けて「Dream」が流れるのか、理由は自ずとわかるはずだ。

「Dream」が使用された予告映像

物語が締め括られるとエンドロールで、前述した「nocturne」が今度は日本語の歌詞と共に歌われる。ちなみにノクターン(仏語発音だとノクチュルヌ)は日本語で「夜想曲」と訳され、もともとはショパンなどが数多く作品を残したロマンティックなピアノ小品である。この曲を通して、(劇中の)作者は何を伝えたかったのか? それを言葉にして歌った「nocturne」は一度、感情移入してしまうと涙なしには聴けないはずである。新たな音楽映画の可能性を切り拓いた劇場版『DEEMO サクラノオト』をぜひご覧いただきたい。

本作の歌姫オーディションでグランプリに輝いたHinanoが歌う主題歌「nocturne」

劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』

2022年2月25日(金)より新宿バルト9ほかにて全国公開中
出演:竹達彩奈、丹生明里(日向坂46)、鬼頭明里、佐倉綾音、濱田岳、渡辺直美、イッセー尾形、松下洸平、山寺宏一
原作:Rayark Inc.「DEEMO」
総監督:藤咲淳一
監督:松下周平
脚本:藤咲淳一、藤沢文翁
キャラクターデザイン:めばち
主題歌制作:梶浦由記
主題歌:Hinano「nocturne」(PONY CANYON)
制作:SIGNAL.MD Production I.G
製作・配給:ポニーキャニオン
(c)Rayark Inc./「DEEMO THE MOVIE」製作委員会


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小室敬幸

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小室敬幸

(こむろ・たかゆき)音楽ライター・映画音楽評論家。1986年、茨城県生まれ。作曲を池辺晋一郎らに師事。東京音楽大学大学院音楽学研究領域を修了。クラシック、ジャズ、映画音楽など広いジャンルでインタビュー取材、楽曲解説、映画パンフレットへの寄稿のほか、ラジオ出演やレクチャー講座等の活動を行い、深い作品分..

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