『日本列島 地名の謎を解く 地名が語る日本のすがた』:PR

「浮気」「鬼首」この地名、読める?おもしろい地名と歴史に迫る『日本列島 地名の謎を解く』

2021.11.18
『日本列島 地名の謎を解く』

文=西村まさゆき 編集=高橋千里


日本の地名に隠された歴史を探る『日本列島 地名の謎を解く 地名が語る日本のすがた』(谷川彰英/東京書籍)が2021年9月に発売された。

「なんでそんなことになった?」ツッコみたくなる難読地名

読み方がわからない地名を見かけると、ワクワクしてしまうタイプである。旅先や、地図帳で見つけた難読地名だけでは飽き足らず、郵便局でもらってきた郵便番号簿をパラパラとめくりながら、読み方がわからない地名を探すのが大好きだ。

それだけではなく、御徒町とか、浪速みたいな、誰でも読み方を知っているけど、改めて考えると実は難読地名だよな……みたいなものを探すのも好きだ。

地名に関する著作を執筆されてきた谷川彰英氏の新刊『日本列島 地名の謎を解く 地名が語る日本のすがた』(以降、本書と呼称)から「なんでそんなことになった?」と思わずツッコみたくなる難読地名を、いくつか抜き出して紹介してみたい。

Q1. 地名「浮気」(滋賀県守山市)の読み方は?

「浮気」の一般的な読み方は「ウワキ」である。しかし、地名はそう読まない。これは「フケ」と読む。読めなくもないけれど、知らないとそうは読めない。かなりの難読地名だろう。

谷川氏は、滋賀県へ講演に行った際、住民の人から「(地名に)けっこう迷惑しているんです」と打ち明けられ、「そこは湿地帯のような場所では?」と看破したエピソードを紹介している。

「フケ」は漢字が日本に伝わるより前からあった古い言葉で、低湿地を指す言葉であり、「深」や「更」などの字が当てられ、日本全国に見られる地名である。

低湿地を指し示す地名は、青森でよく見られる萢(ヤチ)、茨城に多い圷(アクツ)など各地にあり、フケもそんな地名のひとつだが、「浮気」の字を当てるのはここだけらしい。

Q2. 地名「飛鳥」(奈良県)の読み方は?

こんなもの、誰でも読める、バカにするなと憤慨する人も多いかもしれない。読み方はもちろん「アスカ」で正解だ。

しかし、よく考えてみてほしい。飛ぶ鳥と書いて、なぜアスカと読むのか。明日香という字もあるが、その字との関係は? これに答えられる人はどれだけいるだろうか。

本書によれば、「明日香」という地名があるが、これは当て字で、漢字自体に意味はなく、地形を表す古語、アス(崖)カ(処)か、スカ(洲)に接頭語のアがついたものであると考えられるという。

では、なぜ「飛鳥」が、アスカと読まれるようになったのか。それは、明日香の枕詞が「飛ぶ鳥」だったからだ。ところが、本書ではさらに、なぜ明日香の枕詞が飛ぶ鳥になったのか……という件についても考察しているのだが、それはぜひ本書を読んで確かめてほしい。

Q3. 地名「及位」(山形県真室川町)の読み方は?

これは、読み方を知らなければ読めないレベルの難読地名だろう。正解は「ノゾキ」と読む。JR奥羽本線の及位駅があるため、鉄道趣味方面ではかなり知名度の高い難読地名かもしれない。古くから知られた難読地名で、谷川氏も“懐かしい思い出の地名”というほどだ。

この地名の由来は、現地に伝わる伝説によると、大蛇退治を行った修験道の行者が、大蛇のいなくなった山に入り、自らの足に植物のつるを巻きつけ、崖に宙吊りになる「のぞき」の修行を行い、その修験者は京に戻ってから高い位に及んだため、この地が「及位」と呼ばれるようになった、との説を紹介している。

ただし「ノゾキ」自体は、東北地方にいくつかある地名で、「莅」と書く場合もあるという。修験者の伝説は、真室川町の及位にしか伝わってないという。

Q4. 地名「鬼首」(宮城県大崎市)の読み方は?

鬼に関する地名は日本各地にいろいろあり、鬼死骸(おにしがい・岩手県一関市)、百目鬼(どめき・山形県山形市)など無数にあるが、「鬼首」の地名のインパクトはすごい。読みは「オニコウベ」だが、言われてみれば納得はいく。

現在、鬼首は鬼首温泉郷として賑わっているが、この地名の由来は、平安初期に征夷大将軍に任命された坂上田村麻呂が、当時「鬼」と呼ばれていた大竹丸を追ってこの地で首をはねたから「鬼切部」と呼ばれるようになり、それがいつしか、鬼首となった、という説を本書では紹介している。

Q5. 地名「相去」(岩手県北上市)の読み方は?

岩手県北上市に、かつての伊達藩と南部藩の藩境となった場所がある。伊達藩のほうが鬼柳(オニヤナギ)地区、南部藩のほうが相去地区となっていて、相去は「アイサリ」と読む。

難読というほどでもないが、この地名は由来が非常におもしろい。江戸時代、伊達藩と南部藩の境界がはっきりしない場所があった。そのため、伊達から南部の殿様に境界をはっきりさせようと申し入れがあった。それには「双方が同日同時刻、午に乗ってお城を出発し、出会った場所を境目にしよう」というものだった。

これは南部公にとって非常に有利と思われる条件で、水沢あたりまで領地を広げられる可能性があった。ところが、実際に落ち合ったのは、鬼柳と相去のあたりだった。なぜか、南部公は牛に乗って来たのに、伊達公は馬に乗って来ていたのだ。

南部公が、約束が違うと抗議すると、伊達公は手紙をよく見ろという。手紙には「乗り物は午」と書いてあり、この午(うま)を、南部公は牛(うし)と読み違えていたのだ。

こんな、一休さんのトンチのような話が、本当にあったのかどうかはさておき、南部公は大藩である伊達藩にこれ以上強く抗議することもできず、相去ったことから、この地は「相去」となった、というわけだ。

伝説の信憑性はともかく、本書では、現地の鬼柳地区と相去地区の人々は、近年まであまり仲がよくなかったという話まで載っている。

さまざまな地名から読み解く、人と地域の関わり

『日本列島 地名の謎を解く 地名が語る日本のすがた』(東京書籍)
『日本列島 地名の謎を解く 地名が語る日本のすがた』(東京書籍)

以上、本書で紹介されているおもしろい難読地名を、いくつか紹介した。

地名は奥が深い。地形から名づけられたもの、人名がつけられたもの、地域の発展を祈念して縁起のよい文字を当てたもの、今風のかっこいい横文字を使ったもの、企業や団体の名前がついたもの……その由来は実にさまざまだ。

すでに、はっきりとした由来がわからなくなっているものに関しては、真偽不明な伝説が残っていたりする。

ただ、そういった伝説も含め、人々と地名の関わり合いを眺めていくのは、地域の文化を知る上でとても重要なことでもある。本書は、そういった地名を読み解く際の勘どころを押さえるのに、とても参考になるエピソードが数多く収録されており、さらに、地名についてライトな興味があるという人たちも楽しんで読める内容となっている。

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  • 『日本列島 地名の謎を解く 地名が語る日本のすがた』(東京書籍)

    『日本列島 地名の謎を解く 地名が語る日本のすがた』(東京書籍)

    著者:谷川彰英
    発行:東京書籍
    定価:1,210円(税込)
    初版年月日:2021年9月30日

    ユニークさ、動物、数字、伝説、古代史などの観点から選び出した日本の地名について、そこに秘められた人々の歴史と願いに迫る。『全国商工新聞』『BAN』連載に書き下ろしを加え単行本化。

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