私は何者?職業ではなく個人として評価される未来──冨田明宏×飯田里穂「声優ブームの最前線とは」

2021.7.4

アニソン時評を連載中のアニソン評論家の冨田明宏。7月5日(月)にゲストの飯田里穂と共に配信イベント『冨田明宏×飯田里穂 声優ブームの最前線(延長戦)』を行う。イベントをより一層楽しんでもらえるように特別に第6回・第7回の連載、冨田明宏と飯田里穂の対談の一部を公開する。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.156に掲載の連載を抜粋したものです。


「声優ブーム」

ここまで「鬼滅ブーム」に至る声優ブームについて振り返ってきたが、ここからは声優の飯田里穂を招いて現在の声優ブームについて語り尽くす。『ラブライブ!』の星空凛役として声優デビューを果たし10年。冨田による音楽プロデュースのもとソロアーティストとしても活動し、最近はバラエティ番組にも出演している。まさに、声優活動の多様化を身をもって体感している中、彼女が「声優ブーム」について思うこととは。

  最近バラエティ番組への声優さんの出演が本当に増えているなと感じるのですが。

飯田 TVで見ない日ないですよね。

冨田 過去最大レベルだと思う。

飯田 私絶対こうなる時代が来るなって、『ラブライブ!』に出ていたときから思ってて。なんでかと言うと、私はもともと子役からスタートして声優をやらせてもらったんですけど、初めて声優の現場とか世界を知ったときに、こんなに演技ができて、お話もできて、見た目も良くてなんでもできる人がTVに出ないわけがないって確信して。

冨田 『ラブライブ!』はアニメ業界の流れを決定的に変えたと思うんですよね。お客さんの流れが明らかに変わった。俺も長いことこの業界にいるけど、『ラブライブ!』のお客さんって、男性女性問わずものすごく若くて。しかも、ああいう作品なのに女性ファンが多かったというのも含めてこれまでの作品とは全然違うじゃん。凛ちゃん演じたころってまだ10代だった?

飯田 そうですね。最初は高校生とかだったので、そこからもう10年か。だいぶ経ちましたね。

冨田 忙しかったでしょう?

飯田 なんか最初はつらかったですよ。はじめたばかりのころはそれこそ声優さんが表に出る状況じゃなかったんです。もちろん出ている方もいらっしゃいましたけどそれはレジェンドと呼ばれる方々なので。私は子役とか顔出しからやって、グラビアもやってましたから風当たりもキツくて。

冨田 この子はどこの子かしら?みたいな。

飯田 なんでこんな子が声優やるの?みたいな。当時と比べてだいぶ垣根がなくなったから、今だったらなかなかない反応じゃないですか。私は今でもそれが忘れられないから、見返すために頑張れてるところもあるんですけど。

時代の変化と摩擦

冨田 良くも悪くも村社会と言うか。なんでそうなってしまったかって言うと、おそらく誤解されてきた歴史も長いんだよね。

飯田 長いですね。

冨田 オタクっていう呼称がまさにそうですが、蔑称のように言われてた時代が本当に長かった。その間、アニメ業界は、作品やファンを守るために長い期間村を閉じていて。そういった長く閉鎖的な時代を崩していったのが新しいコンテンツだし新しいお客さんだし新しい演じ手さんたち。この中で特に演じ手の皆さんがまずいちばん矢面に立つ存在で。もともとの経歴とかステータスで評価されたりして。

飯田 肩書き大事でしたね。もともとが声優じゃなかったのでキツかったです。私自身これまで経験してきた仕事とは別世界だったのでとても不思議な感じで声優の仕事がスタートした感じでしたし。

冨田 それでもちゃんと結果を残せてるけど、それはやっぱり見返したいという気持ちがあって?

飯田 見返したいという気持ちもありますけど、いざ声優の世界に入ったら、アニメの製作現場を見学したりほかの役者さんの演技や作品に対する思いを見ているうちに、こんなに楽しい表現の場はないなって思ったんです。オーディションももっと受けたいって気持ちになり、事務所とも相談したりして。

冨田 この業界って信じられないくらいオーディションで決まるじゃないですか。主役から小さい役まで。新人もベテランも関係なく、みんなテープを送ったり現場行ってオーディションを受けて。ファンの皆さんが考えてる以上にクリエイティブファーストな世界で。そういう厳しい世界にもかかわらず歯食いしばってやってこうと思うくらい魅力的に感じたんだね。


声優?歌手?私は何者問題

冨田 今、ご職業は?って聞かれたらなんて答えるの。

飯田 それなんですよ。職業は……飯田里穂ですって感じ。

冨田 なるほどね。飯田里穂っていう人がいろんな方法でこの業界でお仕事してるっていう感覚なんだ。

飯田 昔はタレントって書かれて、今は声優に変わって。

冨田 去年、音楽制作していた中で、なにかに帰属するっていうよりも、私は私的なメッセージを歌いたいですみたいなことあったじゃないですか。

飯田 ありましたね。昔から誰になりたいとか全然なくて。誰かになったら終わりだと逆に思っていたタイプなので。

冨田 それって小さいころから芸能活動してたからって関係あるのかな?

飯田 どうなんでしょう。……あ、『天てれ』は大きいですね。『天才てれびくん』の世界の住人になりたくてこの業界に飛び込んだので。

冨田 「Won’t lie never ever」の歌詞をりっぴーが書き、PA-NONさんが直してでき上がったけど、すごいポジティブで天真爛漫に生きてる女の子っていう印象がありながらも、やっぱりりっぴーにもともとあった意志の強さがどんどん内側から湧いてきてるのかなって思ったりして。

飯田 あ、そうだ。思い出しました。あの曲書いたとき、初めての『Qさま!!』出終わったあとでした。自分の仕事に対する気持ちの変化を歌詞に書いたんです。

冨田 そんな話もスタジオでしたもんね。

飯田 時代が変わってきて需要があるなら自分のことを試してプレゼンしてどんどん広げていきたいので出演するんですけど。でも一方で怖い気持ちもあって。オファーいただいても、マネージャーさんにいつも相談してて。

冨田 ちょっと怖くなっちゃうところもあるんだ。

飯田 なんで呼ばれてるんだろう?って考えちゃうんです。そうした葛藤がある中で『Qさま!!』に初めて出てすごくナチュラルで自分らしく出演したら、思いのほか楽しくできたんです。本当の自分の見つけ方ってこうなんじゃない?っていうのを「Won’t lie never ever」には書いてて。

人間味を出したい

冨田 声優さんの素晴らしさってなんだろうと考えていたんですけど、やりたいことをやって、それがちゃんと評価されるのが実はこの業界だったりするのかなって思ってて。

飯田 たしかにそうですね。

冨田 たとえば、アイドルって苦労を美徳として写してドラマにしないと評価されないとか、感情移入してもらえないとか、素敵だと思ってもらえないとかって。言葉が悪いですけど、ちょっと見世物っぽいところがあるじゃないですか。でも声優さんってそういうのから解き放たれているからいい仕事なんじゃないかなって思ってたりして。そういうのをもっと訴える人が出てきてもいいんじゃないかな。

飯田 それって、歌に乗せるのがいいんですか?

冨田 個人の発言として発信すると「出過ぎたことを言っている」という批判にさらされる可能性もあるけど、曲の中で表現するとそれは作品になる。だから受け取り手の判断に任せることができるよね。「こういうメッセージを持っている人なのかな?」とか。結局歌がいいのって、言いたいことや伝えたいことを音楽作品として昇華させることで、それが結果的にアーティストの存在価値を高めることにつながるからで。だから、カップリングとかアルバムの曲とかってその人の生きてるテーマとかそのとき感じてることがストレートに出てるほうがいいかなって思ってて。

飯田 ああ、わかります。

冨田 あとは個人で発信する場所かな。ただツイッターだと文字数足りないし、変な切り取り方をされたり前後の文脈を読まずに絡んでくる人がいたりして、不毛なやり取りが発生しがち。だから俺はラジオとかテレビとかに出たときに、ちょっとハレーションが起きそうなことは言うようにしてて。

飯田 今ならYouTubeとかね。

冨田 そうそう。YouTubeってちゃんとコメント欄でファン同士で独自の議論が展開されるあの雰囲気はツイッターとは違うな。

飯田 私も最近似たようなこと考えてて。もっと人間味を出したいと言うか。私含め、声優さんってすごい人間臭い一面もあると思うので。

冨田 たしかに。次のフェーズってそういうところなのかなと思うんだよね。当たり前だけどなにかを表現したくて芝居をやってるわけじゃないですか。それはキャラクターを通じてなのか自分が映像として出てなのか、やり方や思いはそれぞれ違うけれど。そういう一人ひとりの思いとか表現欲求みたいなものをもっと素直に出していくのが面白いはずなんです。

飯田 私も理想を言うと、ポンってテレビに出たときに声優のひとりとしてではなくて飯田里穂としていじられるようになりたいんですよ。声優が今ブームだからテレビに出てるだけじゃなくて、ちゃんと戦いたい。

冨田 まわりに合わせるとかじゃなくて戦うんだね。

飯田 いや、合わせてるふりはずっとしてます。けどふりです。合わせてるふり。

冨田 面白いね。ちょっと意外だったかもしれない。

飯田 策士なんで(笑)。

冨田 自分から言うタイプの策士なんだ(笑)。

飯田 冷静に分析してます。それで言うと、テレビ局の方って声優事務所にオファーしづらい部分もあるんですかね。勝手がやっぱり違うから。

冨田 りっぴーの放映新社さんって芸能事務所だけど声優事務所ってもともと歴史的には人材派遣業に近いんだよね。だから似ているようで業態が全然違くて。ものすごい少ないマネジメントの人数で何百人ってタレントがいたりとか今も当たり前で。

飯田 けど今は声優事務所にもどんどんバラエティのアポイントが入るようになってるから、私も早めに次のフェーズに行かないとちょっとやばいなって思います。

TVに出る役割

  先日、『ハライチのターン!』で岩井さんが、『ネプリーグ』の収録の話をしていたんですが……。

飯田 え、呼ばれなかった。悔しい!

冨田 そういう思いめっちゃあるんだね。

飯田 あります。なんで名前挙がらなかったんだろう?とか、アピールできていなかったのかな?と自己分析と考察をしたりします。

  で、岩井さん自分のこと通訳と言ってたんですよね。つまり、声優に詳しい人として出演して「この人はこういう人なんです」って説明しないとどうしてもほかの出演者と壁ができるみたいで。

飯田 どういじったらいいかがわからない状態で、でも数字が取れるからTV側は声優さんを団体で呼んでる状況なので。ちなみに私はそこをうまくかいくぐれる人材になりたいんですよ。

冨田 通訳もできるし、演じることもできる。

飯田 両方やりたい。欲張りだから。

冨田 俺がTVとかに呼ばれるのもそれが理由で。こういった話をするっていうときに「こいつだったら叩かれても大丈夫だろう」っていう役割なの。

飯田 そんなことないですよ。富田さんおしゃべり上手だからですよ。

冨田 通訳っていう意味合いもあるんだけど、いかにこの業界が素晴らしいかとかこの声優が素晴らしいか、この作品が素晴らしいかっていうのを識者として説明する役割なんだけどそれがもし間違っていた場合、「こいつ、なに言ってんだよー」という批判を被るのが番組やMCではなくて。『お願い!ランキング』や『関ジャム』に呼ばれるのも、その役割をわかってやってる感じ。その役割の中で、できるだけこの業界の本当の良さを伝えなきゃいけない。じゃないと、りっぴーが望む未来にいけない気がする。

飯田 そういう使い方を世の中がわかってきてる時点で、ブームはもう終わってるんですよ。

冨田 面白い!なるほどその通りだね。

飯田 需要があれば全力でお応えしにいくんですけど。ただただブームに乗っかってるだけではないのを、今TVで観てる人にはわかってほしいなっていうのが私の切実な願い(笑)。

冨田 そういうすごい強い意志とかビジョンを持って実は声優さんって活動しているんだよってことを本当は伝えたいんですよ。共演者とキャッキャッて戯れて30分なにも起きないまま「ばいばーい」で終わるラジオとか生配信番組の時代が長すぎる気がするもん。まあそれが求められているなら仕方ないけど。

  ブームが過熱するなか、飯田さんはとても冷静で温度差を感じます。

飯田 冨田さんもそうですけど、今出ないともったいない!とは感じてて。けどそれは一時的なので。

冨田 今はボーナスステージが続いてるからね。

飯田 本当そうです。ブームの間は呼ばれても、このあとどうなるのかなってやっぱり考えますよ。

冨田 けど、このピークしか知らない人よりは全然立ち回りできるでしょ?

飯田 どうかなあ? 声優って言葉が有名になったぶん、声優じゃないところも攻めていけたらいいんですけど。

冨田 広がっているものをどう生かすかってことが、ブームをブームで終わらせない新しい声優の時代なのかもしれない。

▼本誌では語り尽くせなかった「声優ブーム」について、ゲストの飯田里穂と徹底解説するオンラインイベントも開催!▼

イベント概要

冨田明宏×飯田里穂 声優ブームの最前線(延長戦)
日時:7月5日(月)20:00〜22:00
配信:Zoomウェビナー機能

チケット購入QJWebSHOPにて販売中

出演者
冨田明宏
飯田里穂

※配信で使用するZoomのウェビナー機能はメールアドレスを登録いただくだけでご視聴いただけます

※チケット購入後に送られてくるURLより事前登録をお済ませください。事前登録後に当日の視聴URLをお知らせいたします

※アーカイブチケットの販売は7月11日(日)21:00まで

【チケット料金】
アーカイブ付チケット:1,650円(税込)
アーカイブのみ:1,650円(税込)
※アーカイブチケットの販売は7月11日(日)21:00まで

購入するボタンがうまく作動しない場合はこちらからお買い求めください。
QJWebSHOP

冨田明宏

1980年生まれ、千葉県出身。アニメソング評論家、アニメソングプロデューサー。株式会社一二三所属。飯田里穂、内田真礼、黒崎真音などのプロデュースを手がける。『Quick Japan』にて「冨田明宏の読むアニメソング」を連載中

飯田里穂

1991年生まれ、埼玉県出身。声優、女優、歌手。TVアニメ『ラブライブ!』(星空凛役)で声優デビュー。『ラブライブ!』並びにμ’sとして紅白歌合戦への出場や東京ドーム公演を果たす。主な出演作に『アイドルランドプリパラ』(香田澄あまり役)、『終末のハーレム』(東堂晶役)、『オッドタクシー』(白川役)など


7月5日(月)20:00〜開催 チケットは絶賛発売中です!


この記事の画像(全0枚)



  • 冨田明宏×飯田里穂 声優ブームの最前線(延長戦)

    日時:7月5日(月)20:00〜22:00
    配信:Zoomウェビナー機能

    チケット購入:QJWebSHOPにて販売中

    出演者:
    冨田明宏
    飯田里穂

    ※配信で使用するZoomのウェビナー機能はメールアドレスを登録いただくだけでご視聴いただけます

    ※チケット購入後に送られてくるURLより事前登録をお済ませください。事前登録後に当日の視聴URLをお知らせいたします

    ※アーカイブ配信期間は7月11日(日)23:59まで

    【チケット料金】
    アーカイブ付チケット:1,650円(税込)
    アーカイブのみ:1,650円(税込)
    ※アーカイブチケットの販売は7月11日(日)21:00まで

    関連リンク

  • 【イベント視聴者限定!飯田里穂サイン入りチェキプレゼント(当選人数2名)キャンペーン応募概要】

    キャンペーンの応募期間、参加方法は以下をご覧ください。

    【応募期間】
    2021年7月5日(月)イベント内での応募用ハッシュタグ発表後〜2021年7月11日(日)23:59まで(アーカイブ視聴期間終了)
    ーーーーーーーーーーー
    【ステップ1】
    ・QuickJapan編集部(@QJ_official)とQJWeb(@qj_web)のツイッターアカウントを両方フォローしてください。
      ▼
    【ステップ2】
    ・イベント内で発表された応募用ハッシュタグをつけて感想をツイートしてください。
      ▼
    【応募完了!】
    締め切り後当選された方には、『QJWeb クイック・ジャパン ウェブ』公式アカウント「@qj_web」からDMにて、ご連絡差し上げます。フォローを外さず、DMを開放してお待ちください。

    ※当落についてのお問い合わせは受けかねますので、ご了承ください。
    ※本景品は非売品です。譲渡・転売はご遠慮ください。
    ※いただいた個人情報は、本プレゼントキャンペーン以外の目的には使用しません。


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太