年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、21歳・タレントの奥森皐月。今回は、2025年12月28日から2026年1月18日まで無料公開中のこたけ正義感『弁論』第4回について語る。
目次
前回を上回るバズで120万回再生突破!
2025年のはじまりも、2026年のはじまりも、「お笑い」というジャンルの中で最も注目されたコンテンツは、こたけ正義感『弁論』であった。
現役弁護士でピン芸人のこたけ正義感さんが、2024年から開催している単独公演『弁論』。2025年末には第4回公演が京都と東京で開催され、チケットは即完となった。
東京公演の会場であるよみうりホールは客席が約1100席なのに対し、チケットの応募は8000件にのぼったという。今、最も勢いのあるお笑いライブといっても過言ではないだろう。
昨年、第3回公演が2週間限定でYouTubeで無料公開された際には、お笑いの公演としては異例の77万回再生を記録した。
そして今回、第4回公演の映像が2025年12月28日から2026年1月18日まで無料公開されている。1月12日時点で再生回数はすでに120万回を超えており、前回を上回る勢いで拡散されている。
「60分間ひとりでしゃべり続ける」という形式の目新しさや、「弁護士×お笑い」という組み合わせの新鮮さにインパクトがあったことは想像に難くない。
しかしながら、このタイパ重視の時代に60分のネタが二度もバズるというのは、冷静に考えてみても恐ろしいほどの偉業だ。
一度話題になり期待値が高まっていた上での、今回の『弁論』。それでもなお期待を裏切ることなく、むしろより大きなムーブメントを起こした。
前代未聞の公演『弁論』は、なぜここまで多くの人の心を惹きつけるのだろうか。
こたけ正義感の人気が高まり、注目された1年
こたけ正義感さんは、大学院を出て1回目の受験で司法試験に合格し、弁護士として法律事務所に勤務してから30歳でお笑いの養成所に入った、という珍しい経歴の持ち主。
2022年の『ABCお笑いグランプリ』で準優勝に輝き、2023年の『R-1グランプリ』では4位という戦績を残した。「現役弁護士」という強力な武器を活かし、実際にある一風変わった法律を紹介するというフリップネタで一気に脚光を浴びた。
また、自身のYouTubeチャンネル『こたけ正義感のギルティーチャンネル』も評判だ。弁護士視点で進める『逆転裁判』実況プレイ企画や、『M-1グランプリ』などのお笑い賞レースで披露されたネタを法律上の観点で語る「リーガルチェック」の動画は絶大な人気を誇る。
弁護士や法律を取り扱うというテーマは一貫しているものの、近年はフリップ形式ではなく漫談やスタンダップコメディの形式のネタが多い。
『R-1グランプリ』チャンピオンの街裏ぴんくさんをはじめとしたメンバーで、『東京漫談倶楽部』という漫談のライブも開催している。
さまざまなメディアで「漫談やスタンダップコメディを流行らせたい」という発言もされており、『弁論』はその意思を色濃く感じる興業だ。
また、昨年は雑誌『anan』内の変身企画「美ジュ-1グランプリ」で、その眉目秀麗な“ビジュ”を披露し「メロすぎてギルティ」などと話題になった。
ちなみに最新の『弁論』では、タートルネックにジャケットのスタイルで登場。これは作家・もののけさんによる“ビジュ”のプロデュースらしい。
ABCラジオでの冠番組『こたけ正義感の聞けば無罪』も昨年から地上波放送が始まるなど、間違いなくこの1年でこたけさんの人気は高まっている。
1年前の「袴田事件」トークで『弁論』が一躍話題に
『弁論』が大々的に知られるようになったのは1年前のことだ。
通常、お笑いライブ、特に単独ライブというものは有料で配信されることが多い。ところが『弁論』の模様は期間限定でYouTubeにて全編無料で公開された。
この口コミは瞬く間に広まり、普段お笑いを観ない層にまで届くほどに。それほどの求心力があった前回公演で中心となった話題が「袴田事件」であった。
1966年に起きた殺人事件の犯人として袴田巌さんが死刑判決を受け、約50年拘束されたのち、再審で無罪判決が言い渡されたという、日本の冤罪問題の象徴となった事件。実は、こたけさんは弁護士会の広報として、この「袴田事件」に関わっていたのだという。
お笑いとは縁遠いように感じる深刻で痛ましい事件だが、この事件を巧みな構成と話術で扱い、結果的には一大ムーブメントとなった。
身近で起きるささいな話をしているかと思えば、いつの間にか社会的な問題についても切り込んでいる。笑えるだけでなく知識を得られるという意味での「おもしろさ」を享受できるのが、『弁論』がありとあらゆる人に刺さるひとつの理由だと感じる。
今回の『弁論』トピックは「貧困」「生活保護」
そんな傑作の第3回『弁論』から1年。今回はどんなテーマだろうと、ワクワクして観た。
「『弁論』のチケットが高額で転売されていて、それが売れていた」というヒヤヒヤする話から始まる。転売チケットを買って観に行っていた人はどんな気持ちだったのだろう。顔面蒼白になっただろうか。
冒頭から笑って観ながら「チケット不正転売禁止法」についてバッチリ知ることができた。こたけ正義感さんを観ていると、ちょっとだけ法律に詳しくなれた気がして誇らしい気持ちになる。
そこから、出身地である京都についての話や、こたけさんのお子様の話などが次々と飛び出し、話題は自身の幼少期のエピソードに移り変わる。
兄弟が多く貧乏だった子供のころの話は、どれもおもしろい。テレビでよく聞くような「雑草を食べていた」「家の中に雨が降ってきた」みたいな貧乏話ではないのだが、リアルゆえのおもしろさがある。当時の家の中の様子なども鮮明に想像できて、どのエピソードもとてもよかった。
そのようなエピソードをケラケラ笑って観ていたのだが、「貧乏は自己責任か」という言葉が出てきて突然緊張感が走った。私自身、“弁護士”と“貧困問題”があまり結びついていなかったのだが、話題は「生活保護」に切り替わる。
弁護士になりたてのころには、生活に困窮している人と一緒に生活保護の申請をするという仕事をしていたというこたけさん。「貧困」「生活保護」というタブーとされがちなトピックが、ここから怒涛の展開で語られていく。
一歩間違えれば「バカにしている」と捉えられかねない、繊細で複雑なテーマだ。しかしながら、一つひとつの言葉がやさしくて力強い。
そして、最もすごいと感じたのは、終始“説教臭さ”がないという点だ。
正直、膨大な知識と特別な賢さを持ち合わせた人が人権や差別といったテーマについて話しているのを聞くと、私は苦手意識を抱いてしまう場合が多い。それはおそらく、どこか「他人事」のように話されていたり、当事者に寄り添う姿勢を強く感じられないからだと思う。
ところが『弁論』では、どうしても難しく壮大に感じてしまう題材が、こたけさんならではの切り口と誠実さでわかりやすく話される。
あくまでおもしろい話として聞いていた幼少期の貧乏エピソードも、説得力につながっている。本題に入る前の笑える前談でありながら、そのあとの話を聞く観客や視聴者の受け止め方を変える材料にもなっているのだ。この流れはとにかく圧巻であった。
どのような立場の人が観て・聞いても、それぞれに刺さるのが今回の『弁論』だ。
私もあまりお金に余裕がない暮らしをしていた感覚があり、貧困問題は他人事ではないと常に思っている。特に「渋谷ホームレス殺人事件」が鮮烈に記憶に刻まれており、その事件をもとにした『夜明けまでバス停で』という映画は自分の価値観を大きく変えた。
どちらかといえば私は、今回の題材に関心があった側の人間だと思う。それでもハッとさせられる部分がいくつもあり、無意識下にある差別などについても改めて考えさせられた。
『M-1グランプリ2025』の決勝でドンデコルテが披露したネタにも「貧困」というワードが使われていたことから、ふたつを並べて受け止めている人もしばしばSNS上で見られた。
確かに、近いタイミングで「貧困」という強い言葉がお笑いのネタから出てきたのは意外だった。
しかし、お笑い業界全体が社会的なテーマを扱うようになったとはあまり思わない。ありとあらゆる芸人さんとネタが出現したことによって、結果的にそのような発信をする人が一部現れただけなのではないかと思う。
そして『弁論』もドンデコルテのネタも、無理やりそのようなテーマを扱っていたようには感じなかった。あくまで、身近な事象を突き詰めた先にあったに過ぎないのではないだろうか。
憧れと親しみを同時に感じる稀有な存在
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