INI初のドキュメンタリー映画『I Need I』のタイトルに込められた3つの「I」

2025.11.3
INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会

文=井上明日香 編集=森田真規


11人組グローバルボーイズグループ・INI、初めてのドキュメンタリー映画『I Need I』が2025年10月31日に封切られた。

比べられてしまう数字、「大衆認知度」という課題、メンバー間のすれ違い……華やかなステージの裏でメンバーたちが抱いている葛藤が、ここには隠すことなく映し出されている。

本作に描かれた印象的なエピソードを紹介しつつ、タイトルの「I Need I」に込められた意味に迫る。

※本稿は映画『I Need I』の詳細な内容に触れています。未鑑賞の方はご注意ください

現代のアーティストならではの葛藤

INI|INI THE MOVIE『I Need I』 本予告

本作はINIの人間らしさが詰まったドキュメンタリー作品だ。積み重なる小さなモヤモヤ。それでも前に進まないといけない焦燥感。ファンへの感謝の気持ち。グループのために自分は何ができるのか。順調そうに見えていたグループ活動の裏で、等身大に葛藤するメンバーの姿が丁寧に描写されていて、観終わったあと、INIのことがもっと愛おしくなる。

映画の中で特に印象的だったことを順に挙げていこう。

まず印象に残ったのは、2024年6月に発売された6THシングル『THE FRAME』をめぐる一連の流れ。発売日当日、INIはファンを招待したイベントを開催することになっていた。しかしその直前、初日のオリコンデイリーチャートが発表され、『THE FRAME』は2位だったことがスタッフからメンバーに伝えられる。

その日のイベントでメンバーは口々にMINIへの感謝を伝えた。このイベントでINIとMINI(INIのファンネーム)の絆はさらに強固なものになり……結果、『THE FRAME』は見事ウィークリーチャート1位に返り咲いたのだ。それどころか『THE FRAME』は最終的に出荷100万枚を達成し、ミリオンシングルに認定。キャリアハイを更新することにもなった。

MINIがこんなにも力強いファンダムになった理由、それはひとえにINIというグループが魅力的だからだ。「このグループのためにがんばりたい」と思わせてくれる魅力がある。でも、ファンの熱とは裏腹に、世間一般からの知名度はなかなか上がらない。

応援してくれるMINIへの心からの感謝の気持ちと、「いい音楽」を作りたいはずなのにどうしても数字で比べられてしまうことへのもどかしさ──現代のアーティストならではの葛藤、尾崎匠海らは語る。

INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
尾崎匠海/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会

リーダー・木村柾哉のあふれる想い

彼らとMINIの絆をさらに強固なものにしたのが、同年秋のファンコンサート『2024 INI FAN-CON TOUR [FLIP THE CIRCLE]』だった。初日の会場となったぴあアリーナMMは、INIがデビュー後に初めてファンミーティングを行った場所。4年前と今の「Rocketeer」(※編注:デビューシングル『A』のメイン活動曲)のライブ映像が交互に映し出される演出がニクい。

INI|’Rocketeer’ from 2024 INI FAN-CON TOUR [FLIP THE CIRCLE]

また、本作には会場に来ていたMINIへのインタビュー映像も。中には涙を流してINIの魅力を語るMINIの姿もあった。リーダーの木村柾哉は思いを語る。

「MINIの気持ちはどんなに小さい、細かいことさえも取りこぼさずに受け取りたいんですよね。最愛の人って感じです」

INIにとってかけがえのない大切なもののひとつがMINIだとハッキリと描かれている。

INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
木村柾哉/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会

ファンコンツアーの千秋楽で、木村が大粒の涙を流しながら「あの日から、居場所はここしかないじゃん」と語った様子は、映画の予告にも主題歌の歌詞にも使われている。

リーダーとして、木村がどうグループと向き合ってきたのか。木村の古くからの知り合いというパフォーマンスディレクターのkyoのインタビューも収録されているのが、この映画のおもしろいところ。メンバーより一歩離れた、しかしファンよりも近い場所から語るkyoの客観的な視点のおかげで、グループの魅力や課題が多面的に見れるようになる。

また、木村に対する藤牧京介のある“告白”も印象的だった。初めて明かされるエピソードなのだろうか。この藤牧の告白を聞いたあとにふたりが出てくるシーンを観ると、胸が熱くなる。

INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
藤牧京介/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会

「大衆認知度」という課題

ファンとの絆は深まる一方で、「大衆認知度」という課題は残り続ける。映画の中には、事務所に集められたメンバーが社長の崔信化から『NHK紅白歌合戦』に落選したことを告げられる残酷なシーンも収録されている。

認知度を上げる一環として、情報番組やドラマ、映画とソロ活動を行うメンバーもすべては「INIに還元するため」。その想いは共通しているはずなのに、ソロの時間が増えれば増えるほど、メンバー全員で集まる時間は減り、すれ違いが生まれてしまう。

2024年12月30日に行われたYouTube配信「INIといっしょにこみそか」の準備中、池﨑理人は本作のカメラに語る。

「ソロ活動が増えるのはありがたいけれど、各々が向いている方向を一緒にし直す時間がちゃんと取れないと、なかなか難しい。だからこそ最近、そこにギャップも感じていて……一種の悩みでもありますね」

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池﨑理人/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
INIといっしょにこみそか

正直意外だった。当時のINIは、たしかに紅白出場こそ逃してしまったものの、ファンコンツアーも終えて今まで以上に一致団結しているように筆者の目には見えていたからだ。つくづく、アーティストは表に見せている姿だけがすべてではないのだと思い知らされる。

一方で、ソロの時間が増えることはメンバーにとって大きなプラスでもあった。2025年1月に開催された個人公演『LAPOSTA 2025 SHOW PRODUCED by MEMBERS』の準備期間のことだ。

「11位でデビューして、自分ってなんだろう、チームにどう貢献できていたんだろうと悩んでいた」という後藤威尊や、「ほかのメンバーに比べて不器用で要領が悪いけど、ファンのみなさんと心の距離が近いアイドルでいたい」と語る佐野雄大にとって、個人公演は自分を見つめ直すいいきっかけになっていた。グループの一員であるために、それぞれが自分自身と向き合うことも大切なのだ。

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後藤威尊/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
佐野雄大/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
[LAPONE BEHIND] INI| LAPOSTA 2025 SHOW PRODUCED by MEMBERS

悩んだ末に行き着いた結論

その後、今年4月からスタートした3度目のアリーナツアー『2025 INI 3RD ARENA LIVE TOUR [XQUARE]』の準備が始まる。INIは「これまでは会社がコンセプトを作ってくれていたけれど、もっと自分たちに合うものがあるんじゃないか」と話し合い、アルバムに収録する楽曲決めやコンサートの演出にも積極的に意見を出すようになっていく。最年少の松田迅も積極的に意見を出し、いいものを作るために年齢は関係ないのだと思わされた。

INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
松田迅/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会

ツアーでも披露された新曲「Pinapple Juice」は、許豊凡が作詞をして、西洸人、田島将吾、そして木村が振り付けを考える。自分たちでこだわりを持って、自分たちに合う楽曲を作る……もっと聴かれる曲を作るには、もっと世間に知られるにはと悩んだ末に行き着いた結論の結果が出るのは、きっとこれから先のこと。そのころにドキュメンタリー映画の続編を観ることができたらうれしい。

INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
許豊凡/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
西洸人/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
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田島将吾/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
INI|’Pineapple Juice’ Track Video

映画の主題歌「君がいたから」も、メンバー6人による共同作詞だ。映画の終盤にはレコーディングの様子も映っている。6人で集まって歌詞を考えたわけじゃないけれど、でき上がった歌詞にはまとまりがある。

歌詞を読んで「みんな、考えることは一緒なんですね」とうれしそうにしている髙塚大夢の姿が印象的だった。向いている方向がバラバラだと悩んだ時期もあったけれど、INIというグループのことを考えたときに浮かぶフレーズは同じ。心の底では、きっと最初から通じ合っていたのだ。

INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
髙塚大夢/INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会
INI|’君がいたから’ Official MV

「I Need I」に込められた3つの「I」

映画を観終わって、タイトルの「I Need I」に込められた意味を改めて考えた。INIにとってNeed(必要)な「I」とはなんなのか。個人的には、3つの「I」が描かれていたと思う。

ひとつはもちろんMINIだ。INIにとってかけがえのない、心強いファンダムの存在。そして2つ目は、ぶれない自分自身。11人全員がINIにとってかけがえのない、必要なピースなのだ。そして3つ目はメンバー同士を思う気持ちだ。たまにすれ違うことはあっても、心の底で全員がメンバーのことを思っている。

この気持ちを忘れない限り、進む先に何があっても、きっとこの11人でどこまでも羽ばたいていける。そう感じさせてくれる映画だった。

INI THE MOVIE『I Need I』

INI THE MOVIE『I Need I』より (C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会

公開:2025年10月31日(金)
監督:榊原有佑、武桜子、原田大誠
出演:池﨑理人、尾崎匠海、木村柾哉、後藤威尊、佐野雄大、許豊凡、髙塚大夢、田島将吾、西洸人、藤牧京介、松田迅
配給:TOHO NEXT、吉本興業
(C)2025「INI THE MOVIE『I Need I』」製作委員会

40ページ特集「INIと言葉」掲載の『Quick Japan』が発売中

INIが表紙・巻頭特集「INIと言葉」に登場する『Quick Japan』vol.178が、6月18日(水)に発売された。

グラビア撮影では、2025年6月でグループ結成4周年を迎えるINIの大人な一面を引き出すべく、シックな服装に身を包んだメンバーを、レンブラントの絵画のように「光と影」にこだわった世界観で撮り下ろした。

撮影を担当したのは“キアロスクーロ=明暗”を探求する写真家ティム・ギャロ。表紙に加え、特集では世界観を共有するグループ&ソロ写真も多数掲載している。

『Quick Japan』vol.178(2025年6月18日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ
『Quick Japan』vol.178(2025年6月18日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ

また、INIの楽曲の中でも高い人気を誇る「HERO」の作詞作曲を手がけた、3ピースバンド・WANIMAのKENTAがインタビューに登場。INIメンバーへのメッセージを寄せてくれた。

さらに、『Quick Japan』で“ボーイズグループ×SF”小説「発光する、ら」を連載し、日頃からINIの活動を熱心に追いかけている芥川賞作家・町屋良平が、彼らの表現について思いをめぐらせて綴ったエッセイも掲載している。

なぜINIが今の時代に必要とされているのか、その人気の秘訣に迫った40ページの特集「INIと言葉」をぜひ読んで確かめてほしい。

【INIと言葉】INIが表紙&40p特集に登場する『Quick Japan』撮影メイキング&コメント
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井上明日香

(いのうえ・あすか)ライター。芸能インタビューを主に行っています。アイドルと舞台、ドラマが好きです。