類稀なるトーク力と狂気的なまじめさを発揮するGAG宮戸の話

文=板川侑右 編集=鈴木 梢


アルコ&ピース(以下、アルピー)の平子祐希・酒井健太がMCを務めるテレビ東京のゲームバラエティ『勇者ああああ』。毎回、企画を盛り上げるゲスト芸人たちが登場し、アルピーのふたりにいじり倒されたりゲームに奮闘したりと、人によって活躍の仕方がいろいろある番組だ。

そんな番組の演出・プロデューサーである板川侑右が、同番組のキャスティングにまつわる裏話を語る連載「『勇者ああああ』芸人キャスティング会議」。今回は、類稀なる平場のトーク力とゲームにまじめに取り組む姿勢が注目され、次々とメイン企画を獲得している芸人について。

芸人さんのスキルに合わせた企画を立てることはよくあるが

以前、罰ゲームをかけた『マリオパーティ』対決を行ったとき、敗北した平子が負け惜しみで「マジのケンカだったら負けねえ」と発言、それに対して酒井がこんなツッコミを入れたことがある。

「嫌だよ、それヒラコパーティじゃん」

すごいたとえツッコミだな、と僕は思った。普通だったら「いやいや勝てるわけないでしょ!」などと言ってしまうところをひとひねりする芸人ならではのセンス。さらにそれを瞬時に繰り出せるスピード感。ほかのテレビ番組でしゃべっている姿を見ることがほぼ皆無なので世の中にはあまり伝わっていないが、酒井健太の「ツッコミ力」はやはり侮れない。

「ヒラコパーティ」という言葉が妙に気に入った僕はオンエアでも大オチとしてそのワードを使った。 その1カ月後、僕と同じく「ヒラコパーティ」というワードを気に入ったのかどうかは知らないが、構成作家の福田卓也が会議に1本の企画を持ってきた。その概要はこうだ。

<ヒラコパーティ>
平和の創造主である平子祐希が誰も傷つけない笑いを完成させるため、悪口や悪意のいじりで笑いを取ろうとする芸人たちを徹底的に弾圧。反抗的な者には容赦なく電流を流し、そのひねくれた精神を強制的に叩き直す。

「ゲーム要素はどこにいっちゃったんですか?」なんて質問をされることは一切想定していないサイコ作家の世界観強めな闇企画。ゲーム番組の演出Pとしては「こんなもんできるわけねえだろ」と一蹴すべきところだが、心のどこかで「これ、平子さんメインのコント企画にしたらおもしろくなるかも……」という思いが頭をよぎってしまったのも事実。結局平子の「演技力」に全BETした「ヒラコパーティ」はその数週間後に収録され、2019年の3月に無事放送された。

「一方的な正義はただの暴力である」というメッセージを世に伝える素晴らしい企画だと個人的には思っていたのだけれど、映画『冷たい熱帯魚』のでんでんを彷彿とさせる不気味な表情で平子がラブレターズとニューヨークに電流を流すシーンで視聴率はぐんぐん下降。放送したのがちょうど番組の改編期だったこともあり関係各所から「打ち切りが決まってヤケになってます?」と要らぬ誤解を生んだので「ヒラコパーティ」はそれ以来放送されていない。とはいえコントに入ったら「無敵の人」でおなじみの天才アクター平子の怪演が光る名作なので、もしどこかで観る機会があったらぜひチェックしてもらいたい。

番組を盛り上げるためにはどんな努力も惜しまない芸人

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板川侑右

(いたがわ・ゆうすけ)2008年テレビ東京入社。制作局で『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ』などのADを経て『ピラメキーノ』でディレクターデビュー。その後『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』などのディレクター業務を経て特番『ぽい図ん』で初演出を担当。過去に『モヤモヤさまぁ〜ず2』のディ..

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