みなみかわ、“私のスター”吉井和哉の生き様にリンクする感情と思い出「『火花』みたいな話をしていいですか?」<映画『みらいのうた』レビュー>
数々の名曲を世に送り出し、大衆とミュージシャンどちらからも長年熱烈なラブコールを受けているロックバンド・THE YELLOW MONKEY。そのフロントマンである吉井和哉のドキュメンタリー映画『みらいのうた』が公開される。
かねてよりTHE YELLOW MONKEYそして吉井の大ファンを公言し、本連載でもその愛を綴ってきたみなみかわは、本作を通じて見えるロックスターの生き様に心震わされ、自身の若手時代を振り返ったという。「シネマ馬鹿一代」第17回。
「みなみかわ、俺辞めるわ」
『火花』みたいな話をしていいですか? 恥ずかしげもなく。
私が芸人になったとき、2年先輩に「つるせんねん」というコンビがいた。ツッコミがうまい西口(宣夫)さんとボケの島原(啓)さん。
新人とはいえ年齢は20代後半に入ってて、労働者の勲章のような色黒。私も人のことは言えないが、女性ウケしない見た目のコンビだった。
当時松竹芸能の養成所にはカリキュラムなんてなく、しっかり入学金は取るくせに週1回ネタ見せがあるだけだった。
ネタ見せというのは、芸人が集まり、作ってきたネタをみんなの前でして、作家や社員からダメ出しをもらうというもの。基本的にまわりの芸人も見ているが、笑わない。
私も含めて特に技術もないくせに自意識だけは強く、無根拠の自信にあふれているからだ。
そこでもつるせんねんさんの漫才はよくウケていて、衝撃だった。ツッコミがうまい西口さんとボケの島原さん。
言葉で説明するのは野暮だが、ボケの島原さんの少し荒めの言葉選びや題材、声質、ボケるときの眼光の鋭さなど、特に芸人に愛される系の漫才だった。ざっくり言うと「キレイな漫才」の対局にいた。だから養成所でウケていたというのもあるのだろう。
そんななか、私たちコンビもだんだんライブに出られるようになり、つるせんねんさんと仲よくなった。私は島原さんのボケで何度も腹がちぎれるくらい笑った。本当におもしろかった。
ただ島原さんは芸人すぎた。宵越しの金は持たないとばかりにお金は使うし、酒を浴びるくらい飲んだ。酔いに酔って先輩芸人の悪口を吐く。
正直近づきたくはないが、その悪口がまたおもしろく、タチが悪いことにまわりの後輩たちはその悪口を喜んだ。そして先輩にバレて怒られて、苦笑いの島原さんもまたかわいげがあった。
お金がないのに、なぜか借金してROLEXの時計をしていた島原さん。
街中で女の子に「あそこに芸人の島原さんおるから一緒に呑まへん?」と後輩にナンパさせ「は? 誰? 呑むわけないやん」と一蹴されて、後輩に照れ笑いする島原さん。
ライブの罰ゲームで、毎朝淀川の河川敷で電車に乗ってる乗客に見えるようにちゃぶ台を返すという、意味のわからないパフォーマンスを1年くらいさせられていた島原さん。
どんなことをしてもなぜか憎めない島原さんが、私は大好きで、一緒のバイトまでしていた。
そんな芸人生活4年目。島原さんは、なぜか一気にやる気を失った。
「みなみかわ、俺辞めるわ。解散や解散」
突然そう言って、いきなりコンビ解散をブログで宣言し、事務所を去った。それから格闘家を目指してトレーニングしているとか、たこ焼き屋で全国回っているとか、いろんな噂があった。
私はそのとき思った。おもしろい人が100パーセント売れる世界ではないんだと。おもしろさのほかにしぶとさや、どこかの感覚を麻痺させないとやっていけないんだなと、漠然と感じた。
あれから15年以上経つ。私もずっと仕事がなく、長年底辺をさまよって、ようやくお仕事をいただけるようになった。
島原さんが急に電話かけてきた。何年ぶりだろう。「みなみかわ、めっちゃすごいな。観てるで」
「島原さん久しぶりですね〜」
「俺の住んでるとこ桃めっちゃおいしいんよ。仕事調子いいみなみかわに送ったら、こっちも縁起ええから送らせてもらってもええ?」
あんなにメチャクチャだった島原さんがきちんと桃を送ってくれる大人になったことに、私はうれしさと寂しさを感じた。
“私のスター”の積み重ね

『みらいのうた』を観た。
THE YELLOW MONKEYのボーカルでロックミュージシャンの吉井和哉に、2022年から3年間にわたり密着取材を敢行し、その生き様をとらえたドキュメンタリー。
取材開始の数カ月後、吉井が初期の喉頭がんを患っていることが発覚し、そこからの予期せぬ“未来”が綴られていく。闘病の日々や、2024年に感動的な復活を遂げた東京ドーム公演『THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 “SHINE ON”』での熱く壮絶なライブパフォーマンス、その公演までの濃密な3年間を記録。その一方で吉井のこれまでの人生を振り返り、幼いころに亡くした父のことや、幼少期の思い出、14歳でのロックとの出会いなどが語られる。さらに吉井が育った静岡の地で、彼をロックの世界へと導いた人物の存在が明かされ、ロックに魅せられた男たちの生き様が映し出されていく。

沁みました。
私にとって吉井さんは、思春期を彩ってくれたロックスターで、そんなわけはないのに、この世界に突如現れた存在だと思っていた。もちろん今まででもバンドの休止や苦悩については映像で観てきたが、ここまでフランクな姿はなかったように思える。ファンとして観てはいけないもののように思えたが、観ていくとなぜか、まったく関係ない私の感情もどんどんリンクしていく。
そしてそこに出てくるもうひとりのキーパーソン。吉井さんをこの世界に導いた人物。
そのふたりの会話はファンだから沁みると思ったが、すぐに違うと気づいた。どんな人間だって、それぞれの世界に入るときの出会いがあり、時間の経過といろんな決断の積み重ねがある。表面を評価するのは簡単なのかもしれない。それは意味のないことで、年齢を重ねた今、この映画の後半に流れる音楽たちに心震わされました。
ぜひ観てください。

映画『みらいのうた』

12月5日(金)より全国公開
出演:吉井和哉、ERO
監督・撮影・編集:エリザベス宮地
ナレーション:小川未祐
(c)2025「みらいのうた」製作委員会
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