2025年に開催した単独ライブツアー『八百長』では4万人を動員、YouTubeでは連日100万再生を超える動画を更新。リアルでも画面越しでも幅広い世代を惹きつけ、唯一無二の地位を築いているさらば青春の光は今、後輩芸人も憧れる存在となっている。
だが、ふたりは自分たちが作るコンテンツはすべて「下品だ」と自称する。では、なぜこれだけ多くの人に愛され続けているのか。さらば青春の光の笑いの作り方、そして芸人としての生存戦略を紐解く。
原点であるネタが今も一番の強み
──今年の単独ライブツアー『八百長』では過去最多の4万人を動員されました。5年前のインタビューでは「目標は1万人」とおっしゃっていましたが、今やその4倍ですね。
森田哲矢(以下、森田) ちょっと増えすぎましたねぇ(笑)。去年ぐらいからブクロが「公演数多いねん」って言い出したんですけど、さすがに俺も今年は「ちょっと多いな」って思いました。でもそれだけ観てくれる人がいて、さらにチケットが取れない人もいるのはありがたい話なんで、でき得る限りやりたいと思ってます。
──4万人の中にはYouTube経由でファンになった方も多いと思います。客層やウケ方が変わった印象はありますか?
森田 そこは僕らはあんまりわかんないっすね。でも見てるとおじさんもおばさんもおるし若い子もおるから、けっこう幅広い世代の人が来てくれてるんじゃないですか。
東ブクロ 普段吉本の劇場に行ってるような、若手のお笑いファンと呼ばれる人は僕らのことどう思ってるんかな?っていうのはあるっちゃありますけどね。どっちかというと、お笑いライブにはあんまり行かないけど俺らのライブには来てくれてるような人が多い気がします。でも別にスベるときはしっかりスベるんで、ちゃんとシビアに見てくれてるんやと思います。
──多岐にわたる活動の中で、単独ライブはどういう位置づけなんでしょうか。
森田 やっぱり屋台骨的なイメージはありますよ。ネタが一番の強みだと思いますし、そこから始まってるんで、これさえやっておけばなんとかメシ食っていけるんじゃないかな、と。
──さらばさんが若手のときと比べて、お笑い界における「単独」の意味合いは変わってきていますよね。
東ブクロ 当時はそういう人はそんなにいなかったですね。
森田 そのころは単独も賞レースのための部分が大きかったですからね。俺らの場合、2017年に今の数字シリーズ【編注:2017年『会心の一撃』以降、単独タイトルに含まれる数字が毎年ひとつずつ大きくなっている】を始めて、2018年からは、(マンボウ)やしろさんに演出に入ってもらって、そのあたりから変わってきたと思います。

さらば流YouTube企画の考え方
──さらばさんの場合、単独ライブが「作り込むもの」であるのに対し、YouTubeは「瞬発力を活かした企画力」が魅力です。おもしろさの種類が別物のように思いますが、使う脳みそはやっぱり違いますか?
森田 いや、僕らって結局、YouTubeもライブも下品なんすよ。そのベースの上で、やってることが違うだけな気がします。YouTubeは瞬発力だけど、それと同じ感覚の延長で「これをもっと煮込めば、ちゃんとお金を取って見せられるものになるぞ」っていうのがコントじゃないですかね。だから使う脳みそは表裏一体というか、近いところにあると思います。
東ブクロ 僕の場合、コントは同じこと何回もするんで覚えんとあかんけど、YouTubeは覚えることがないんで楽は楽ですね。
森田 あ、こいつは全然別の感覚でした(笑)。
東ブクロ だから違いもなんも、わかんないっす。
──YouTubeの企画を考えるとき、「これはおもしろくなる/ならなそう」というジャッジのラインは明確にあるんでしょうか。
森田 なんやろう? ラインは絶対ゆるく設定されてるはずなんですよ。なぜならYouTubeであって、テレビじゃないんで。うまくいかなくてもおもろなるというか、それ自体をおもろがれるんですよね。一個あるとしたら、ハプニング性があるかどうかかもしれないっすね。予想もし難い方向に行くようなことが起きそうだと思ったら「やろうか」ってなってる気がします。
──たとえば最近でいうと?
森田 「馬狼」(「人狼ゲーム」の要領で、誰が当たり馬券を持っているか当てていく企画)とか、予想つかないじゃないですか。誰が当たって誰が馬狼で誰がどういう立ち回りして、って。でもあそこまで手練れの芸人を集めれば、どう転がってもおもしろくなるのはわかってるんで。もっと最近でいうと、ブクロの「禁煙ドッキリ」もそうっすね。「なんかおもろなるんじゃない?」ぐらいの感じが見えればゴーサインが……あ、すみません、タバコのやつは継続中なんでした。
東ブクロ ええって。バレてへんと誰も思ってないって。
──東ブクロさんが早々にドッキリに気づくパターンも多いですよね。そういうとき、ここからどう転がせばおもしろくなるか、ブクロさんの中ではどうやって“正解”を探っているんでしょう。
東ブクロ いや、「何がしたいんやろな?」とか、もしくは「やりたいことはわかったけど、速く気づくのがおもしろいのか、それともそこからを楽しみたいのか?」をなんとなく予想しながらやってるぐらいですね。こっちはなんも知らんし、何が正解かもわからないんで「もうええか」って思ってます。あかんかったらそっちのせいやで?って。だからほんまに手応えは一切ないです。

来てくれた芸人が損さえしなければいい
──みなみかわさんや岡野陽一さんなど、YouTubeでなじみの面々とテレビでも共演される機会が増えています。視聴者からすると人間関係が見えているがゆえによりおもしろがれる面があるのですが、出る側としてもそれによるやりやすさは大きいですか?
森田 リラックスできるっちゃできるかもしれないですね。「スタッフはウケてなくても、最悪この人は笑ってくれる」って思えるんで。
東ブクロ たぶんテレビのスタッフさんも僕らのYouTubeを観て「こことここは相性ええんや。じゃあ一緒に出そうか」ってなってるんじゃないですかね。「そのノリを持ってきてくれてもいいですよ」と思ってくれてるというか。今のテレビはそういうふうになってるんでしょうね。
──ただ、森田さんが仲がいいことで知られるBKB(バイク川崎バイク)さんが意外とYouTubeに出てないのは気になっているのですが……。
東ブクロ 冷たい線引きがあるんですよ、こいつの中で。
森田 あのね、YouTubeといえど馴れ合いじゃないんですよ(笑)。いや、メインチャンネルはなんとなく企画があってそこに合う人をツモってるんで、「バイクさんよりこの人のほうが合うやろな」ってことです。呼べるなら呼びたいんですけどねぇ。ニューヨーク屋敷(裕政)とか見取り図・盛山(晋太郎)とかもそうですし。
──そしてもうひとつには、ひょうろくさんのブレイク以降、さらばさんのYouTubeは新たな逸材が生まれる場としても注目されるようになりました。
森田 すごい時代ですよ、たかがYouTubeでそんなことが起こってるって。でも別に、なんも思ってないですね。来てくれた芸人が損しないようにしようとは思いますけど、「こいつを売り出そう」とかは一切ないです。俺らはそのときにその人でおもろいことやれたらいいだけなんで。
東ブクロ ちゃんぴおんずの(日本一おもしろい)大崎なんか、もともと僕がつながりがあって企画で電話したのをきっかけにちょこちょこ出てもらうようになりましたけど、そこでたぶん僕にハマるより森田にハマったほうがええと思ったんでしょうね。あいつはもう、僕とはメシ行かないです(笑)。そういう嗅覚が働いているやつもいるはいるんでしょうね。
森田 結果、それでかかってくれて動画がおもろくなるのはあるかもしれないですね。「ここは影響力があるから、かかっていかなあかん」って思ってくれてるならありがたいです。
まじめにネタを語るのはむず痒い

──普段、お笑い関係のコンテンツはわりと積極的に観るほうですか?
森田 そんなに積極的にではないっすね。「今ここが香ばしそうな匂いするなぁ」は観てますけど。最近(※取材は10月下旬に実施)だと東京NSC14期の揉め事は、山添(寛/相席スタート)に「どれから観たらいいの?」って聞きました(笑)。ああいうのは単純にワクワクするし、おもろいじゃないですか。
──近年は無名の若手のネタがお笑い好きの間で話題になって注目されるケースも多いですが、そういうのをご覧になることは?
森田 SNSで切り抜きが流れてきたら観てますけど、わざわざ調べることはないっすね。
東ブクロ 僕はネタ観るのはテレビのネタ番組ぐらいです。
森田 こいつは『にちようチャップリン』(テレビ東京)めっちゃ観てるんで。
東ブクロ まぁまぁ、それは観てるけど、でもほんまにそれぐらいちゃう? SNSとかYouTubeでネタ観ることはないですね。だからしずるさんの「LOVE PHANTOM」のネタも『キングオブコント』観るまで知らなかったです。
──昔に比べ、芸人がほかの芸人のネタに言及するようになっていますよね。特に賞レース後はYouTubeやラジオなどで感想や講評を語る人が多いです。でもさらばさんはそういうことを全然しないイメージがあって。
森田 発信したほうがいいんですか?(笑) たまにラジオでやってますよ。まぁまじめにではないですけど。
──それは何か理由があるのかな、と。
森田 えー、なんなんやろ。一個あるとしたら、メディアで発するのは責任が伴うじゃないですか。ってことは、ちょっとウソも入れないとダメじゃないですか。そうなると本音の本音じゃないような気がして、じゃああんまり意味のないことなんじゃないかと思っちゃうんですよ。だから結局、居酒屋で話してるのが一番楽しいなって。あとはやっぱり、そういう話をするとどうしてもまじめになっちゃうから、むず痒いっすよね。
スケコマシの希望でいられたらそれでいい

──森田さんは以前から「天下獲ることに興味ない」と公言されています。さらばさんにそのポジションを期待する人も少なくないと思いますが、なぜそっちには行かないんでしょうか。
森田 天下を獲るってことは関わる人が増えるわけじゃないですか。こっちがコケたら、その人たちも食いっぱぐれる可能性がある。その責任を負いたくないっすね(笑)。そういう位置には行かずに、できるだけミニマムでやっていたいです。
──おふたりとも昔からそういう思考だったんですか?
森田 いや、もちろんこの世界に入ったときはそういう気持ちもありましたけど、徐々に現実を知っていくじゃないですか。そしたら、どうやって高みに登るかじゃなくてどうやって生き残っていくかを考えるようになりますよね。あまりに天下からは遠いから、それならスキマを埋めるようなやり方のほうが生き残っていけるやん、って。それが自然と高みに登っていくことにつながってたらええな、ぐらいの感じです。
東ブクロ 学生時代にテレビ観てたときは、ダウンタウンさんやとんねるずさん、ナインティナインさんみたいにMCやってはる人が「売れてる=天下獲ってる」って認識やったんですよ。それ以外の、テレビでたまに見るぐらいの人は「売れてる」とは言わへんのちゃうか?と思ってました。それやったらやっぱり天下獲るところに行きたいな、って気持ちはありました。でも実際にこの世界に入ったら「こんなにいっぱい芸人おんねや」「その中でメシ食えてるってすごいことなんや」って気づくんですよね。そこから憧れはなくなっていった気がします。
──しかしそれでいうと、単独ライブで数万人を動員しながらYouTubeでやりたいことをやって、テレビもたくさん出ているさらばさんの立ち位置に憧れる人は今多いと思います。
森田 ありがたいっすね。ただ、俺らは別に「コントで飯食いたい!」って熱量で始めたわけじゃないんですよ。もし下の世代の人がその部分で俺らを成功例のように見てくれてるんだとしたら、そこはわかってほしいかもしれないですね。明確な戦略があったわけじゃなくて、たまたまいろんな巡り合わせでこうなってると思うんで。
東ブクロ 僕からすると、今養成所入って芸人目指す子が不思議なんですよ。YouTuberとかのほうが人気になりやすいし、昔よりお笑いに触れる機会は減ってるはずじゃないですか。そういう意味では、憧れられる意味はあんまりわかってないですね。ただ、個人的には「あれだけやらかしたやつが、まだテレビ出れてんねや」みたいに憧れてくれるのはうれしいです。
森田 うれしいってなんやねん(笑)。スキャンダルやっといて「俺に憧れろ」って!?
東ブクロ 「この厳しい時代に、まだテレビで『芸能人いきたい』とか下世話なこと言ってんねや」って思ってもらえたら。(お見送り芸人)しんいちと「今こういうやつがおらんかったら、おもろないやろ」ってよく話してるんですよ。
森田 あ、ダメっす、ダメっす。こいつ、自分のスケコマシを正当化してますよ。よくないっすね。
東ブクロ そこで飯食えてる部分には憧れてほしいところはありますよね。コントどうこうは別に、憧れんでいいと思います。

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12月10日(水)発売の『Quick Japan』vol.181には、本記事とは異なる写真、一部内容の異なるインタビューを掲載。ぜひ併せてご確認ください。
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