令和ロマン・くるま、料理の文脈でお笑い分析「ケムリはいいお米」「ノンスタ井上さんはA5ランクの肉」<NON STYLE石田×くるま対談>

2024.6.23

文=ねむみえり 編集=田島太陽


NON STYLEの石田明が、今話したいゲストたちを呼んでお酒とともに熱いトークを繰り広げるYouTube、『NON STYLE石田明のよい〜んチャンネル』。

令和ロマンの髙比良くるまをゲストに迎えた回では、令和ロマンが同期の中でも頭ひとつ抜けているという話からスタート。大学お笑い時代の話や、そもそもくるまがお笑いを始めようと思ったきっかけについてのほか、お互い「研究タイプ」だからこそ出てくる話も。そのダイジェストをお届けする。

神保町の劇場システムに翻弄された10カ月

言うとさ、もうめちゃくちゃ(歳が)離れてるやん。

めちゃくちゃ離れてます。

6年目?

6年目です。(※編集部注:2024年6月時点では芸歴7年目)

俺は令和ロマンと同期みたいなので仲いいやつがおんねんやんか。解散したけど、コロウカンの川端。

ああ、川端チョイス(現・でんでん太鼓)と。

うん。あと舞々の植松(正太)と。

コントのライブとか、川端出てますもんね。

そうそう。そこらへんと仲よくて話を聞いてるから、令和ロマンはちょっと一個抜けすぎやろ、みたいな。

あ、そうですか。

うん。なんかベテラン臭がする。

過剰に醸し出そうとしていた時期はありました。ナメられたら終わりだなという感じで、なるべく口角を下げてずっとしゃべってたときがあるんですよ。2年目ぐらいまで。

わざとベテランの。

ほうれい線を強調して、若手じゃありませんよっていうことしないと、無限大(ヨシモト∞ホール)では戦えない時期があったんです。

そうか、無限大? 最初無限大か。

僕らは最初無限大で、今は神保町(神保町よしもと漫才劇場)です。(※編集部注:2024年3月で卒業)

神保町でトップ何組みたいなのはあるの?

特にないです。大阪のマンゲキ(よしもと漫才劇場)と同じシステムなんで、メンバーかそれ以外かの二択しかない感じです。バトルは最初だけあったんですよね。全神保町芸人の中でまずSクラスを決めますってなったら、Sクラス10組、Aクラス20組みたいなイメージがあるじゃないですか。でも1組ずつ決めますっていう、聞いたことない方針ができまして。

たしかに聞いたことないな。

全組で俺らがまず優勝して、1組になれたんですよ。でもSクラスはまだ1組しかいないから、Sクラスのライブは打てないじゃないですか。

打たれへんな。

だからみんながSクラスになるまで、俺ら10カ月待ったんですよ。

ただただ待つだけ。

ずっと下のバトルライブのMCをしてて、2020年とかネタを全然やらせてもらえなくて。ずっとみんなが上がってくるのを待ってたんですよ。

なんなん、それ。

それで全員そろって、さあライブスタートみたいな。

神保町の劇場のシステムの話から、令和ロマンの大学お笑い時代の話、くるまが仲よくしてもらっている先輩芸人についての話へ。その中でオズワルドの伊藤(俊介)やくらげの話が出てくると、過去に石田が教授として参加した、ライブ『渋谷漫才大学』の話題に移っていく。

衝撃的だった、石田教授回の『渋谷漫才大学』

やっぱ衝撃でしたもん。無限大ホールで漫才を教える『渋谷漫才大学』というライブで、石田さんが教授役の回に僕らが出たんですけど、ネタの内容というよりは、いわゆる身体論というか。断片的ですけど、僕らのネタで漫才コントやったときに、「こっちにマイクスタンドがあるんだから、顔をちょっとこうしろ」とか。「離れるんだったらフットマイクがここにあるんだから、もう1歩離れて前向け」みたいなのをおっしゃってたじゃないですか。もう「これこれ!」みたいな。

でもあれやるだけで、ウケ方変わるやろ。

だって覚えてますよ、俺。それで夢中になりすぎて、ライブ終わったあとにめちゃくちゃ後輩なのに楽屋突撃して。

来てた来てた。

補講をお願いしましたよね。まったく面識ないけど、ちょっとマジでもうちょっと聞かせてくださいって。その時もちゃんと追加で教えていただいて、このネタはどうとか。そのとき、いろいろ迷ってた時期だったんで、ボケツッコミ逆のネタやったときとかは、そこはちょっと違うんじゃないかって言ってくれましたし。

そうそう。ケムリで取りに行くかたちにシフトしていってたから、「あかんで」つってな。

ちゃんとそこ止めてくれて。『M-1(グランプリ)』を愛しすぎて、『M-1』ファンとか『M-1』の運営を上回ってしまってたんですよ。去年は漫才コントで、今年は漫才コントに一個キャラが乗っかってて、これで落ちたから、じゃあ来年はこう変えたらみんなが楽しむだろうとか思いすぎてたら、石田さんがマジでストップかけてくれたんで、大慌てで戻したんですよ。

でもみんなやっぱ迷子なるやん。特に神保町とか漫才劇場みたいな狭いところに入ると、ツッコミ側のほうがウケを取りやすくなったり、爆発力出るやんか。だからそっちに移行しやすいねんけど、でもそれで今んところ『M-1』取れた人ひとりもおらへんからね。

なるほどね。変えた結果売れるとかはあるけれども、『M-1』でいったら点が低い。

そうそう。

あれからマイクの高さとか、フットマイクとか、この音響、この会場だとどうとかをめっちゃ気にするようになって。一回言われた教科書を自分なりに発展させるというか。『M-1』の決勝の当日も、マイクの高さとかをめっちゃ厳密にして。下からお客さん見てるから、顔見えないから、とか。『M-1』ってピン(マイク)がないから、じゃあもっと下げないといけないとかを自分なりにやって。みんなけっこう適当にやるんすよ。

ああ、そやな。

ちょっとよくないかもしれないですけど、「ちょっと待ってください」って一回みんな止めて。「これ絶対(マイクが)高くて」「一回俺の話聞いてください」って。「下からお客さん見てるじゃないですか。こうせり上がってるんで、カメラで映るときは正面で違和感ないですけど、前の人ここ目、被ってますよ」みたいな。

そこまで言えるのすごいな。俺はもういつもぐっとこらえて、もうしれっと。

俺は「大変だ!」と思ったので、人に伝えたい気持ちが強くて、「これ、石田さんがダメって言ってました」って。

お前、変なところで俺の名前めっちゃ出てるやん。

すいません、何回も言ってます。俺の力だけでは説得できないときは、「ほんとにこれ、石田さんも言ってたんで」って言って。ごめんなさい、勝手に自分のバックでかくして。

スタンドや。

スタンドを用意させてもらって。で、みんな下げてたんですが、そのほうが絶対見ててよかったんで。そういうふうにあの大学の講義が生かされています。

『渋谷漫才大学』の講義が。

大好きなイベントでした。

でもやっぱ、『渋谷漫才大学』に出てた子たち、オズワルドとかもそうやし、くらげもね、シシガシラも、そこらへんが成果を残していくのはうれしいね。単純にね、うれしい。

そうなんだ、やっぱ。うれしいです。生徒も鼻が高いです。

いや令和ロマンなんかもう鼻高いよ。たかが一回二回ぐらいのことかもしれへんけど、やっぱこれをこう言えるやん。うれしいんですよ、私。

くるまがテンダラーの浜本(広晃)の動きも研究して学んでいるという話から、テンダラーは、一本の漫才の中でテーマが移っても完成されていて、フレンチのフルコースのようだという点で意気投合するふたり。『M-1』ができてからはワンテーマでいくほうがいいというのが当たり前になっているが、テンダラーのようにテーマがナチュラルに移る漫才に挑戦するのは難しいと石田が語る。

NON STYLEは一個の野菜の料理専門店のようなもの

NON STYLEさんは料理的な文脈でいうんだったら、井上(裕介)さんという食材があって、石田さんが専門店みたいな。

たしかに、専門店やな。

NON STYLEさんにおいては、一個の野菜の料理専門店みたいなとこあるじゃないですか。同じナスを、あえて煮びたしで出してから漬物で出して、焼きで出して、みたいなのをやってるから。この前もルミネ(theよしもと)で観てて思ったんですけど、ボケの角度が全部違うじゃないですか。あれかなりいないと思っているんですよ。先輩の中でも、石田さんってほんとにまったく違うボケ方するじゃないですか、10分の中で。5分ネタ2本とかでも、ネタは2本なんだけど、その間に隠し包丁みたいなやつが無限に入ってて、こっち行ってからこっち行って、なんかすごいことしてるな、みたいな。

なんであんな変わったボケがやれるかっていうと、やっぱり井上の求心力というか。井上がやりたいみたいなことを軸に置いてるから、これをじゃますればいいだけみたいなことが、根本としてあるから。だからどの角度からでも刺さりやすい。

でもその食材がめっちゃいいものを、ここまで工夫して調理するタイプなのが、NON STYLEさんの魅力なんだと思うんですよ。そういうタイプの方はあまりいらっしゃらない。たしかにA5ランクの肉だと思うんですけど、井上さん。だからこそ、もう塩とかワサビだけでどうぞぐらいなのに、めっちゃ薬味用意してくれてるとか。それがやっぱ魅力なんじゃないですかね。俺の中で、後輩から見るとやっぱすげえ、そう思ってますね。

これはでもな、ほんま時代に揉まれた結果やと思う。もともと、井上を塩だけでいってたら、俺たちのちょっと上の世代が「またいい肉だけ仕入れて」みたいな。いい肉出したらそら喜ぶやろっていう世代があったから。

うるさい方がいたんですね。

うるさい方がおったから、たぶん認められたいっていうのがあってんな。だから時代のおかげよ、俺も俺で。

そのニュアンスもけっこう僕、見習ってはいて。僕はケムリを実は味わわせてるっていうのが自分の中でテーマで、あんまりでも味わわせてる感がない状態で。

香りはな、ちゃんとしてるけど。

出してるけど、一体化させてるみたいな。ケムリは、多分どっちかっていうと、肉とかじゃなくて、いいパスタとかいいお米とかなんですよ。こっちがいろんなおかずを添えて定食作るんすけど、わざわざ言わんけど、米うまいなってっていう状態に。でも米に合う料理を作ろうみたいなのはめっちゃ考えてて。そこはなんかこう、僕の中で石田さんのイズムだと思ってるんですよ。

でもそっちのほうがバリエーション効くもんな。やっぱり。

そうっすね。

俺はやっぱ、井上をメインに持っていかなあかんっていうのは絶対にあるから。だけど、令和ロマンはいいところでケムリが効いてくるから、ちゃんとネタが主役になるというのがいいところやな。

石田が令和ロマンの漫才のツカミをべた褒め:動画全編紹介

令和ロマンの髙比良くるまをゲストに迎えたシリーズは全4本が公開中。

2本目では、『M-1グランプリ2023』を石田とくるまが振り返り、優勝したことへの思いをそれぞれ語るほか、くるまが『華大どんたく』の打ち上げで経験した、おもしろすぎて頭がパンクしたエピソードも。

3本目は、漫才における相方との声の相性や、別の動きをしながらネタ合わせをする理由について、ふたりの熱いトークが繰り広げられるほか、石田が令和ロマンの漫才のツカミについてべた褒めする回に。

4本目では、くるまが漫才というものの独自性について語るほか、自分が先輩芸人に与えてもらってきたぶん、後輩に還元したいという想いも吐露。テレビへの露出が少ない理由についても。

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ねむみえり

1992年生まれ、東京出身。フリーランスのライターとして働きながら、現代詩の創作も行っている。本、舞台、お笑い、ラジオが特に好き。

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