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ぼる塾「全員が勇者じゃないけど」引退も考えた4人が、負担を分け合い救われるまで。あのころの自分に伝えたい言葉とは?

2024.4.8

文=安里和哲 撮影=長野竜成 編集=高橋千里


2020年、コロナ禍に突如メディアに登場し、またたく間に人気者になったぼる塾。もともとは別々のコンビだった4人は、メンバーの産休をキッカケに合体し、最強のカルテットとなった。

明るさ満点で、くだらないことなんて全部笑い飛ばしてくれる現在のぼる塾。しかし過去には人生に思い悩み、芸人を辞めたくなるほど追い詰められたこともあったという。くたびれ果て、自信を失っても、彼女たちが芸人を続けられたのは、「ぼる塾があったから」

ぼる塾 酒寄希望(さかより・のぞみ/写真左)と田辺智加(たなべ・ちか/写真右から2番目)のコンビ「猫塾」と、きりやはるか(写真左から2番目)とあんり(写真右)のコンビ「しんぼる」が、2019年12月に合流するかたちで生まれたカルテット。2020年には『女芸人No.1決定戦 THE W』の決勝に初進出するなどブレイク。産休・育休中だった酒寄が2022年11月より復帰し、2023年の『THE W』では初めて4人で決勝の舞台を踏んだ

今回、新たなチャレンジを始める社会人や学生・フレッシャーズたちを応援するFRISK「#あの頃のジブンに届けたいコトバ」プロジェクトで、4人はつらかった当時を振り返り、手紙を書いた。まだ、くすぶっていたあのころの自分たちに、彼女たちはどんな言葉をかけるのだろうか。

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ぼる塾がなかったら「芸人辞めてた」

今回は、ぼる塾の4人が生き方や仕事で悩んでいたときのことを振り返ってもらいます。田辺さんはいつごろがしんどかったですか?

私は27歳のニート時代ですね。短大を卒業してからずっとテーマパークで働いていたんですけど、それを辞めたとたん何をすればいいのかわからなくなって遊び呆けました。前のバイト先では評価も高くて自信満々だったのに。

そのとき田辺さんはギャルになったんだよね。

そうそう。ギャルって明るいし、毎日ハッピー!って感じだから、友達と一緒にいるときは楽しいんだけど、ふとした瞬間に「いつまでこの状態でいるんだろう」って呆然とするんです。27歳で仕事もせず毎日渋谷をふらついて、気を紛らわすかのようにクラブに行って……。お先真っ暗でした。

私は芸人になってからがつらかったな。バイトとのかけ持ちがしんどくて。自分たちは絶対売れるはずなのに、なんで売れないんだろうって思いながら働くのが大変でした。

はるちゃんは芸人になりたてのころも、しんどそうだった。養成所のときも、私が交通事故で骨折して休んでいたときに、ひとりで通うのがしんどくなって「辞めたい」って言っていて、思わず「早くない? まだ挫折もしてないよ」って止めたよね(笑)。

あはは。まだデビューもしてないのに「今、スランプなんだよね」って言ってた(笑)。

そうそう。しかもネタ書いてんの私なのに、何がスランプだったんだろう。

あんりがいなくなったら私はどうなるんだろうって思ったんだよ。

そうだよね、単純に寂しいよね。気持ちはわかる。

でも、あのときあんりが止めてくれて本当によかったです。だから逆にあんりが「辞めたい」って言ったときは私が止めなきゃと思った。まだ何が起こるかわかんないし、もったいないよって。

私たちが売れたのは、田辺さんと酒寄さんのコンビ“猫塾”と合体して、ぼる塾になってからだけど、コンビのときも私は「あんりがおもしろいから、うちらは絶対売れる」って自信があったんです。

そうやって言ってくれたから続けられたんだよ。

私がつらかったのは5年目のとき。それまですごく楽しかった芸人の仕事が急に楽しくなくなったんですよ。今まで楽しかったぶん、本当にしんどかった。もう辞めようと思ったけど、はるちゃんが止めてくれて。

それから少しして、ぼる塾になり、仕事が増え始めた。ぼる塾がなかったら、もう芸人辞めてたよ。

私もそう。私の産休中にぼる塾が始まって、3人がブレイクしていくのを見ながら「自分の居場所はもうない」と思ったけど、みんなが支えてくれたから、こうやって戻れたんです。

相方と友達に戻れたのは、ぼる塾のおかげ

ぼる塾がなかったらと思うと、本当に怖いね。

怖いよ〜。私とはるちゃんは小学校からの幼なじみで、お互いのことは全部わかりきっていたつもりだったんだけど、芸人になってみて、何も知らなかったんだってことがわかって。友達のことが何もわからなくなるのって、しんどかった。

でも、はるちゃんは変わらず友達のままでいてくれて……。それを「はるちゃんはすごいな」って感心するときもあれば、自分が煮詰まると「いつまでも呑気だな」と思う(笑)。

友達としての感情と、芸人としての責任の間で引き裂かれていたんですね。

そうですね、なんで私だけがコンビのことを真剣に考えてるんだろうって、よく腹を立てていました。でも、ぼる塾になったら、グループ全体のことを考えてくれる人が増えて、負担を分け合えるようになったんです。そしたらはるちゃんの、のびのびとしたところも許せるようになりました。

私と交代交代ではるちゃんに怒るようになったよね。

そうそう。はるちゃんが理解不能な言動をすると、田辺さんと「わかる!」「あれはおかしいよね!」って言い合ってた。メディアに出るときは、田辺さんが怒ると私が「田辺さん、落ち着いてください」と言って、逆に私が怒ると田辺さんが「あんた! ちょっと言いすぎだよ」ってたしなめる。

それで救われたなぁ。

ここに酒寄さんの冷静さが加わると最強なんですよ。「田辺さんとあんりちゃんは勘違いしていて、はるちゃんは本当はこう思ってる。結局、みんな優しさが噛み合ってないだけでしょ?」と酒寄さんに言われて、納得するんだよ。

4人は芸歴が近いものの、年齢差があります。田辺さんは、あんりさんとはるかさんとはひと回りくらい違う。その点で困ることはなかったですか?

私、年齢差を感じてなくて。なんなら自分も幼なじみだと感じるくらい。

たしかに田辺さんがなじんじゃってるよね。

ぼる塾になる前から、あんりのまわりをちょろちょろして、構ってもらっていたんです。こうやってなじめたのは、たぶんギャルサー時代の経験のおかげだね。

たしかに。田辺さんは27歳でギャルになったから、11歳年下の私たちがちょうど高校生のころに憧れていたギャルそのものだったんだよね。だから奇跡的に、経験している流行りが同じなんです。

そうなんだよ。だからもう同世代みたいな感じ。

逆に私は、はるちゃんとあんりちゃんのことはお姉さん視点で見ています。かわいくてしょうがない。私、コンビ時代は田辺さんが好きすぎて、「田辺か、それ以外か」くらいになっていたんですけど、今はふたりのこともかわいい。「好き」の気持ちって増えるんだなって気づきました。

うれしいなぁ〜。

全員が“勇者”にはなれない

今回、悩んでいた当時の自分たちに手紙を書いてもらいました。今改めて、当時の自分にどんな言葉をかけたいですか?

私は産休中の自分に「あなたは自分が好きだから、自分のことばっかり考えてるんだよ」って言いたいです。

産休中に悩んでいるときは「どうせ自分なんて必要ないんだ」って常に考えて、自分のことが嫌いだと思い込んでいました。でもあるとき、ずっと自分のことばかり考えているのは、自分を好きすぎるからだと気づいたんです。「好きならいっか」と開き直れたので、早く気づいたほうがいい。

あんりちゃん、はるちゃん、田辺さんというあなたの仲間はとても強いのです。
最初は守られてばかりかもしれません。しかし、あなたがぼる塾として冒険を続けていくうちに経験値を重ね、強くなっていけば良いのです。
「あんりちゃんのようになれない、はるちゃんのようになれない、田辺さんのようになれない」なれなくて良いんです。
あなたがゲームで作ってきたチームだって、全員が勇者じゃないでしょ?
あなただけのジョブは必ずあります。

ぼる塾・酒寄の手紙より抜粋(「#あの頃のジブンに届けたいコトバ」presented by FRISKより)

私はニート時代の自分に「好きなこと、興味があることはしっかりやりな」ですね。ニートのころって時間だけはあったので、好きだったスイーツやコスメのことはずっとチェックしていました。ただの趣味だったことが、今ではそれが仕事になった。

毎日パンを作ってウォーキングして、韓国語勉強して。弟やおじいちゃんからお金を借りて毎日遊び歩いてたね。
周りはみんな先に行ってしまうのに私だけ足踏みしてるなって不安だったね。
一体私はどうなってしまうのか……その不安をかき消すように毎日渋谷に行って遊んでを繰り返してたね。
だけど、そこで出会った友達がとってもギャルマインドでパワー貰ったね。無駄なことなんて何一つないんだって思ったよ。
毎日お金ないけどデパートで新作スイーツ見て、コスメ見てってやっていたら10年後スイーツ女王としてスイーツの仕事して、メイクの雑誌出たりするよ!

ぼる塾・田辺の手紙より抜粋(「#あの頃のジブンに届けたいコトバ」presented by FRISKより)

田辺さんの手紙は楽しそうなんだよね。「毎日パンを作ってウォーキングして、韓国語を勉強して……」ってさ(笑)。

じっとしていると不安になるから、いろいろ手は出してたんだよ。だから「好きかも」って思ったらとりあえずいろいろ手を出していいと思うんです。あんまり合わないなって思ったら、すぐあきらめてもいい。たくさんやってみたら、何かひとつは絶対引っかかりますから。

はるかさんはいかがですか?

手紙ではうまく書けなかったんですけど、今、芸人になってつらかった時期の自分に伝えたいなと思ったのは「続けることが大事」ってことかな。

あんりが辞めるって言ったとき、じゃあ私も辞めなきゃなって思ったんですけど、続けたから今があるなって。バイトも当時は本当につらかったけど、あの経験があったから芸人として働けていることもありがたいなって思えるし。

最初は「働く」楽しさのようなものがあったのですが、だんだんしんどくなって早く売れたい!アルバイト辞めたい!って思うようになっていました!
でもアルバイト先で出会った人たちや芸人の仲間のおかげで「働く」ことを頑張ろうと思えました!
過去の自分の経験が今の私のためになりました。今では素敵な思い出です。

ぼる塾・はるかの手紙より抜粋(「#あの頃のジブンに届けたいコトバ」presented by FRISKより)

私は、はるちゃんのこの手紙を読んで泣きそうです。

感動した?

何が書いてあるかわかって、感動した。

そこか(笑)。

だって、はるちゃんは国語力が全然なかったから。芸人始めたころはネタを書いても意味がわからないくらいだったのに、この手紙はちゃんとわかる。人ってこんなに変われるんですね。

褒められた〜! あんりの手紙は、なんかルフィみたいだよね。大声で語りかける感じ。

今だから言うけどさ、あんた、なんでもかんでも誰かのせいにしてただろ?
そんでその罪悪感で自分が嫌になって、遂には芸人を辞めようという結論まで至ってしまった。
だけど、初めて舞台上でぼる塾のネタをやったときのこと覚えてるか?
あの時のお客さんの笑い声があんたをこの世界に引き止めてくれたんだよ。
この仕事をしていて一番やりがいを感じる、ウケるという喜び。

ぼる塾・あんりの手紙より抜粋(「#あの頃のジブンに届けたいコトバ」presented by FRISKより)

そう言われると恥ずかしいよ(笑)。

5年目のときは、うまくいかないことを人のせいにばっかりしてたんだよね。それは全部、自分でやらなきゃと思って悪循環に陥って悩んでいたせいで。だから当時の自分には「何が起きても、自分ひとりで考えるな」と言ってあげたい。

自分の人生を振り返ると、誰かのひょんなひと言でうまくいってるんです。実際、芸人になったのもはるちゃんに誘われたからだし。今も3人がやりたいことに乗っかったり、サポートしたりするほうが楽しいし、うまくいくんです。

田辺さんのように「好き」を極めていくタイプだけが正解ではない。

そうですね。自分がどういうタイプなのか見極めるのは大事でしょうね。

そういう意味では、酒寄さんの手紙がすごくしっくりくるんですよ。「ぼる塾はRPGみたいなもので、全員が勇者じゃない」って書いてるじゃないですか。

そうそう。ぼる塾には4人それぞれに合ったポジションがあったんだよね。

私が今ここにいられるのは、3人と一緒だから。復帰後に4人の舞台がウケなかったとき、「やっぱり私はいらないんだ」って落ち込んでいる私に、「何言ってんの? 今からスタートなんだよ。これから4人でおもしろくなっていくんだよ」って言ってくれたでしょう。あの言葉には本当に救われたな。

ぼる塾が書いた手紙の全文が読める!『あの頃のジブンに届けたいコトバ展』とは?

ずっと4人が最強に楽しくいられたら

ぼる塾の将来像はどのように描いていますか?

4人で話し合ったことはないね。

私は賞レース続けたいですけどね。だって、もったいなくない? こんなにおもしろい人がいて優勝しないなんてさ。

そうだね。絶対獲ろうよ。

それもそうだし、それぞれが好きなことをやれていればいいよね。

それは思うな。ありがたいことに、お互い好きなことも、やりたいことも被ってないからいいと思う。

4人ともこんなに違うってないよね。

4人みんな違うから、共倒れしない気がするんだよね。誰かがうまくいかないときも、きっとほかの誰かがうまくいくだろうなって思えて、心強い。

わかる。一番の理想は一人ひとりがもっと成長して、個人として最強になること。そうしたら、4人集まったときのレア感がハンパじゃないだろうなと最近思うんだよ。

集まったときのレア感っていうと、SMAPや嵐みたいな存在が思い浮かびますが。

あそこまでになれるとは思わないですけど(笑)。「個人として最強」って言いましたけど、それは芸能界でトップに立つとかではなくて、田辺さんと酒寄さんが言ったように、好きなことをそれぞれのペースで極めていればいいなってことで。

田辺さんのスイーツも、別に仕事じゃなくなっても、プライベートで楽しめていればいい。芸人として結果を残すというよりは、4人の人生の喜びが最強な状態で、ずっと集まれたらいいかな。

最近も田辺さんのお家で、4人で台湾茶を飲んだよね。田辺さんが淹れてくれて、それがすごいおいしくって。5年経っても10年経っても、こうやってお茶が飲めたらいいなって思った。

あぁ、そんくらいかもね。手と口さえ動けばいい。まぁ未来のことなんてあんまり考えてないよね。未来のこと考えられる人間だったら、芸人なんかできないよ。

今が楽しくないと、楽しい未来って想像つかないしね。

ずっと楽しく過ごしたいね!

FRISK「#あの頃のジブンに届けたいコトバ」プロジェクト

新たな一歩やチャレンジを前向きに踏み出すことを応援するFRISK「#あの頃のジブンに届けたいコトバ」プロジェクトでは、imase、尾崎世界観(クリープハイプ)、SIRUP、アユニDなど、11組のアーティストやタレント・クリエイターが「あの頃」の自分に宛てた手紙を執筆。

手紙の内容について、CINRA、J-WAVE、me and you、ナタリー、NiEW、QJWebでインタビューやトークをお届け。直筆の手紙全文は4月11日(木)から下北沢BONUS TRACKで開催されるFRISK『#あの頃のジブンに届けたいコトバ展』で展示される。

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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