「会話にならないようなことも歌詞にできるのが、音楽のいいところ」
――ソングバーズの最新作『SOLITUDE』はどうお聴きになりましたか?
福徳 これは勝手なイメージですけど、20代のバンドってラブソングが多かったりするじゃないですか。でも、彼らはそうじゃなくて、人生観を歌ってる。しかも、これがまあ響くんですよ。
それこそ10歳下の言葉が自分にめっちゃ響いてくるんで、本当にすごいなと思います。なんか哲学的やし、そう簡単に「君が好きだ」とか言わない感じも、かっちょええですよね。
松原 ありがとうございます! 今の話でいうと、大学生のときに皓平が仏教の教えを学んでた時期があって、僕もそれを皓平から教えてもらってたので、その影響はあるかもしれないですね。
福徳 大学生のときに仏教の話を友達とするって、すごいな。
後藤 なんで仏教の教えに興味を持ったんですか?
上野 何か決定的な出来事があったわけじゃないんですけど、当時の自分はちょっと落ち込んでたというか、なんとなく満たされてない感覚が徐々に積もってきて。
そんなときにたまたま寄った本屋で仏教関連の本を読んだら、心がスッと軽くなったんです。ただ、それを曲に反映してるかっていうと、自分にはわからないんですけど。
後藤 でも、確かにそれは影響ありそうかも。
福徳 うん、仏教かどうかはわからないですけど、哲学的なものをバンバン感じました。<いつか死ぬ事を忘れなければ 別にどうってことはないんじゃない?>(「青の旅」)とか、すごいですよね。
普通は「死ぬよりかマシやん」みたいになりそうなところを「そう来るか!」みたいな。ほかにも<世の中のセンスより君のあどけなさが好きさ>とか、ソングバーズの歌詞は対比がいつもおもしろくて。
上野 めちゃくちゃうれしいです……! このバンドはみんなマジメやと思うんですけど、やっぱりどこかひねくれてるところもあって。単純なラブソングがあまりないのは、そういう歌詞を書いたとしても誰かしらが「これ、あんまりよくないよね」みたいになるからなんです。
松原 人と会話すればわかることなんて歌詞にしても意味ないやん、みたいなところもあって。むしろ会話にもならないような話を歌詞にできるのが、音楽のいいところだと思うんです。僕らはもともと学校でイケてるタイプでもなかったし、昔ヤンチャだったわけでもないから、そういう反抗の仕方しかできないというか。
バンド4人で一緒に暮らした1年間があったから
後藤 ふたりは大学で知り合ったんですよね? それでこんなに気が合うって、なかなか奇跡的なことだと思いますよ。どっちかが仏教にハマって、それに対して「ええね!」となる友達がいるって、めったにないことだと思う。
松原 それこそ僕らの中には「ジャルジャルのふたりみたいな仲のよさになりたい」みたいな気持ちがあったんです。ぶつかり合いながら仲よくなるような関係性もあると思うんですけど、僕らはそれよりもお互いに自然と認め合えるような仲にめちゃくちゃ憧れていて、そのモデルがジャルジャルさんだったというか。
福徳 まあ、僕らは高校から一緒なんで(笑)。
後藤 初めて観たAVが同じだとか、お互いの実家によく泊まってたとか、僕らの場合はそうやって青春というか、思春期を一緒に過ごしてたのがデカくて。いうたらまだ子供のころから一緒だったわけですから。そういう時期に部活も一緒で、同じ目標に向かって毎日練習してたのは大きかったですね。
福徳 大学生となると、人間性がほぼ確立されてる時期じゃないですか。その状態でここまで仲よくなれるっていうのが、僕は逆にすごいなと思いました。
後藤 4人とも同じ大学なんですか?
松原 大学が同じなのはこのふたりだけですね。しばっちゃん(柴田淳史/ベース、コーラス)は皓平の中学の同級生です。栄秀(岩田栄秀/ドラム、コーラス)はライブハウスの紹介で知り合いました。
後藤 このふたりの仲のよさに、ほかのふたりが嫉妬したりはないんですか?
松原 しばっちゃんと皓平は中学校のときから仲がよかったんで、逆に僕はそのふたりしか知らない時間もあるんやなあと思ったりします(笑)。栄秀はバンドに入ってきたのが最後やったんですけど、加入する条件として彼が僕らに言ってきたのが、1年間だけ4人で一緒に暮らしたいってことで。それで1年、神戸で古い一軒家を借りてみんなで住んでました。
福徳 へえ、青春やん! それで4人の距離はグッと縮まったんですか?
上野 そうですね。最初はちょっと嫌だったんですけど、いざやってみると共同生活も楽しくて。ただ、やっぱり一緒に暮らし始めたころはいろいろぶつかることもありました。その後に起きてたであろう衝突がその短期間にたくさんあったので、そこでお互いの距離感だったり、相手が嫌だと思うことを早めに掴めたのはよかったなと。
「今しか作れないもの」をどんどん作りたい
――ジャルジャルのおふたりは、一緒に住んでいた時期はないですよね?
福徳 住んだことはないですけど、まあずっと一緒でしたね。それこそ1年のうち360日くらいは会ってたので。それが自然やし、単純に楽しかったんですよ。
松原 たとえば大学生のときにふたりでいる時間って、どんな話をしてたんですか?
福徳 別に何を話してたとかはないかな。ただずっと横におったというか(笑)。
後藤 基本的にはネタ作りみたいな名目で集まるんですけど、まあ、ただふざけてましたね(笑)。あとは一緒に昼寝したり。
松原 ジャルジャルのおふたりは音楽も好きですよね。たとえばスピッツだったりエレカシだったり、そういう日本の音楽のどういうところに惹かれるんですか?
福徳 僕は基本的に歌詞かな。それこそ「春の香りに包まれて」がそうですけど、前奏が始まってから最初の歌詞が入ってきたときに「めっちゃ気持ちええなぁ」と思ったり。わりとそういう楽しみ方を個人的にはしてます。
後藤 僕はどっちかというと、歌詞よりも音の感じかな。専門的なことは全然わからないんですけど、「このバンドは独自路線いってるな」とか「この人らにしかできひんことやってるな」みたいな音にすごく惹かれます。あと、ファーストアルバムってものが好きですね。
――なぜファーストアルバムなんですか?
後藤 1枚目って荒削りやないですか。それこそエレカシさんも、ウルフルズさんもそう。どんなベテランのバンドも、1枚目を聴いてみると、そのころにしかない感じがあるんですよね。未完成といったら怒られるかもしれないけど、なんか爪切ってないみたいな感じがええなーって。
なので、ソングバーズがこれからキャリア重ねていかれたあとに、改めてみなさんのファーストアルバムを聴いてみたいんですよね。どんなふうに聴こえるのか、すごく楽しみ。
上野 僕もファーストアルバムが好きなので、今のお話はすごくわかります。僕らにとってのファーストアルバムは、あくまでも自分たちの一部でしかないと思ってるし、これからもっと見せていきたい側面がほかにもいっぱいあるので、これから作品をどんどん出していきたいんですよね。
松原 僕も多作なバンドでありたいなと思ってて。今のところは僕らふたりが曲を作ってますけど、今後はほかのふたりも作っていきたいと話してるし、メンバー全員がどんどん曲を作れるようになれたらなって。
なんていうか、完成度が高いものよりも、もっとリアルなもの、その時々の状況がそのまま表れたものを作っていきたいんです。とにかく今しか作れないものをたくさん作って、あとでそれを聴き返したときに「あのころはこんなだったな」みたいに思えたら、それが一番いいんじゃないかなって。
後藤 こうして実際におふたりとお会いしてみると、まだまだ底の見えない感じがしますね。それでいて、雰囲気は大学のときの僕らみたいでめっちゃ親近感が湧くし(笑)。
福徳 僕が一番好きなビートルズの曲は、リンゴ・スターが作った「Octopus’s Garden」なんですよ。ビートルズが好きな人にこれを言うと「一番がリンゴの曲かよ」って笑われるんですけど(笑)。
つまりね、これからは4人全員が曲を作るっていう話はめっちゃええなと思います。これからのソングバーズがもっと楽しみになりましたね。
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The Songbards
2017年3月より地元・神戸を中心に活動を開始。上野皓平(ボーカル/ギター)、松原有志(ギター/ボーカル)、柴田淳史(ベース/コーラス)、岩田栄秀(ドラム、コーラス)の4人組。バンド名は、「Songbird=さえずる鳥」と「bard=吟遊詩人」のダブルミーニング。UKロックに影響を受けたツインギター&ボーカルと、息の合ったコーラスワークが魅力。結成後間もなく『RO JACK 2017』『出れんの!?サマソニ!?』『COMIN’KOBE17』など大型フェスオーディションを総なめにしたほか、4時間ぶっつづけでカバー楽曲を演奏するバーイベントを約2年間つづけ、リバプールなどイギリスでのライブを12本経験するなど、精力的に活動。2019年11月20日ファーストフルアルバム『CHOOSE LIFE』でメジャーデビュー。
関連リンク
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『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(福徳秀介)
ジャルジャル福徳秀介待望の小説デビュー作。
大学2年生の「僕」を主人公とし、著者自身の私小説を思わせる内容ながら、「生きる」ことそのものについても考えさせられるホロ苦恋愛小説。価格:1,650円(税込)
発売日:2020年11月11日関連リンク